さて、困ったことに目の前では八舞姉妹が喧嘩をしているのだが。
それ自体は困ったことではない。
なら何に困っているか?
八舞姉妹がぶつかり合ったことでできる暴風にだ。
俺は何ともないのだが、十香が吹き飛ばされてしまう。
それに周りの細い木々は、吹き飛ばされてしまっている。
万が一、十香に当たったら大変だ。
暴風のせいで聞こえないが、八舞姉妹は何か言い合いながら闘っているようだ
かろうじて口が開いたり閉じたりしているのを確認できる。
まぁ呼吸をしているだけの可能性かもしれないが。
どうしようか……?
十香を結界に閉じ込めて行くのはいいが、万が一結界が壊されたらたまったものではない。
結界を何重もかけているのもいいかもしれない。
強度に限度はあるがそう簡単には破られないはずだ。
十香には例の防御術式を組み込んだ指輪とネックレスを渡してある。
この二つがあれば攻撃からは身を守れる。
なら大丈夫じゃないか?
エレンの襲撃からも身を守れるだろうし。
最悪、精霊の力を十香に戻してもいい。
よし、行こうか。
「十「ヤイバ!!気を付けろ!!何かがいるぞ!!」…はい?」
十香が俺の言葉にかぶせて言ってきた。
周囲を見回す。
そこには、俺と十香を囲うように、十体ほどの人影があった。
まったく気づかなかった。
考え込んでいたせいなのか、それともDEMのステレスがすごいのか。
多分、考え込んでいたせいだろう。
俺の悪い癖だ。
マルチタスクがあまり上手くない。
人影を改めて視認する。
人間ではないな。
フルフェイスヘルメットのように頭部に細身のボディが連なっていて、人間とは逆向きの関節をした脚部が地面を踏みしめている。
それらを構成しているのは、金属だ。
鏡面みたいに磨き上げられている。
身体の各所には、CR-ユニットみたいなパーツも見受けられる。
アンバランスだな。
これが俺の感想だ。
猫背気味だし、正直言うと、醜いな。
「なんだこの醜い物体は」
思わず口にも出してしまった。
「DD-007〈バンダースナッチ〉……といっても、わからないでしょうか?」
俺の呟きに反応するように、人形の陰から一人の少女が出てきた。
エレン・ミラ・メイザース
DEM第二執行部部長にして、世界最強の魔術師。
そして、この修学旅行の随行カメラマン(笑)である。
「よう、世界最強の魔術師」
「ぬ、おまえは……」
俺と十香がほぼ同時に声を発すると、エレンが大仰に首肯する。
「ようやくひとけのないところに来てくれましたね、十香さん。一人余計な方がいらっしゃるようですが―――まぁ、それくらいはよしとしましょう」
そう言って俺の方を一瞥して、興味な下げに鼻を鳴らした。
俺の言葉は無視しているようだ。
「しかし、驚きました。まさかあの二人が精霊だったとは。―――しかも、優先目標である〈ベルセルク〉ときたもものです。積もり積もった不運の代償としてはお釣りがきますね」
「で、世界最強の魔術師が何のようだ?」
「ほう……!!」
エレンが初めて俺に興味を示した。
どうやら俺の声がやっと届いたようだ。
エレンが手を掲げる。
すると、それに合わせるようにして、〈バンダースナッチ〉が一斉に姿勢を低くして、俺と十香に向かって飛びかかってきた。
だがそんな単調な攻撃が通るわけがない。
「十香、ここで大人しくしてくれ」
「う、うむ」
少し戸惑いながらも、しっかりと返事をしてくれた。
「―――アスカロン」
結界から出て、結界の上に立つ。
アスカロンに魔力を込める。
すると、刀身がプリズムのように様々な色に輝き始める。
相変らずかっこいい。
「破ッ!!」
右足を軸にして一回転する。
魔力によってできた斬撃が、飛びかかってきた〈バンダースナッチ〉を切り刻む。
刻むといっても、二分割にだが。
「ヤイバ!!」
十香が声を上げる。
それと同時に、結界が内部から解かれた。
十香は俺に向かって何かを振るった。
すると、後ろから爆発音が聞こえてきた。
振り向く。
そこには、〈バンダースナッチ〉の残骸があった。
改めて十香を見る。
霊装を纏っていた。
俺が許可したわけではないのにだ。
そういえば、少しだけは気持ちの変動で漏れ出すんだったな。
すっかり忘れていた。
「大丈夫か!!ヤイバ!!」
「あ、あぁ……」
しかしまずいことになった。
エレンの前で霊装を纏ってしまうとは。
「―――〈プリンセス〉。やはり本物でしたか」
ほら、このとおりだ。
エレンは十香に向かって手を差し伸べるように伸ばしてきた。
「十香さん。私とともに来てはくださいませんか。最高の待遇をお約束します」
「―――ほざけっ!!」
十香は裂帛の気合とともにそう叫び、エレンに向かって〈鏖殺公〉の決崎を向けた。
俺もそれに合わせて、アスカロンを向ける。
「さぁエレン・ミラ・メイザース。世界最強の魔術師よ。お手並み拝見と行こうか」
ニヤリと笑いながら言う。
すると、エレンは両手を悠然に上げる。
それと同時に身体が淡い輝きに包まれ、一瞬でワイヤリングスーツとCR-ユニットが着想された。
「―――〈バンダースナッチ〉隊、しばらく手をださないでください。音に聞こえた〈プリンセス〉がどれほどのものか、少し試させていただきます。―――ついでに身の程を知らない人間にも」
そう言って、右手で背に備えた剣を抜き、その刀身に光の刃を出現させた。
そして俺と十香を誘うように、くい、と左手を曲げて見せた。
こいつ、俺をバカにしているのか?
