デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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第4章 五河シスター
第1話~妹の正体~


―――来禅高校、屋上。

 

 

「あらためて宣言しようか。始めよう、俺たちの戦争(デート)を」

 

 

狂三に挑発するように言う。

現在、狂三は驚愕の表情を顔に張りつけ、こちらの行動を窺っていた。

 

それにしてもこの天使、精神力を持ってかれる。

だがまぁ、あと二、三時間は余裕だろう。

 

 

「狂三……おまえは少しやりすぎだ。お仕置きしてやる」

 

 

狂三は俺の言葉が予想外だったのだろう、しばしキョトンと目を丸くしていたが、すぐに堪えきれないといった様子で哄笑をのどから漏らした。

 

 

「くひ、くひひひ、ひひひひひひひッ……面白い方ですわねぇ。お仕置き、ですの?あなたが?わたくしをォ?」

「あぁそうだ。お仕置きされたくなかったら、分身と天使を収めろ。そして大人しくしろ」

 

 

俺が言うと、狂三はさらに可笑しそうに嗤った。

周囲に立ち並んだ無数の狂三たちも、それに合わせるようにけたけたと身を捩じる。

 

 

「ひひひ、ひひ。随分と自分の力に自信がおありのようですけど、過信は身を滅ぼしますわよォ?わたくしの〈刻々帝〉は―――」

「御託はいいんだよクソビッチ!!さっさとかかってきやがれ」

 

 

俺はそう吐き捨てると、楽しげに笑っていた狂三の頬がぴくりと動いた。

屋上中に展開した無数の狂三が、一斉にぎろりと俺を睨んできた。

 

 

「上等ですわ。一瞬で食らい尽くして―――差し上げましてよォッ!!」

 

 

狂三が喉を震わせる。

瞬間、屋上を埋め尽くしていた狂三の分身が一斉に脚を縮め、俺にmぬかて跳躍してきた。

 

 

「やっとか……でも俺もそんないコイツを使える訳じゃない。だから一気に決めさせてもらうぞ」

 

 

戦斧を構えなおす。

 

 

「〈灼爛殲鬼〉―――【砲(メギド)】」

 

 

〈灼爛殲鬼〉の形状を変化させる。

 

 

「破ッ!!」

 

 

〈灼爛殲鬼〉から高熱線が放たれる。

その場でくるりと一回転する。

それだけで、まわりにいる狂三たちは高熱線に呑まれていく。

フハハハハ!!薙ぎ払えェ!!

 

 

「な!?」

 

 

さすがの狂三も予想外だったらしい。

だけど、

 

 

「あ゛ー……もう無理」

 

 

そう言って〈灼爛殲鬼〉と、霊装〈神威霊装・五番〉を霧散させる。

だがここで、予想外なことが一つあった。

 

 

「な、何?どうして勝手に?」

 

 

琴里が〈神威霊装・五番〉を纏っていたのだ。

だが、力は出せないようだ。

ただ纏っているだけ。

 

多分、初めて力を使ったのでストップが効かなくなって、霊装を解いた瞬間に力がそのまま全て琴里に流れてしまったのだろう。

でも、何ができるわけではないようだ。

霊力すっからかんなんだろう。

 

 

「くひ、くひひひ、ひひひひひひひッ……形勢逆転ですわねェ」

 

 

狂三は、ものすごく面白そうに嗤った。

 

 

「何言ってんだよ。これからだろ、面白いのは」

 

 

でもさすがに面倒になってきた。

これは『神使』呼んじゃいますか?

呼んじゃっていいんですか?

呼びましょう。

 

 

「―――狂三」

「何ですの?刃さん。まさか命乞いですか?」

「違う違う。あのさ、面白いものを見せてやるよ」

「面白いもの?何ですの?」

 

 

今回呼ぶのは精霊。

一番初めに妹になってくれた者だ。

 

 

「おいで……ペスト!!」

 

 

漆黒の魔法陣が展開される。

完全に姿が現れる。

 

 

「久しぶりだね、お兄ちゃん!!」

 

 

そう言って、ペストは俺に抱き着いてくる。

 

 

「あぁ、本当に久しぶりだ」

 

 

俺も抱き返す。

なんだか視線が痛いな。

 

 

「ちょっと刃!!その子誰よ!!」

 

 

琴里が吠える。

あぁそうか……俺のことを『お兄ちゃん』ってペストが呼んだからか。

確か真那の時もすごかったような……

 

