―――来禅高校、教室。
俺が教室に入ると、既に狂三が咳に着いているのが目に入る。
俺の姿を認めるなり穏やかな微笑をを作り、狂三がぺこりと頭を下げてくる。
「あら、刃さん。ごきげんよう」
「うっす」
その姿は、昨日と何ら変わりがなかった。
「昨日は楽しかったですわね。また是非誘ってくださいまし」
「そうだな。都合がつけばな」
それは俺とのデートのことなのか?
それとも、路地裏での出来事のことなのか?
そこをはっきりしてもらいたいぜ。
狂三は可愛らしい微笑を顔に張りつけたまま言葉を続けてきた。
「でも、少し驚きましたわ」
「なんで?」
そう訊き返すと、狂三は目を細めた。
「てっきり刃さんは、学校をおやすみになると思っておりましたので」
「ハハハ、何言ってんだ。あの程度で学校を休むとでも?」
「そうですわね。刃さんがちゃんと学校に登校してきてくれて、とても嬉しいですわ」
屈託のない笑顔でそう言う。
俺は狂三の真ん中に足を進める。
「狂三、あまり人を殺してもらっては困る。だから俺はおまえを救い出すことにした」」
「価値観を押しつけないでいただけます?わたくし、甘っちょろい理想論は嫌いですの」
「そうか、でも関係ない。何がどうなろうと、たとえ世界が終焉を迎えようとも、絶対に救って見せよう」
すると、狂三が眉をひそめた。
だが、数瞬の間何かを考えるような仕草をした後、唇を開いてくる。
「―――ならあなたが言っていることが本当かどうか、確かめて差し上げますわ」
「ん?」
「今日の放課後、屋上に来てくださいまし」
それだけ言うと、狂三は俺から視線を外した。
☆☆☆
時刻は十六時三十分。
辺りからは、部活に向かう生徒たちの声が響いていた。
結局今日はあれきり、狂三と会話を交わしていない。
帰りのホームルームが終わった後も、狂三は俺の方に視線を送ることなく、すっと教室から出て行ったのだ。
狂三はもう屋上で待っているはずだ。
俺は階段に足を向ける。
その時だった。
辺りを異変が襲った。
具体的には何が起きたか分からないが、周囲がふっと暗くなったと思ったら、全身を倦怠感と虚脱感が襲った。
まるで空気が粘性を持ったかのように、重くドロッと手足に絡みつく。
周囲に残っていた生徒たちが、次々と苦しげなうめき声を発し、その場に崩れおれていく。
「大丈夫か?」
すぐ近くに倒れ込んだ女子の肩を揺する。
だが、気を失っているせいで反応はなかった。
まずいな……
コレが狂三の起こしたことだとすると、力の源は霊力だ。
十香が危ないかもしれない。
教室に戻ると、十名ほど人が残っていた。
だが、全員気を失っているようだった。
「おぉ、ヤイバ……」
十香は軽く頭を押さえながらも、俺に声を返してきた。
力の大部分が封印されているとはいえ、やはり精霊だ。
人間より霊力に耐性はあるようだ。
「大丈夫か?」
「うむ……だが、どうも身体が重い……どういてのだ、これは……」
まるで高熱にうなされているようだった。
「十香、ここで休んでいろ。俺が何とかするから。だが、どうしても苦しくなったら念話で知らせてくれ」
「ネンワ?なんだそれは」
「頭の中で話すことだ」
そう言って、十香に念話をつなぐ。
(こんな感じだ)
「な、なんだこれは!?」
(頭の中に言葉を思い浮かべて、それを俺に伝えようとしてみろ)
(こ、こんな感じか?)
