デート・ア・ライブ~二天龍を従えし者~   作:眠らずの夜想曲

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第3話~精霊の少女との再会~

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――ッ!!」

 

 

教室でノートPCを開き、作曲しているときのことだった。

廊下の方から、女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。

ノートPCを空間倉庫にしまい、廊下に向かう。

 

 

「なんだ?うるさいなぁ……」

 

 

廊下に出ると、数名の生徒が集まっていた。

そしてその中心には、白衣を着た女が一人うつ伏せで倒れていた。

 

 

「はぁ……何があった?」

「や、刃くん!?し、新任の先生らしいだけど……急に倒れて……っ!!」

 

 

呟くと、近くにいた女子生徒があたふたしながら、だが顔を若干赤くしながらそう返してきた。

その前になぜに俺の名前を知っていた?

あぁ……殿町のランキングのせいか。

 

俺は容姿をよく見る。

すると納得してしまった。

 

 

「令音……何してるんだ?」

「……心配はいらない。ただ転んでしまっただけだ」

 

 

そう言いながら、令音は廊下にべたりとつけていた顔面をゆらりと上げる。

やはりそこには令音の顔があった。

 

 

「何をしているんだ?こんなところで」

「……みてわからないかい?教員としてしばらくお世話になることにしたんだ。ちなみに教科は物理、二年四組の副担任も兼任する」

 

白衣の胸につけていたネームプレートを示しながら、令音が言ってくる。

ちなみに、その上に胸ポケットからは、傷だらけのクマさんが顔を覗いていた。

 

 

「そうか……ほら」

 

 

俺は令音に手を差し出す。

 

 

「……ん、悪いね」

「それはいい……歩きながら話しよう」

 

 

あたりに気を払いながら言う。

そのまま令音のペースに合わせてのたのたと歩く。

 

 

「えぇと、君は……や……」

「覚えてないのか……刃だ」

「……さて、ヤイバ」

「なんか違うような気がするんだけど……」

 

 

そんなことを言い合い、俺は切りのいいところで教室に戻った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

教室に戻り自分の席に着くと、俺は再びノートPCを取り出す。

そして打ち込む。

ひたすら打ち込む。

歌詞、そして楽器の音。

曲を作っているのだ。

暇つぶしに試しに作ってネットにアップしたところ、意外に再生回数が伸びていき、今ではCDまで出し、たまにトップを取ることもある。歌っているのは俺だ。

最初はVOCALOIDを創って歌わせようかと思ったが、このあとに起こる『誘宵 美九』とのことを考えると、俺の声の方がいいと判断した。

顔はネット上には全く出回っていない。

ちなみに名前は『二天龍』だ。

俺にぴったりだろ?

一応二天龍を従えし者だし。

 

そしてこのことは学校の奴らも知らない。

 

順調に作曲をしているときだった。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――――

 

空間震を伝える警報が鳴り響く。

俺はすぐにみんなに見えないように鞄の中に『空間を操る程度の能力』で空間倉庫を開き、そこにノートPCをしまう。

それと同時に俺のスマホが着信音を鳴り響かせる。

画面には『琴里』の二文字。

俺はすぐに出る。

 

 

「なんだ?」

『刃、空間震よ。一旦〈フラクシナス〉に移動するわ』

「やはり精霊か」

『えぇ。出現予測地点は―――来禅高校よ』

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

時刻は、十七時二十分。

避難を始める生徒の目を裂けながら、街の上空に浮遊している〈フラクシナス〉に移動した俺は、艦橋のスクリーンに表示されら様々な情報に視線を送る。

琴里と令音は、時折言葉を交わしながら意味ありげにうなずいていたが、正直俺には画面上の数値がなにを示しているか分からなかった。

というよりも興味がなかった。

 

 

「なるほど、ね」

 

 

艦長席に座りチュッパチャップスを舐めながら、クルーと言葉を交わらせていた琴里は、小さく唇の端を上げた。

 

 

「―――刃」

「なんだ?」

「早速働いてもらうわ。準備なさい」

「そんなものはとっくにできている」

 

 

俺がニヤリとすると、琴里もニヤリとしてきた。

 

 

「―――もう彼を実戦登用するのですか、司令」

 