俺に喧嘩を売っているのか?
さっきも十香を俺の目の前で誘っていた。
こいつは、一度殺り合うしかないな。
「十香、おまえはそのまま待機していてくれ」
「な!?刃!!私だってすこ……し……は―――わ、わかった」
俺の顔をみて察したのだろう。
怒りが見て取れたのだろう。
すこし焦ったように答えてくれた。
「さぁ、エレン。世界最強の魔術師の力を見せてくれ!!」
俺はアスカロンに魔力をさらに流し込み、強化もとい狂化する。
「……何をやっているのですか?そちらがこないなら、こちらからいきます!!」
本来ならあり得ない行為だ。
相手が何をしているかもわからないのに、特攻するなど。
だが力を溜めている可能性もあるから、すべてを否定するわけにもいかないが。
残念ながら、俺は力を溜めるのと同時に待ち伏せをしていた。
これが表すのは、すなわちエレンの敗北。
「自分からきたら駄目だよ」
特攻してきたエレンにアスカロンを振るう。
エレンは剣でアスカロンを受け止めようとする。
が、そんな剣でアスカロンが止められるわけがない。
「な―――」
剣が砕け、そのままアスカロンはエレンの腹を切り裂く。
深くはない。
精々、1cm程度だろう、手に伝わってきた感触から推測するとだが。
「……予想外ですね。まさかただの人間であるあなたに私が斬られるとは。それにあなたの使用している剣。とても興味深いですね。ただに人間がそんなに巨大な剣を振るえるとは思えませんが」
よく喋るな。
1cm程度をはいえ、斬り裂いたのだ。
少しは痛みがあるはずだ。
いや、少しで済むのかはわからないが。
「これは〈ペンドラゴン〉を装備してきて正解でしたね」
ペンドラゴン……
懐かしい名を聞いた。
アーサー・ペンドラゴンにルフェイ・ペンドラゴン。
そして、アルトリア・ペンドラゴン。
そんなことはどうでもいいか。
「―――いきます」
エレンが俺にかなりの速さで近づいてきた。
そして、巨大なレイザーブレイドを俺に向かって振り下ろしてきた。
無論、そんな攻撃は簡単にパリィできる。
それと同時に、今の身体能力の本気で腹に蹴りを放つ。
「ぐっ―――」
詰まったような声を上げ、野球のゴロのように何度も地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。
そのまま帰ってこない来ないところを見ると、気絶したのだろう。
まぁいくらワイヤリングスーツにCR-ユニットを装着されているからといって、俺の本気の蹴りに耐えられるはずがないか。
十香の方を向く。
どうやら戦闘の余波は受けていないようで、無事が確認できた。
「行くぞ十香」
「うむ!!」
十香を呼び、暴風が吹き荒れている方へ向かった。
☆☆☆
「耶倶矢に夕弦!!」
木々が放射線状になぎ倒された森の上空に、激突を繰り返す耶倶矢ちと夕弦を確認した。
早く二人を止めないと、いつエレンが目を覚まして乱入してくるかわからない。
決着をつけさせるわけにもいかない。
決着が着いてしまったら、耶倶矢か夕弦のどちらかが消滅してしまう。
とりあえず、話しかけてみるか。
「やめろおまえら!!二人とも残れるんだぞ!!」
反応がない。
二人を覆うようにして渦巻いている風の壁が、外からの音を遮断しているのだろう。
風の壁を斬り裂くか。
これが一番いいだろう。
「十香、離れてくれ」
「な、何をするのだ?」
「あの風の渦を斬り裂く」
そう答えると、十香は驚いた顔をするが、すぐに顔を険しくして、
「無茶してはいけないぞ!!」
と、言ってくれた。
やさしいな……
十香の頭を優しくなでる。
「大丈夫だ。安心しろ」
「う、うむ。頑張ってくれ、ヤイバ!!」
少し頬を赤く染めながら、エールを送ってくれた。
これで俺のテンションはMAXを軽く越える。
早速、行動に出るか。
「―――アスカロン」
