私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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頑張る兎さん

 産まれたゴライアスはそのまま殻である大壁をぶっ壊し、その破片があっちこっちに飛び散った。

 

 ———《グオオオォォォオオオオオオオ!!》

 

 そしてゴライアスの雄叫びが僕らにとってまさに絶望としか言えない。

 それでも今の僕らは出来るだけ心を強く保ち、18階層を目指すしか選択が残されていなかった。

 

「もうすぐそこだ!! もうすぐだから! 足を止めないで!!」

「うあぁあああああぁああ!!」

「くそおぉおおおお!!!」

「うおおおおお!!」「死にたくないいいい!!」「やだやだやだ!!」

 

 みんなは持っている最後の力を絞り取り、18階層の入口へ目指した。

 

 ———《グォオオオ!!》

 

《ズドオオオォォォン!!》

 

 ゴライアスの雄叫びと共に突然と僕らの進む道に現れた大岩。

 どうやらゴライアスは自分の近くに有った岩を蹴り、その岩が僕らの前に落ちていった。

 だがそれだけではない…………。

 

「ベル様!! 18階層への道が岩で塞がれています!!」

「隙間から抜けれるか!?」

「いいえ、出来ません!」

 

 詰んだ…………。

 一瞬そんな言葉が脳に過ぎる。

 

「ですが押したら動けそうです!」

「この状況でそんな事は出来ねえよ!?」

 

 桜花さんが声を上げた。

 

「リリだってわかってますよ! ですがこれ以外もう方法が!」

 

 ———《ヴォォオオオオ!!!》

 

『!?』

 

 ドスンドスンと重い足音と共に僕たちに近づくゴライアス。

 岩を退かすしか方法がないのならば。

 

「僕がアイツの注意を引くから、その間に岩を退かして!」

『なっ!?』

「無茶です!」

「【未完の少年(リトル・ルーキー)】お前は死にたいのか!?」

「こんな所では死なない! 僕にはみんなを地上に連れて行く約束があるから!!」

 

 ヘスティア・ナイフとヴェルフが作った片手剣を抜き、そのまま魔法を纏わせた。

 

 ———『轟け! 不滅の雷(ユピテル)!』

 ———『燃え上がれ! 不滅の炎(ヴェスタ)!』

 

 残された体力も魔力もそこまでない。

 

「5分だ! 僕は5分だけ時間を稼ぐからその間にどうにか岩を動かして!」

『ッ!!』

「みんななら出来る! 僕は信じてるから!」

「あいつ…………」

「ベル様!」

「リリ! スクロールはもう温存しなくていい! 岩を退かすために使って!」

「うぅ……わかりましたッ!!」

 

 仲間であるみんなに全てを掛けて、僕は踏み出す。

 さあ、巨人(ゴライアス)よ! しばらくは僕に付き合って貰うか! 

 

 

 ☆

 

 

 不滅の雷(ユピテル)不滅の炎(ヴェスタ)で具現化した剣達の切れ味にはそれなりの自信がある。

 けどコイツの相手にはそれがあんまりにも意味を為さなかった。

 

「クッ!!」

 

 コイツはもう斬り難いって言うレベルじゃない! 

 それなりに切り傷を与えたがどれもが浅くて、致命傷にならない傷ばっかりだった。

 

 ———《グォオオオッ!!》

 

 僕は脚力を活かし、攻撃して離脱そしてまた攻撃して離脱をひたすらに繰り返した。

 最初、攻撃のタイミングは片方別々に攻撃していたがレベルの差が開きすぎている為僕の攻撃は弾かれてしまう。

 そこで僕は両手にある剣で一箇所同時に攻撃を試みた、その結果は今の浅い切り傷だった。

 

「チクチクにしか感じられないかもしれないけど、注意を引くには十分だよ……ねッ!!」

 

 グサっと剣を奴の硬い肉に斬り刻んだ。

 

 ———《ギュアァアアアア!!!》

 

 効果は上々、今のゴライアスは僕しか見ていない。

 だがもし一瞬でも集中が切れた場合、僕はミンチになるの間違いなし。

 

《ドガン!》《ドガン!》《ドガン!》

 

 ずっと自分の足元にうろちょろしている僕を狙うかの様に、ゴライアスは何度も何度も自分の足元周りを攻撃し続けた。

 

『もう少しです! せ──ーの!!』

『うぉおおお!!』

『根性ッ!!』

『開けェ!!』

『早くしないと【未完の少年(リトル・ルーキー)】がッ!!』

『桜花様さっきからそればっかりでうるさいです! 気が散ります!』

『理不尽だァッ!!』

 

 遠くからは岩を退かしているリリ達の掛け声が聞こえた。

 さあ、もう一頑張りだ! 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 戦い始めてからどれぐらい経ったのだろうか? 

