「……この場合はどういう反応をしたらいいのかね」
令音の部屋に瞬間移動した俺はちょっとした危機に陥っていた。
当然、令音の気を辿って瞬間移動をしたわけだ。
もちろん、自室にいてくれたおかげで騒ぎにはならなかった。
だが、瞬間移動した際、俺は何も身に纏っていなかったのだ。
だから俺は真っ裸だ。
もちろん、例のアレももろに出ちゃっている訳です。
「すまん、今着る」
浴衣を創造して着る。
もちろん、パンツもはきましたよ。
これで、一安心。
着替えをしている間に令音はお茶を入れていてくれた。
そのお茶をすすって一言。
「突然すまなかった。助かったぜ……」
「……いや。災難だったようだね」
そう言って、令音が小さく肩をすくめた。
それにしても眼福だ。
令音は備え付けの浴衣を着ている。
帯の締め方がぞんざいなのだろう、動くたびに胸元がちらちらを覗いている。
「〈フラクシナス〉との通信は回復したのか?」
「……いや、駄目だ」
「そうか……」
ということは、上空にDEMの奴らがいると考えていいな。
しかもステレスを効かせたまま。
「耶倶矢と夕弦は?」
令音が小さく首肯して、テーブルの上に置かれた小型のノートパソコンを操作し始める。
画面に、望遠で撮影された、風の中に踊る二つの人影の姿と、細かな数値や文字列が表示される。
「……実は、彼女らは我々の間ではちょっとした有名人でね。風の中で二人組の精霊を見たと聞いた瞬間から、なんとなく目星はついていたんだ」
「なるほどね。あぁ、彼女たちについても説明はいいや」
「……どうしてだい?」
「ん、なんとなくね」
なんとなく、聞いても無駄だと思った。
なんとなく。
なんとなくだけど。
「今回の封印は難しそうだな。たぶん一人一人別々にキスしても封印できないだろうからな。二人同時にキスするなんて経験は今まで一度も―――なくなかったな……」
「……ヤイバ、君は一体何を経験したんだい?」
「……それについてはノーコメントで」
テスタロッサ姉妹は凄まじかった。
初めてだったよ……
二人同時にキスされたのは。
「……今日の昼間、話をした際に、彼女らと一つ取り決めを交わしたのだ。修学旅行最終日―――つまり明後日の朝までに、君に必ずどちらかが魅力的かを選択させると」
「明後日か……」
「……あぁ。二日後に必ず成果を得られるとあれば、彼女らもそう簡単に意趣で返したりはしないだろう?少なくとも、一日の猶予を稼ぐことができる。我々にとっては何より貴重な―――デートの時間を」
「つまり明日一日で、耶倶矢と夕弦をデレさせろと
「……いや、少し違う」
何が違うのだろうか?
デレさせないと封印ができないのに。
「……今回、私は、君をデレさせる」
「……………はぁ?」
「……だから君は、その上で二人をデレさせてくれ」
何を言っているのだこいつは。
なぜ俺をデレさせる必要があるのだ。
まったくもって意味が解らない。
思考を巡らせていると、令音が静かに続けた。
「……私は耶倶矢と夕弦にインカムを渡し、ヤイバ、君を攻略する手助けを行うつもりです。君は私が指示した彼女らの行動に対し、色好い反応を示してくれればいい。―――私のサポートが信頼できるものである、と、彼女らに思わせるようにね」
「あぁ……なるほど」
それで、ふたり同時にキスさせると。
苦肉の策すぎるだろ。
無理やりにもほどがあるが……
「やってみようか」
「……すまない。助かるよ」
令音がふっと視線を俺から外し、軽く頭を下げた。
それにしても、
「眠ぃ……」
「……ならここで寝ていくかい?」
「そりゃいい。男共と同じ部屋にいたら質問されまくって眠れそうにないからな」
ここはお言葉に甘えよう。
そそくさと押入れから布団を出して、セッティング。
そしてすぐに布団に入り、横になる。
が、すぐに寝れるわけもない。
気になることが一つ。
令音がいない。
先ほどまでこの部屋にいたのだが……
俺が布団を出してるときにどこかに行ったのだろう。
それから何分経っただろうか?
なかなか眠れずに、何度も寝返りをうっていると、部屋の外に気配が二つ。
二つ?
