貞操観念逆転世界で勘違いから主人公を振った幼馴染みがヤンデレ過保護になってしまったっていう話。 作:詞瀀
いつも、いつもそうだった。後悔すると分かっていても止められなかった。どうも自分は、大切なものを曲げてまで生きていたいと、そう思えない人間のようだった。
ーーーあぁ、体が冷たくなっていく。不思議なことに、体が溶けて道路のアスファルトと一体化していくような感じがして、ほんの少しだけ笑ってしまった。
「ーーっえ、ほっ、ご、ほぅっ」
笑ってしまったせいか、顔の筋肉を使った拍子に、咳と一緒に血を吐き出してしまう。
「ーーーーーーーーー」
周りで誰かが喋っているのが聞こえる。けれど、何を話しているのかがもう分からなくなってしまった。
ーーー耳が遠くなるのを感じる。体の冷えがますます酷くなってきた。
覚悟は、していたはずだった。
けれど、あぁ。
「さむ、い」
ーーー本当に
「さ、むいん、だ」
ーーー誰か、だれか、だれか
「ぼ、くを、み、て」
ーーーもう
「さびしいのは、やだよぅ…」
あぁ、意識が消えていく。
「ーーーーーーーー」
最後に、誰かの声がまた聞こえた気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕がこの世界に転生したのに気がついたのは、実は生まれてからかなりの時間が経ってからだった。とは言っても、前世とさして年が変わらぬ十四の時で、当時の僕はそれこそ、自分が転生したということに気づいてすらいなかった。
それに、前世の僕がどうなってしまったのかは分からないけれど、あまり気にはしていなかった。だって、僕の今世での顔と前世の顔に変わりはほとんどなかったし、少しばかり華奢な体つきになっていたぐらいで生活に困ることも無かったからだ。
前世との大きな違いなんて、男女の立場や価値観が逆転してたことぐらいだし。
正直、今となっては転生って言うより急に価値観が変わってしまった世界に来たんだな、ぐらいの感覚でしかなかったんだ。
ーーー冷たい雨の降る日だった。
「あんたなんかと付き合うんじゃなかったっ!」
やっと好きだった幼馴染みと付き合えた、と思ったら、いつ間にか僕は幼馴染みに嫌われていた。理由なんてわかんなくて、急に振られたんだ。
だから、突然こんなことを言われた時はなんで?とか、別れたくないよぅ、とか縋り付いて、そしたら。
馬鹿にしたような目で、冷たい目で見られて、思いっきり頬を張られたんだ。
ーーー冷たい雨の降る日だった。
それからしばらくして、どうも幼馴染みを好きだったクラスの男子と、彼のグループに属する男女十数人によって嵌められたようだっていうのが分かった。
クラスメートの男子5人ぐらいのグループで買い物に誘われた時、
ーーー馬鹿らしい話だ。
それからも何度かそういったことを繰り返し僕に行って、それを幼馴染みに話すことで僕への不信感を煽っていたらしい。
でも、幼馴染みに何を聞かれても僕はそんなこと知らない訳で、そうやってどんどんと僕と不仲にさせた。
決定的になったのは。
幼馴染みが、僕を嵌めようとしていた男子と浮気をしたことらしい。
心が決まったんだってさ。
ねぇ。
なにさ、それ。
なんだよ、それーーー
ーーー冷たい雨の降る日だった。
幼馴染みが振られたらしい。
言い合いになって、幼馴染みが車道に突き飛ばされていた。
その場面を目撃してしまった僕は、駆け出していた。
咄嗟だった。
捨て去った傘。
迫る車と驚いた幼馴染みの顔。
煩く鳴るクラクション。
轢かれそうだった幼馴染みを突き飛ばした。
目の前に迫った車のライトが眩しくって。
彼女の赤い傘が宙に高く舞っていた。
まるで全てが止まったかのような時間の中、目の前に浮かんだのは
かつて僕に微笑みかけてくれた、彼女の暖かな笑顔だった。
ーーー大好き、だったんだ。
いや、或いは今もーーー
僕って馬鹿だなぁって、そう思って笑ってしまった。
そしてーーーーーー
目が覚めたとき、僕は病院の一室にある白いベッドの中にいた。死んだ、と思っていたから、目が覚めたのはそれこそ凄く意外だった。両親に泣きながら縋り付かれて、不謹慎なことかもしれないけど、凄く嬉しかった。
ーーーけど。
大切に思われてるんだなって考えて、笑いそうになったけれど笑えなかった。泣きそうになったけど涙は出てこなかった。
幼馴染みは僕の見舞いには来てくれなかったけれど、なんだかもうどうでも良くなっていた。
頭を打ったせいか、表情や感情に何らかの損害が出たらしい。それを聞いた両親は泣いていて、困ったなぁって思いながら、無表情で両親を慰めていた。慰められた両親はさらに泣いていた。
僕はどうも一年近く眠っていたようで、また高校一年生からスタートを切らなければならないらしい。
両親には違う学校に行こうかって話をされたけれど、断っておいた。
なんだかもう、そういうのはどうでもよくなっていて、むしろ他の学校に行く手続きとかの方がよっぽど面倒くさかったし、何よりも両親にこれ以上迷惑をかけたくないなって思っていたから。
遅咲きの桜が散る校門の前に僕は立っていた。心機一転、頑張ろうって考えても、何故か全くやる気が出なくて困ってしまう。
ボーッと突っ立っている僕を、周囲が奇異の目で見てくる前にさっさと退散しようと歩き出す。
あの人、元気にしているといいけどな。
ほんの少しだけ、そんなことを考えながら。
書きたかったのはこの次からなんだ。エタらないよう頑張るね。