デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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第3話~初めての自宅訪問~

翌日の放課後。

俺は、美九の下校を待っていた。

場所は竜胆寺女学院の校門の前だ。

もちろん、容姿はレティシアだ。

 

チャイムが聞こえてきた。

普通なら聞こえないが、まぁ俺は普通ではないからな。

 

今回の一番の問題は、美九との接触の理由がなかったのだ。

だが運よく見つけてしまったのだ。

美九がハンカチを落としたと。

そのハンカチは俺が密かに拾っていたと。

 

これで接触する理由はできた。

なら問題はない。

 

辺りが少しだけ騒がしくなった。

どうやら美九のお出ましのようだ。

例の大名行列もできていた。

 

俺は美九の前に歩み寄る。

それに気づいたのか、女子の一団が足を止めて、俺に視線を送ってきた。

 

 

「……?何かご用ですか?」

 

 

先頭を歩いていた女子が、不審そうに首を傾げて問いてきた。

 

 

「あぁ、昨日天宮スクエアで誘宵美九に―――」

「あぁ、もしかしてお姉様のファンの方?」

 

 

美九の名を出した瞬間、女子はやれやれといった様子で肩をすくめた。

なんだこいつ。

勘違いもいいところだ。

 

 

「お姉様ねぇ……」

「いけませんよ。気持ちはわからなくもないですけれど、お姉様は今プライベートなんですから。あなたもファンならわかってくださいますよね?」

「はぁ……話を聞きたまえ。私はハンカチを―――」

 

 

俺が接触理由を離そうとすると、女子生徒の背後から驚いたような声が聞こえてきた。

 

 

「あらー?レティシアさん?」

 

 

見やると、美九が目を丸くしながら口に手を当てていた。

軽く手を上げて返す。

途端、俺の前に立ちはだかっていた女子が慌てた様子で目をキョロキョロさせ始めた。

 

 

「おっ、お姉様のお知り合いでしたか。こ、これはとんだ失礼を……」

「いや、気にしなくてもいいぞ」

 

 

女子が俺にペコペコとお辞儀をしてくる。

なんかそこまでされると少しな。

 

美九が進み出てきた。

 

 

「どうしたんですかー?今日は合同会議はありませんよー?」

「あぁ、これをな」

 

 

ポケットから綺麗に畳まれたレースのハンカチを取り出す。

すると美九は「まぁ」と目を見開いて俺の顔を見てきた。

 

 

「これは……私のですぅ。拾ってくれたんですかぁ?」

「まぁな。たまたまだ」

「ありがとうございますぅ。でも少し残念ですねー」

「む?」

 

 

俺の手からハンカチを受け取りながら美九が発した言葉に思わず疑問の声を発してしまった。

 

 

「どうしてだ?」

 

 

俺が問うと、美九はいたずらっぽい笑みを浮かべながら続けてきた。

 

 

「レティシアさんが私をお茶にでも誘ってくれるのかと、少しだけ期待しちゃいましたよー」

「ふふ、そうだな。ではこれから一緒にお茶でもどうだ?」

 

 

俺が言うと、美九は今までで一番可愛い笑顔を作った。

 

 

「もちろん、よろこんでー」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

竜胆寺女学園から歩いて五分とかからない場所に、美九の家はあった。

 

かなり綺麗だとだけ言っておこう。

高校生が一人暮らしするような家ではないな。

 

 

「……………」

 

 

そのまま応接室に通され、俺はソファに座っていた。

一応形式上、俺がお茶に誘ったはずなのだが、美九に誘われるがまま自宅に邪魔してしまった。

 

これはそのままヤられてしまうパターンではないのか……?

まぁその前に俺が抜け出せ―――るのか?

わからないな……

 

そんなことを考えていると、お茶の準備を終えた美九が戻ってきた。

トレイには見るからに効果そうなティーカップがあった。

美九は、そのティーカップに紅茶を注いでいく。

 

 

「すまないな、誘ったのはこちらだというのに」

「いえいえー。いい茶葉が手に入ったので是非と思って。それに、レティシアさんと一緒にティータイムが過ごせるだけで、私はうれしいですよー」

「ふふ、私もうれしいぞ」

 

 

俺は考えた。

このままレティシアのまま封印するのはいいだろう。

だが、もし俺が元の姿に戻ったらどうなるのか?

