デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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第4話~決意~

日が明けて、修学旅行二日目。

俺は、或美島北端に位置する赤流海岸にきている。

ここには、観光客らしき人影は一人も見当たらない。

それもそうか。

これから耶倶矢と夕弦をホレさせなければならないのだ。

クラスメートが邪魔になる可能性にある。

だから令音が昨日のうちに手配したとかなんとか。

 

それにしても暑い。

マジで暑い。

 

こんな中遊ぶなんて……

若いっていいねぇ。

 

 

「くく……こんなところに隠れていたか」

「発見。見つけました、刃」

 

 

この特徴的な語調。

もうわかりきっているが、確認のために声のしてきた方に振り向く。

 

やはりそこには耶倶矢と夕弦が立っていた。

耶倶矢は白のレースに飾られた黒のビキニだ。

夕弦は逆に、白地に黒いレースのついたビキニだった。

 

似合ってる。

 

これが俺の素直な感想だ。

うん、いいねぇ……

 

 

「二人とも似合ってるぞ。綺麗だし、可愛いぞ」

 

 

二人の水着を褒めると、耶倶矢が驚いたように顔を赤くして目を見開き、夕弦がキョトンとして自分の装いを見下ろしている。

だがすぐにハッとした様子で、耶倶矢が腕組みをする。

 

 

「く、くくく……そ、そうであろうそうであろう。だが勘違いするなよ。この程度の衣服では、我の魅力の前に霞んでしまうわ」

「謝辞。ありがとうございます。とてもうれしいです」

 

 

耶倶矢も夕弦みたいい素直になってくれればいいのに。

ふと、ふたりの挙動に不審な点を見つけた。

 

耳に手を当てている。

よく見ると、二人の耳にはインカムがあった。

 

 

「くく……なるほど、承知した」

「了承。理解しました」

 

 

二人ともインカムに気を取られすぎだろ。

俺じゃなかったらここで話しかけてるぞ。

 

しばらくして、耶倶矢と夕弦がインカムから手を離し、俺に向き直った。

 

 

「刃よ。常闇に身を置く我が身には、この天よりの光(ゾンネンシャイン)は少々堪える。我が身に、聖光を阻む瘴気の加護を施すことを許すぞ」

「何言ってるかまったくわからん」

「請願。日焼け止めというのを塗ってください」

「なるほど」

 

 

耶倶矢はもう少し簡単に話貰いたい。

普通のしゃべり方の方が好きなんだけどな。

 

 

「ふ……では頼んだぞ。我の背中は貴様に任せる」

 

 

耶倶矢よ、それは戦場での言葉ではないのか?

そんなことを言いながら日焼け止めを渡してきた。

次いで、夕弦も同じように言ってくる。

 

 

「依頼。お願いします」

 

 

二人はキッと視線を交らせると、パラソルの陰にうつ伏せに寝そべった。

そしてトップスのホックを外し、その白い背中を見せてきた。

 

 

「くく……それで刃、訊くまでもないことかもしれぬが、無論我から先に塗るのだろう?」

「質問。刃はどちらから日焼け止めを施すのですか?」

「むぅん……」

 

 

これは……

どうすればいい?

どちらから先に塗ればいい?

 

そんなことを考えていると、二人が何やらもみ合っていた。

寝そべったまま視線を交わらせたと思ったら、不意に耶倶矢が夕弦に組み付き、身体をゴロンとひっくり返す要領で夕弦の上に乗った。

そして両手両足で夕弦の身体が動かないように抑え込みながら、声を上げてきた。

 

 

「刃、今だ。我に瘴気の加護を!!」

「油断。く……」

 

 

耶倶矢が勝ち誇ったように唇の端を上げる。

夕弦は苦悶の声を漏らした。

 

水着のトップスを外した状態でそんな体勢になっているものだから、ねぇ?

耶倶矢と夕弦の胸が互いの身体にぎゅうと押しつぶされて、もうたまりません。

 

 

「早くせんか!!」

「お、おう」

 

 

俺はその場に膝を突き、手にローションを適量取ってから、耶倶矢の背中に触れた。

瞬間だった。

 

 

「っ、ふぁ……っ」

 

 

今までにない甘い声を出しながら、耶倶矢が全身をビクッと震わせた。

 

 

「あ、悪い。温めるの忘れてた」

「だ、大丈夫だ。早く……しろ……」

「はいはい」

 

 

だが俺が手を動かすたびに、「あ……っ」とか「んん……っ」だのと、やたと官能的な声を響かせるのは控えてもらいたかった。

理性がね。

 