(あぁ、それでいい。じゃあ、俺は行ってくる)
最後に十香の頭を優しく撫でてから、廊下に出た。
―――屋上。
屋上への扉は、壊されていた。
ただし、鍵の部分だけだ。
銃で撃ったかのようにボロボロになっていた。
狂三の仕業だろう。
扉を開ける。
ドロリとした空気が一層強くなる。
だがこの程度、まったく意味をなさない。
中心に狂三はいた。
「―――ようこそ。お待ちしておりましたわ。刃さん」
狂三がフリルに飾られた霊装の裾をくっと摘み上げ、微かに足を縮めて見せた。
「まったく、面倒な結界を張ってくれたな」
狂三は笑みを濃くしながら言う。
「うふふ、素敵でしょう?これは〈時喰みの城〉。わたくしの影を踏んでいる方の『時間』を吸い上げる結界ですわ」
「なんだそりゃ」
俺がそう言うと、狂三はくすくす笑いながらゆっくりと歩み寄ってきた。
そして、優雅な仕草で髪をかき上げる。
左目が露わになる。
「おぉ……」
思わず声を出してしまった。
無機質な金色に、数字と針。
そう―――狂三の左目は時計そのものだった。
しかも、その時計の針が、くるくると逆方向に回転している。
「それは?」
「ふふ、これはわたくしの『時間』ですの。命―――寿命と言い換えても構いませんわ」
そう言いながら、狂三がその場でくるりとターンをする。
「わたくしの天使は、それはそれは素晴らしい力を持っているのですけれど……その代わりに、ひどく代償が大きいのですわ。一度力を使うたびに、膨大な私の『時間』を喰らっていきますの。だから―――時折こうして、そとから補充することにしておりますのよ」
「へぇ……」
狂三の言葉に俺は普通に返した。
簡単に言えば、結界の中で倒れている人間の残りの命を吸い上げているということだ。
「精霊と人間の関係性なんて、そんなものですのよ。皆さん、哀れで可愛い私の餌。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
俺を挑発するように眉をゆがめ、続ける。
「あぁ―――でも、でも刃さん。あなただけは別ですわ。あなただけは特別ですわ」
「だろうな」
「えぇ、えぇ。あなたは最高ですわ。あなたと一つになるために、わたくしはこんなところまで来たのですもの」
「一つになるねぇ……」
完全にヤンデレの発言である。
「そのままの意味ですわ。あなたは殺したりなんてしませんわ。それでは意味がありませんもの。―――私が、直接あなたを食べて差し上げるのですわ」
性的にですか?
なら、よろしくお願いされたいです。
物理的にはちょっと……
「それと、あなたを食べる前に、今朝方の発言を取り消していただかないとなりませんもの」
「今朝の?」
「えぇ、。―――わたくしを、救うだなんて世迷い言を」
狂三は視線を冷たくして俺を見る。
「―――ねぇ、刃さん。そんな理由で、こんなことするわたくしは恐ろしいでしょう?関係のない方々を巻き込むわたくしが憎いでしょう?救う、だなんて言葉をかける相手ではないことは明白でしょう?」
狂三が、役者のように大仰に手を振りながら続ける。
「だから、あの言葉を撤回してくださいまし。もう口にしないと約束してくださいまし。そうしたなら、この結界を解いて差し上げても構いませんわよ?もともとわたくしの目的は、刃さんただ一人なんですもの」
甘い……甘すぎるよ狂三。
「別におまえのことは恐ろしくない。恐れるに値しない。関係のない人を巻き込むなら好きにすれば?俺には関係ないし。だから別に憎くないし。あとさ、『結界を解いて差し上げても構いませんわよ?』だと?おまえさ……俺のことナメすぎだろ」
関係のない奴まで守れるほど俺は強くない。
いくら万能なだけな人外、神だとしても、すべてを守るのは不可能だ。
だから、俺は俺の大切な者さえ守れればそれでいい。
その時だった。
ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――
空間震警報が辺りに鳴り響いた。
「きひ、きひひ、きひひひひひひひひひひひひひッ、ナメてなんかいませんわよォ。それと、今の状態で空間震が起こったらなら、結界内にいる方々は一体どうなりますでしょうねぇ」
「……………」
俺が校舎に結界を張るから、別になんともならない。