しかも、かなり似ている。
あぁ、なるほど。
八舞姉妹ですか。
だから令音は出て行ったのか。
「くく……邪魔するぞ」
「失礼。上がらせていただきます」
扉を開けたと思ったら、すぐにそう言ってきた。
二人はスリッパを脱ぎ、部屋に上がってくると、俺を挟むように左右に正座した。
そして、ジッと俺の顔を見下ろしてきた。
「……どうした?」
俺が言うと、耶倶矢と夕弦はふっと顔を上げて視線を交わらせた。
「くく……夕弦よ。先に言っておくが、我を今までの八舞耶倶矢と思うていては怪我をするぞ。我は優秀なる眷属を得、新たなる我へと生まれ変わったのだ」
「溜息。また耶倶矢のハッタリが始まりました」
耶倶矢の言葉に、夕弦がやれやれと肩をすくめた。
あからさまな挑発だな。
でもそれに耶倶矢は乗らなかった。
口元を歪めて不敵な笑みを漏らすのみだった。
夕弦も、そんな耶倶矢の余裕を感じ取ったらしい。
微かに目を細めた。
「驚嘆。どうやらあながち嘘でもないようですね。―――ですが、それは夕弦も同じです。夕弦は素晴らしい師を得ました。今の夕弦に敵はありません」
「ほぅ……?面白い。では尋常に勝負!!」
そう言って、耶倶矢は再び俺に視線を落としてきた。
そして、軽く頬を染めてから、意を決するように頬を張り、そのままいそいそと俺の入っている布団に入りこもうとした。
「……何がしたいんだ?」
「くく……我が添い寝してやる。喜べ」
案外まともだった。
まともすぎて反応ができない。
「そして刃、御主聞くよるとこによると、おなごと同衾するのが大好き出そうではないか」
「なんだそれ……」
何処情報だよ……
「違うのか?我が眷属は、ある朝起きたら御主がいつの間にか布団にいたと……」
「……あぁなるほど」
眷属とは十香のことか。
そして十香に聞いたと。
「だから?」
「わ、私じゃ……駄目?」
おいおい……
涙目で上目遣いはずるいだろ……
「Welcome」
「くく……ごくろう」
無駄にいい発音で言っちまった。
しかし、忘れていたことがあった。
ここには耶倶矢意外にももう一人いたのだ。
夕弦が、ゆったりとっした動作で一歩近づいてきた。
そして、バサッと布団を剥ぎ取ってくる。
「何をするんだ夕弦」
「っ!!そうだぞ貴様、我の添い寝の邪魔をするとは卑怯なり!!」
やっと眠れると思ったのに……
夕弦はそしてさして気にも留めていない様子で、ひくひくと小さく鼻を動かしてきた。
「確認。発汗が見られます」
「そりゃあ、暑いしな」
耶倶矢が布団に入ったからな。
そのせいでさらに暑くなった。
「指摘。汗は放っておくと気化熱で体温を奪います。すぐに拭わねばなりません」
「そうかもしれないな」
でもまだいいだろう。
そう考えているときだった。
夕弦が突然俺の浴衣の合わせを掴んで、ガバッと胸元をはだけさせた。
タオルかなにかで拭くのだろう。
そう思っていた。
だが、外れた。
夕弦は俺に覆いかぶさり、舌をのばして俺の胸元をぺろぺろと舐めてきた。
舐めてきたね。
え……?
柔らくて温かいな……
だがしかし、止めなければ。
俺の理性が壊れる前に。
「やめなさい」
「な、なななななにしてんのよ夕弦ぅぅッ!!」
俺に合わせて耶倶矢が叫び、夕弦の頭をがっしと掴んで俺から引き剝がす。
すると夕弦はぺろりと唇を舐めてから、不思議そうな顔を作った。
「疑問。なぜ止めるのですか?」
「なッ、なぜってあんた、一体何してんのよ!?」
「汗をぬぐうにはこの方法が一番と、師に教わりました」
なぜだろう。
たった一人だけ該当しそうな人物が脳裏に浮かんだ。
とりあえず、浴衣を直して奪われた布団を被りなおす。
だが、そのまま眠ることを許す二人ではなかった。
それを待っていましたとばかりに、耶倶矢が四つん這いになりながら、布団をまくり上げてきた。
「くく……どうやら刃は我の添い寝の方がいいようだな」
「否定。添い寝テクでも夕弦は耶倶矢を凌駕します」
もう、いい加減寝させてほしい。
「もういい加減寝させてくれ……眠くて堪らない」
この一言でまた二人が言い争う。
もう放っておこう。
そう思い、俺は瞼を閉じた。