―――デート。
午前十時。
天宮駅東口改札前。
三十分前に来ている俺はスマホで投稿した新曲の再生回数やコメントを見ていた。
再生回数は百万を超えていて、コメントからもなかなか良好なことが見て取れた。
上々だ。
「あら、お早いのですわね、刃さん」
声がする方を向くと、そこには狂三いた。
狂三の服装は、高級そうなブラウスにロングスカートだった。
それらは全て黒で統一されている。
ちなみに俺は、破壊神になった時の服装だ。
黒のシャツに黒のチノパン、そして白の細ネクタイ
まぁ、一緒に歩いていても恥ずかしくはないだろう。
「あぁ、まあな。その服、似合ってるぞ」
「あら、ありがとうございます」
そう言ってニコっと笑う狂三。
「今日はお誘いいただきありがとうございっます。とてもうれしいですわ。―――それで、まずはどちらに行かれますの?」
「んー……そうだな」
デートというのは何回もしているが、相変らずどこに行ったらいいか迷うな。
「狂三、何か買いたいものないか?見たいものでもいいけど」
「そうですわね……」
少し考えるようなしぐさをした後、
「あの、下着を選んではいただけないでしょうか?」
「はい?」
狂三は今なんと?
「刃さんに下着を選んで欲しいですわ」
「……わかった」
やはり聞き間違いではなかった。
下着を選んでほしいだと?
もちろん喜んで!!
「さて、行こうか」
そう言って左手を差し出す。
「手を握ってくださるのですか?」
「あぁ、だってデートだろ」
「まぁ!!うれしいですわ!!」
狂三は俺の左手に指を絡ませてくる。
恋人つなぎだ。
駅のすぐ近くのビルの中に入っていく。
そして、エスカレーターを使い三階、ランジェリーショップへ。
たまにこの駅ビルは利用していたが、ここに入るのは初めてだった。
まぁ前の世界ではものすごく入りまくったけど。
入口から、やたらとセクシーな下着が並べられたエリアだ。
だが、朱乃やグレイフィア、レイナーレはもっとセクシーなのを着けていたな。
あぁ、いろいろあったな。いろいろ……
そして、無論、店員も客も、そこにいる全員が女性だ。
俺が店に入るなり、一瞬辺りから好奇の視線が注がれる。
狂三が隣にいなかったらただの変態だもんな。
「まぁ!!可愛らしいですわね!!刃さん、どちらがいいと思いまして?」
さっそくお気に入りを見つけた狂三が、上下セットの下着を二着示してきた。
どちらも、精緻なレースで飾られた可愛らしいデザインだ。
「うーん、俺はその二つより、こっちのシースルー素材の方が狂三には大人っぽくて似合うと思うぞ」
「刃さんはこれがよろしいんですの……?」
「ぶっちゃけると、そうだな」
俺がそう言うと、狂三は手にしていた下着を元の場所に戻し、躊躇いがちに俺の示したセクシーランジェリーを手に取った。
「無理しなくてもいいぞ」
「いえ、せっかく刃さんが選んでくださったのですもの。―――試着してみますわ。似合っているかどうか見てくださいまして……?」
「いいぞ」
俺がうなずくと、狂三は目の前にあった試着室に入り、カーテンを閉めた。
そうなると、自然と俺は店内に一人取り残される形になる。
周囲からの視線が一層強くなった。
そこで、ちょんと肩をつつかれた。
「ん?」
振り返ると、そこには少女が三人立っていた
確か、亜衣、麻衣、美衣のトリオだったな。
「やーやー五河くん。なんでこんなとこいんの?女装癖?」
「ていうか今日は十香ちゃんと水族館デートじゃないの?」
「え?まさかすっぽかしたの?死にたいの?」
亜衣、麻衣、美衣の順に次々口を開いてくる。
「ん?あぁ……」
俺が口を濁すと、三人が一斉に俺を睨んできた。
「え?ちょっとマジ?あり得ない。十香ちゃんのお誘い断るとか―――」
「そんなことはしないぞ。午後からだし」
俺がそう言うと、三人は疑わしげな眼差しを送ってくる。
「本当でしょうね?もし嘘だったら許さないんだかんね。私のお父さん、黒魔術結社の幹部なんだから。女の子に触れるたび寿命が一年縮む呪いとかかけてもらうわよ」
「そうよ。十香ちゃん泣かせたりしたらタダじゃ済まさないわ。私のお母さんってSMの女王様なんだから。なきながらありがとうございますって言うまで調教してもらうわよ」
「本気で骨も残らないと思いなさい。私の伯父さん、外国でヒットマンやってるんだから。この前誕生日にもらった『一人殺したらもう一人サービス券』使うわよ」
何なんだこいつら?