耶倶矢に抑えつけられていた夕弦も、耶倶矢のそんな反応を見て「おぉ……」と感嘆のようなものを発していた。

だが、夕弦はすぐにハッとした様子で眉を動かすと、耶倶矢の一瞬の隙を突いて、ぐるりと体を回転させる。

 

 

「反撃。隙ありです」

「ぐ……っ」

 

 

そして今度は夕弦が仰向けの耶倶矢を押さえつけるような格好になった。

そのまま俺に目を向けてきた。

マウントポジションを取られてしまった耶倶矢は、夕弦に抵抗する余裕もないようだ。

はぁはぁと息を荒くしていた。

 

 

「請願。刃、早く。夕弦にも……ください」

「……はいよ」

 

 

どうしてもアッチの方にしか聞こえない。

だってさ、妙に扇情的なポーズしてからのあの台詞だぜ?

もうねぇ?

何も言えねぇ。

そして、意を決して夕弦の背にローションを塗る。

 

 

「痙、攣。う……ぁ、っ」

 

 

夕弦が小刻みに洟から息を吐きながら、押し殺したような声を発してきた。

背筋に添うように手を動かす。

すると、遂に耐え切れなくなったのか、身体をビクンと跳ねさせた。

 

 

「大丈夫か?」

「驚……嘆、とても、上手です……刃」

「ず、ずるい!!次は私!!」

 

 

ようやく呼吸を整えたらしい耶倶矢が身体を起こし、位置を逆転させた。

仕方ないので、今度は耶倶矢に塗る。

だが、またも嬌声を上げて身を震えさせ始めた。

 

 

「反、撃……そうはさせません」

 

 

今度は夕弦が体を捻り、耶倶矢の背中をレジャーシートにつける。

過剰に塗りつけられたローションがシートに流れる。

 

 

「このっ、何をする……」

 

 

だが耶倶矢も今度はやられっぱなしではなかった。

すぐさま夕弦の手を取り、マウントポジションを取り返す。

何回かそんなことを続けていたが、ローションで滑ったのだろうか、二人はそれぞれがシートに腹這いになって睨み合うような格好になった。

 

いいこと思いついたぜ。

 

ローションを両手につけて、並んでうつ伏せになった二人の背を同時に指を這わせる。

 

 

「「―――ぅ、あ、あぁぁぁっ!!」」

 

 

二人は同時に大声を上げて、ぐったりとその場に手足を投げ出し、肩で息をし始めた。

 

 

「ははは、大丈夫か?」

 

 

俺が二人に問うと、二人は虚ろな目を合わせた。

 

 

「……無自覚で、これとか……」

「戦慄……神の指です……とんだ狼です」

 

 

わざとだけどな。

 

そこでまあ令音から通信が入ったらしい。

二人同時にインカムを押さえると、呼吸を整えてから小さくうなずき始めた。

 

 

「ふ、ふむ、次は……ウイカ割り……刃に目隠しをさせて……?」

「確……認。ぐるぐる回してふらふらにしたのち、進行方向上に待機して……?」

 

 

目隠しは全く意味をなさないぞ。

空間把握能力にたけた俺は、視界を潰されても動き回れるようになったからな。

 

何だ?

耶倶矢と夕弦とは別なんだが、この聞き覚えのある声は……

 

 

「―――ヤイバ!!」

「十香?」

 

 

やはり十香だった。

凄まじい波しぶきを立てながら、十香が起きから泳いできていた。

フォームは滅茶苦茶なんだが、恐ろしく速い。

しかもその後ろには折紙もいる。

折紙は美しいクロールだった。

 

十香と折紙は海岸に到着すると、小走りになって俺たちの方にやってきた。

ちなみに、十香の装いは先月俺が買ったやつだ。

折紙のは知らない。

そのまえになぜ折紙がここにいるのかもわからない。

 

 

「ヤイバ、こんなところにいたか!!探したぞ!!」

「刃。なぜあなたと八舞姉妹が一緒にいるの?」

 

 

十香が元気よく、折紙が訝しげに言ってきた。

 

 

「あぁ、水面を走っていたらちょうどいいところに島があってな」

 

 

するとそこで、どうにか呼吸を整え、水着のトップスを付け直した耶倶矢と夕弦が声を発してくる。

 

 

「ほう?十香ではないか。くく……主の元に参じるとは愛い奴よ。褒めて遣わす」

「驚嘆。マスター折紙、なぜこんなところに」

 