まぁ分身を創造して、そいつをレティシアの容姿にしておけばいいのだが……

 

俺はそれが嫌だ。

 

たとえ偽物とわかっていても、レティシアがもう一人いるのは少しな。

後々考えていけばいいか。

 

美九は紅茶を入れ終わると、俺の向いの椅子に座り、紅茶を一口飲んだ。

俺もそれに便乗し、「いただきます」と言い、カップに口を突ける。

 

 

「ほぉ……」

 

 

すごく……おいしいです……

 

美九も俺の反応に大満足したらしい。

くすくすと笑ってもう一口紅茶を啜る。

 

そこからは、何気ないことを会話し続けた。

俺のことはほとんど話していないような気がする。

まぁ話すにはかなり時間が足りない。

 

今回の会話は、おそらく数時間後には思い出せなくなるような類だ。

 

だが、美九はそれに相づちを逐一打っていてくれていたため、なぜか妙に盛り上がった。

 

そのせいで、気づいたときにはもう、二十時を回っていた。

随分と話し込んでしまったようだ。

 

 

「―――あら、もうこんな時間ですかー」

「すまないな、話し込んでしまって」

 

 

俺は帰り支度を進める。

 

 

「いいえ、とても楽しかったですよー」

 

 

言って、ジッと俺の目を見つめてくる。

何か怖い。

美九は目を外すことなく、しばしの間俺を凝視し続けると、

 

 

「うん、やっぱり、いいです。今までにいなかったタイプですー」

 

 

と、何やら納得したようにうなずいた。

 

 

「レティシアさん、私、あなたが気に入っちゃいましたぁ。明日から竜胆寺に通ってください」

「……………はい?」

 

 

美九は何を言っているんだ。

 

 

「竜胆寺にか?」

「はい。転校してくださいー」

「むぅ……」

 

 

これは冗談を言っている訳ではないな。

どう反応すればいいのか……

 

美九は俺の返事がないのを思案と手振りを交えながら言葉を続けてきた。

 

 

「もちろん、お金や学力の問題なら心配しなくても大丈夫ですよー。私がお願いしておきますからねぇ。あ、住所寸法を教えてくれますか―?今日中に制服を送らせます」

「少し落ち着いてくれ。そんなに簡単に決められるものではないのだ」

 

 

俺が言うと、美九は唇の端を上げがら席を立ち、俺の隣に腰掛けてきた。

そして優しく俺の手を握ると、すっと左耳に口元を寄せてくる。

 

 

【―――おねがい】

 

 

そんな、甘えるような小さな声を発してきた。

 

 

「……へぇ?」

 

 

まるで言霊のようだった。

言葉が体内に侵入し、脳を直接揺さぶるかのような錯覚。

 

 

「そう言われてもな」

「ふぇ?」

 

 

俺が応えると、美九は大層意外そうに目を丸くした。

そしてしばしの間考え込むように口を噤み、俺をまじまじと見つめてきた。

 

 

「レティシアさんー?」

「なんだ?」

【―――服を、脱いでください】

 

 

また、先ほどと同じように言霊のような『声』だった。

 

 

「さすがにそれは……」

 

 

そう、ここで仮に服を脱いだとしよう。

そのままベットに連れて行かれ、おいしくいただかれてしまう。

レティシアの姿のままでだ。

それだけはいけない。

レティシアをいただくのは俺だけだ。

誰にもやらん!!

 

俺の様子を見てか、美九が得心がいったように姿勢を正す。

 

 

「やっぱり、言うことを聞いてくれないんですねー」

「すまないな、だが―――」

 

 

俺の言葉を最後まで聞かずに、美九が声を発してくる。

 

 

「あなた、もしかして―――精霊さんです?」

 

 

おっと……

やはり疑われてしまったか。

 

どう返しましょうか。

変なことは言えない。

言葉を間違えば、ここまで積み上げたものがすべて駄目になってしまう。

 

 

「どうしたのだ、いきなり。精霊、だったか?それは空想上の生物ではないのか?」

「あはは、いいですよー、無理にとぼけなくても。私の『おねがい』を聞いてくれないだなんて、普通の人であるはずがないんですからー」

 

 

最初から詰んでいたようだ。

 

美九は、先ほどと何も変わらない笑みを浮かべた。

 

 

「いえ、むしろ、精霊さんだったらうれしいですねぇ。私、自分以外の精霊さんに会ってみたかったんですよぉ。何人かいるんですよねぇ?」

「む……」

「ねぇ、レティシアさん。あなたは一体何者なんですかぁ?もしかして本当に精霊さん?それともあの魔術師とかって人たちのお仲間です?」

 

 

そして小さく息を吐いてからあとを続けてくる。

 

 

「私とあなたが知り合ったのは単なる偶然?それとも何か目的があるんです?」

 

 

仕方ない。

嘘を混ぜながら話すか。

 

 

「美九。私は精霊ではない。吸血鬼だ」

 

 

俺がそう言うと、美九は目を見開いた。

瞳は微かに揺れている。

 

 

「ざ、残念ですねー。レティシアさんにそんな嘘を―――」

「嘘ではないぞ。―――ほら」

 

 

そう言い、背中からは闇でできた翼を、右手には影でできた鎌を構える。

 

 

「ほ、本当なんですねー」

 

 

その一言を聞いた俺は、翼と鎌を霧散させる。

 

 

「それと、精霊の力も封印できる」

 

 

この言葉に、美九は先ほどより大きく反応した。

 

そこから美九は霊力の封印に関して訊いてきた。

何人分霊力を封印したのか、などだ。

明らかに、封印した霊力に興味がいっているようだ。

いや、違う。

霊力を封印された精霊の方に興味がいっているようだ。

まぁ百合っ子なのでしかたがないのだろう。

そのまま自分の元に引き入れるつもりだろう。

 