「―――さあさ、刃さん?いかがですの)わたくしが恐ろしいでしょう?わたくしが憎いでしょう?これでも同じことが言えまして?弱き肉が!!強き捕食者に!!」
「そうか」
「さぁ!!刃さん、どうしますの?あなたが言葉を撤回しなければ、何人もの人が死ぬことになるますわよ!?」
狂三が、俺から視線を逸らさないまま、高く上げた右手をくっと握って見せる。
瞬間、きぃぃぃぃぃ―――ん……というような音が、あたりに鳴り響いた。
まるで、空間が悲鳴を上げているかのようだった。
はぁ、仕方ない。
動くか。
『空間を操る程度の能力』で空間の歪みを直し、固定する。
「なっ!?」
狂三が驚きの声を口に出す。
「はぁ……本当は嫌だったんだけどな。この力を使うのは。なんせ派手だからさ」
大剣を取り出す。
琴里の意識では、万能の大剣と化しているだろう。
「―――アスカロン」
アスカロンを取り出し、魔力を込める。
刀身がプリズムのように様々な色に輝き始める。
「そんじゃま、殺ってやんよ」
アスカロンを横なぎに一振り。
狂三が吹き飛んでいく。
ただ、ここで違和感が生まれた。
一部分だけ弾かれたのだ。
そして、その原因を発見する。
「真那か」
「はい。―――滅茶苦茶してやがりますね」
ワイヤリングスーツを纏い、両手に巨大なレイザーブレイドを装着した真那が、ちらりと俺の方を見て言ってくる。
しかし、真那はすぐに光の刃を構え直し、狂三たちに鋭い視線を放つ。
「随分と派手なことをやってくれやがったようですね、〈ナイトメア〉」
「―――く、ひひ、ひひ、いつもながら、さすがですわね。わたくしの〈神威霊装・三番(エロヒム)〉をこうも簡単に切り裂かれるだなんて。それに刃さんのその大剣は一体何ですの?」
「ふん。悪-ですが、そんな霊装、私の前では無意味です。大人しく―――」
と、真那が言いかけたところで、狂三が大仰に手を広げ、その場でくるりと旋した。
「でぇ、もォ……わたくしだけは、殺させて差し上げるわけにはまいりませんわねぇ」
狂三はそう言うと、カッ、カッ、と、ステップを踏むように両足を地面に打ち付けた。
「さぁ、さぁ、おいでなさ―――〈刻々帝(ザフキエル)〉」
瞬間―――狂三の背後の影から、ゆっくりと、強大な時計が姿を現した。
狂三の身の丈の倍はありそうな、巨大な文字盤。
そして、その中央にある針は、それぞれ細緻な装飾の施された古式の歩兵銃と短銃だった。
「天使か……」
天使。
この世界では『形を持った奇跡』。
精霊が唯一にして絶対の力を誇る武器である。
だが、それがどうした。
「うふふ……」
狂三が笑う、巨大な文字盤から短針に当たる銃が外れ、狂三の手に収まった。
「〈刻々帝〉―――【四の弾(ダレッド)】」
狂三がそう唱えると、時計に刻まれた『Ⅳ』の数字から、じわりと影のようなものが漏れ―――一瞬のうちに、狂三の握る短銃の銃口に吸い込まれていった。
「な……」
真那の怪訝そうな声が、俺の耳に届いた。
狂三が、左手に握った短銃の銃口を、自分のあごに押し当てたのだ。
「一体何を―――」
真那の言葉の途中で、狂三はニヤリと笑うと、何も躊躇うことなく引き金を引いた。
ドン!!という音が辺りに響き、狂三の頭がぐわんと揺れる。
その瞬間、地面に転がっていた狂三の右手が狂三の元に飛んで行った。
そして、右手は狂三の右腕に触れると、まるで何事もなかったかのように綺麗に接着・復元された。
腕に纏った長手袋さえ完璧にだ。
時間の巻き戻しか。
「うふふ、良い子ですわ、〈刻々帝〉」
「……初めてみる手品ですね、それは。なるほど、素晴らしい回復能力です」
真那が忌々しげに言うと、狂三はくつくつt笑いながら首を振った。
「きひひ、ひひ、ちがいますわよう。時間を巻き戻しただけですわ」
「……何ですって?」
真那が眉を歪める。
しかし狂三は不敵に笑うだけでそれ以上答えず、右手を高く掲げた。
背後の時計〈刻々帝〉に残っていた長針―――歩兵銃がその手に収まる。
「―――あぁ、あぁ。真那さん、真那さん。今日ばかりは勝たせていただきますわよ」
言いながら、針の無い文字盤の前で、二丁の銃を構える。
まるで時間を示しているかのように。
「さぁ、さぁ。始めましょう。わたくしの天使の力を見せて差し上げますわ」
「―――ふん、上等です。またいつものように殺してやります」
真那が言うと、狂三はおかしくてたまらないといった様子で笑った。
てか、俺空気じゃね?
