デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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第3話~時の少女の正体~

―――来禅高校。

 

 

時計の針は八時三十分を示していて、朝のホームルームの開始時刻である。

辺りで談笑していたクラスメートたちがわらわらと席に着き始めていく。

だが、どこにも狂三の姿が見られない。

十香も同じことを思ったのだろう、キョロキョロと辺りを見回している。

 

 

「むぅ、狂三のやつ、転校二日目で遅刻とは」

 

 

十香がそう言うと、

 

 

「―――来ない」

 

 

俺の左隣から、そんな静かな声が響いた。

折紙が、視線だけを十香に向けて唇を開いている。

 

 

「ぬ?どういう意味だ?」

「そのままの意味。時崎狂三は、もう、学校に来ない」

「ハハハ、何言ってんだ。そんなに軟なわけがないだろ。狂三は」

 

 

俺の発言に折紙が反応する。

何かを言おうとするが、そのタイミングでガラッと教室の扉が開く。

そこから、出席簿を抱えるように持ったタマちゃんが入ってきた。

すぐさま、学級委員が、起立と礼の号令をかける。

 

 

「はい、皆さんおはよぉございます。じゃあ出席取りますね」

 

 

タマちゃんが出席簿と開き、生徒の名前を順に読み上げていく。

 

 

「時崎さーん」

 

 

そして、タマちゃんが、狂三の苗字を呼ぶ。

だが、返事はない。

当たり前だ、教室にまだ来ていないのだから。

 

 

「あれ、時崎さんお休みですか?もうっ、欠席するときはちゃんと連絡を入れてくださいって言っておいたのに」

 

 

タマちゃんが、ぷんすか!!と頬を膨らませながら、出席簿にペンを走らせるようとする。

だが、その瞬間。

 

 

「―――はい」

 

 

教室の後方から、良く通る声が響いた。

後ろを向く。

教室後部の扉を静かに開き、そこに立っていたのは、穏やか笑みを浮かべながら小さく手を挙げた狂三だった。

 

 

「もう、時崎さん。遅刻ですよ」

「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」

「え?だ、大丈夫ですか?保健室行きますか?」

「いえ、今はもう大丈夫ですわ。ご心配おかけしてすみません」

 

 

狂三はぺこりと頭を下げると、軽やかな足取りで自分の席に歩いて行った。

 

 

「ほらな、おまえらは狂三をわかちゃいねぇ。俺もそこまで詳しくないがな」

「……あなたは一体何者?なぜそこまで精霊に詳しい?」

「それはお答えしかねるな」

 

 

折紙は俺と少しだけ会話をしたあと、狂三を凝視した。

見てとれる表情は驚愕だった。

そして、しばらくすると狂三から視線を外した。

 

 

「―――はい、じゃあ連絡事項は以上です」

 

 

ほどなくして、タマちゃんはホームルームを終えて教室を出て行った。

そして、その瞬間だった。

スマホのバイブが着信を伝えてきた。

画面には『琴里』の二文字。

電話とは何事?

 

 

「もしもし、どうした?」

『嫌な事態になったわ。控えめに言って最悪よ』

 

 

琴里にしてはらしくないことを言っているな。

 

 

「なんだ、その程度か。なら大丈夫だ。で、何があった?」

『刃の感覚がわからないわ……困ったことになったの。まさかこんなことが現実に起こりうるだなんて』

 

 

勿体ぶりすぎだ。

さっさと言ってほしい。

 

 

「で、何があった?」

『えぇ、実は―――』

 

 

と、そこで俺の肩がつつかれた。

狂三が不思議そうな顔で首を傾げている。

 

 

「何をなさってますの、刃さん」

「ん?あぁ、電話だ。少し待っててくれ」

 

 

そう言うと、狂三は大仰な動作で驚きを表現したあと、ぺこりと頭を下げた。

 

 

「これは失礼しましたわ。お邪魔をするつもりはなかったのですけれど」

「あぁ、気にすんな」

 

 

狂三に言う。

そして、琴里との電話に戻る。

 

 

「んで、何があった?琴里」

『ちょっと待って刃。今誰と話していたの』

「狂三だけど?」

『刃、昼休みになったらすぐに物理準備室に向かって。見せたいものがあるわ』

「わかった」

 

 

琴里との通話と終了させる。

きっとあれだろ、狂三が真那に殺されたところでも見せられるのだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

午後十二時二十分。

四限目の授業の終了を告げるチャイムが鳴る。

クラスメートたちは礼が済むと、先生が教室を去るよりも早く、昼食の準備を始めていた。

 