 

「あぁ、俺の初めての妹、ペストだ」

「名前は分ってるのよ!!その子は何者?気配が……」

 

 

あぁ、そっちですか。

 

 

「わたくしも気になりますわねェ。一体何者ですの?」

「14世紀以降に大流行した黒死病の8000万人の死者の霊群、死の恩恵を黒い風に乗せて与える神霊であり、その力は『命あるものを殺す』という点において強大なものである。簡単に言えば、黒死病の神霊だ」

「「何ですって!?」」

 

 

琴里と狂三の声がハモった。

十香と真那、折紙は何が何だかわからないようだった。

 

 

「さて、ペスト。いきなりで悪いがお願いできるか?」

「うん、お兄ちゃんの為だったら何でもしちゃう」

 

 

そう言って、ペストは身に黒い霧のようなものを纏い始める。

黒死病の病原菌だ。

 

 

「殺っちゃうぞ☆」

 

 

ペストは可愛くそう言うと、黒い霧を狂三たちに向けて放つ。

確か初めて会ったときもこの霧を出してたよな。

うんうん、懐かしいな。

 

 

「ぐぅぅぅ……な、何ですのこの黒い霧は……」

 

 

黒い霧に触れた狂三が苦しみ始める。

通常は、ある程度潜伏するのだが、『神使』になったペストは潜伏期間をなくすことに成功したのだ。

最早、チートである。

 

 

「どうだ?苦しいか?でもまだまだだ。ここからやっと始まるんだぞ。俺たちの調教(デート)は」

「ひっ……」

 

 

狂三は怯えるように悲鳴を漏らした。

多分俺はものすごくイイ顔をしてたんだと思う。

 

 

「どうしたァ?あんなに大口叩いてたのにその程度か?ん?」

「くっ……わ、わたくしたち!!」

 

 

狂三は新たに影から分身を出現させた。

なぜ無駄だと理解できない。

ペストがもう一度、霧を放とうとする。

だが、それは俺が止める。

 

 

「いいの?お兄ちゃん」

「あぁ……ここからは俺がやる。そこで俺の勇士でも見ててくれ」

「うん♪お兄ちゃんのかっこいいとこ見てるよ」

 

 

うおぉぉぉぉぉ!!

今なら全精霊を相手にとれるぞ!!

 

 

「さて、狂三。ここからは俺が相手だ」

「や、刃さんが相手してくださるの?でもお相手しないわけにはいきませんわね」

 

 

少し戸惑いながらも、狂三は返してきた。

少し怯えてる?

いやいや、あの狂三だぞ?

狂うに三と書いて狂三だぞ。

そんなわけない。

……かもしれない。

 

『念』を発動。

『堅』を維持したまま、『発』を発動。

 

適当に太刀を創造して、構える。

 

 

「一度やってみたかったんだよねェ」

「何をですの?」

「ん?あぁ……七閃ってね」

 

 

瞬間、七度の衝撃が狂三たちを襲う。

狂三たちは消えはしないが、地面に倒れ伏した。

 

 

「次から次へと規格外ですわね……今度は一体何をなさったのですか?」

 

 

狂三が苦しそうに訊いてきた。

 

 

「普通は答えないんだけどな……まぁ聞いても対処できないだろうから教えてやる。今の技は七閃。『一瞬と呼ばれる時間に七度殺す』ことのできる技だ」

「な……!?」

 

 

今回は『発』で創った弦だったから身体がバラバラにならなかったが、本来この技は鋼糸で行う技だ。

鋼糸で行っていたら確実に殺していただろう。

なぜ鋼糸でやらなかったかって?

調教ができなくなるだろう。

 

 

「さぁ狂三。もっと俺を楽しませろよ」

「申し訳ありませんが、ここで終幕ですわ」

 

 

狂三は勝ち誇ったような顔で俺に告げた。

 

 

「意味が分から―――まさか!?」

「くひ、くひひひ、ひひひひひひひッ……またお会いしましょう。刃さん」

 

 

そう言うと、狂三は自らの頭を手に持っていた短銃で打ち抜き、絶命した。

恐らく、俺が七閃を繰り出して調子になっているときに、こっそり本体だけ逃げ出したのだろう。

やられた……

完全にペストにかっこいいところを見せようと調子に乗っていた俺が悪いな……

こんなんじゃ、ペストに笑われちまう。

 

 

