私たちは槍を抜いたベルと共にヘルメス様にとある場所に案内された。
それは———。
「自分の部屋より見たディアンケヒトの治療院……」
「何を言ってるんだいキミは……」
呆れた顔で私の隣に歩いたヘスティア様。
いえ、なんとなく言いたかったです。
「ヘルメス様、ツアーの“スポンサー”はここに居るのですか?」
大事そうに槍を抱えたベルは先頭に歩いているヘルメス様に質問した。
「その通りだぜ、ベル君。さあ、ここで時間を潰すのは勿体ない! いざっ! あの女神の元へ!」
今回のツアーのスポンサーは女神なんだ……。
あっ、でも確かに純潔なる女神とかなんとかって言っていたね。
「……純潔たる女神……いや……でも……まさか!?」
ヘスティア様はどうやら心当たりがあるらしい。
「ヘルメス! まさかここに彼女が居るのか!?」
いきなり騒ぎ出すヘスティア様にヘルメス様を除いたメンバーは驚きを隠せなかった。
「……やっぱりヘスティアは気づくか……ああ、居るよ」
ヘルメス様は帽子を深く被りながら答えた。
「何故彼女がここに!? 何か事故でも遭ったのかい!?」
「と、とりあえず落ち着こうか」
「落ち着いていられるかッ!! アルテミスに一体何が起きたんだ!?」
「あ、会いにいけばわかるから落ち着いてくれ」
見た事ないぐらい焦りに満ちたヘスティア様の顔に私は驚いた。
「ヘスティア様ってあんなに風になるんだね……」
ベルとリリちゃんは何故かお互いの顔を見合わせてから苦笑いをし始めた。
「いえいえ、レフィ様が倒れる度にああなりますよ?」
「だね」
一番後ろに歩いていたヴェルフさんもまた困ったそうに笑った。
「18階層から帰った時もこんな感じだったな」
「ですです!」
「まあ、でも毎回毎回心臓に悪いよね……」
「確かになぁ、あの時は俺ら全員めちゃ焦ったからな」
「ですがご本人は自重しないのでどうしようもないです!」
三人揃ってウンウンと納得していたが……ねえ君たち、話変わってない?
ヘスティア様の話だったよね?
「ベル君、君たちはそこで何をしているんだ? 置いていくぞ?」
もうかなり離れているヘルメス様に呼ばれて、私達は止まった足を再び動かした。
☆
案内された部屋は最上階にあった神用の治療室……って言うものらしい。
そんな部屋に一体どんな女神が待っていたのでしょうか?
あっ、ヘスティア様がそのまま部屋の中に走り出した!?
「……何があったのかな?」
「今回の女神様はへファイストス様やヘルメス様と同様にヘスティア様との同郷の方なのでしょうか?」
「神様の反応見る限りはそうみたいだね……」
「それだったらへファイストス様も呼ぶべきだったな」
アルテミス……ヘスティア様は確かにそう言った。
一体どんな女神なのかな?
『アルテミスうううう!!! アルテミスぅううううう!! アルテミスぅううううううう!!』
廊下にまで響くヘスティア様の泣き声。
私は更に足取りを早めた。
「ヘスティア、私は平気だ」
「そんな事言って! そんな事言ってッ!!!」
「やれやれ……」
そして、部屋に着くと、そこには泣きじゃくるヘスティア様と困った表情のヘルメス様とベッドに横たわっている女神の姿があった。
それからしばらくして、ようやくヘスティア様が落ち着きを取り戻した、そこでアルテミス様が私達の方に視線を移す。
「この子達はヘスティアの眷族……なのか?」
「ぐすん……一人は違うけど……うん」
「なるほど……男も居るのは気になるが……」
ベルとヴェルフさんの方にちらっと見た彼女はそう言った。
「き、キミは相変わらずだね」
「当たり前だ! 不純異性行為は……いや、今はやめとこう……」
「アルテミス?」
アルテミス様は一度深い息を吐いて、槍を持ったベルを真っ直ぐと見つめた。
「あなたが……その武器を抜いたのですね」
「は、はい! へ、【ヘスティア・ファミリア】所属のベル・クラネルと言います!」
赤面をしながらベルは自己紹介をした。
あの子は美女神や美人にはまだまだ慣れないね……。
「……では“オリオン”……どうか私に力を貸して欲しい」
「へッ!?」
オリオンと呼ばれたベルは思わず固まった……。
その顔は「あれ? 自分はもう名乗ったよね?」と言わんばかりの顔色を浮かべた。
そもそもオリオンって誰の事?
いや———
「力を貸して欲しいって……どう言う事?」
「やっぱツアーなんて嘘じゃねえか!」
「レフィ様、直ぐにヘルメス様を詐欺罪で訴えましょう」
リリちゃんに睨まれたヘルメス様はアルテミス様の隣にやってきた。
「そ、それについては許して欲しい。実はこのツアーの本当の目的は
頭を下げながら彼はそう説明した。
「「
リリちゃんとヴェルフさんの声がハモリ。
「討伐……」
ベルは手に持った槍をじーっと見つめながら呟いた。
「なら何故大きな派閥に依頼しないのですか?」
私は最大の疑問をヘルメス様に聞いた。
「タイミングが……悪かった……としか言いようがないね」
「タイミング?」
何故?
「アルテミスがその情報を持って来たのは昨日の事だ、その際に既にロキは港町《メレン》に出発した……そしてあちらにもトラブルが起きて、直ぐに引き返せないとの事だ……残った実力のある団員達も
目を瞑りながら【ロキ・ファミリア】の現状を教えてくれた。
なら———。
「【フレイヤ・ファミリア】は!?」
「【ロキ・ファミリア】が
【ガネーシャ・ファミリア】だけでは抑えれない何かが起きた場合、オラリオが崩壊すると考えると……否定は出来ない。
「ヘルメス様自身の眷族達は!?」
「彼らは昨日の時点で既に先行部隊として送ったよ……リューちゃんも連れてね」
【ヘルメス・ファミリア】もそれなりな戦力を持ったファミリアだ、殆どの団員がレベル3の冒険者に加えてレベル4のアスフィさんとリューさんが居る。
「ならば十分じゃないですか!?」
そう十分、戦力はもう十分すぎる筈だ。
それなのにヘルメス様は申し訳無さそうに頭を横に振った。
「……今回の
「時間が……足りない?」
「その通りだよ、レフィーヤちゃん。今この時でさえ……あの
ヘルメス様は一度口を止めた……。
「一体……どう言う
「古代に存在していた最悪の
「いにしえの……」
「そしてそんな最悪の
「それはどう言う……」
私だけではなく、周りに居るみんなも息を飲んだ。
「24階層で君が見たあの不気味な宝玉……あの
ヘルメス様がそう告げた。
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