手に握っている剣の名を呟き、気合を入れる。
魔力を注ぎ、アスカロンを構える。
刀身がプリズムのように様々な色に輝き始める。
下方から上方へ一閃。
アスカロンから放たれた斬撃は、上空にに吹き荒れていた風の渦を容易く斬り裂いた。
そして、耶倶矢と夕弦の間を通るようにして空へと抜けていく。
渦を巻いていた雲が真っ二つに分かれ、今まで隠れていた月が姿を現す。
すると辺りに吹いていた風が嘘のようにぴたりと止み、狼狽に満ちた声が聞こえてきた。
「な―――」
「焦躁。これは……」
互いに槍とペンデュラムを向け合ってた耶倶矢と夕弦が目を丸くして、今の斬撃の出所を探っているのか、下方に目を向けてきた。
そして二人が俺の姿を確認すると、途端に眉をひそめた。
こいつら会った時のこと忘れているのか?
忘れていたとしても、失礼じゃないか。
俺の顔確認したら眉をひそめるなんて。
「刃……!?今の、もしかしてあんたが……?」
「驚愕。まさか。凄まじい威力でした」
俺はアスカロンを肩に担ぎ、口を開く。
「耶倶矢、夕弦。戦いをやめてくれないか?」
耶倶矢と夕弦に問う。
だが二人は不機嫌そうに顔を歪めた。
「……あんた、聞いてなかったの?私と夕弦は、どちらかがどちらかを取り込まないと存在できなくなっちゃうの」
「同調。その通りです。邪魔をしないでください。今このわからず屋に、耶倶矢がどれだけすぐれた精霊か教え込んでいるのです」
「っ、まだ言うか……!!私なんかが生き残ったって仕方ないって言ってるでしょ!?なんでわかんないのよ!!夕弦!!あんたが生きるべきなの!!」
「否定。そうは思いません。耶倶矢の方が生きるべきです」
「あんたは……!!」
「激昂。耶倶矢こそ―――」
「いい加減にしろ!!」
耶倶矢と夕弦の会話に割り込む。
叫んで、割り込む。
「そうだよ……決めてやる。俺が決めてやるよ。―――どちらが真の八舞に相応しい精霊かを。生き残るべきは誰なのかをな!!」
「「……っ!!」」
俺の言葉に耶倶矢と夕弦が驚愕に目を見開く。
だがすぐに視線を鋭くして俺を睨みつけてきた。
何も言ってこない。
言葉を聞くつもりはあるようだ。
さて、判定をしようか。
俺が決めた、俺にしかできないであろう決断を。
「俺は二人を―――耶倶矢と夕弦の両方を選ぶ!!」
俺の声が辺りに響く。
耶倶矢と夕弦が数秒の間俺をジッと見つめたあと……どちらからも大きなため息が聞こえてきた。
「……何それ。ふざけてんの?」
「軽蔑。小学生以下の回答です。決断力のない男性はみっともないです」
そう、呆れた声を発してきた。
「みっともないか……ははは。でもな、二人ともそれぞれ違ったところがあるんだ。選べるわけがない」
「な……っ」
「……………」
耶倶矢は頬を赤く染めた。
夕弦は半眼を作っている。
「それぞれって……知った風の口を利かないでよ!!あんたなんかに何が―――」
「わかるよ。俺はおまえらより先に知ったことがある。一つだけだけどな」
「……質問。それは?」
俺は一度息を吐く。
そして、吸い込み、吐き出すように声を出す。
「互いが、互いのことを思い合っているということだ。耶倶矢は夕弦のことを夕弦自身よりもずっと強く思っている。夕弦は、耶倶矢のことを耶倶矢よりもずっと大切にしている。そういうことだ」
「―――っ、それは」
「……………」
耶倶矢と夕弦は言葉を失ったように黙り込んだ。
俺は構わず続ける。
「さて、この結果は俺が決めたことだ。俺が責任もって実行しよう。まぁ二人には精霊の力を失ってもらうしかないのだが」
「「……ッ!?」」
俺の言葉に耶倶矢夕弦は目を丸くする。
「は……?何ですって?」
「要求。今、なんと」
一息ついて、続けようとした時だ。
十香の心配そうな顔が視界に入る。
軽く手を振って、心配ないことをアピールする。