「お兄ちゃん……」

「ペ、ペスト……?」

「ダメだよ?女の子だからって逃がしちゃ。本当にお兄ちゃんは女の子に甘いんだから。そんなだから『箱庭』で殺されちゃったんでしょ!!」

「言い返す言葉もございません……」

 

 

ペスト……

まだ覚えててくれたのか。

 

あ、そうだ。

結界解かないと。

 

 

「解」

 

 

結界を解く。

解いた瞬間だった。

 

 

「この馬鹿刃!!」

 

 

琴里にドロップキックをされた。

 

 

「なんで閉じ込めたのよ!!力が戻ったんだから―――」

「うるさい。おまえにはあまり戦ってほしくなかったんだ。ほら、さっさと帰るぞ」

「ちょ、ちょっと!!」

 

 

琴里の静止を無視して十香に歩み寄る。

 

 

「十香、無事か?」

「う、うむ。ヤイバのおかげでな」

「そうか、それは良かった」

「だが、まさかヤイバが霊装を纏ったり天使を顕現するとは思わなかったぞ」

「そうか?封印ができるんだ、使えても何も不思議ではないだろう」

「そういうものなのか?」

「そういうものだ」

 

 

適当に返して、琴里の方に行く。

 

 

「さぁ、帰ろうか」

「そうね……たーっぷり話を聞かせてもらうから」

「ハハハ……お手柔らかにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――フラクシナス。

 

 

フラクシナスに拾われると、すぐに検査が始まった。

俺と十香は同じ部屋だったが、琴里は別の部屋だった。

ペストは大人しく俺の膝の上に座っている。

ちなみに、夜が開けそうだが、どうやら一日=二十四時間ということらしく、まだこっちにいられるらしい。

 

 

「はぁ……やっと終わったか……」

「やっと終わったね、お兄ちゃん」

 

 

ペストはにこにこしながら言う。

この顔を見れば疲れなんぞ一瞬でなくなるわ。

 

 

「十香、大丈夫か?」

「ふぁぁ……眠いぞ」

 

 

大きなあくびをしながら言う。

 

 

「もう寝てもいいんじゃないか?ほら、ちょうどベットもあるし」

「そうさせてもらおう。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 

 

十香はベットに入って眠った。

 

 

「さて、令音。俺を琴里のいる部屋に連れていけ」

「……君ならそう言うと思っていたよ。ついてきたまえ」

 

 

そう言って、席を立つ。

 

扉を開け、廊下に出る。

しばらく進むと、ものすごく頑強そうな扉の前に着いた。

 

令音は扉の横に備えられた電子パネルの前に立つと、番号を入力してから手の平をかざした。

 

 

「……解析官・村雨令音」

 

 

そして名を言うと、パネルが小さな音を鳴らし、その大きなとびらが左右に分かれて開いて行った。

 

暗証番号に指紋認証……そして声紋認証。

かなり厳重だな。

 

 

「……さ、来たまえ」

 

 

令音が部屋に入っていく。

俺も続いて部屋に入る。

なんとも奇妙な部屋だ。

部屋の手前と奥がガラス製の壁で仕切られていて、それを境として内装がまったく異なっている。

 

俺たちのいる手前側が、様々な機械が所狭しと並べられた薄暗い実験室のような風情なのに対し、億は普通に人間が生活を行うマンションの一室のように調えられていた。

まるで、猛獣をとじこめ監視しておくための檻のような空間である。

 

そしてその部屋の奥。

ガラスを隔てた場所に、琴里の姿があった。

瀟洒な椅子に腰掛け、優雅に紅茶を飲んでいた。

霊装は纏っていない。

いつもの私服だ。

 

 

「よう琴里」

 

 

名を呼ぶが、琴里は答えなかった。

 

 

「……こちらの音声はあちらには届いてはいない。―――ヤイバ。ここからは君一人だ」

 

 

そう言って、令音が歩いていく。

ガラスの壁の一角に、扉のようになった場所があった。

そこに向かう。

令音が先ほどと同じように指紋、声紋認証をし、扉を開ける。

俺は部屋に入る。

その際、部屋を隔てるガラスの壁の異様な分厚さが視界の端に入り、思わず吹き出しそうになった。

厳重すぎだろ(笑)

 

 

「……ん?あら、刃じゃない」

「あぁ……」

 

 

椅子に座りながら答える。

琴里はシナモンスティックでミルクティをかき混ぜ、スティックをぱくりと口に放り込んだ。

 