 

艦長席の隣に立っていた神無月が、スクリーンに目をやりながら不意に声を発した。

吠えるなよ、この小僧が。

 

 

「相手は精霊。失敗はすなわち死を意味します。いくら恋愛経験がほうふげぇッ」

 

 

言葉の途中で神無月の鳩尾に琴里の拳がめり込む。

 

 

「私の判断にケチつけるなんて、偉くなったものね神無月。罰として今からいいと言うまで豚語で喋りなさい」

「ぶ、ブヒィ」

 

 

……神無月、きめぇ。

 

 

「刃、あなたかなりラッキーよ」

「どうした?」

 

 

琴里の視線を追うように、スクリーンに目を向ける。

 

やはり意味不明な数字が踊っていたが―――右側の地図に、さっきにはなかったアイコンがあった。

来禅高校に赤いアイコンが一つ、そしてその周囲に、小さな黄色いアイコンがいくつも表示されていたのである。

 

 

「赤いのが精霊、黄色いのがASTよ」

「何がラッキーなのかがまったくもってわからん」

「ASTを見て。さっきから動いていないでしょう?」

「そうだな」

「精霊が外に出てくるのを待っているのよ」

「あぁなるほど。戦闘がしにくいのか」

「そうよ。CR-ユニットは、狭い屋内での戦闘を目的として作られたものではないのよ。いくら随意領域(テリトリー)があるとはいっても、遮蔽物が多く、通路も狭い建造物の中ではでは確実に機動力が落ちるし、視界もさえぎられてしまうわ」

 

 

そう言いながら、琴里がパチンと指を鳴らす。

それに応じるように、スクリーンに表示されていた画像が、実際の高校の映像に変わる。

校庭やその周りの道路や校舎の一部が、この前ファミレスの近くでみたものと同じように削り取られていた。

 

 

「校庭に出現後、半壊した校舎に入りこんだみたいね。こんなラッキー滅多にないわよ。ASTのちょっかいなしで精霊とコンタクトが取れるんだから」

「なぁ、もし精霊が普通に外に現れてたら、どうやって俺を精霊と接触させるつもりだったんだ?」

「ASTが全滅するのを待つか、ドンパチしている中に放り込むか、ね」

「そうか……」

 

 

出来ればドンパチしている中に放り込まれた方が説得はしやすかったと思う。

そこで助ければ話のきっかけもできるし。

 

 

「ん、じゃあ早いところ行きましょうか。はい、これインカム。精霊の状況や緊急時の行動を伝えるから。精霊の説得は基本、刃にまかせるから」

「りょーかい」

 

 

渡されたインカムを右耳につける。

 

 

「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインをして、インカムを二回小突いてちょうだい」

「あいよー」

 

 

俺は制服の上着を近くのクルーに渡す。

そしてシャツの腕をまくる。

 

 

「さぁ、行こうか」

「グッドラック」

 

 

ビッと親指を立ててくる琴里に俺は軽く手を上げて返す。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

〈フラクシナス〉下部にやってきた。

ここに設けられている顕現装置(リアライザ)を用いた転送機は、直線状に遮蔽物さえなければ、一瞬で物質を転送、回収できるらしい。

科学技術でそれをできるんだからすごいと思う。

まぁ俺は普通に転移できるからいらないけど。

 

そして〈フラクシナス〉から薄暗い高校の裏手に転移する。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

校舎の裏手に転移したので、十香のいる教室まで移動をするしかないか。

視線を巡らせていると、ごっそり削られた校舎の壁があった。

 

 

『まぁ、ちょうどいいからそこから入っちゃいなさい』

 

 

右耳につけたインカムから琴里の声が聞こえてきた。

俺は返事をせず、校舎の中に入る。

あまりのんびりしていてASTに見つかったら保護されてしまうかもしれないな……

 

 

『さ、急ぎましょ。ナビするわ。精霊の反応はsこから階段を上がって三階、手前から四番目の教室よ』

「あいよー」

 

 

近くの階段を駆け上がっていく。そして十秒とかからず、指定された教室の前までたどり着く。

扉はあいておらず、中の様子は窺えなかった。

 

 

