私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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本格的に始まる前までの穏やかな日々です


穏やかな日常

【ロキ・ファミリア】のホーム、黄昏の館にて二つの人影が格闘戦を繰り広げる姿があった。

 

「クッ!」

「オラッ! どうした!」

 

 その影の正体は、英雄に憧れた白い少年、ベル・クラネルだ。

【ヘスティア・ファミリア】所属のレベル2冒険者であり同時にその派閥の団長でもあった少年だ。

 そんな彼と戦っているのは狼人の青年、ベート・ローガ。

【ロキ・ファミリア】所属の“レベル6”の冒険者だ。

 

「……もう終わりか?」

「ま、まだまだ行けますッ!!」

「ハッ、だったら構えろ」

「はい! お願いします!」

 

 ベルはベートに攻撃を繰り出したが、ベートはそれを軽く受け流した。

 だがその行動を既に予測していたベルも直ぐ様にもう一度拳を突き刺した。

 

「甘いッ!」

 

 ベートはそんなベルを蹴り上げた、それでも蹴られたベルは反撃を行う、空中で無理矢理身体をひん曲げながら蹴りを繰り出した。

 

「ハッ! 多少はマシになったか! だがな———」

 

 ベートはその蹴りを繰り出した足を片手で掴み。

 そのままベルと地面に叩きつけようとした。

 

「クッ!!」

 

 地面に叩き付けられる前にベルは自由な足を利用して、もう一度攻撃行った。その蹴りはベートの顔に直撃していたものの、彼らの間にあるレベルの差で対したダメージにはなっていない。

 

「グァッ!?」

 

 少年はそのまま鈍い音と共に地面に叩き付けられた。

 

「ゲホッ……はぁはぁはぁ……」

 

 彼は苦しかった息を整えながら、自分を見下ろしてる青年の顔を見つめた。

 

「今のは良かったが、勢いが足りねぇな」

「ハァハァ……そう……ですか……」

「その上に初動は悪いな、あんなんじゃ格上には通用しねぇ」

「……はい」

 

 素直に助言を受け入れたベルに対してベートはなんとも言えない顔を浮かべた。

 

「ったく、テメェは得物があればもっと上手く行くなんて文句言わねえな」

「だ、だって……どう言う状況であっても……戦える様にって教えたのは……ベートさん達じゃないですかぁ……」

「ハッ、いい子ちゃんかよ…………とりあえず息が整うまで喋んな」

 

 青年の言葉にベルは小さく頷いた。

 その後彼はゆっくりと息を整えながら、やって来る人物に視線を動かした。

 

「あんたはもう少し優しくは出来ないわけ?」

 

 やって来たのはティオネ、彼女もまたベルに戦闘技術を教えてくれた人の一人だ。

 

「あ゛ぁ゛!? うるせえぞ、バカゾネス。俺のやり方で文句を言うんじゃねえ」

 

 ベートは面倒くさそうにティオネを見つめた。

 

「こんなにボロボロにされたら文句の一つや二つも出るわよ!」

「それはテメェだって同じだろうが!」

「うぐっ!?」

 

 そう、彼女はこう言っていたが彼女もまたベルをボロ雑巾みたいになるまで模擬戦を繰り返したりしているので、ベートとは大して変わらない。

 そんな二人の言い争いを見ているベルはふっと思った。

 

 ———「僕の周りには鬼しか居ないのかな?」

 

 二人が言い争いをやめた後も彼の訓練は暫く続くのでした。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 訓練を終えたベルはオラリオの街に一人で歩いていた。

 

「いっててて……筋肉痛は明日までには治るのかなぁ……」

 

「あの二人張り切り過ぎるよ……」と内心に思いながらも苦笑を浮かべた。

 

「……それにしても今日は……やけに視線を感じるなぁ」

 

 だが今日の視線はいつものと違い、その視線は彼を舐め回す様な視線とまるで親の仇を見るような視線だった。

 そしていつもの視線とは違うもう一つな理由は今回の視線の元がハッキリしている点にある。

 

「う──ん、何かするって訳でもないし……今は気にしても仕方ないか……」

 

「ハァ……」とため息を吐き、ベルは足取りを早めた。

 向かう先はこの最近毎日来ている場所だ。

 だがその場所も今日に限ってやけに騒がしい。

 