無論、十香も例外ではない。

待ってましたと言わんばかりに目をキラキラと輝かせ、机をドッキングさせてくる。

 

 

「ヤイバ!!昼餉にしよう!!」

 

 

そう言って、ランチバックから弁当箱を取り出す。

 

 

「すまない十香。今日は一緒に食えないから先に食っていてくれ。ちょっと先生に呼び出されてるんだ」

「むぅ……なら仕方ないな」

 

 

十香は納得してくれたようで、弁当を食べ始める。

俺はそれを確認して、物理準備室に行く。

 

物理準備室に入ろうと扉をノックすると、まるでその場で待ち構えてたかのように扉がガラッと開いた。

 

 

「―――遅い」

 

 

中学校の制服を着た琴里が、不満をさえずるように唇を突き出しながら顔を出した。

 

 

「んなわけねぇ……弁当も食わずに来たんだから」

「いいから、早く入りなさい。時間が惜しいわ」

 

 

琴里はそう言うと、あごをしゃくり、俺を部屋の中に入れる。

そして、物理準備室の奥へと進む。

部屋の最奥にある回転椅子には、令音が座っていた。

 

 

「……ん、来たね、ヤイバ」

 

 

もうすこしで刃になるんだけどな……

いい加減覚えろって。

まぁいいんだけど。

 

令音が隣の椅子を指して俺に座れとアイコンタクトを送ってくる。

その指示に従い、椅子に座る。

次いで、琴里が、俺を挟み込むように隣に腰を掛ける。

 

 

「んで、見せたいものとは?」

 

 

俺が問うと、琴里が机の上に置かれたディスプレイを示す。

それに合わせて、令音が机の上に置かれたマウスを操作すると、画面にとある映像が映し出される。

狭い路地裏に、狂三と、ポニーテールの女の子―――真那が向かい合って立っている。

 

 

「狂三と真那だな」

「えぇ、昨日の映像よ。―――周りをよく見て」

「ひゅ~、AST共じゃん」

 

 

俺は思わず口笛を吹いてしまった。

何の変哲もない住宅地の一角に、機械の鎧を着こんだASTがいたからだ。

しかもそこには、折紙の姿も見受けられた。

 

 

「えぇ。―――なぜか昨日、急にASTの反応が街中に現れたらしいの。クルーの一人が念のためカメラをとばしてみたらしいんだけど―――確認してみて驚いたわ」

 

 

琴里が足を組み替えながら首肯する。

 

 

「まったく……ASTはどうして激しいのがお好きかな……」

 

 

俺はそう言い、画面に視線を戻す。

真那の身体が淡く輝いた後、その全身に白い機械の鎧が出現した。

他のASTとは違う。

だが、あれはワイヤリングスーツだ。

そしてそれに応ずるように狂三が両手をバッと広げると、足下の影が狂三の身体を這い上がり、ドレスを形成していく。

 

頭部を覆うヘッドドレス。

胴部をきつく締め上げるコルセットに、装飾過多なフリルとレースで飾られたスカート。

それら全てが、深い闇を思わせるような黒と、血のように赤い光の膜で彩られていた。

そして、左右不均等に髪がくくられている。

まるで時計の長針と短針だな。

 

どうして霊装はどれも可愛いだ?

美しいと表現できるものもあるけど。

俺好みの服装ばかりだ。

 

狂三が、右手を頭上に掲げる。

すると、再び影が彼女の身体を這い上がり、右手に収束していく。

だが、そこで狂三の身体が宙に舞う。

 

どうやら、真那が両肩のユニットから光線を放ち、狂三の腹を撃ち抜いたようだ。

 

―――狂三が。身を震わせる。

 

だが、それは恐怖から来るものではないと分かった。

まるで、甲高い哄笑を挙げているようだ。

そして、数秒で方が付く。

 

狂三は反撃をしようとアクションを起こすが、それより早く真那の攻撃が狂三の身体に突き刺さる。

そのたびに、たいして広くない路地に、真っ赤な血が撒かれた

このシーンをフランが見ていたら、突撃して血を吸いに行っただろう。

狂気全開で。

 

そして、地面の上に仰向けに横たわり、完全に動かなくなった狂三の首に、真那が光の刃を突き立てる。

真那に攻撃を加える間さえなく、狂三の命は摘み取られた。

 

画面の中の真那は、一仕事終えたといった調子で首を回す。

すると、そのみに纏っていた装備が消えて、私服に戻る。

 

 

「見ての通り、昨日、時崎狂三はAST・崇宮真那に殺害された。重症とか、瀕死とかではない、完全に、完璧に、一分の疑いを抱く余地もなく、その存在を消し潰された」

「ククク……」

 