「そういえばここって二年四組……俺のクラスじゃねぇか」

『あら、そうなの。好都合じゃない。地の利までとは言わないけど、全く知らない場所よりよかったでしょ』

 

 

実際、場所なんてどうでもいい。

崖とか火山とか海中などの特殊なところじゃなければ。

 

教室の扉を開ける。

夕日で赤く染められた教室の様子が、網膜に映りこむ。

 

そして教室を見渡す。

すると、前から四番目、窓際から二列目―――ちょうど俺の机の上に、霊装のドレスを纏った十香が片膝を立てるようにして座っていた。

 

幻想的な輝きを放つ目を物憂げな半眼にし、ぼぅっと黒板を眺めている。

それに加えて半身を夕日に照らされた十香は、俺が見とれるのに十分な魅力があった。

だが、その完璧にも近いワンシーンは、すぐに崩れることとなった。

 

 

「―――ぬ?」

 

 

十香が俺の侵入に気付いたようだ。

目を完全に開いてこちらを見ている。

 

 

「―――よぉ」

 

 

俺が手を上げて話しかけた瞬間だった。

 

―――ひゅん、と。

 

十香が無造作に手を振るい、俺の頬かすめて黒い光線が通り抜けて行った。

一瞬のあと、教室の扉と、その後ろにある廊下の窓ガラスが盛大な音を立てて砕け散る。

 

 

「おぉ……」

 

 

突然のことだったので俺は素直に驚いた。

頬に手をやると、少し血が―――流れてるわけがなかった。

傷は一瞬で治癒したようだ。

 

 

『刃!!』

 

 

琴里の声が俺の鼓膜を痛いほどに震わせてくる。

 

十香は憂鬱をした表情を作りながら、腕を大きく振り上げていた。

手のひたらの上には、丸い光の塊が、黒い輝きを放っている。

そしてそれが放たれた。

俺は動かず、それを受ける。

 

キイィィィィィィィィン

 

それは光の塊は俺の前に展開されたATフィールドに防がれて、俺まで届かない。

 

 

「おいおい、随分なごあいさつだな」

 

 

十香に言う。

 

 

「おまえは、何者だ」

 

 

俺のことを覚えていないのか?

素直に言うか。

 

 

「俺は五河刃。おまえを救いにきた者だ」

 

 

それを聞いた十香はゆっくりとした足取りで俺の方に寄ってきた。

そしてしばしの間俺の顔を凝視してから「ぬ?」と眉を上げた。

 

 

「おまえ、前に一度会ったことがあるな……?」

「あぁ、今月の十日にな。街中で」

「おぉ」

 

 

十香は得心が言ったように小さく手を打つ。

 

 

「思い出したぞ。何やらおかしなことを言っていた奴だ」

 

 

そして十香は俺の前髪を掴み、顔を上向きにする。

 

痛ぇ……

地味に痛ぇ……

 

十香が俺の目を覗き込むように斜めにしながら視線を放ってくる。

 

 

「……確か、私を救うとか言っていたか?ふん―――見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させておいて後ろから襲うつもりか?」

「そんなわけないだろう。救いたいのは本当だ。それに襲わねぇ……一つ言わせろ。人間はおまえを殺そうとする奴らばかりじゃねぇ」

 

 

俺の言葉に十香が目を丸くして、俺の髪から手を放す。

 

あー痛かった。

 

そしてしばしの間、もの問いたげな視線で俺の顔を見つめたあと、小さく唇を開いた。

 

 

「……そうなのか?」

「そうだよ」

「私が会った人間たちは、皆私は死ななければならないと言っていたぞ」

「そんなわけがあるか」

 

 

十香は何も答えず後ろに手を回す。

半眼を作って口を結び―――俺の言ったことがまだ信じ切れていないという顔を作る。

 

 

「……では訊くが。私を殺すつもりがないなら、おまえは一体何をしに現れたのだ?」

「おまえに会うためだ」

「……?」

 

 

十香がきょとんとした顔を作る。

 

 

「私に?一体何のために」

「おまえと話がしたかったんだ」

 

 

この返しに十香は意味が分からないといった様子で眉をひそめた。

 

 