 わからない、わからないけれどハッキリしているのは自分の意識が朦朧とし始める事だけだった。

 僕はゴライアスの攻撃を見極めつつ全て避けなければならない…………それなのに足が重くて仕方がない。

 今までは不滅の雷(ユピテル)で無理矢理動かしたからまだ対処は出来るが、ついにその限界が僕を襲った。

 

「ハァ…………ハァ…………」

 

 ———《グェアァアア!!》

 

 朦朧とした意識の中、ふっとゴライアスの方を見た。奴はまるで見つけたぞと言いたそうに僕を見下ろした。

 

「…………まだまだ捕まるわけにはいかないよ」

 

 ———『轟け! 不滅の雷(ユピテル)!』

 

 もう一度、疲れ切った身体に魔法を纏わせた。

 魔法のお陰でもう一度動く事は出来たが、今度は激痛が僕を襲う。

 

「いッ!?」

 

 疲労が蓄積された今の状態で調整が上手く出来るはずもない、その為僕は魔法で直接身体を動かす事にした。

 腕が、脚が、骨が、僕の身体の全てが一斉に悲鳴を上げた。

 けどみんなの為に止まるわけには行かない…………。

 

 ———《グォルォァアア!!!》

 

 再び僕を見失ったゴライアスは怒り狂った、奴は拳で何度も地面を殴り始めた。

 一応躱すことには成功したが、どれもがかなりギリギリだった。

 

《ドンッ!!》

 

 その時、リリ達が居た場所から音が鳴り響いた。

 

『ベル様ァ!! 道が開ました!!』

『【未完の少年(リトル・ルーキー)】!! 早く来い!!』

 

 リリと桜花さんの呼び声は僕だけではなく、ずっと僕に集中したゴライアスもそれに気づいた。

 

 ゴライアスは近くに有った岩を拾い上げ、そのままリリ達がいる方向に投げ出した。

 

「リ、リリ逃げてッ!!」

 

 けどその岩は空中で粉々になった。

 

 

 

 

 

 —————『ウインド・アロー』×200!! 

 

 

 

 

 

 見慣れた魔法によって。

 

「よかった…………間一髪だったよ…………ベル、リリちゃん遅くなってごめんね?」

 

 ボロボロな姿の自慢の姉が空中で舞っている。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 血だらけでボロボロの白い兎事、ベルがゴライアスと戦っている最中に私がやって来た。

 事の顛末は16階層に入った瞬間、ベル達の気配が17階層にあると感知した私はすぐ様に『浮遊(フライ)』と『噴射《ジェット》』を駆使しながら最速最短でここへ向かった。

 着いた時にはゴライアスがリリちゃんに向けて大きな岩をぶん投げた瞬間だった。

 勿論、そんな事を許すはずもなく魔法を使って空中で岩を破壊した。

 

「よかった…………間一髪だったよ…………ベル、リリちゃん遅くなってごめんね?」

 

 ベルは潤んだ瞳でこちらを見ていたが、すぐ様にゴライアスの方に注意を向けた。

 

 ———《ゴオオオアアアアアッッ!!!》

 

「うっさい!!」

 

 —————『アース・ピラー』×100、そして『圧縮(コンプレス)』に『固定』

 

 魔法でゴライアスの動きを封じ込み、私はベルの前に降りた。

 

「酷い怪我…………大丈夫?」

「レフィ姉だってボロボロだよ?」

「じゃあ、お互い様だね」

「うん、そうだね…………あれ? レフィ姉……目の色が変だよ?」

「えっ!?」

 

 唐突にベルは衝撃的なことを言った。

 

「あっ、元に戻った」

「ちょっと待って!? どう言う事!?」

「それがね、さっきまで右目が翠色なんだよ?」

「う、嘘…………」

 

 目の前に『水の鏡(ウォーターミラー)』を使用し、自分の目を見た…………そこにはいつもの様に碧色の瞳があった。

 変わっていたなんて…………今までそんなの気付いてなかった…………。

 いやまあ、起きてからはずっと必死にベル達を探しているのだからそんな事に気にしている余裕はなかったと言えばそれまでなんだけど…………。

 やっぱりあの場所に何かがあったんだ…………。

 

 ———《グォォォオオオオオオオオオオッ!!》

 

《ミシミシッ》

 

 そんな雄叫びが何かが壊れる音と共に聞こえた。

 

「家主がうるさいからそろそろ行こうか?」

「…………え? いや、まあ、はい」

 

 私が歩き出すと。

 

「レフィ姉、待って」

「なに?」

「全身が痛くて動けない…………」

 

 ベルは涙目でこちらを見つめる。

 

「しょうがないなぁー、ほい!」

 

 ベルに回復(ヒール)を掛けた。

 

「…………まだ痛い」

「ああ、それ絶対に骨折ったね。じゃあ、18階層に着いたらエリクサーを飲むのよ?」

「…………はい」

 

 ベルを『浮遊(フライ)』で浮かせて、そのまま杖に引っ掛けた。

 

「え、えっと?」

「ここまま運ぶよ」

「え?」

「私も疲れてるから、ベルはこのまま運ぶ事にする」

「アッハイ、もうそれでいいです」

 

 杖に引っ掛けたまま、ベルを連れて歩いた。

 

「姉との感動の再会の筈なのに……なんか…………違う気がする」

 

 これでも十分感動的と思うけどね? 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 それを見た桜花はこう思った。

 

「アイツら、目の前に階層主がいるのによくあんな普通に喋るな」

 

 それに対してリリルカはこう答えた。

 

「まあ、レフィ様とベル様ですから」




ここまで読んで頂きありがとうございます。

リリルカの戦闘スタイルはどれがいいですか?

  • 剣で近接スタイル
  • スクロールやクロスボウで遠距離
  • 精霊やモンスター契約して召喚士かテイマー

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