 

まぁこのマッチングは不思議ではなかった。

なんとなくわかってたから驚かないけど。

呼び方については何も聞かないことにしよう。

 

 

「おぉ、耶倶矢もいたのか。何をしていたのだ?」

「くく……今から、闇と深緑に染まりし外殻を打ち砕き、紅き血と臓物を吐き出させる悪魔の遊戯を執り行おうとしていたところよ」

「な、なんだそれは。恐ろしそうだぞ」

「解説。耶倶矢はスイカ割りをしようと―――」

「……ちょっと待ってくれるかな」

 

 

と、夕弦の言葉の途中で、背後から眠たげな声が聞こえてきた。

声のする方を見ると、そこには水着の上にパーカーを羽織った令音がいた。

やはりフラフラしている。

 

 

「令音か……」

 

 

なぜここにいるのだろうか?

耶倶矢と夕弦にインカムで指示を出しているはずなんだが。

 

耶倶矢と夕弦も同じ疑問を抱いたのだろう、不思議そうに令音を見つめ、耳に着けたインカムに手を触れている。

 

 

「……悪いが、スイカを用意するのを忘れてしまってね。―――その代わり、せkっかう人数が増えたんだ。あちらにコートを設営してある。ビーチバレーでもどうかな?」

 

 

そう言って、浜辺の奥の方を指してくる。

耶倶矢と夕弦は最初は怪訝そうだったが、すぐに方針変更を読み取ったらしい。

 

何時の間にコートを……

 

 

「ふん、まぁ良かろう。何しようと我が頂点に立つことは決まっているからな」

「承諾。構いません。どうせ勝つのは夕弦です」

 

 

二人はそう言って目を合わせる。

そして別に何があるわけでもないのに、同時に走っていった。

 

 

「おぉ!!」

 

 

十香もそれに触発されたのか、駆け出して行ってしまった。

折紙は未だに納得のいっていないようだ。

だが、これ以上の説明がないことを察したのか、浜辺を歩きだした。

 

それを追うように、俺と令音も歩き出した。

 

 

「なんで急に出てきたんだ令音」

「……あぁ。十香と折紙が現れるというイレギュラーが起こってしまったからね。プランBに移行させてもらったよ。〈ラタトクス〉の機関員を使えるなら何とかなったかもしないが……私一人ではさすがに限界がある」

「プランB?」

「……あぁ、一緒のチームでともに戦うことによって、彼女らと君との結果。仲間意識を高めようとという作戦だ」

「へぇ……」

 

 

大人しくあの二人がチームを組むとは思えない……

まぁそこは、令音が何かを考えているだろう。

 

そうこうしているうちに、俺たちは浜辺に設営されたビーチバレーコートにたどり着いた。

 

令音が身をかがめて、ポールに立て掛けられていた筒のようなものを手に取った。

 

 

「……さ、ではチーム分けをしよう。三人一組だ。くじを引いてくれたまえ」

「む?」

 

 

十香から順に筒の口を向けられて、中に入っていた棒を引いていく。

 

なるほど、これに令音が何か仕掛けをして俺と耶倶矢と夕弦を同じチームにするんだな。

 

 

「……さ、ヤイバもだ」

「おう」

 

 

残っているのは二本。

どちらを引いてもチーム分けには関係ないので適当に引く。

 

くじの先には普通であれば、数字なり、記号なりが描かれているのだろう。

だが、俺の引いた棒の先には、やたら劇画調で描かれた男の顔があった。

 

 

「……では、グレゴォル、ジャクソン、スペンサーを引いてひとはこちら、アレクサンドル、エイブラハム、アンソニーを引いた人は向こうのコートに行ってくれたまえ」

「令音、これはどちらなのだ?」

「これは?」

 

 

十香と折紙が困ったように令音にくじを見せていた。

 

 

「……あぁ、これはグレゴォルふぁね、こちらはスペンサーだ」

 

 

次いで耶倶矢と夕弦が、同じように令音にくじを見せた。

 

 

「……君たちはアレクサンドルとエイブラハムだね。向こうへ回ってくれ」

 

 

多分、すべて今つけたのだろう。

男の顔の違いがまったく俺には分らないのだから。

 

Aチーム:俺、耶倶矢、夕弦

Bチーム:十香、折紙、令音

 

見事に分かれたと。

だが、耶倶矢、夕弦、十香、折紙の六人中四人が不満というチーム編成だ。

もちろんその四人はチームの編成のし直しを申し出たが、令音の「勝ったチームにはヤイバの誰にもしあれたくない秘密を教えよう」という一言でおさえられた。

 

