デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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ストーリ、入ります。


第1章 十香デッドエンド
第1話~精霊の少女~


「すまんな、すぐに朝食の準備をする」

 

 

しばらく自分の部屋にいて待たせたことに謝罪しながら台所に向かう。

なだれこんできた記憶によると、二人そろって大手のエレクトロニクス企業に勤めている両親は、たびたび家を空けていたようでその際の食事当番はいつも俺だったらしい。

 

朝食は簡単にベーコンエッグにトーストでいいか。

そう考え、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出すのと同時に、背後のテレビの音声が聞こえてくる。

どうやら琴里がテレビの電源を入れたようだ。

 

琴里は毎朝、正座占いと血液型占いをハシゴするのが日課らしい。

とはいえ大体の占いコーナーは番組の最後が多い。

琴里は一通りチャンネルを変えた後、つまらなさそうにニュース番組を眺め始めた。

 

 

『―――今日未明、天宮市近郊の―――』

 

 

アナウンサーの声が聞こえてくる。

天宮市。

ここから結構近いらしい。

 

カウンターテーブルから身を乗り出すようにして、テレビの画面に視線を送る。

画面には、滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出されていた。

建造物や道理は崩落しており、瓦礫の山と化していた。

まるで隕石の衝突か空襲にでもあったのか?

そう疑いたくなるような惨状だった。

 

 

「空間震か……」

 

 

空間の地震と称される広域震動現象。

正直に言うと、俺も気を開放すれば日本を沈める程度の空間震は起こせる。

空間震の発生原因は不明、発生時も不明、被害規模が不確定の場有髪、震動、消失、その他諸々の現象の総称。

まるで『箱庭』の魔王みたいだ。

気まぐれに現れて、街を破壊していく。

魔王は生物もだけど。

 

東京都南部から神奈川県北部にかけての一帯が、まるで消しゴムでもかけたかのように、円状に焦土と化している。

そう、ちょうど今、俺たちが住んでいる地域だ。

 

 

「全然起きなくなっていたのにな……なんでまた増え始めたんだ……」

「どうしてだろうねー」

 

 

俺が言うと、琴里がテレビに視線をやったまま首を傾げる。

南関東大空災を最後に、空間震はしばらくの確認されたのを皮切りに、またちらほらと、その原因不明の現象が確認され始めたらしい。

 

しかも多くが日本でだ。

 

 

「なんか、ここら辺ってさ空間震多くないか?」

「……んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」

 

 

と、琴里がソファの手すりに上体を傾けながら言ってくる。

 

 

「早い、ね……」

「どうかした?おにーちゃん」

「んにゃ、なんでも」

 

 

そんなことよりもだ。

 

 

「琴里、チュッパチャプスは朝ご飯前に食べるものじゃないぞ。せめて朝ご飯を食べ終わってからにしろ」

「う……なんで見てないのにわかるのー?」

「お兄ちゃんだからだ」

 

 

お兄ちゃんに不可能はない。

俺はそれを『箱庭』でものすごく思い知らされた。

 

 

「そういえば今日は中学校も始業式だったよな?」

「そうだよー」

「じゃあ昼には帰ってくるってことか……琴里、昼ご飯のリクエストある?」

 

 

琴里は「んー」と思案するように頭を揺らしてから、しゃきッ、と姿勢を正す。

そして一言。

 

 

「デラックスキッズプレート!!」

 

 

近所のファミレスで出しているお子様ランチ!?

琴里って中学生だよな!?

中学生がお子様ランチってのは……いいのか?

 

 

「わかった、せっかくだから昼は外で食べようか」

「おー!!本当かー!!」

「おぅ。それじゃ、学校終わったらいつものファミレスで待ち合わせな」

 

 

俺が言うと、琴里は興奮した様子で手をブンブンと振る。

 

 

「絶対だぞ!!絶対約束だぞ!!地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!!」

「あぁ、占拠されたら俺がテロリストぐらいシメてやる」

「絶対だぞー!!」

「おうよ」

 

 

俺が言うと、琴里は「おー!!」と元気よく手を上げた。

今日は始業式だし、このくらいの贅沢はしてもいいだろ。

まぁ俺が作った方が絶対おいしいけど。

 

ふと、窓の外を見る。

空は何かいいことがありそうなくらい晴れ渡っていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

俺が学校に着いたのは、午前八時十五分を回った頃だった。

廊下に張り出されたクラス表を適当に確認してから、これからお世話になる教室に入っていく。

 

 

「二年四組か……」

 

 

それにしても綺麗な学校だ。

内装にほとんど傷が見つからない。

それにまだ真新しい。

できたばかりなんだな。

 

何となく教室を見回してみる。

ホームルームまで少し時間があるにも関わらず、もう結構な人数が揃っていた。

 

同じクラスになれたのを喜び合う者。

一人机についてつまらなさそうにしている者。

反応は様々たったが、俺の知っている顔はいな―――くもなかった。

 

 

