無事に資料館に着いた。
無事と言えるかはわからないが……
だが、一つ問題ができた。
「どうだ刃。夕弦などより我の方が魅力的であろ?我を選んだならば、我の身体の好きな場所に契約の口づけをさせてやるぞ?」
「誘惑。夕弦を選んでください。いいことをしてあげます。もうすんごいです。耶倶矢なんて目じゃありません」
左右それぞれに、夕弦と耶倶矢が来禅高校の制服を着て、俺の身体に触れながら誘惑してくるんです。
あの後、魅力に関しての勝敗が決まってない、と言いだして、俺がその判断材料になったわけだ。
そう決めたあとも、ぐちぐち揉めていたが、俺と十香は晴れ渡った空をみて和んでいた。
そして、今一番キツイのが、クラスメートからの視線だ。
「い、五河くん?その左右の女の子たちはどちら様?見たことないけど……」
「え?現地の子ナンパしてコスプレイ?五河くん女子の制服持ち歩いてんの?」
「いいバイト考え付いたぞ五河。『一分一〇〇〇円で殴り放題』って看板掲げて学校中を練り歩くんだ。きっとすぐに家が建つ」
最初の一人はいいだろう。
二人目からぶん殴ってやろうか。
霊装のままではまずいから、俺が女子用の制服を創造して、それを着させただけだ。
何?サイズ?
俺をなめるな。
そのくらいは余裕だ。
「はぁ……うるさいぞ、おまえら。この二人は転入生だ。ほら、令音が説明してくれるぞ」
そう言いながら令音を指さす。
クラスメートが指の先に目をやる。
「……あぁ、待っていたよ。転入生の八舞耶倶矢に八舞夕弦……だね」
ゆらゆらと頭をゆらしているが大丈夫なのか?
「……本来なら休み明けに転入してくるはずだったのだが……是非修学旅行に参加したいというものでね、現地で合流する手はずになっていたんだ。先ほど空港に到着したと連絡があったので、彼らに迎えに行ってもらっていたのさ」
そんな令音の言葉に、その隣に立っていたタマちゃんがキョトンと目を丸くした。
「え?て、転入生?村雨先生、私そんなの聞いていないんですけど……」
「……急な話でしたから、きっと連絡が間にあわなかったのでしょう」
「は、はぁ……」
それでいいのかタマちゃんよ……
簡単に納得しすぎでしょ。
「……転入生の二人とヤイバは少し話があるから来たまえ」
「わかった。行くぞ二人とも……つか、あまりくっつくな、歩きにくい」
さっきからべたべたくっついてきたうっとおしい。
そういうのはもう十分経験したからいいんだ。
いいんだよ……
☆☆☆
令音に案内されて資料館奥の事務室に来た。
ソファがあるので座る。
その座る動作をするときも夕弦と耶倶矢がくっついている。
そして、俺に囁き始めた
「さぁ刃。貴様はただ、我を選べばよい。この八舞耶倶矢に忠誠を誓い、その身、ここまで捧げると言えばそれでよいのだ」
「否定。耶倶矢を選んでも何も良いことはありません。是非夕弦に清き一票を」
どうやら令音なんて眼中にないようだ。
二人とも俺の耳元に息を吹きかける。
「……厄介なことになったようだね」
「まったくだ……」
本当に厄介だ。
「くく……むしろ役得であろう?貴様如きの人間が、僅かな間とはいえこの我の寵愛を受けられるのだ。幸福に噎び泣きこそすれ、嘆く必要などあるまい」
「懐疑。夕弦ならまだしも、耶倶矢に言い寄られて喜ぶ男性がいるのでしょうか」
「ふ、ふん……いくら斯様な挑発をしようと無駄だぞ。全ては決闘の決着を見れば明らかになる。さぁ刃よ、言うがよい。私と夕弦、どちらが女として魅力的だ?」
「質問。夕弦とへなちょこ耶倶矢。どちらが可愛いですか」
二人のボディタッチが激しくなる。
夕弦なんて胸を押し当ててくる。
役得役得ぅ!!