俺の誰にも知られたくない秘密。

 

特には―――あった。

結婚していることだ。

これが知られたら、琴里に何て言われるかわからない。

だがこの世界の人間が知っている訳がない。

 

 

「よし!!ではいくぞっ!!」

 

 

十香が元気良く声を上げ、向こうのコートの端からサーブを放った。

が、

 

 

「はぁ!?」

 

 

ボヒュッ!!という音とともにボールがネットを易々と突き破った。

そしてボールはそのまま弾丸のように俺の方に向かってきた。

 

このままだとボールに当たるので、右手を前に出してボールを掴みとる。

 

 

「令音!!今のは何点だ!?」

「……0点だ」

「むぅ、技術点は追加されないのか……」

「……恐らくだが、君は何か別の競技と勘違いをしている」

 

 

令音の言う通りだと思う。

 

そんな十香の一撃を見てか、耶倶矢が低い笑い声を上げた。

 

 

「くく……やるではないか。どうやら我も本気を―――」

「絶対に出すな」

 

 

こんな球ばかりやり取りしていたら、砂浜がボコボコになってしまう。

 

 

「ふん、つまらん。まぁいい、次は我々のサーブだな?」

 

 

そう言って、耶倶矢は俺が掴んでいるボールをに手を伸ばす。

俺は抵抗せずに渡す。

そして存外綺麗なフォームで、相手側のコートにボールを放った。

 

 

「おぉ、来たぞ!!」

「邪魔しないで」

 

 

十香の動きを声で制して、折紙がボールをレシーブした。

するとその後方に立っていた令音が、綺麗なトスを上げる。

そして令音の胸も上下に揺れる!!

 

 

「警告。危険です」

「あ―――」

 

 

すっかり令音の胸の動きに目を奪われてしまった。

 

夕弦に言われて、目線を上げる。

そこには、ネットを超える勢いでジャンプをした十香がいた。

 

 

「はぁッ!!」

 

 

結構な気合とともに、十香がボールを手の平に叩きつけた。

そこから放たれた弾丸のような一撃は俺の頭に向かって飛んできた。

今からでは綺麗に上がらないので、首を横に逸らして避ける。

 

 

「くッ、ボーっとしているな、刃!!」

「同意。邪魔です」

 

 

後方から耶倶矢夕弦の声が聞こえてきた。

どうやらボールを拾うために滑り込んできたらしい。

 

だが、二人同時に同じ位置に滑り込んだらどうなるか?

 

答えは簡単。

 

 

「くあっ!!な、何をしてるのだ夕弦!!」

「反論。こちらの台詞です。邪魔をしないでください」

 

 

この通り、ぶつかります。

もちろんボールはコート内でバウンドして、コロコロと砂の上を転がっていた。

 

痛そうだな。

 

 

「……よし十香、今のは一点だ」

「おぉ!!本当か!!」

 

 

向こうのコートは賑やかだな。

十香と令音はハイタッチをしていたが、折紙は無視していた。

だが、令音に無理やり参加させられていた。

 

耶倶矢と夕弦はそんなの関係ないとばかりに言い合いを続ける。

 

 

「今のはどう考えても我の領分ぞ。出過ぎた真似をするでない!!」

「反論。うすのろな耶倶矢では間に会わないかと思いました」

「な、あんだと貴様っ!!」

「応戦。なんですか」

 

 

二人が言い合っていると、向こうのコートでは令音が、十香と折紙に何やら耳打ちをしているようだった。

 

 

「―――ほぅ、そういうものなのか」

「……約束のもは必ずもらう」

 

 

なんて言いながら、十香と折紙がふんぞり返るように耶倶矢と夕弦を見下ろしている。

 

 

「ふっ、なんだ、耶倶矢と夕弦も大したことがないな!!」

「期待はずれ。この程度で私に挑もうだなんて身の程知らず」

「「……!!」」

 

 

こんな見え透いた挑発に、耶倶矢と夕弦は反応した。

 

そこで令音がまたもひそひそで十香と折紙に耳打ちする。

 

 

「耶倶矢は弱虫で夕弦はへたっぴなのだ!!二人揃ってへっぽこぴーだな!!」

「この×××。×××を×××してればいい。敗者にはそれがお似合いサノバビッチ」

 

 

やたらと幼稚な悪口と、やたらと淡々とした罵りが、向こうのコートから聞こえてきた。

 

 

「「……………」」

 

 