「きひ、ひひ、ひひひひひひひひひひッ、まァァァァァだわかりませんのぉ?あなたにわたくしを殺しきることは絶ェェェェェッ対にできませんわ」
それからも、狂三と真那は挑発をし合う。
そして、場が動き出す。
「〈刻々帝〉―――【一の弾(アレフ)】」
すると先ほどの文字盤の『Ⅰ』の部分から影が染み出し、狂三の握る短銃に吸い込まれていく。
そしてまたもその銃口を自分のあごに当て、引き金を引いた。
瞬間。
「よっと」
「「!?」」
その場から狂三の姿が掻き消えたように見え、真那の方に向かったのを確認。
一気に踏み込んで、神速で真那と狂三の間に割り込み、狂三の蹴りを受け止める。
「な、なぜですの!?なぜ私の姿が人間の刃さんが……」
狂三は珍しく驚愕の表情を顔に張りつけた。
「なぜ、ねぇ……それはおまえの移動速度が遅いからだよ。その程度の速さなら、もう慣れた」
狂三はまた霞のように消える。
次の瞬間には真那の後方に出現する。
その背に踵を振り落すが、
「だから、遅いっての」
「クッ!!」
その足を掴み、そのままぶん投げる。
「なぜですの!?なぜ時間を早めたわたくしの動きに対応できるのですの!?」
「確かに面白い能力かもしれないけどさ、所詮その程度だ。時間を操る程度なんだよ」
「あぁ、あぁ、そうですか。じゃあ―――」
再び、狂三は真那に向かう。
もちろん、高速移動でだ。
「〈刻々帝〉―――【七の弾(ザイン)】」
と、その途中、文字盤の『Ⅶ』から染みだした影が、狂三の歩兵銃に吸い込まれていった。
そして、即座にその銃口を真那に向けて放つ。
すると、真那が完全に停止した。
次に、俺に銃口を向け、撃つ。
もちろん、俺も停止した。
停止したが、
「だから、その程度じゃあ俺は止められないって」
「なっ!?」
自動で『時間を操る程度の能力』が発動。
時間停止が解かれ、真那に向かう狂三に一撃を入れる。
またも、狂三は面白いように吹っ飛んでいく。
その時だった。
「ヤイバ!!」
「―――刃」
俺を呼ぶ声が新たに二つ、屋上に現れた。
「十香に折紙か」
振り向き、名を呼ぶ。
狂三の結界内でなぜ動けるのか?
という疑問は抱かなかった。
二人の格好は、十香は霊装で折紙は話イヤリングスーツを、それぞれの実に纏っていたのだ。
「大丈夫か、ヤイバ!!」
「あぁ、もちろんだ。そうだ十香、『許可』しよう」
この一言で、十香の霊装が完全なものになる。
今までは、制服の下に少しだけ霊装のドレスがあった。
だが、『許可』した十香の姿は、初めて会った時の姿―――完全に力を取り戻し、完全な形の霊装をその身に纏っていた。
「鳶一一曹……十香さん。ご無事でしたか。しかし……十香さん。その姿は一体……」
真那が言うと、十香が怪訝そうな声を上げる。
「ヤイバの妹二号。おまえこそ、その格好は何だ?まるでAST―――」
真那と十香は互いに怪訝そうな視線を交わしたが、すぐに狂三の笑い声が響いて来て、言葉を中断した。
「あら、あら、あら。皆さんお揃いで」
狂三が言うと、十香と折紙がほぼ同時に口を開いた。
「狂三……!!いきなり逃げたかと思ったら、こんなところにいたか!!」
「あなたの行動は不可解。一体何の真似」
逃げた、ねぇ……
「狂三が邪魔をしに現れたのだが……先ほどの爆発のあと、どこかへ逃げていったのだ」
しかし十香の言葉に、折紙が胃を唱える。
「それはおかしい。時崎狂三は、私と交戦していた」
「何だと?」
十香は一瞬訝しげな顔をしたが―――すぐに首を振ると、狂三に視線を向け直した。
「……残念だ、狂三。だがおまえがヤイバに危害を加えようとする以上、容赦はしない」
「一部だけに同意する」
折紙もまた、狂三に向き直る。
狂三が、またも楽しげにくるりと身体を回転させた。
「うふふ、ふふ。あぁ、あぁ、怖いですわ。恐ろしいですわ。こんなにもか弱いわたくしを相手に、こんな多勢で襲いかかろうだなんて」
微塵もそんなことは思っていない様子で、くすくす、くすくす、と笑う。
「でも、わたくしも今日は本気ですの。―――ねぇ、そうでしょう?わたくしたち」
「ん?」
奇妙な物言いだ。
だが、次の瞬間。
「「「な……っ!?」」」
十香と折紙、真那の声が被った。
だが、それも納得できるものだった。
屋上を覆い尽くしていた狂三の影。
その中から、幾本もの白い手が一斉に顔を出したのだから。
しかも、それだけではない。
今までひじ程度までしか姿を現さなかった白い手が、徐々に徐々に、その根本を地面の上に表していった。