「―――五河刃」

 

 

後方から、抑揚のない声がかけられた。

 

 

「なんだ?」

 

 

俺は振り向きながら答える。

そこには細身の少女が一人立っていた。

肩に触れるか触れないかくらいの髪に、人形のような顔が特徴的な可愛い少女だ。

でもまったくと言っていいほど表情が見受けられない。

この少女の名は―――

 

鳶一 折紙

 

陸上自衛隊の対精霊部隊・ASTの隊員だ。

 

 

「すまんな、俺はおまえのことを覚えていなくてな。なんせ記憶力には自信がなくてな」

「そう」

 

 

それだけ言って窓際の席に歩いて行った。

そのまま椅子に座ると、机から分厚い技術書みたいなものを取り出し、読み始めた。

 

 

「とうッ!!」

「あ゛?」

「ごはぁ」

 

 

俺が折紙のことについて考えていると、男のむさくるしい男の声が聞こえてきた。

そのまま背中に平手を打ちこまれそうになったので、俺は腹に一撃をくれてやった。

 

 

「ぐ……な、何しやがる」

「うるせぇ……テメェが先に仕掛けてきたんだろ」

 

 

まったく……殺るなら殺られる覚悟を持てっての。

 

 

「そんなことより、元気そうだなセクシャルビースト五河」

 

 

俺の友人らしい殿町宏人は、同じクラスであったことを喜ぶよりも先に、ワックスで逆立てられた髪と筋肉質で暑苦しい身体を誇示するように、腕を組み軽く身をそらしながら言った。

 

 

「……うぜぇ」

「なんだとこの淫獣め。ちょっと見ない間に色気づきやがって。いつの間にどうやって鳶一と仲良くなりやがったんだ、えぇ?」

 

 

そう言って、殿町が俺の首に腕を回し、ニヤニヤしながら訊いてくる。

 

 

「俺にもわからん」

「はぁ?なんだよそれ……うらやましすぎんだろ!!」

 

 

さっきからうっとおしい。

まったく少女一人に大げさすぎる。

 

 

「あいつってそんなになのか?」

「あぁ……あいつはウチの高校が誇る超天才。聞いたこのないのか?」

「初めて聞いた……すごいのか?」

「すごいなんてモンじゃねぇよ。成績は常に学年主席、この前の模試に至っちゃ全国二位とかいう頭のおかしい数字だ。クラス順位は確実に一個下がることを覚悟しな」

 

 

模試……あぁなだれこんできた記憶にあったな。

順位は―――おぉ、安定の一位ね。

点数は―――オール満点。

 

……俺の肉体よ、貴様は何てことしてくれたんだ。

これじゃあヘタな点数取れないな。

 

 

「まぁ俺はその心配はなさそうだ」

「はぁ?何言ってんだおまえ。鳶一は模試で全国二位だぞ?おまえがどうにかできる相手じゃないぞ」

「じゃあ模試のトップは誰だったんだ?」

「おいおい……まさか」

「俺がトップだ」

 

 

殿町が黙り込む。

余程衝撃的だったんだろう。

そりゃそうだ、今までバカだと思っていた俺が模試で全国トップ。

これほどクるものはないだろう。

 

 

「ま、まぁその件については置いておこう。それだけじゃなく、体育の成績もダントツ、ついでに美人ときてやがる。去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも第3位だぜ?見てなかったのか?」

「やってたことすら知らなかった。それにベスト13?何でそんな中途半端な数字なんだ?」

「主催者の女子が13位だったんだよ」

「あぁ、なるほど」

 

 

でも13位でもかなり上位じゃないか?

 

 

「ちなみに『恋人にしたい男子ランキング』はベスト358まで発表されたぞ」

「多っ!?下位についてはもはやワーストランキングだな。それも主催者決定なのか?」

「あぁ、まったく往生際が悪いよな」

「おまえは何位だったんだ?」

「358位だが」

「おまえが主催者か」

 

 

かわいそうに。

自ら傷口に塩、いや、ハバネロを塗るなんて。

痛み止めすら効かないぞきっと。

 

 

「選ばれた理由は、『愛が重そう』『毛深そう』『足の親指の爪の間が臭そう』でした」

「やっぱりワーストランキングですね、わかります」

「まぁぶっちゃけ下位ランクは一票も入らない奴らばっかだったからな。マイナスポイントの少なさで勝負だ」

「やめりゃいいのに……」

「そんな五河に朗報だ。おまえはぶっちぎりのトップだチクショウ!!」

「はっ」

「鼻で笑われた!?」

 

 

トップか……

なんか、いいな。

いかんいかん。

俺にはレティシアと言う本妻が。

 

 

「理由は『イケメン』『かっこいい』『何やっても様になってる』『調教してほしい』『無理やりヤられたい』などだ」

「……後半の二つ。確実に変態だ」

 

 

まぁ悪い気はしない。

 

 