二人のあおりに、耶倶矢と夕弦は静かに目を細くした。

 

 

「……ねぇ夕弦」

「返答。なんでしょう」

「……やっちゃう」

「同調。やっちゃいます」

 

 

二人が、ちらと視線を交らせ合う。

 

次のサーバーの折紙は至極落ち着いた様子でボールを手に取り、コートの済にボールを放った。

 

 

「夕弦!!」

「応答。分かっています」

 

 

夕弦がすんのところで滑り込んで、完璧といっても過言ではないサーブをレシーブした。

そしてそのボールを耶倶矢が打ち上げ、相手のコートに返す。

 

相手のチームは迫り来たボールを折紙が打ち上げる。

 

 

「村雨教諭」

「……あぁ、わかっている」

 

 

次いで、令音がそのボールを軽やかにトスする。

先ほどと同じパターンだ。

またも十香が高く飛び上がっていた。

 

 

「おおッ!!」

 

 

叫んで、上空から鋭いアタックを放ってきた。

 

 

 

「刃、止めろ!!」

 

 

耶倶矢の声が響いた。

やってやりますか。

 

手を組み、腕をまっすぐ伸ばす。

そしてボールに合わせて、腕ではなく腰を落とし調節する。

手に当たったボールは綺麗に真ん中に上がる。

 

 

「耶倶矢!!夕弦!!」

「了承。耶倶矢」

「おうとも!!

 

 

俺の声に反応してくれたのか、夕弦がその場に片膝を突いて、両手を組み合わせて手の平を上に向ける。

そして走ってきた耶倶矢がそこに片足を乗せるのと同時、夕弦が耶倶矢を軽々と空に放り上げる。

 

 

「な……!!」

「……っ!!」

 

 

十香と折紙の声が敵コートから聞こえてきた。

 

 

「耶倶矢!!さらに上に上げろ!!」

「わかった!!」

 

 

空高く舞い上がっている耶倶矢がさらに高くボールを上げる。

 

空を飛ぶのはマズイが、走るのはいいだろう。

空気を足場に空を走る。

駆け上がる。

 

やがてボールに到着した俺は、思い切り上半身を逸らす。

そして、

 

 

「破ッ!!」

 

 

気合を入れながら、思い切り逸らした上半身を折り曲げながら腕を振りぬき、ボールに手の平を打ち付ける。

もちろん、誰一人いないところを狙う。

 

その一撃は真っ直ぐ、空気を摩擦を起こして赤く染まりながらコートに突き刺さった。

 

もちろん、コートにはかなり深いクレーターができた。

ボールが俺の手に当たった瞬間に割れなくてよかった。

 

 

「ハッハー!!見たかゴラァ!!」

「よっし!!同点!!見たかこらぁぁッ!!」

 

 

俺が叫び、耶倶矢がグッとガッツポーズをを取った。

そのまま耶倶矢は夕弦とハイタッチをしていた。

二人はくるくる回りながら互いを褒め合っていた。

だがやがて、ハッとした様子で喧嘩をし始めた。

 

こいつら本当はすごく仲がいいだろ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

みんなにはトイレに行くと嘘をつき、休憩をするために、浜辺に設営されたトイレの脇にあるベンチに座っていた。

なぜトイレの脇にあるのかは知らない。

まぁ特に不快なことはないから大丈夫だが。

 

それにしても疲れた。

戦いをは別の疲れだ。

 

これだけ楽しくスポーツをしたのはいつぶりだろうか。

ここ百年はやっていない。

 

そこで思考が途絶える。

近づいてくる気配を感じたから。

気配のする方を向くと、そこには耶倶矢がいた。

 

 

「耶倶矢か。どうしてこんなところにいるんだ?みんなのところで待っているはずじゃないのか?」

「くく……颶風の加護を持つ我に、あの程度の隔てりは意味をなさん」

「俺は理由を訊いたんだがな」

 

 

まったくかすりもしていないじゃないか。

 

 

「う、うっせ!!」

 

 

顔を真っ赤にしながら反論してくる。

 

 

「口調が乱れてるぞ」

「くく……我が芝居に謀られたな。我が手の平で踊る貴様はたいそう滑稽であったぞ」

「……………」

「……何よその目は」

 

 

俺が生暖かい目で見ていると、耶倶矢がぶー、と唇を尖らせた。

 

 

「無理して口調を変えなくていいんじゃないか?」

「無理せてないし!!これが普通だし!!」

「戻ってるぞ」

「は……っ!!」

 

 