 

「それもチュッパチャプスなのね」

「何よ。文句ある?」

「んにゃ、別に」

 

 

そう答えて一息つく。

 

 

「さて、本題に入ろうか」

「……そうね。わずは刃。あなたは何が知りたい?」

「そうだねぇ……おまえが精霊だってことは知ったし……特にないかな」

 

 

そう言うと、ぴくり、と琴里の肩が動いた。

 

 

「失礼ね。私は、人間よ。自分ではそのつもり。---でもきっとそうはいかないんでしょうね。観測装置の数値は今、私のことを精霊と判断しているから」

「全然意味がわからん」

 

 

一気に言葉を並べられても理解で知るわけがねぇ。

 

 

「私は、五河家に生まれた人間。それは間違いないわ。でも、今から五年前。---

私は精霊になった」

「なるほど」

「本当に理解してるの?でもまぁ、正確には、精霊の力を持った人間っていった方が適当かもしれない」

「ふぅん……でもまぁ、覚えてないんだろ。精霊になったときのこと」

「まぁね……」

 

 

渋い顔をして答える琴里。

 

 

「そうだろうな、だって記憶消されてるもん」

「何ですって!?確かにそれは予想していたけれど……その前になぜ刃がそんなことわかるのよ」

「ん?あぁ、なんか俺の脳に記憶の消去―――というよりも封印だな。その痕跡が見つかったからだ」

「……良くそんなことわかるわね。それもアスカロンの恩恵なのかしら?」

 

 

くすくす笑いながら俺に言う。

 

 

「違うよ。さすがにもうそれだけじゃ説明できないだろう?」

「そうね……来禅高校の屋上で使った技とかもね。アスカロンなんて出してないじゃない」

「ハハハ」

 

 

さて、なんて俺のことを説明しよう。

忍者、結界師、陰陽師、念能力者、創造神、破壊神、二天龍を従えし者。

肩書きならいくらでもある。

どれがいい?

創造神と破壊神はまだ伏せておきたい。

ならそれ以外だ。

 

忍者だと、忍術使ってないしな……

結界師だと、あぁ、結界使いましたな。

陰陽師、これは結構現実味があるな。

念能力者だと、特にないな。

 

よし、陰陽師でいこう。

結界師でもいいけど、それだと能力が限定され過ぎるからな。

それに、前の世界では結局陰陽師として生きたし。

 

 

「そんなにあの力の正体が知りたいか?」

「えぇ、ものすごく知りたいわ」

「そうか……少しだけなら教えてやる。それでもいいか?」

「えぇ」

 

 

少しだけって言ったけど、陰陽師の件だけなら少しだけだよね?

 

 

「俺はな、陰陽師をやってんだ」

「おんみょうじ……陰陽師!?陰陽師ってあの妖怪を退治する奴?」

「そうだねぇ、一応そうだね」

「なるほど……でもさ、あの斬撃とかって全然陰陽術を使ってるようには見えなかったんだけど……」

「そうかもな。でもな、霊力つって、陰陽術を使うときに必要な力を応用させてやったんだ。琴里が言っているのは七閃のことだろう?」

 

 

そう訊くと、琴里は顔を引き締めた。

 

 

「えぇそうよ。『一瞬と呼ばれる時間に七度殺す』ことのできる斬撃なんてデタラメすぎよ」

「あのな琴里。あれはさ、斬撃じゃないんだ」

「え……?」

 

 

ぽかん、と琴里の表情が固まる。

 

 

「あれはな、一瞬で抜刀・納刀して、その間に七つもの斬撃を繰り出す神速の居合……と見せかけて、実は刀を鞘内で僅かにずらす動作の影で操る七本の鋼糸で目標を切り裂くという、相手の意表をついて攻撃する技だ。まぁ今回は弦でやったから狂三はバラバラにならなかったんだけどな」

「な、何よそれ……斬撃じゃなかっとしてもデタラメじゃない」

「まぁな。それで? あとは何が知りたい?」

「そうねぇ……刃のことをお兄ちゃんって呼んだ小娘のことかしらねぇ」

 

 

琴里の眼にハイライトがなくなった。

 

 

「お、おぅ。おいで……ペスト」

 

 

漆黒の魔法陣が展開される。

そしてそこからぺスとが現れて、そのまま俺に抱き着いてきた。

 

 

「お兄ちゃん、今度はどうしたの?」

 