「まず始めに、この世界の魔術程度ならたいして力はない。本当の魔術はそんなに簡単に発動でき―――なくもないな。風水の配置とかで簡単に発動出来たわ。でもその知識がこの世界の人間にあるとは思えない。そしてSMの女王様のおふくろさんは俺が逆にひぃひぃ言わせてやる。最後に、ヒットマンごときに俺が殺せるとでも?俺を殺したければ最低でも核ぐらいはようしな。銃弾なんぞ俺の身体には傷一つつけられない」
「「「なっ!?」」」
論破してやったぜぇ。
三人は目を丸くした。
その時だった。
試着室のカーテンが開かれた。
「どうですかしら……?」
なんて、狂三が少し恥ずかしそうに足をすり合わせながら、高校生にあるまじき布面積の下着と、それに申し訳程度に覆われた白い肌をさらす。
「……ちょっと、五河くん?」
瞬間、周囲の温度が下がったような気がした。
が、関係ない。
「おぉ!!似合ってんじゃん。狂三の魅力が倍増してる」
「まぁ!!ありがとうございます!!これ買わせていただきますわ」
狂三はカーテンを閉め、着替える。
「ちょっと待てコラァァァァァッ!!なんで時崎さんがいるわけ!!」
「しかももうこんなエロ下着を選ぶ仲!?十香ちゃんとは遊びだったの!?」
「今私は、貴様を刺し殺すか撃ち殺すか迷っている!!」
うーん、これだとらちが明かない。
しょうがない、ここで三人にはご退場願おう。
『写輪眼』を開眼して三人と目を合わせる。
すると、三人の目からハイライトが消える。
幻術をかけたのだ。
三人はランジェリーショップを出ていく。
これで三人は俺の気がする方には近づかない。
「お待たせしましたわ」
カーテンを開けて、中から狂三が出てきた。
「いや、大丈夫だ。会計を済ませようか」
「はい!!」
すごく喜んでいるのか?
まぁ笑顔だから喜んでいるのだろう。
そしてレジで店員に値段を言われる。
「あ、俺が払うから。」
諭吉が三人もいなくなってしまった。
まぁそのくらいなら大丈夫だ。
「ありがとうございます!!一生大切にしますわ」
「ハハハ、喜んでもらえてうれしいよ」
喜んでるならそれでいいだろう。
「ところで、刃さん」
「ん?」
俺が訊きかえすと、狂三が無邪気な笑顔を浮かべながら言った。
「そろそろ、お腹が空きませんこと?」
「あぁ、そうだな。適当なところに入るか?」
「そうですわね」
そう言って、歩き出した。
☆☆☆
昼食を食べ終えた俺たちは、公園に来ていた。
そして、飲み物を買いに、すこし席をたっただけなんが……なぜ狂三がいなくなっている。
どこに行ったんだ?
狂三の気を探る。
見つけた……この位置は東出口付近だな。
行ってみるか。
さっき飲み物をかった自動販売機の脇を通って、狭い路地を走っていく。
そして、目的地に到着。
「おぉ……派手に散らかしたな」
そこには、赤がたくさんあった。
灰色の塀や地面の上に、夥しい量の赤がぶち撒けられている。
そして所々に、歪な形をした大きな塊が三つ、小島のように浮かんでいた。
それが表す事実は―――
人が死んでいる
それだけだった。
「すごいな……まさかこの世界でここまでの死体を見れるなんて、まったく……これだからおもしろい」
「―――あら?」
俺の声に反応したのか、誰かが声を発した。
赤い、赤い海の中央にいた。
「……刃さん。もう来てしまいましたの?」
赤と黒の霊装を纏った狂三が、俺の方を見ながら言ってくる。
左手にには、古式の短銃が握られていた。
そこで、もう一つの事柄に気づく。
路地裏の奥に、男が一人、全身をガタガタ震わせながらヘタリ込んでいた。
若い男だな。
腹部には地で同心円が三つ描かれている。
まるで的当てのようだ。
「ひ―――ッ、ひ―――ッ」
男は今にも死んでしまいそうな呼吸をしながら、俺に目を向けてきた。
「た……ッ、助け……く、れ……ッ!!なん……、こいつ……、化物……ッ!!」
「あらあら」
狂三は顔を男の方に戻すと、手に持っていた銃を向けた。
くすくす笑う。
いつものような可愛らしい微笑ではなく、不気味な笑い声だった。
いいねぇ、ゾクゾクする。
「何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟がないだなんて、おかしいと思いませんこと?命に銃口を向けるというのは、こういうことですのよ?」
「……、や、め……」
狂三の意見には大いに賛成だ。
殺される覚悟ない者に殺しはご法度だ。
息も絶え絶えといった調子で男が声を発すとした瞬間。
狂三が、躊躇も逡巡もなく引き金を引いた。
瞬間、銃口から影を固め鷹のような漆黒な銃弾が、これはまた真っ黒い軌跡を描きながら、男の腹に描かれていた的の中央に吸い込まれていった。
「ひぐ―――ッ」
男の身体がビクンと跳ねる。
それきり、男は何も声を発さなくなった。
「百点、ですわね」
短く息を吐き、銃をその場に落とす。するとそれは、狂三の影の中に消えて行った。
「お待たせしましたわ、刃さん。恥ずかしいところを見られてしまいましたわね」
狂三が俺の方に振り返ってくる。
「んにゃ、別に」
「うふふ、そォいうところが好きですわ」
後方から狂三の声が響いたと思うと、急に足を取られて、地面に身体を叩きつけられるようにして転げた。
あえて、抵抗はしない。
狂三の影から白い手が顔を出し、俺の足をがっしりと掴んでいる。
狂三はゆっくりと俺の面前まで迫ってくる。
ヤンデレですか?