耶倶矢は愕然とした顔を作ったかと思うと、はぁと息を吐き、小声で呟いてきた。

 

 

「……だって、あれじゃん。私、精霊だし。こう、超凄いじゃん?だったらやっぱりそれなりの威厳というとかさ、そういうのが必要なわけじゃん?」

「そうか?」

 

 

俺の知りえる中では、威厳があると言えたのは『D×D』の世界の魔王や四大熾天使(セラフ)ぐらいしか思い当たらない。

その他は、どこか抜けているところあった。

 

 

「耶倶矢がいいならそれでいいが。それで用件とは?」

 

 

耶倶矢は「あぁ」と首肯してから続けてきた。

 

 

「なんかめんどくさいからこのまま続けちゃうけどさ、今私と夕弦は、あんたを巡ってバトルしてるわけじゃん?それで、明日にはその決着もつく」

「そうだな」

 

 

ここで耶倶矢は「私を選んでくれ」と普通は言うだろう。

だが、

 

 

「―――刃。あんた明日―――夕弦を選んでよ」

 

 

そう言ってきたのだ。

 

 

「悩むポイントなくない?だって夕弦、超可愛いじゃん。ちょっと愛想はないかもしんないけどさ、従順だし、胸も大きいし、もう男の妄想が形になったような超絶萌えキャラじゃん?しかも、多分あいつを選べば、いろいろサービスしてくれんじゃないの?選ばない手はないでしょ。だから―――」

「ちょっとまて」

 

 

そこまで聞いた俺は、一度耶倶矢の話を止める。

 

 

「負けた方は勝った方に取り込まれて、消えてなくなるのにか?」

 

 

俺がそう返すと、耶倶矢は頭をかきながら困ったように笑った。

 

 

「んー……そりゃ私だって消えたかないけどさ。でも、それ以上に―――私は、夕弦に生きて欲しいの。もっともっといろんなものを見て、思いっきり感じて欲しいの」

「へぇ……」

 

 

いろいろと考えているんだな。

相手の―――夕弦のことを。

 

 

「っていうか、あんたさえ乱入してかなきゃあのとき全部済んでたんだからね。あそこで派手に激突して、私が『やーらーれーたー』ってダウンして終わりだったのに」

 

 

耶倶矢がビッ、俺に指を突き付けながら言ってきた。

 

 

「じゃあなんで俺を惚れさせた方が勝ちなんてルールにしたんだ?」

「あぁ、あれ?そりゃ、夕弦の方が可愛いからに決まっているじゃない。この勝負なら、まず間違いなく夕弦が勝てるでしょ?」

「そうか?別に―――」

 

 

俺の言葉を続けさせないように、耶倶矢が俺の唇に人指す指を突き立ててきた。

 

 

「別に刃の意見は求めてないし。あんたはただ明日、夕弦の方が可愛いですちゅっちゅっ、ラブリー夕弦たんハァハァって言えばいいのよ。……でないと、この島ごとあんたの友達全員吹きと飛ばしてやるんだから」

 

 

言葉の途中で耶倶矢が目を細くし、声を低くした。

俺を脅しているのか?

 

この俺を?

 

面白い。

実に面白い。

 

耶倶矢がくるりと身体の向きを変えて、やたらと格好良いポーズを取った。

 

 

「くく……ではさらばだ人間よ。此度交わせしは血の盟約ぞ。違えれば其の身の髄まで煉獄の炎に灼かれると知れ!!」

 

 

そう言い残して、耶倶矢が去っていった。

 

ははは、これは面白くなってきたぞ。

これで夕弦を選ばなかったらどうなるのだろうか?

戦闘になる?

それもまた良しだ。

 

いつまでもここに居ると不振がられてしまうな。

ベンチから立ち上がり、十香たちの元に戻ろうとした時だった。

 

 

「制止。刃、止まってください」

「はい?」

 

 

背後から声をかけられた。

この声は夕弦だ。

後ろを向くと、やはりそこには夕弦が立っていた。

 

 

「どうかしたか?」

 

 

そう訊くと、夕弦はふっと耶倶矢の消えて行った方に顔を向けて、静かに開いた。

 

 

「質問。―――耶倶矢と何を話していたのですか?」

「あー……」

 

 

俺が濁していると、夕弦が小さく肩をすくめながら息を吐いてきた。

 

 

「撤回。いえ、やはりいいです。大体の予想はついています」

「そうか」

「肯定。大方―――明日の選定の際、自分を選ぶように言ってきたのでしょう?」

「ははは―――」

 