「……お、お邪魔します」

 

 ゆっくりとドアを潜り、騒がしかったその部屋に居る人達は一斉にベルに視線を移した。

 

「あっ、ベル。いらっしゃい」

 

 最初にベルを迎え入れた部屋の主であるレフィーヤ、彼女はいつもと変わらない笑顔でベルを語りかけた。

 

「きょ、今日は騒がしいね」

 

 ベルは困った顔でそう言った。

 

「明日はレフィたんが退院やから! パッとお祝いせんとあかんやろ?」

 

 女神ロキはそう言ったものの、彼女の隣に立っているハイエルフのリヴェリアは額に軽く指を当てながらため息を吐いた。

 

「それとは別に、我々は彼女を港町(メレン)への旅に誘うつもりで来ている。まあ———」

「ちょうど今それが見事にフラれた所やけどな! …………ホンマになんでや!!」

「ボクも行っていいと思うよ? 偶にはいいじゃないか」

「いいえ、私一人で【ロキ・ファミリア】の楽しい旅行を邪魔するの……ちょっと気が引けるというかなんて言うか……」

 

 レフィーヤは申し訳なさそうにそう答えた。

 

「いやいや、それは今更だと思うよ」

「せやな」

「ええ、そうね」

「ああ」

 

 けれどヘスティア達はそんな彼女の考えを即座に否定した。

 

「そ、それでもです!」

 

 ベルはそんな彼女らのやり取りに対してただ「へぇーそうだったんだぁー」とバカみたいな感想を抱いたものの、話の中心にいるレフィーヤは申し訳なさそうに何度も謝っていた。

 

 ロキは「もうレフィたんの水着を用意してあるのに!!」と泣き喚くが、リヴェリアはそんな彼女の頭を軽く杖で叩いた。

 

「イテッ!?」

「だから返事も貰ってもいないのに買うなって言っているだろ」

「それでもウチはみんなで行きたかったんやッ!!」

「ここは病院だから少しは声を下げろ!」

「リヴェリアの鬼や!」

 

 みんながそんな二人の言い争いとは別に真顔でレフィーヤの杖を見ている神物が一人いた。

 

「へファイストス様?」

 

 ベルは彼女に声を掛けたが、返事はなかった。

 

「へファイストス様!」

「!!」

「大丈夫ですか?」

「……ごめんなさいね、少し考え事していたわ」

 

 そう言いながら彼女は杖をレフィーヤに返した。

 

「……今の所問題点はなかったわね」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 レフィーヤは受け取った杖をそのまま指輪に収納した。

 ロキはそれを興味深そうに見つめた。

 

「やっぱそれええな」

「便利には便利だが私やレフィーヤの様な膨大な精神力(マインド)所有者でなければまともに運用出来ないのはあんまりにも欠陥品だ、必要な精神力(マインド)の割に収納可能な物が1つだけなのも問題だな」

「確かにそれはそうやけど、あれはロマンやろ?」

「ロマンって言われても私にはよくわからないな」

「リヴェリアママもまだまだやなぁ……イテッ!?」

 

 ロキの頭に再びリヴェリアの杖が直撃した。

 

「それはそれとして、港町《メレン》に行かないのはわかった。アイズ達にもそう伝えておく」

「せっかく誘ったのにごめんなさい……」

「気にするな、ロキが暴走しているだけだからな……」

 

 それから彼女らは雑談しながら時間を過ごした。

 

「ムッ、もうこんなに遅くなったか。ロキ、帰るぞ」

 

 リヴェリアは駄弁っているロキに声を掛けた。

 

「えぇーもうかいなー」

「我が儘を言うな、レフィーヤは病人だぞ」

「ハァーしょうがないか」

 

 リヴェリアとロキが立ち上がると同時に、へファイストスも立ち上がった。

 

「なら私も帰るわね、これ以上邪魔をするわけにも行かないだもの」

「ボクも帰るよ、ベル君は?」

「僕も帰りますよ、リリがホームに待っているだろうし」

「そっか、皆さん気を付けてね」

 

 レフィーヤに見送られながら、彼女達は部屋を後にした。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

主人公はメレンには行かないです。

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