 

この一言で琴里の顔が引きつる。

でも、紹介しないとな。

 

 

「琴里、軽くなら屋上で説明したがこいつはペスト。俺の一番最初の妹だ。そして『神使』」

「へぇ……また『神使』ねぇ……」

「あぁ。こいつは『箱庭』で出会ったんだ。屋上で説明したように、14世紀以降に大流行した黒死病の8000万人の死者の霊群の代表。死の恩恵を黒い風に乗せて与える神霊であり、その力は『命あるものを殺す』という点において強大だ。そして―――もともとは人間だ」

「何ですって!?」

 

 

ペストは確か、元は人間で黒死病にかかったことで、地下に閉じ込められて死んだ。

 

 

「そうだよ。元は人間だった。黒死病にかかちゃってね……地下に閉じ込められて、そのまま死んじゃったんだよ」

「……そう。神霊ってことは精霊ではないのね」

「まぁ似たようなものじゃないか?」

「うん、精霊って認識でも間違いではないよ」

 

 

とりあえず、ペストについての説明はこれで終わりだな。

 

 

「それで、これからおまえにもどっちまった精霊の力はどうするんだ?」

「まぁ、再封印をするしかないでしょうね」

「再封印……まさか―――」

「簡単な話よ」

 

 

琴里はそう言うと、口からチュッパチャプスを抜き、ビッと俺に突き付けてきた。

 

 

「―――私をデレさせてちょうだい」

 

 

やっぱりか……

 

 

「わかったよ。おまえをデレさせて、再封印してやる」

 

 

そう思い、決意を固めた時だった。

けたたましい音が響いた。

どうやら琴里が、手にしていたカップをその場に落としたらしい。

陶製の白い器が割れ、中程まで残っていたミルクティーが床に弾ける。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

俺がそう言うと、琴里は目を伏せ大きく息を吸いながら、首を横に振ってきた。

 

 

「……大丈夫よ。気にしないで」

 

 

とても大丈夫には見えない。

おそらく、精霊の力に精神を侵されているのだろう。

それに抗っているのだろう。

今はそっとしておいた方がいいか。

 

 

「わかった。じゃあな……頑張れよ、琴里。すぐに助けてやるから」

「う、うん」

 

 

最後は小声で、呟くように琴里だけに届くように言った。

琴里は頬を少し赤く染めながら返してくれた。

 

俺は入ってきた扉から部屋を出る。

そして、近くにいた令音に話しかける。

 

 

「あとどれくらいだ?」

「……二日後だ」

「ん?」

「……二日後。六月二十二日。君には琴里とデートをしてもらう」

「わかった。それがリミットなんだろう?」

「……そうだ。恐らくあと二日しか、琴里は自身の霊力に耐えられない」

 

 

霊力が強すぎるのも考え物か。

 

 

「そうか……」

「……段々と、発作の間隔が短くなっている。今は精神安定剤と鎮静剤で抑えている状態だが……多分、あと二日が限界だろう。その日を過ぎれば、琴里はもう、君の知っている琴里ではなくなってしまう可能性がある」

 

 

予想はしていた。

だが、ここまでとは……

〈灼爛殲鬼〉は余程貪欲なんだろう。

だが、

 

 

「なぜ今すぐにやらない?」

 

 

そこまで危険なら今すぐにやった方がいいはずだ。

令音は何やら考え込むようにあごに手をあてたのち、あきらめたようにため息を吐いた。

 

 

「……本当はそのほうがいいのだろうけれどね、それはできないんだ。言っただろう?今は薬で症状を抑えていると。状態が安定するまで待たなければならない。二つの条件が唯一合致するのがその日なのさ。明後日を逃せば、もうチャンスはない」

「そうか……」

 

 

〈灼爛殲鬼〉よ、面倒なことをしてくれたな。

 

 

「わかった。令音、今は琴里のことはまかせた」

「……まかされよう」

 

 

俺は五河家に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――五河家。

 

 

シャワーを浴びて、自分の部屋に入る。

ベットにダイブして、これからのことについて考える。

もし、明後日のうちに再封印ができなかったら、最悪『神使』にして無理やり封印しよう。

 

しかし、琴里をデレさせるねぇ……

どうしようか?

 




精霊の霊力はキスでしか封印できません。
『神使』にすれば別です。
でも、『神使』にするときにキスしますよね……
好感度の問題でしょうね。
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