 

俺が言葉を続けようとすると、夕弦が手を広げて制止してきた。

 

 

「質問。それは構わないのですが、その際耶倶矢は何かをしましたか?」

「何か?」

「例題。たとえば刃に抱き着き首筋に舌を這わせたり、胸に刃の顔を挟んだり、刃の水着に手を突っ込んで股間をまさぐったりしましたか、と訊きます」

「しないね」

 

 

俺は淡々と答える。

当たり前だろ。

夕弦がやれやれと首を振る。

 

 

「落胆。耶倶矢はそこが駄目です。詰めが甘いです。耶倶矢がきちんと誘惑すれば、刃なんて発情期の猿くらい簡単に落とせるというのに」

「いや、それはねぇよ」

 

 

でも何だこの言い回し。

これではまるで―――

 

 

「請願。夕弦は刃にお願いがあります」

 

 

と、俺の施行を中断させるように夕弦が声を発した。

 

 

「何だ?」

 

 

このフレーズは先ほども聞いたような気がする。

 

夕弦は気負うこともなく言葉を続けた。

 

 

「請願。刃、この勝負、是非耶倶矢を選んでください」

 

 

やっぱりそうですか……

やはりそうなのか。

 

 

「要求。お願いします。明日、絶対耶倶矢を選んでください。約束です」

「なんで?」

「説明。耶倶矢の方が遥かに優れているからです。悩む余地はありません。刃も、耶倶矢の可愛らしさはよく知っているはずです。多少強がりなところはありますが。一途ですし、面倒見はいいですし、触れれば折れそうな華奢な肢体をぎゅっと抱きしめた時の快感はもう天国としか形容できません。きっと耶倶矢を選べばいろいろやらせてくれるはずです。是非、耶倶矢を」

「耶倶矢が勝ったら夕弦は消えるのだろう?」

 

 

俺の問いに、夕弦は目を伏せてうなずいた。

 

 

「耶倶矢こそ、真の八舞に相応しい精霊です。刃だってこの一日でよくわかったでしょう?耶倶矢はとても魅力的です。選ばない道理はないはずです」

「おまえらは競っていただろうに。なぜそんなことを言う」

「解説。耶倶矢はああ見えて恥ずかしがり屋です。焚き付けてあげないと、自分からああいったアピールはできません」

「はぁ……」

 

 

俺が溜息を吐くと、夕弦は俺の耳元で囁くように言った。

 

 

「念押。明日、耶倶矢を選ぶと言ってください。さもなくば、刃の友人たちに不幸が訪れることになります」

 

 

脅しまでそっくりだ。

それだけ言い残して、夕弦は俺の元を去っていった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

夕食をさっさと食べ終えた俺は、旅館の廊下をのろのろと歩いていた。

 

耶倶矢も夕弦も、相手が生き残るのを良しとしている。

 

この事実は、どちらよりも先に俺が知ったことだ。

共に思いあっている。

すごいことだ。

 

 

「おい、ヤイバ」

 

 

耳元で大声を発せられた。

振り向くと、そこには浴衣姿の十香がいた。

 

 

「まったく、ようやく気付いたかヤイバ」

 

 

ぷくー、と頬を膨らませている。

可愛いじゃないか。

 

十香はジッと俺の顔を見つめてきた。

 

 

「どうした?」

「いや」

 

 

十香はふzつと視線を逸らすと、小さく唇の端を上げ、俺の手をきゅつとにぎってきた。

 

 

「ヤイバ、よかったら、少し外へ行かないか?」

「ん?」

「夜の海をな―――見てみたいのだ」

 

 

そう言いながら俺の手を引いてきた。

 

 

「まずくないか?そろそろ先生の見回りに来るだろうし」

 

 

すると、十香は唇を突き出すようにしながら、ほぅと気を吐いた。

 

 

「……すまん、刃。少し嘘を吐いた」

「なんだ?」

「その……なんだ、せっかく修学旅行に来たのに、なんだか……あまり話せていないだろう?だから―――ヤイバと、二人でお話しがしたかったのだ」

「!?」

「駄目……だろうか」

 

 

そんな上目遣いで見ないでくれ!!