「待て、なんだその微妙に貶した感じは!!」
「無視。べちょ耶倶矢より夕弦の方が」
「何悪化させてんの!?」
言い合いながら、迫ってくる。
「一ついいか?さっきから決闘と言っているが……なんで戦っているんだ?」
俺が問うと、耶倶矢が大仰にあごを上にやった。
「言っていなかったか。―――我らは、もともと八舞という一人の精霊だったのだ」
「首肯。ですが、幾度かの現界のときか、八舞は二つに分かれてしまったのです」
「へぇ……」
納得。
双子みたいにそっくりだしな。
言っちゃ悪いが、クローンと言われても……いや、胸のサイズが違うからないな。
でも分裂か……
融合じゃないんだな。
「なんでそんなことになったんだ?」
「それを知るのは天に座する運命の女神よ。ふん、性悪な彼の女神は随分と退屈と倦怠に苛まれているようだ。時折、道理も条理も通らぬデタラメな賽の目を好むことがある」
「何言ってんだこいつ」
「要約。よくわからない、と耶倶矢は言っています」
「なるほど」
「情緒がないぞ」
夕弦の説明のが簡潔で分かりやすくていい。
「そして二つに分かれた我らは、互いの顔を見るなり、その身に、血に刻まれた運命と氏名に気づいたのだ。そう―――真なる精霊・八舞は、この世に一人の実であると!!」
「説明。二つに分かれた夕弦たちですが、やがて一つに戻ることがわかったのです」
「わかったとは?」
「捕捉。『知っていた』という方が正しいでしょうか。夕弦たちは、存在が分かれた瞬間から、自分たちの身体がどうなるかを理解していたの出す」
夕弦が頭を指してから、続ける。
「解説。しかしもう、本来の八舞の人格は失われてしまっています。つまりその際、八舞の主人格となれるのはどちらか片方のみなのです」
「あぁ、なるほど。それで決闘ね」
納得がいった。
でもなぜ二人で生きていこうとは考えないのかが不思議だ。
使命を破り、生きていこうとは思わなかったのか?
「はぁ……わかった。善処しよう」
それだけ言って、令音の方に視線を向ける。
だが、令音はこちらに気づいていないようだ。
椅子に腰かけ小型端末をいじっている。
表情は難しげだ。
「……やはり、駄目か」
「どうした?」
俺が訊くと、令音は小さくうなずいてから顔を向けてきた。
「……あぁ、〈フラクシナス〉との通信が途絶えているんだ」
「ジャミングだ。引率カメラマンのエレンだったけか?あいつはDEMのところの奴だ」
「……何だって?」
「カメラマンのエレンはDEMの社員。しかも世界最強の魔術師だ。CR-ユニットは〈ペンドラゴン〉だったけかな?」
「……そうか。何故知っている、という疑問は置いておこう。通信は望めないね」
「あぁ……すべて盗聴されている可能性がある」
やっかいだ。
DEMはやっかいすぎ。
令音は携帯端末を閉じ、椅子から立ち上がる。
そして、俺に迫る耶倶矢と夕弦をジッ見つめて、静かに唇を動かした。
「……耶倶矢と夕弦、と言ったね。君たちは、己が真の精霊・八舞となるため、ヤイバを取り合って勝負をしている、……間違いないね?」
令音がそう言うと、耶倶矢と夕弦が目を令音に向けた。
「あぁ、その通りだ。見物は構わぬが、邪魔立てをしようというのなら容赦はせぬぞ?」
「質問。あなたは?」
「……学校の先生さ」
誤魔化したな、令音め。
そして、くるりと踵を返した。
「……刃、君は適当に暇をつぶしていたまえ。―――耶倶矢、夕弦。君たちに少し話がある。ついてきてくれ」
「くく……何を言うかと思えば。何故この我が、人間風情の言葉に従わなければならぬのだ」
「拒否。夕弦は刃と一緒にいます」
二人とも頑固だな……
しかし、令音はそれも予想の内というように肩をすくめると、思わせぶりに言った。
「……ヤイバは見かけより難物だ。話を聞いておいては損はないと思うけれどね」
「何……?」
「……彼の反応を見れば一目瞭然だろう?私の目から見ても、君たちは非常に可愛らしく、魅力的な少女だ。だというのに彼は、未だどちらも選ぼうとしない」
「「……………」」
耶倶矢と夕弦が、目を丸くして顔を見合わせる。
なびかないのは俺が結婚していて、その嫁がレティシアという最高の女性だからだ。
「……どうするかね?私としては、どちらか片方でも構わないのだが」
言って、事務室の扉を開けて出て行った。
耶倶矢と夕弦は再び顔を見合わせると、名残惜しそうに俺から手を離して、令音の後について行った。
結局いくのか……
☆☆☆
現在の時刻は十八時五十分。
日も落ち、日中の蒸し暑さは少しは改善された。
昼間の騒がしさもなくなった。
旅館に移動した後は、部屋に荷物を運びこんで、夕食を済ませて自由時間を満喫していた。
俺以外は。
「はぁ……面倒すぎる」
俺が今向かっているのは令音の部屋だ。
今後の方針を話し合うらしい。
資料館を出るときに言われた。
だが、T字路に差し掛かったところで足を止める。
左右に分かれた通路の両側から頭がちょこんと飛び出、俺にジーッと視線を送ってきたのである。
「何してんだ?耶倶矢、夕弦」
俺が言うと、二人が通路の奥から歩み出てきた。
「くく……我が気配に気づくとはやりおるわ。流石と言っておこうか」
「指摘。隠れ方がお粗末だっただけでは」
「どっちもお粗末すぎだ」
「「……………」」
二人とも黙ってしまった。
本当のことを言っただけなのに。
「それで?何してんだ」
俺が問うと、二人は一瞬目を合わせてから視線を俺に戻してきた。
「ふ……教えてやろう。来るがいい」
「確保。どうぞこちらへ」
全く同時にそれぞれ俺の両腕を引っ張ってくる。
ほどなくして、とある場所にたどり着いた。
二つの隣あった入口に青と赤の暖簾がかけられている。
それぞれに多いな字で『男』『女』と書かれている。
この旅館の名物の露天風呂の入口だ。
「……まさか」
耶倶矢が大仰にうなずいてきた。
どうやら俺の呟きが聞こえたようだ。
「くく……貴様の身体は常闇の穢れを蓄積し過ぎた。その身を上かすることを許す」
「……まて」
「通訳。お風呂に入って汗を流してください、と言っています」
「入浴時間はまだ先のはずだ。それに俺は令音に呼ばれているのだが」
そう言って、踵を返そうとするが、両腕をさらにがっしと掴まれた。
「何だよ……」
「貴様に選択権があると思うてか?四の五言わずにその穢れを祓うがよい」
「請願。お願いします。入浴の準備はこちらで整えておきました」
い、いつの間に……
浴衣まで!?