「おぉ……」
思わず、声を漏らしてしまった。
全員、『狂三』とは。
広い屋上を埋め尽くさんばかりに、何人も、何人も。
霊装を纏った狂三が、影の中から這い出てきた。
「くすくす」 「あら、あら」 「うふふ」
「あらあらあら」 「驚きまして?」
「刃さん」 「さぁ、どうしますのォ?」
「あはははははッ」
「いひひひ」 「美味しそうですわねぇ」
「さぁ、さぁ」 「遊びましょう?」
「いかがでして?」 「ふふっ」
「ひひひ」
「ふふふふふふふ」 「どうしましての?」
無数の狂三が、思い思いの笑いを、声を発する。
「こ、ッ、れは……ッ」
真那が声を発すると、銃を握った狂三が両手を広げながらくっとあごを上げた。
「うふふ、ふふ。いかがでして?美しいでしょう?これはわたくしの過去。わたくしの履歴。様々な時間軸のわたくしの姿たちですわ」
「へぇ……」
「うふふ―――とはいえあくまでこの『わたくしたち』は、わたくしの写し身、再現体に過ぎませんわ。わたくしほどの力は持っておりませんので、ご安心くださいまし」
ねェ、と狂三が続ける。
「真那さん、わかりまして?わたくしを殺しきれない理由が」
「―――っ……」
真那が、息を詰まらせる。
それは、十香も、折紙も同じだった。
「さぁ―――」
狂三が、くるりと回る。
「終わりに、いたしましょう」
「……ッ、舐めんじゃ―――ねーです……ッ!!」
叫んだのは、真那だった。
空を舞い、ユニットを可変させ―――
「結」
たときに俺が結界で真那を閉じ込める。
「な、何しやがるんですか兄様!!」
「悪い、おまえたちを守りながら戦う余裕はない。結」
そう言って、十香と折紙も結界にいれる。
「さぁて、始めようか。俺の戦争(デート)を」
狂三に向き直る。
どう調教するかな……
朱蓮と白はまだ出せない。
でも数が多すぎる。
「―――苦戦してるようね、刃」
空が、赤かった。
屋上の上。
俺や、狂三たちの頭上に、炎の塊が浮遊している。
そして、その炎の中に、一人の少女の姿があった。
和装のような格好をした女の子である。
風にたなびく袂は、半ばから炎と同化しているかのように揺らめき、腕に腰に絡みつく炎の帯は、まるで天女の羽衣のようだった。
そしてその東部には、無機質な角が二本、生えている。
その様は、お姫様のようであり―――鬼のようでもあった。
「琴里か……」
そう、俺の妹にして、〈ラタトスク〉司令官。
炎を纏った少女の姿は、琴里にしか見えなかった。
琴里が徐々に高度を下げ、俺の方にちらと視線を落としてくる。
「―――少しの間、返してもらうわよ、刃」
「何言ってんだ。駄目に決まっているだろう。それに苦戦してない。これからだったんだ」
「え……?」
琴里とのパスを通して琴里の霊力を奪い取る。
「な、何……これ?刃あんた一体何したのよ!!」
「ん?ただおまえに行った霊力を奪い返しただけだよ。―――それにお兄ちゃんは琴里が戦闘に参加することを許可していません!!」
「こんなときに何言ってるのよ!!」
「えぇい、うるさいぞ!!結」
「あ、コラ!!出しなさい!!」
琴里を結界の中に入れる。
さっきの霊力のやり取りで琴里の霊力が感じられるようになったな。
これならいけるぞ。
天使の顕現。
「待たせたな、狂三」
「えぇ、えぇ、待ちましたわ。でも、それもこれで終わりですわ」
狂三は楽しく堪らない、といった顔で俺を見る。
その顔がいつまで続くかな?
「俺に力を貸せ。〈神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)〉!!」
俺の身体を霊装が包んでいく。
袖や裾が広がった紅い和装。
そして、頭の上には黒い角が二本生える。
琴里の霊装の色が紅で、角が黒版だな。
「れ、霊装!?本当に何者ですの!?」
狂三が狼狽する。
「驚くのはまだ早いぜェ……〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!!」
続いて天使の顕現。
炎の戦斧だ。
「天使の顕現!?」
狂三が驚く。
そりゃそうだ。
いくら霊力を溜めこんでいるとはいえ、人間の俺が天使を顕現させたんだからな。
「あらためて宣言しようか。始めよう、俺たちの戦争(デート)を」
To be continued
『3章 狂三キラー』はこの回で終わりです。
次章の『4章 五河シスター』に続きます。