「どういう意味だ?」

「そのままだよ。俺はおまえと話がしたくてな。内容はどうでもいい、あぁどうでもいいさ。無視したいなら無視しろ。だけどな、これだけは分って欲しい。俺は―――おまえを否定しない」

 

 

十香は眉を寄せると、俺から目を逸らす。

そしてしばしの間黙ったあと、小さく唇を開く。

 

 

「……ヤイバ。ヤイバといったな」

「そうだ」

「本当に、おまえは私を否定しないのか?」

「あぁ、本当だ」

「本当の本当か?」

「本当の本当だとも」

「本当の本当の本当か?」

「本当の本当の本当だ!!」

 

 

俺は間髪入れずに答える。

十香は髪をくしゃくしゃとかき、ずずっと鼻をすするかのような音を立ててから、顔の向きを戻してきた。

 

 

「―――ふん」

 

 

眉根を寄せ口をへの字に結んだままの表情で、腕を組む。

 

 

「誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

「ハハハ……でも俺は―――」

「……だがまぁ、あれだ」

 

 

十香は複雑そうな表情を作ったまま、続ける。

 

 

「どんな腹があるかは知らんが、まともに会話をしようという人間は初めてだからな。……この世界の情報を得るために少しだけ利用してやる」

 

 

そう言って、もう一度ふんと息を吐く。

 

 

「そうか」

「情報を得るためだからな。うむ、大事。情報超大事」

 

 

そう言いながらも―――ほんの少しだが、十香の表情が和らいだような気がする。

 

 

『―――上出来ね。正直舐めてたわ……そのまま続けて』

 

 

インカムから琴里の声が聞こえてきた。

 

十香が大股で教室の外周をゆっくりと周り始める。

 

 

「ただし不審な行動を取ってみろ。おまえの身体に風穴を開けてやるからな」

「はいはい……」

 

 

俺の返答を聞きながら、十香がゆっくりと教室に足音を響かせる。

 

 

「ヤイバ」

「なんだ?」

「―――早速訊くが。ここは一体何なんだ?初めて見る場所だ」

 

 

そう言って、歩きながら倒れていない机をペタペタを触り回る。

 

 

「俺と同年代の生徒たちが勉強する場所だな。その席に座ってな」

「なんと」

 

 

十香は驚いたように目を丸くした。

何にそんなに驚いたんだ?

 

 

「これに全ての人間が収まるのか?冗談抜かすな。四十近くはあるぞ」

「本当だ」

 

 

なるほど、そのことについて驚いていたのか。

十香が見たことがある人間はASTの数名だろうから、大した人数はいないだろう。

 

 

「なぁ―――」

 

 

俺は十香の名前を呼ぼうとして、声を詰まらせた。

まだ彼女は十香という名ではないからだ。

 

 

「ぬ?」

 

 

俺の様子に気づいたのだろう、十香が眉をひそめてくる。

そしてしばし考えを巡らせるように顎に手を置いたあと、

 

 

「……そうか、会話を交わす相手がいるなら、必要だな」

 

 

そううなずいて、

 

 

「ヤイバ。―――おまえは、私を何と呼びたい」

 

 

手近にあった机に寄りかかりながら、そんなことを言ってきた。

 

 

「私に名をつけろ」

「そうだな……」

 

 

俺は考えるふりをする。

そして決まりきっていた名を口にする。

 

 

「―――十香」

「ぬ?」

「どうだ?」

「まぁ、いい」

 

 

俺は内心、安心した。

ここで拒否されたら何て名前をつけようか考えていなかったからだ。

 

 

「それで―――トーカとは、どう書くのだ?」

「あぁ、それは―――」

 

 

俺は黒板の方に歩いていく。

そして、チョークを手に取り、『十香』と黒板に書く。

 

 

「ふむ」

 

 

十香が小さくうなってから、俺の真似をするように指先で黒板をなぞる。

十香の指が伝ったあとが綺麗に削り取られ、下手だがそこには確かに『十香』の二文字が記されていた。

 

しばしの間自分の書いた文字をじっと見つめ、小さくうなずいた。

 

 

「ヤイバ」

「どうした?」

「十香」

「ん?」

「十香。私の名だ。素敵だろう?」

「あぁ」

 