そんなの反則だ。

そんなことされたら、

 

 

「もちろんいいぞ」

 

 

駄目といえるわけがない。

 

すると、十香は満面の笑みを浮かべながら俺を引っ張って言った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

夜の浜辺には人影はなかった。

当たり前だろう。

 

俺と十香は、ゆっくりと海岸沿いの防波堤付近を歩く。

何気にない会話をしながらな。

 

 

「―――でな、昨日の夜は亜衣、麻衣、美衣たちと枕投げをしたのだ」

「そんなことしていたのか……」

 

 

枕投げ……

そんな他愛もないことはここ数千年はやっていない。

まぁ枕投げなんかしていたら怪我人は絶対に出るだろう

 

不意に十香が振り返ってきた。

 

 

「それで―――ヤイバ。一体、何があったのだ?」

 

 

するどい。

いつもはあんなに子供らしいのい……

勘、て奴なのかな。

 

まぁ十香になら言ってもいいか。

 

 

「耶倶矢にな夕弦を選べと言われた」

「何……?そんな馬鹿な、それでは耶倶矢がは―――」

 

 

言いかけたが、十香は小さく首を振った。

 

 

「いや……しかし、そうか。私も、私が死なねばヤイバが死んでしまうと言われたらなら……そうするかもしれない」

 

 

純粋にうれしいな。

そんな風に言ってもらえるのは。

 

 

「でな、夕弦には耶倶矢を選んでくれと言われた」

「なんと……それでは耶倶矢と夕移るは―――」

「そうだ。互いに相手を生かしたがっている。たとえ自らが消えてなくなろうがな

 

 

十香はむぅ、とうなって黙り込んだ。

そして数十秒、十香は神妙な面持ちで考え込むように眉をひそめた。

 

 

「なぁ……ヤイバ。私は思うのだが―――」

 

 

その瞬間だった。

前方から地面を踏みしめるような音が聞こえてきた。

そこには耶倶矢が立ってた。

 

 

「なんでここにいる」

「今の……何?」

 

 

俺の問いに答えず、耶倶矢は静かに―――しかし激しい憤怒に染まった声音でを発してきた。

 

 

「夕弦が……私を?は……?意味わかんない。何言ってんの?」

 

 

独り言を呟いているようだった。

耶倶矢は歯を噛みしめ、拳を握っている。

それに合わせるようにして、周囲に冷たい風が渦巻いていく。

 

だが、それだけではなかった。

 

夕弦まで来てしまった。

 

耶倶矢と同じように顔を俯かせている。

 

 

「復唱―――要求。耶倶矢が……夕弦を選べと?そう言ったのですか?」

 

 

一息入れて、耶倶矢と夕弦が叫んだ。

 

 

「「ふざけるな……ッ!!」」

 

 

瞬間、二人が怒号に近い声で叫ぶのと同時に二人あら凄まじい風圧が発せられる。

 

 

「結」

 

 

風圧から俺と十香を守るように結界を張る。

 

凄まじい風の反流が耶倶矢と夕弦の身体にまとわりついた。

二人の身に着けていた衣服を光の粒子に変えていく。

 

霊装が―――全身を締め付ける拘束衣にが出現し、首と手足を錠を掛けられた。

 

それだけではない。

 

耶倶矢の右肩に無機質な翼が現れた。

そこを起点とするように、右腕に金属のような光沢をもった手甲が構築され、最後にその手に、身の丈を超える巨大な槍が現れる。

 

 

「〈颶風騎士(ラファエル〉―――【穿つ者(エル・レエム)】!!」

 

 

それと全く同時に、夕弦の肩にも無機質な翼が生えた。

そして左腕を鎧が覆っていき、その手の中に、先端に菱形の刃が着いた紐のようなものが握られている。

まるでダウンジングで使うペンデュダムのようだ。

 

 

「呼応。〈颶風騎士〉―――【縛める者(エル・ナハシュ)】」

 

 

耶倶矢が槍を構え、夕弦がペンデュラムの先端に着いた刃を宙に受けべる。

 

二人は天使を顕現させた。

これから喧嘩が始まるのか。

精霊の喧嘩が。

 

二人は互いを睨みつけ合う。

そして忌々しげに口を開く。

 

 

「……ふざけたことしてくれんじゃないの、夕弦。私を選べですって?」

「反論。耶倶矢こそ、なんのつもりですか。夕弦はそんなこと、頼んだ覚えはありません」

 

 

その言葉と同時に、風の勢いが増していく。

そのまま二人は言い合い続ける。

やがて、一つの結論に至った。

 

決闘。

 

その決着方法も特殊だった。

 

 

「「―――倒れた方が、勝ち」」

 

 

結局これから起きることはただ一つ。

どちらかが倒れるまで止むことのない闘争だ。

 




今回はものすごく長くなってしまいました。
申し訳ないです。
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