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ベルは重い足取りで野営地に戻った。
結局、アルテミスとの話し合いはそのままで終わっていた。
「……僕だけじゃ……なんの意味も無い……わかっているつもりなのになぁ……」
自分だけではアルテミスの自滅さえ恐れない復讐願望を止める事は出来なかった。
「……やっぱり神様の協力が必要不可欠だよね」
そんな言葉が思わず溢れた。
「ボクがどうしたんだい?」
すると心配そうにベルを見つめたヘスティアが現れた。
「……神様……どうして?」
「こっちの方からアルテミスの神威を感じたんだ、だから様子を見に来た……と思っていたらキミが居たんだ」
ヘスティアの言葉を聞いたベルは納得した。
自分の主神はアルテミスが放出した神威を感じない訳がない。
「アルテミスが放ったアレはキミと関係があるのかい?」
「……はい」
女神のしつもんに対してベルは短く答えた。
「そっか……」
それを聞いたヘスティアは小さくため息を吐いた。
「……僕はただアルテミス様に生きて欲しかったんです」
ベルは悔しそうにそう言った。
「……何故そこまで知っているんだい?」
「レフィ姉が……」
「なるほど、それは納得だ……」
ベルの答えにヘスティアは思わず笑った。
「勿論、ボクだってアルテミスに生きて欲しいんだ……けどね、ベル君」
ヘスティアは空に浮かぶ月を見上げた。
「……あの“痛み”はアルテミスにしかわからないんだ。……そしてアンタレスが居る限りアルテミスもまたその“痛み”を乗り越える事が出来ない……とボクの偏見だ」
「ですが……」
「うん、わかっている。アルテミス自身が用意したアンタレスへの切り札は……それは彼女自身だ。あの“槍”は———いや、正確には”矢“かな? あの“矢”を放てば確かにアンタレスを葬る事は出来る、だが———」
「その“矢”の起動にアルテミス様自身の魂が必要不可欠」
ベルの言葉を聞いたヘスティアは泣きそうな顔で頷いた。
「……あの“矢”は本来の“矢”とは違う、本来はただ神の力だけで発動する筈のモノがあの子が無理矢理それを変えたんだ……それだけアンタレスに対するアルテミスの憎しみが深いんだ」
「……」
「……すまない、ボクはもう行くね? アルテミスが心配だ」
「いいえ、そもそも僕が悪いんですから」
「ううん、そんな事ないさ。ボクだって同じ気持ちだよ……ただやっぱりボク達ではアルテミスの傷を癒せないんだ……」
そう言って、ヘスティアはアルテミスが居るはずの泉の方に歩いた。
☆
神様が居なくなって僕はただ静かに空を見上げた。
“矢”を使えば世界を救える……一人の女神を犠牲にだ。
「……そんなの間違っている」
その呟きと共に思わず拳を強く握りしめた。
「……僕が目指している英雄は……誰かを犠牲にして成るものじゃない」
ドクンっと心臓の鼓動が高鳴った。
「……アルテミス様の悲劇を悲劇のまま終わらすなんて……絶対に嫌だッ! ……泣いている女の子を救えない英雄なんて……そんなの……”間違っている“ッッ!!」
そうだ!
お爺ちゃんはいつも言ってるじゃないか!
英雄に成りたいなら己を賭けろッ!
ベル・クラネル……お前は一体何に迷っているんだ?
答えなんて最初からわかっているじゃないか!?
「……全てを賭けろ……全てを賭けた上に……
そうだ、世界か女神かを選ぶ必要なんてない!
両方を救うんだ!
「”槍”が無ければ討伐不可能? ……いいや、不可能なんてないッ!」
そんな不可能を可能にした人物を誰よりも知っているじゃないかッ!
弱気になってどうする!?
「……レフィ姉、僕はやるよ……全てを賭けて……こんな悲劇を……喜劇にするんだ」
それが“僕”の願いだから。
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