 

やべぇ……

可愛い……

 

 

「ヤイバ」

「十香」

 

 

俺がその名を呼ぶと、十香は満足そうに唇の端をニッと上げた。

これで惚れない男はゲイか特殊性癖以外いないだろう。

それほど可愛い笑顔だった。

 

その時だった。

 

突如、校舎に凄まじい爆音と震動が襲った。

 

 

「なんだ……?」

『刃、床に伏せなさい』

 

 

インカムから琴里の声が響いてくる。

だがその必要はない。

 

ガガガガガガガガガガガガガガ

 

とけたたましい音を立てて、教室の窓ガラスが一斉に割れ、ついでに向かいの壁にいくつもの銃痕が刻まれていく。

 

 

「何してくれてんだ?」

『そ、外からの攻撃みたいね。精霊をいぶり出すためじゃないかしら。―――あぁ、それとも校舎ごとぶっ潰して、精霊が隠れる場所をなくすつもりかも』

「あ゛?」

『い、今はウィザードの災害復興部隊がいるからね。すぐに治せるなら、一回ぐらい壊しちゃっても大丈夫ってことでしょ。―――にしても予想外ね。こんな強攻策に出てくるなんて』

 

 

俺は視線を十香に向ける。

十香が、俺に対していたときとはまるで違う表情をして、ボロボロになった窓の外に視線を放っていた。

もちろん、十香のには銃弾はおろか、窓ガラスの破片すら触れてはいない。

だけど、その顔は、ひどく痛ましく歪んでいた。

 

 

「―――十香ッ!!」

 

 

俺は叫ぶ。

 

 

「……っ」

 

 

ハッとした様子で、十香が視線を外から俺に移す。

未だにクソうるさい銃声は響いていたが、二年四組の教室への攻撃は一旦止んでいた。

十香が悲しげに目を伏せる。

 

 

「早く逃げろ、ヤイバ。私と一緒にいては、同胞に討たれることになるぞ」

「同胞?笑わせるな!!少なくとも俺が同胞と言えるのは……むやみやたらと攻撃してくる奴はいない」

「そうか……」

 

 

十香は一瞬驚いた顔を作る。

 

 

「ほら、早く話をしよう。この世界の情報が欲しいのだろ?」

 

 

俺は十香に近づき、座る。

それにつられて、十香も俺の向井に座り込んだ。

 

 

「なぁ、この面をつけてもいいか?」

「む、どうしてだ?」

「AST……奴らに俺の顔が知られると面倒なことになるからな。さっきの攻撃でこの教室が見えやすくなってるし」

「ふむ……なら仕方がない」

 

 

その言葉を聞き、俺は狐の面と暁のコートを羽織った。

 

十香は今まで誰にも聞けなかったようなことを俺に質問し、俺が答える。

ただそれだけの応酬で、十香は満足そうに笑った。

そしてしばらくすると琴里から連絡が入る。

 

 

『―――数値が安定してきたわ。もし可能だったら、刃からも質問をしてみてちょうだい。精霊の情報が欲しいわ』

 

 

ふむ、何を聞こうか。

俺のよく知る精霊はペストぐらいだ。

あぁ……ペストに会いたい。

 

 

「なぁ―――十香」

「なんだ」

「おまえはさ、結局どういう存在なんだ?」

「む?」

 

 

俺の質問に、十香が眉をひそめる。

 

 

「―――知らん」

「そうか……」

「―――どれくらい前だったか、私は急にそこに芽生えた。それだけだ。記憶は歪で曖昧。自分がどういう存在なのかなど、知りはしない」

「そうなのか……」

 

 

十香は俺の反応にふんと息を吐いて腕組みした。

 

 

「そういうものだ。突然この世に生まれ、その瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていた」

「あぁ……ASTのことか」

「うむ、あのびゅんびゅんうるさい人間たちのことだ」

 

 

ASTのことをメカメカ団って……

ますます可愛いじゃねぇか……

 

そしてインカムから、クイズに正解したときのような、軽快な電子音が鳴る。

 

 

『チャンスよ、刃』

「はぁ?」

『精霊の機嫌メーターが七十を超えたわ。一歩踏み込むなら今よ』

「OKまかせろ」

 