「まぁとにかく、校内一の有名人っつても過言じゃないわけだ。五河くんの無知ぶりにさすがに殿町さんもびっくりです」

「上条さんかよ……」ボソ

 

 

俺は思わずつぶやいてしまった。

そして予冷が鳴る。

俺は自分の席を確認するために黒板を見に行く。

ふんふん、どうやら俺は窓側から数えて二列目の席らしい。

そしてこの席は折紙の隣だ。

 

折紙は予冷が鳴り終える前に本を閉じ、机にしまい込んだ。

そして視線を真っ直ぐ前に向け、定規ではかったかのような美しい姿勢を作る。

 

俺もとりあえず黒板を見ている。

それに合わせるようにして、教室の扉がガラガラと開けられる。

そしてそこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓についた。

あたりから、小さくざわめきのようなものが聞こえてくる。

 

 

「タマちゃんだ……」

「あぁ、タマちゃんだ」

「マジで!?やったー」

 

 

おおむね、好意的なもののようだった。

 

 

「はい、皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任をつとめさせていただきます、岡峰珠恵です」

 

 

のほほんとしてる。

それが俺の第一印象だ。

贔屓目に見ても生徒と同世代くらいにしか見えない童顔と小柄な体躯。

それにのんびりした性格ときた。

 

それにしても……

 

いづれぇ……

さっきから折紙がじーっ、と見てくる。

一体何だってんだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「五河ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」

 

 

始業式を終え、帰り支度を整えた生徒たちが教室から出ていく中、鞄を肩がけにして殿町に声をかけられた。

まわりもちらほらそういう相談をしている集団がある。

 

 

「俺は用事があるからパスだ」

「なぬ?女か」

「妹だ」

「そうか……俺も一緒にいっていいか?」

「ダメだ」

「言うと思った。仕方ね、今日はあきらめるわ」

 

 

そう言って殿町は去っていった。

折角の妹とのひと時を邪魔されてたまるか。

そんな時だった。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながらクソうるさいサイレンが鳴り響く。

 

教室に残っていた生徒たちも、皆会話を止めて目を丸くしている。

すると、サイレンに次いで、聞き取りやすようにするためか、言葉を一拍ずつ区切るようにして、機械越しの音声が響いてくる。

 

 

『―――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します―――』

 

 

瞬間、静まり返っていた生徒たちが、一斉に息を呑む音が聞こえた。

教室に残っていた生徒たちは、顔に緊張と不安こそ滲ませているものの、比較的落ち着いてはいた。

少なくとも、恐慌状態に陥ったりする生徒はいないようだ。

 

全員がシェルターに向かうのをしり目に、俺は下駄箱に向かう。

折紙もどこかに向かったようだ。

少なくともシェルターではない。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ここは本当にファミレス付近なのか?

俺の視界に広がっていたのは、不気味な光景だった。

車の通らない道路、人影のない街並み。

街路にも、公園にも、コンビニにも、誰一人としての残っていない。

つい先ほどまで、誰かがそこにいたことを思わせる生活感を残したまま、人間の姿だけが街から消えている。

 

ドオォォォォォォォォォ!!

 

凄まじい爆音が俺の耳に入る。

そして衝撃派が俺を襲う。

だがこのくらいは余裕で立っていられる。

 

おぉ……

 

俺は素直に驚いた。

あの一瞬で街並みが無くなった。

そう、跡形も無くなったのだ。

街の風景が、浅いすり鉢状に削り取られていた。

そして、クレーターのようになった町の一角、中心。

 

そこに金属の塊のようなものが聳えている。

 

まるで王座のようだった。

その王座の肘掛けに足をかけるようにして、精霊の霊装のドレスを纏った少女が一人立っている。

その少女の名は―――

 

夜刀神 十香

 

になるはずだ。

この世界では何になるか分からない。

 

十香が来だるそうに首を回し、俺の方に顔を向けた。

そのままゆらりとした動作で、玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握る。

そしてそれをゆっくりと引き抜く。

 

そう、そのものの名は―――

 

〈鏖殺公(サンダルフォン)〉

 

そしてその〈鏖殺公〉を俺の方にむかって横なぎにッ!?

俺は瞬時に朱蓮を出現させて受け止める。

 

 

「まったく……いきなり結構なごあいさつだな」

 

 

俺は十香に言う。

 

 

「―――おまえも……か」

 

 

酷く疲れたような声が聞こえる。

目の前には十香が立っている。

 

可愛い、いや、美しい?

どちらとも言える。

しかし霊装ってのは不思議なものだ。

透明なところもあればしっかりとしたところもある。

ドレスの形だが……動きにくそうではない。

スカートにいたっては光の膜でできている。

 

だがその手にある身の丈ほどありそうな巨大な剣のせいで―――凛々しくなる。

 

 

「キミの名は?」

「……名、か」

 

 

心地のいい調べの如き声音が空気を震わせる。

 

 

「―――そんなものは、ない」

 

 

これがペスト以外の精霊に話しかけた初めてのことだった。

 

 

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