 

思わず笑みがこぼれた。

 

 

「一体どうしたのよ。まさか、今のを見て気でも狂ったんじゃないでしょうね?」

「そんなわけあるか。こりゃ、厄介な相手だ。何せ本体は死んでないんだからな」

「本体……?ま、まさか分身?」

「そうだ、しかもただの分身じゃねぇ。それと、分身というよりも再現体だな。しかもまだまだ数はいるとみる」

「なっ!?」

 

 

これには琴里も驚きのようだ。

だが、なぜ俺がそんなことを知っているかくを訊かなくなったってことはもう『アスカロン』の恩恵ですべてを片付けることにしたらしい。

 

 

「まぁ再現体はたいして力もないようだが、警戒はしておいた方がいい」

「確かにそうね……まぁ、何はともあれ狂三とデートして落としてもらうわよ。確か明日って刃の学校、開校記念日で休みだったわよね?今日中に、狂三をデートに誘いなさい。かなりぐいぐい来てるし、運が良ければこの一回で力を封印できるかもしれないわ」

「それが本体だったらいいな」

「うぐっ……それでもよ!!」きっと何もしないよりはマシなはずよ!!」

「そーだなー。ま、なるようになるさ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

帰りのホームルームが終るのを確認した俺は、すぐに席と立ち、狂三の元に行く。

 

 

「狂三、少しいいか?」

 

 

そう言って、廊下のほうを指で示し、歩き出すと、狂三は大人しくあとをついてきた。

ひとけのない場所まで歩いてから、狂三に向き直る。

 

 

「刃さん。いかがいたしましたの?」

「突然で悪いんだが、明日暇?」

「えぇ、大丈夫ですけれど」

「よかったらデートしない?」

 

 

ど真ん中に直球をぶち込んでみた。

男なら、変化球ではなく、直球一本で戦え!!

 

狂三は顔をパァッと明るくした。

 

 

「本当ですの!?」

「あぁ、どうだ?」

「もちろん。光栄ですわ」

「よし、それじゃあ、明日の十時半に、天宮駅の改札前で待ち合わせな」

「えぇ、楽しみにしておりますわ!!」

 

 

狂三が満面の笑みで言ってくる。

くそっ、普通に可愛いじゃないか。

俺は「じゃあな」と軽く手を上げて教室に戻る。

 

 

「十香、帰ろうか」

「ぬ?う、うむ!!」

 

 

そして、昇降口に行き、靴を脱ぐ。

 

 

「あ、あああああああああああのだなヤイバ……!!」

 

 

昇降口に行くまでに珍しく何も喋らずにいた十香が、妙に落ち着かない様子で声をかけてきた。

 

 

「どうした?」

「っ、あ、ああ。その……だな」

 

 

そこで十香は鞄の中を探る仕草を見せたが、なぜかキョロキョロと辺りの様子を窺うと、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

 

「どうした?」

「な、なんでもない……!!早く家に戻るぞ!!」

 

 

十香は目を泳がせまくりながら叫ぶと、俺を先導するようにのしのしと歩いて行った。

そして、家に帰るまで十香はあまり顔を見せないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――五河家。

 

 

「じゃあまたあとで。今日も夕飯はうちで食うだろ?」

 

 

十香を見送ろうとしていたんだが、一向にマンションに入る様子がない。

というよりも、五河家の方に足を向けていく。

 

 

「十香、着替えてこないのか?」

「い、いいから早く鍵を開けろ!!」

「わかったわかった」

 

 

どうせ夕飯の時にはうちにくるんだ、別に何も問題ではないな。

 

玄関の鍵を開ける。

そして靴を脱いで家に上がる。

リビングに直行して鞄をソファに置く。

と、そこでガチャリと音がする。

十香が玄関の鍵を閉め直したらしい。

そのまま、顔をうつむかせてリビングに入ってくる。

 

 

「別に鍵は閉めなくてもいいんだぞ。琴里も帰ってくるし」

「……………」

 

 

しかし、十香は答えず、その場に鞄を落とすと、その中に手を突っ込み、何やらチケットらしきものを二枚、取り出した。

 

 

「や、ヤイバ、もしよかったら……なのだが」

 

 

そしてそこで、何やら思い出したかのようにハッと顔を上げる。

 

 

「そ、そうだ、ちゃんとやらなくては……」

「何をちゃんとやるんだよ……」

 

 

俺が首を傾げていると、十香は何やら慌ただしくリビングの窓に走っていくと、厚手のカーテンをピシャッと閉めた。

 

 

「ちょっと待っていろ!!じゅ、準備をする!!」

 

 

一体何の?