「精霊の力を失う代わりに、おまえたち二人には生き残ってもらう」
「何を……言ってるの?そんなこと、可能なはずがないじゃない」
「疑念。そうです。そんな方法、聞いたことがありません」
耶倶矢と夕弦が、疑わしげな目を向けてくる。
確かに信じろと言う方が無理かもしれない。
今回の話は特にな。
通常では精霊の力を封印する方法はないからな。
「俺を信じろ。絶対に成功する。失敗したら俺の命をくれてやる。だから―――信じろ。それだけでいい」
「……何を。あんんたはただの人間じゃない。そんな―――」
「あぁ言い忘れてたな―――」
言葉を発しながら、ATフィールドをモード・天使で展開する。
「俺は万能なだけの人外だ。おまえら二人をまとめて救うぐらい―――簡単だぜ?」
「っ……」
「思案。……………」
ATフィールドを解除する。
耶倶矢と夕弦は言葉を失い、目を見合わせた。
急な事態に混乱しているようだ。
「だからやめろ。もう闘うな」
一言発し、俺は目をつむる。
さて、ここからどう転ぶのか。
しだいによっては、な。
「……………」
「……………」
上空では、耶倶矢と夕弦が見つめ合っている。
そして、耶倶矢が先に、静かに唇を開いた。
そこからしばらく二人の会話が続いた。
確かめ合うように、ゆっくり話し合っていた。
楽しそうに笑っていた。
今までに見せなかった、心からの笑顔だ。
そして、耶倶矢の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
嗚咽とともに。
次いで、夕弦の頬にも涙が一筋伝った。
二人が視線を合わせ、同時に唇を動かす。
だが、二人ののどから発せられた声は、互いに届かなかった。
なぜか?
それよりも遥かに巨大な駆動音が、耶倶矢と夕弦のさらに上空から轟いたからだ。
「何……?」
「注視。あれは―――」
耶倶矢と夕弦が空を仰ぎ見る。
俺もつられて上空を見る。
そこには、後部から煙を噴いた、巨大な黒い戦艦が浮遊していた。
いいところだったのだがな……
せっかく、二人が互いのことを知れて、いい感じになっていたのにな……
「ゆるさねぇ……」
「「「ひっ―――」」」
十香、耶倶矢、夕弦の短い悲鳴が聞こえた。
戦艦から先ほどの〈バンダースナッチ〉に似た何かが落ちてきた。
武器持ちだ。
先ほどから右手に携えた筒のようなものから光線を発射している。
それが耶倶矢と夕弦に当たりかける。
ギリギリのところでかわせたようだ。
「結」
十香、耶倶矢、夕弦を結界で保護する。
「顕現せよ、《破壊の刀剣(デストラクション・ブレイド)》―――」
今までは破壊神の姿にならなけれいけなかったが、もうその必要はなかった。
さらに、
「形状変化・槍(ランス)」
加えて形状変化までできるようになった。
最早これでは、《破壊の刀剣》ではなく、《破壊の武具(デストラクション・ウェポン)》だ。
この際だから名前も変えよう。
さて、殲滅を始めよう。
「オラァ!!」
槍をクルクルと回しながら、落ちてきた敵を殲滅していく。
接近してきた一体を吹き飛ばしてすぐに、槍を地面に突き刺す。
『Destroy!』
破壊を知らせる音声が辺りに響き渡る。
準備は整った。
あとは時が経つのを待つだけだ。
まずは俺を起点した半径6mが浸食される。
『Destroy!』
二度目の音声が鳴り響いた。
これで半径12m浸食された。
俺を起点とした半径12mには、何一つ形が残っているものはない。
地面だけではない。
空も、空間も破壊された。
そして、しばらくした後。
煙を出した戦艦はおろか、落ちてきた敵も、島も、空気も、水分も。
全てが破壊されつくされた。
残っていたのは、俺、十香、耶倶矢、夕弦だけだった。
ここで一つ気づいたことがあった。
結構重要なことだ。
〈フラクシナス〉大丈夫かな?