「ふふ、捕まえましたわ」
そう言って、にっこりと笑い、傍らに膝を突いて、俺に覆いかぶさるように身を寄せてくる。
「―――あぁ、あぁ、失敗しましたわ。失敗しましたわ。もっと早く片を付けておくべきでしたわ。―――もう少し、刃さんとのデートを楽しみたかったのですけれど」
ぴと、と俺の両頬を包み込むように、狂三が手を這わせてくる。
狂三が俺に顔を近づけてくる。
でもそれはキスではない、首筋に噛みつこうとしているようだった。
これはいい加減抵抗するか。
「よっと」
「へ?」
魔力を一気に開放して拘束を吹き飛ばす。
そしてゆっくりと立ち上がる。
「まったく……すこしオイタが過ぎるぞ狂三」
「な、なんで……」
「ん?この程度で俺を拘束できると思っていたのか?甘ぇよ」
「クッ!!なら―――」
その瞬間、狂三の身体が後方へ吹き飛んだ。
コンクリートの塀に華奢な肢体が叩きつけられ、細かな日々が入った。
「―――無事ですか、兄様」
「真那か……」
そうやら真那の仕業らしい。
俺を守るように、ワイヤリングスーツを纏った真那が、背を向けながら立っていた。
肩には、盾のような羽のようなパーツが装着されていた。
昨日、俺が見た装備だった。
「間一髪……でもねーでしたが。大事はねーですか」
「おうよ」
軽く返事をする。
「あらあら……私と刃さんの逢瀬を邪魔するだなんて、マナー違反が過ぎませんこと?」
「うるせーです。人の兄様を狙いやがるだなんて、どんな了見ですか」
真那が言うと、狂三は驚いたように目を見開いた。
「真那さんと刃さんはご兄妹でいらっしゃいますの?」
「……ふん、貴様には関係ねーです」
真那は吐き出すように言うと、小さく首を回した。
その動作に合わせて、肩に装着されたパーツが前を向いて可変していき、先端部がまるで手のように五つに分かれる。
そして、左右合計十の先端部に青白い光が現れる。
「とっととくたばりいやがってください、〈ナイトメア〉」
の言葉と共に真那が指を鳴らすと、両肩のパーツから十条の光線が迸り、狂三に向かって伸びていく。
しかし、狂三は身をひねると、光線を華麗に躱していった。
「うふふ、危ないですわね」
「―――ち」
真那が鬱陶しげに舌打ちをし、指を微かに動かす。
すると、狂三に避けられた光線が急に進路を変え、再び狂三に向かっていった。
「ぎゅ……ッ」
これは避けきれなかったらしい。
両足と腹部を光線に貫かれ、狂いが奇妙な悲鳴を漏らし、その場に崩れた。
そこからはどくどく、と赤い血が広がっていく。
「手間かけさせれんじゃねーです。化物風情が」
真那は眉一つ動かさずに軽く右手を上げた。
すると手の平のように開いていたパーツが再び盾のような形に戻り、その先端から巨大な光の刃が出現する。
これは映像で見たものだ。
真那の剣が狂三に振り下ろされる。
じゅッ、と音がして、それきり狂三は何も言わなくなった。
「ふぅ」
真那が軽く右手を振る。
すると手に装着されていたパーツが肩に戻っていった。
「じゃあ、俺はここら辺で」
「はい、無事でなによりでやがります」
俺は真那とは特に会話せずにこの場を離れる。
いや、家に転移した。
―――五河家。
すぐにシャワーを浴びて、自室に入る。
一日でいろいろなことがあったな。
最後の―――真那が狂三を殺した時。
真那の眼を見たがひどかった。
心が擦り切れているのよな眼だった。
まぁそれはおいおいどうにかしよう。
狂三は……明日も学校に来るだろうし、その時に話そう。
今日のことは琴里も〈フラクシナス〉で見ていただろうから、琴里には説明しなくても大丈夫だろう。
さて、どうやってここから盛り返すかな。