 

今度は鞄からルーズリーフを一枚取り出し、テーブルの上に置いた。

そして、それを難しげな顔で見ながら腰元に手をやると、スカートの上部をくるくると巻き込んでいく。

これは、女子がスカートを一時的に短くする際の小技だ。

段々と、十香の健康的な太腿が露わになっていく。

 

次いで、十香は制服のリボンを緩めると、ブラウスのボタンを上から順にはずっしていく。

第二……第三……第四だと!?

ブラウスの隙間から十香の白い胸元が覗き、もうたまらん。

 

 

「や、ヤイバ!!」

 

 

十香は俺を呼ぶと、チケットを唇でくわえ、その場に四つん這いになって、いわゆる雌豹のポーズをとる。

ちなみに、顔は真っ赤っかだ。

 

 

「こ、これを……!!」

「ん?」

 

 

俺がそう言うと、十香は「だ、駄目か……っ!!」と悔しそうにチケットを口から取り出した。

いや、普通に渡せよ。

 

しかし、十香はテーブルの上のルーズリーフに再び目をやると、

 

 

「よ、よし……ッ!!」

 

 

気合を入れるように叫んで、チケットを拾い上げた。

そして今度はチケットを、開いた胸元に入れ―――「ん?」と首を傾げる。

どうやらうまく挟めなかったらしい。

少し前屈みになり、左手で両胸を寄せて谷間を作ってから、そこにチケットを挟み込んで俺に視線を向けてくる。

ちなみに俺も前屈みになりかけた。

 

 

「ヤイバ……そ、そのだな」

「なんだ?」

「あ、明日……デェトに行かないか……?」

「デートですか……?」

「う、うむ……!!」

 

 

十香が大仰にうなずき、胸元のチケットを示してくる。

受け取れということか?

そうなのか?

俺は、チケットを摘み取る。

 

 

「お、おぉ!!」

 

 

すると十香が顔をパァっと明るくし、姿勢を元に戻す。

と、次の瞬間十香はスカートを元に戻し胸元を隠して鞄を両手に取った。

 

 

「明日!!朝十時に駅のパチ公前で待ち合わせだ!!で、では着替えてくる」

 

 

それだけ言うと、十香は目にも止まらぬ速さでリビングを出ていく。

パタパタと廊下を走り、玄関の鍵を開けて外へ駆けていく。

 

もしかしてあれをやるためだけに制服のままうちに来たのか?

 

チケットを見ると、どうやら水族館のチケットらしい。

一体どこで手に入れたんだか……

 

ついでに、十香の置いていったルーズリーフを見てみる。

そこには、丸っこい文字で『十香ちゃん悩殺技集』と書かれていた。

下には順番が記されていた。

 

①雌豹のポーズ。

②おっぱいにチケット。

③上二つで駄目ならもう押し倒しちゃえ。

 

クソッ!!

もう少しで押し倒してもらえたのか!!

 

玄関から、ガチャリという音が聞こえてくる。

十香が戻ってきたのかと思ったが、違かった。

リビングに入ってきたのは、黒いリボンで髪を括った琴里だった。

 

 

「ただいま。って、ん……?」

 

 

薄暗い室内を不振がっている。

 

 

「昼間からカーテンなんて閉めて、一体どんないかがわしい行為に耽ってたの、刃」

「もう少しだったんだけどな……」

「何!?もしかしてあんた十香とヤりかけたの!?」

「何とも言えないな……」

「そ、そう……まぁなんでもいいけど、何持っているの?」

「ん?これか。十香にデートに誘われたんだ」

 

 

俺がそう言うと、琴里は簡単するように口笛を吹いた。

 

 

「へぇ。十香から誘ってきたの。いい傾向じゃない。一体いつ?」

「明日」

「明日?」

 

 

琴里が難しげに顔をしかめる。

 

 

「ちょっと、明日っていったら、狂三との約束があるじゃない」

「うん、そうだけど何か?」

「何か、って大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫じゃなかったら承諾しない」

「で、具体的にはどうするの?」

「これで行く。影分身の術」

 

 

印を結んで影分身の術を使う。

 

 

「な、何これおにーちゃん!!」

 

 

琴里が妹モードに戻った。

 

 

「影分身の術。忍術だ」

「忍術っておにーちゃん忍者だったの!?」

「んにゃ、ただ使えるだけ」

「そ、そう……はぁ、相変らず規格外のおにーちゃんだこと」

 

 

なんか司令官モードと妹モードが混じってる。

 

何はともあれ、これで明日のデートは大丈夫だ。

狂三の方には俺が行って、十香の方は分身でいいだろ。

 

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