☆☆☆
あのあと、十香、耶倶矢、夕弦を護っていた結界を解き、ゆっくり歩きながら旅館に戻っていた。
三人とも怪我はなかったようだ。
旅館まであと少しのところで、耶倶矢に話しかけられた。
「そうだ。刃よ、早く我らの力を封印してみせよ」
「同意。まだ時間はありますが、早い方がいいです」
「あー……悪い、また明日頼む。今日は少し力を出し過ぎたから疲れていてな。今にもぶっ倒れそうなんだ」
もちろんこれは嘘である。
だが、十香の目の前で耶倶矢と夕弦と同時にキスなんてできるはずがない。
「ふん……嘘ではないだろうな?もしこの颶風の御子に虚言など吐いたなら、その骨さえ残らぬと思え」
「私刑。ぼこぼこです」
「嘘じゃねぇよ」
「「……………」」
耶倶矢と夕弦は俺を疑わしそうな目で見てきた。
そして小さく息を吐いた。
「くく……まぁいいだろう。信じてやる。ところで十香よ」
「む?なんだ?」
「要請。少しの間、刃を貸してはいただけませんか?」
耶倶矢の言葉を継ぐように、夕弦が言う。
十香は不思議そうに首を傾げる。
「別に構わんが……何故だ?」
「い、いいから、少しの間だけ、ここで待っているがいい」
耶倶矢はそう言うと、俺の手を取って、森の脇へと誘導していった。
途中で夕弦も俺の手を取ってきた。
「で、どうしたんだ?」
移動が終わったので、訊いてみる。
「……刃。まぁ、なんというか、ありがあとうね。いろいろと」
「多謝。刃のおかげで、耶倶矢と争わずに済みました」
「別に、おまえらが互いに理解し合っただけだ」
俺の言葉を聞いたあと、耶倶矢と夕弦は目を合わせて、決心したようにうなずきあった。
「だから、まぁ、つまんないもんだけど、お礼に思って」
「請願。目を閉じでください」
「わ、わかった」
多少狼狽しながらも、大人しく指示に従って目を閉じる。
すると、
「……!?」
右と、左。
唇の右と左から同時に柔らかい感触が生まれた。
これは数万年前に経験した、テスタロッサ姉妹の同時キスに似ている。
目を開ける。
目の前には、耶倶矢と夕弦が、同時に俺の唇にそれぞれの唇をつけていたのが確認できた。
「ははは、参ったな」
「お、お礼の代わりなんだからね。私と夕弦なんで超絶美少女二人分のファーストキスよ?喜び舞い踊るならまだしも、その反応ってどうよ」
「謝罪。ご迷惑でしたか」
耶倶矢が顔を赤くして腕を組んだ。
夕弦は、すまなそうに顔をうつむかせた。
が、その状態も長くは続かない。
「な……」
「驚愕。これは―――」
耶倶矢と夕弦から狼狽した声が発せられた。
それも無理ないだろう。
なぜなら、二人が見に纏っていた霊装が光の粒子となって消えていったのだから。
「う、きゃぁぁぁッ!?」
「狼狽。えっちです」
耶倶矢と夕弦が胸元を覆い隠す。
そしてその場にうずくまる。
俺はすぐにタオルケットを創造して二人の肩にかける。
「落ち着け。さっきのキスで霊力が封印されただけだ」
耶倶矢と夕弦はタオルケットにくるまりながらも、俺の話をしっかりと聞いてきた。
「ヤイバ?何やら光っていたが、何かあったのか?」
「ん、十香か。いや、二人の霊力を封印しただけだ」
「そうか!!ならもう安心だな!!」
どうやら納得してくれたようだ。
良かった。
ちょっとチョロすぎるような気もするが。
こうして、修学旅行は幕を閉じた。
5章、終章!!
みなさん、お久しぶりです。
結構な間投稿できなくてすいませんでした。
リアルが忙しくなったのと同時に、体調を崩してしまいました。
これからはこのようなことがないように、できれば一日一話、無理なら二、三日に一話ずつ投稿していこうと思います。
とある編ですが……もう少しお持ちください。
なんとなくの構成ができてきたので、もう少しで投稿できそうです。
今週末には投稿します。
では、また次話で。