 

俺は十香の方に向きなおす。

 

 

「十香、今度デートをしよう」

「デェトとは一体なんだ」

「それはな―――」

 

 

その時だった。

右耳に少し大きな琴里の声が入ってきた。

 

 

『―――刃!!ASTが動いたわ!!』

「あ゛ぁ?」

 

 

瞬間―――いつの間にやら開放感に溢れていた教室の外から折紙が現れる。

 

 

「―――っ!!」

 

 

十香が一瞬のうちに表情を険しくし、そちらに手のひらを広げる。

それから一拍もあかぬうちに。手にした無骨な機械から光の刃を出現させた折紙が、十香に襲い掛かる―――前に俺が思いっきり蹴り飛ばす。

 

 

「む?」『はぁ!?』

 

 

十香はなかなかやるなといった表情だ。

琴里は驚愕しているのがわかる。

 

吹き飛んで行った折紙は壁をぶち抜き彼方へと消えて行った。

 

 

「これでよし」

『これでよし。じゃないわよ!!一体どんな体の構造なのよ!!AST蹴り飛ばすなんて普通の人間はできないわよ!!』

「俺、普通じゃないもん」

『……はぁ』

 

 

琴里はあきれたように溜息をこぼした。

 

俺はもう一度、十香の方を向く。

 

 

「十香、デートしよう。日にちは十香の好きな時でいい。俺に会いに来てくれ」

「うむ、わかったぞ」

「俺はASTがうっとおしいからもう帰る。さっきみたいに特攻されたら困るからな。十香もここから離れたがいいぞ。じゃあな」

「またな、ヤイバ」

 

 

そう言い残して俺はフラクシナスに転移した。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「刃!!あれはどういうことなの!?ASTを蹴り飛ばすなんて」

 

 

〈フラクシナス〉に転移をして、琴里と顔を会わせるといきなり問いてきた。

 

 

「ん?あぁ、そりゃそうだろ。アスカロンを片手で振り回せるんだぞ」

「なるほど……ってアスカロンは重さが感じなくなるって言ってたじゃない!!」

「あー……」

 

 

転移した瞬間に、琴里に滅多クソに質問されまくった。

 

 

「まぁあれだ、アスカロンの恩恵だ」

「そう……ならわかわるわ」

 

 

いいのか、それで。

すべてアスカロンのせいにして。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「やはり休みか……」

 

 

翌日になり、念のため高校まで来たが、今はその帰りだ。

高校前から延びる坂道を下っていた。

一応確認をしにきたが、やはり休校だった。

校門から覗いたが、瓦礫だらけだった。

 

 

「仕方ない……ゲーセンでも行くか」

 

 

しばらく足を運んでいなかったな……

家への帰路とは違う道に足を向ける。

だが―――数分と待たずに、俺は再び足を止めることになった。

道に、立ち入り禁止を示す看板が立っていたのだ。

 

まぁわからなくもない。

 

アスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩落している。

 

 

「あぁ……そういえばここだったな……」

 

 

この場所は初めて十香と出会った空間震現場の一角である。

まだ修理してないのか。

 

 

「……バ」

 

 

はぁ……飛び越えるか?

 

 

「……い、……バ」

 

 

でも誰かに見られているとな……

 

 

「おい、ヤイバ」

 

 

んー……面倒だな。

いっそのこと家に帰るか。

 

 

「……無視をするなっ!!」

「すまんすまん」

 

 

視界の奥―――通行止めのエリアの向こう側からそんな声が響いてきた。

思わず謝ってしまった。

 

瓦礫の山の上に、明らかに街中ににつかわないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈みこんでいた。

 

 

「―――十香」

「ようやく気付いたか、ばーかばーか」

 

 

あいかわらず可愛い……

トン、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原形を残しているアスファルトの上を辿って俺のほうに進んできた。

 

 

「とう」

 

 

通行の邪魔だったのか、立ち入り禁止の看板を蹴り倒し、俺の目の前に到着する。

 

 

「デートをしに来てくれたのか?」

「うむ、早くデェトをしよう!!」

 

 

翌日に来るなんて……

最高だな。

 

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