「じゃあ入るかな」
「くく……解ればよいのだ」
「賞賛。刃の決断に敬意を表します」
確実に入ってくるな、この二人。
だがまぁ、汗を流したかったしよしとしよう。
☆☆☆
「なかなかだな……」
岩で形作られた巨大な浴槽に、微かに褐色がかった湯が満たされ、濃密な湯気を立ち上がらせている。
そして、浴槽のすぐ先には海が広がり、静かな細波の音を響かせていた。
俺以外は誰もいないから静かに入れていいな。
さっさと頭を身体を洗い、湯船につかる。
「あ゛ぁぁぁ……」
最高だ……
やはり温泉は最高だ。
特に露天風呂はな。
思い出すな……イッセーが覗こうとして塀を壊した瞬間にミツキが狐火で燃やしてたな……
あぁ、ミツキに会いたい。
なにより、レティシアに会いたい……
そんなことを考えているときだった。
ガラリと音が鳴る。
浴場の引き戸が開けられた音だ。
視線をそちらに向ける。
「やはり来たか……」
そこには耶倶矢と夕弦が、身体にバスタオル一枚を巻きつけた状態で立っていた。
「ここ……男湯だぞ?」
そんなの関係ないとばかりに、二人はそのまま湯船に足を浸し、俺の隣まで歩いてきた。
薄いバスタオルが湯気で肌に張り付き、二人の死体のシルエットがくっきりと浮かび上がっている。
なんか全裸よりエロい?
俺がじーっと見つめているのがわかったらしく、耶倶矢が頬を初めながら腕組みをした。
「く、くくく……ど、どうだ。流石の貴様も我が色香の前にひれ伏さざるを得まい」
その言葉に、対面するような格好で立っていた夕弦がフスー、と息を漏らした。
「嘲笑。色香(笑)。耶倶矢にそんなものがそなわっていたとは初耳です」
「……ふん、すぐに吠え面をかかせてくれるわ。そこな刃我が魅力の虜にしてな!!」
「応戦。望むところです」
そう言って、二人はそのままゆっくりと足を折り、俺を挟むように湯船に入っていた。
「おい、バスタオルをはずせ。マナー違反だ」
「ふぇ!?は、外すの……?は、恥ずかしい」
「羞恥。恥ずかしいです」
あれだけべたべたしておいて何をいまさら……
「それが嫌なら入るな。今まで俺と一緒に入った女は誰一人、バスタオルなんてつけていなかったぞ」
「「……………」」
すると、二人とも顔を見合わせて、一度うなづくとバスタオルをとって、湯船に入った。
「くく……覚悟するがいいぞ刃。もう我無しでは満足できぬ身体にしてくれよう」
「否定。刃には夕弦の肉体のとりこになってもらいます」
「な、何を……!!」
二人とも顔を真っ赤にしながら言ってもな……
それに……
何もしてこないし。
てか、羞恥心で動けないんじゃないか?
すこしイタズラしてやるか……
二人の肩を抱き寄せる。
「「な―――」」
それだけで二人ともクラクラし始めた。
初心すぎだろ!!
そして、
「「きゅぅ……」」
「えぇ……」
そのまま二人は気絶してしまった。
二人を抱き上げて、出て行こうとした時だった。
「とりゃー!!」
元気のいい声と共に、新たな入浴客が湯船に飛び込んできた。
この声は……十香だな。
「ん?」
あ、十香が俺にきづいた。
「な、なんでここにいるのだ!?」
「いや、ここ男湯じゃない?」
「何を言っている!!ちゃんとみんなに教わったとおり、赤いほうに入ってきたぞ!!」
「……はぁ」
さっさと出なければ……
だが……
「やー、広いじゃなーい!!海すぐそこじゃーん!!」
……まずい!!
「クソッたれ!!じゃあな、十香!!」
「あ、ヤイバ―――」
俺は、二人ごと令音の気を辿って瞬間移動した。