だが、そんなことは絶対に俺がさせない。

むしろ、俺が美九を……

 

封印方法の説明をしようとした時には、必要ないと言って断られてしまった。

 

 

「―――あなたの話は信じはします。でも、霊力の封印はしてもらはなくて結構ですよー」

 

 

だ、そうだ。

これは困った。

なんてことはない。

最悪、無理にでも霊力を奪い取ればいい。

 

 

「だってぇ、そうでしょう?私は霊力を有している今の状態でも、十分に満足した生活を送れているんですものー。あえて力を差し出す理由はないはずです。あなたとあこれからもいいお友達でいたいと思いますけど、それとこれとは話が別ですよー」

 

 

やはりそうか。

まぁ俺もそう返すだろう。

 

だがこちらにも手はある。

手札はこちらの方が多いだろう。

 

 

「四日前、立浪駅前で空間震を起こしただろう?それは美九が力を制御でき邸内証拠だ」

 

 

俺がそう言うと、美九は驚いたような顔を作った。

 

 

「あらー?よくそんなこと知っていますねー」

「吸血鬼をナメてもらっては困る」

 

 

美九は眉を歪めたが、追及してくる様子はなかった。

 

力の暴走の可能性がある。

 

これを理由に封印を進めたが、どうやらこの前の空間震は故意に起こしたらしい。

理由を聞いて、俺は少し怒った。

 

 

「私、天宮アリーナで歌ったことがなかったんですよー。それで、急に歌いたくなっちゃったんです。だから、えいやーっ、と」

 

 

美九が、可愛らしい仕草で微笑みながら言ったのだ。

 

それは俺をさらに怒らせるのには十分なものだった。

だが、それは表には出さない。

それからもふざけた理由をどんどん並べてきた。

 

 

「私のことが大好きですしー、私の為に死ねるなら本望じゃないですか―?」

 

「みんな、私のことが大好きなんですよー」

 

「私の言うことは何でも聞いてくれるんですー」

 

 

ふざけるな。

 

俺の心にはその一言で一杯だった。

 

 

「なぁ美九」

「なんですかぁ?」

「一つ、勝負をしないか?」

「勝負ですかぁ?」

 

 

美九は意外にも乗り気だ。

 

 

「今度の天央祭一日目で来禅が最優秀賞を取ったら、美九の霊力を封印させてくれないか?もし来禅が負けたら、精霊のみんなはもちろん、私もおまえの元へ行こう。どうだ?」

「いいですねぇ、賛成ですぅ。―――でもいいんですかぁ?」

 

 

美九はにっこりと微笑んだ。

 

 

「―――確か一日目のステージは、音楽関係の出し物がメインですしねぇ」

「しまった―――と、言うと思ったのか?」

「ふぇ?」

 

 

美九が腑抜けたような、不意を突かれたような声を上げた。

それはそうだ、なぜなら俺の顔には絶望ではなく、挑戦的な笑みでもなく、圧倒的な勝者の表情が張り付いているのだから。

 

 

「どうせステージには美九が自らでるのだろう?」

「は、はいぃ。そうですけどー」

「ならこちらは私が自らステージに立とう。ただし、メインは私ではないがな。まぁ楽しみにしていてくれ」

 

 

それだけ言い残し、俺は美九の家をあとにした。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

美九の家を出るとすぐに、〈フラクシナス〉に強制転移させられてしまった。

 

転移が完了すると、琴里からの説教の嵐だった。

 

なぜステージで真っ向勝負するのだ!!

 

と、言われた。

まぁこちらには秘策があるといった。

そしてステージでは何をやるのかと訊かれてしまった。

 

 

「確かバンド演奏だ」

「バンド、ね。……あんた大丈夫なの?」

 

 

琴里がジト目で言ってきた。

俺はそにニヤリと笑って返す。

 

空間倉庫を開き、ベースを取り出す。

 

そしてチューニングをすぐに済ませ、アンプを繋ぐ。

演奏を開始する。

少しだけだが弾いてみせる。

まぁサビの部分だ。

 

演奏を聴いた琴里の反応は、

 

 

「う、うそぉ……」

 

 

と、目を丸くして驚いているようだ。

そしてすぐにハッ、として何かに気づく。

 

 

「も、もしかして―――お兄ちゃんが創破なの……?」

「あぁ、俺が創破だ」

「や、やっぱり……ベースオンリーの動画で見たけど、今使っているベースと同じだったもん」

 

 

そう、俺は完成している曲の他に、ギター、ベース、キーボードと別々に動画を上げていたのだ。

もちろん、演奏しているところを移している。

 

 

「まぁ対抗できるだろ?」

「で、でも他のメンバーはどうするの?」

「まぁそれは精霊たちに頼んでもいいし、最悪俺が分身する」

「「「「「な、なるほど」」」」」

 

 

こんどは〈フラクシナス〉のクルーたちも反応した。

どうやら俺が創破だということを聞いてフリーズしていたようだ。

 

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