私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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ヴェルフの魔法が反則過ぎると思う今日この頃。


アンタレス(4)

 ———キィィィイイインッ

 

 そんな音と共に放たれたアンタレスの熱線が鳴り響いたその一方、アンタレスの眷族と戦っている他のメンバーもまた苦戦を強いられていた。

 

「コイツ、想像以上に硬いッ!」

 

 ファルガーが繰り出した攻撃は本の微かなダメージしか与える事が出来なかった。

 

「クッソッ!」

「このッ!」

 

 他の【ヘルメス・ファミリア】のメンバーも同様だった。

 そしてそんな【ヘルメス・ファミリア】のメンバーでさえ苦戦している相手に、ヴェルフとリリルカはそれ以上に苦戦を強いられた。

 

「……ダメだッ!? 剣が完全に弾かれる!」

「リリの矢もダメです!」

 

 そんな苦戦を強いられた二人に小人族(パルゥム)の双子の一人であるポッツが声を掛けた。

 

「仕切り直しの為に一回下がりましょう!」

 

 彼女の提案にリリルカとヴェルフは敵から距離を取った。

 だが敵もそんな彼らに撤退する隙を与えるつもりなど無く、再び魔法を放とうとしている。

 

「させるかッ!」

 

 ヴェルフはそんな敵に目掛けて己の手を翳した。

 

「燃え尽きろ、外法の業ッ! 『ウィル・オウィスプ』ッ!」

 

 次の瞬間、凄じい爆音と共に倒れるアンタレスの眷族がそこにあった。

 

「……す、すごっ」

「魔剣だけの人じゃなかったね」

 

 ヴェルフの魔法に素直な感想を抱いたリリルカとポッツ。

 

「……マジかよ」

 

 放った張本人はと言うと驚きのあまり言葉を失う程でした。

 

 ———キィィィイイイン

 

 するとアンタレスの熱線がヴェルフを襲い掛かった。

 

「ヴェルフッ!!」

 

 一足先にそれに気づいたベルは熱線がヴェルフに到達する前にその攻撃を左手に持った火の剣で無理矢理受け流した。

 

 ———パリンッ

 

 ベルの剣が本の一瞬しか持たなかっただが、その本の一瞬はヴェルフを救うのには十分な時間だ。

 ヴェルフが無事に退避出来たを確認したベルは腰からもう一本の短剣を抜いた。

 

「燃え上がれ……『不滅の炎(ヴェスタ)』ッ!」

 

 抜かれた短剣が姿を変え、先程折れた剣と同じ形となった。

 

「ベル、すまんッ!」

「気にしないで!」

 

 謝るヴェルフの言葉に反応した物のベルの視線はアンタレスから外れる事はない。

 

「クラネルさん、大丈夫ですか!?」

 

 心配そうに駆け寄るリューにベルは小さく頷いた。

 

「ベル・クラネル、アンタレスは脅威で我々の対処優先度を変えたと思われます」

 

 そしてやって来たアスフィの言葉を聞いて、ベルは顔を顰めた。

 するとアスフィは言葉を続けた。

 

「……つまり、アンタレスにとって最も排除しなければならない相手はヴェルフ・クロッゾって事になります」

「理由はやっぱり……」

 

 ベルの言葉に頷くアスフィ。

 

「ヴェルフ・クロッゾの魔法がヤツを倒す鍵の一つになります」

「……でもアンタレス自身は詠唱をしていません、ヴェルフの魔法は相手の魔法発動のタイミングを合わせないと成功しません……」

「……ならばそのタイミングを探るまでですッ!」

「「了解!」」

 

 再び動き出す三人や他のメンバーは気づかない……狂気に満ちた視線で彼らを見つめた第三者の存在に。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 僕らとアンタレスとの戦闘は激しさを増した。

 残った眷族の一体を倒す事に成功した、眷族が居なくなった事で戦闘が多少楽になると思っていたが……現実はそんなに甘くはない。

 

 ヴェルフの魔法を警戒していたアンタレスは魔法を使う事なく、その強靭な肉体で僕らを襲う。

 魔法による広範囲攻撃が封じられる事に成功したはいいけれどアンタレスの外殻が硬すぎて確かなダメージを負わせる事は出来なかった。

 それを打開する為に僕らはなんとか集中砲火でヤツを攻撃したが……ようやく負わせた傷が直ぐに再生されるっていう事実に我々は言葉を失った。

 

 何よりも戦闘が長引くに連れてアイテムや装備が徐々に無くなった。

 そしてそれは僕にも同じだ、携帯した精神力(マインド)ポーションが残りの一本となった。

 武器の方は【ヘスティア・ナイフ】は兎も角、ヴェルフが作ってくれた短剣の方は嫌な音が聞こえ始めている。

 

「……これ以上長くなると確実に負けてしまう」

 

 頭の中に様々な戦い方を描いてみたが、どれもこれもがアンタレスを倒せるとは思えない……。

 最も現実的な討伐方法はやはり背中にある“矢”を使うと言うのは嫌でも理解したが……僕がその選択を選ぶ事はないでしょ。

 

 ———となると残された最も勝率が高い方法は、僕らが持ってる最大火力を使った一斉攻撃をアンタレスの魔石に叩き込む事になる。

 

 アスフィさん達はあんまり把握出来ていないけれど少なくとも、リューさんはあの『広範囲魔法』(ルミノス・ウィンド)、リリにはレフィ姉が託した“矢”、ヴェルフには“クロッゾの魔剣”、そして僕には18階層でやった、フルチャージの『英雄願望』(アルゴノゥト)……。

 だが問題はアンタレスが僕らにそんな準備を終える程の時間を与えてくれるとは思えない。

 

前回(18階層)みたいに上手くいく訳ないよね……」

 

 この戦いの終わりはまだ見えない。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ———ガタンッ

 

 あるテントの中からそんな音が響いた。

 

「だ、大丈夫ですかッ!?」

 

 留守番を任せられた【ヘルメス・ファミリア】所属の冒険者の一人が音を聞いてテントに駆け寄った。

 

「…………」

 

 眠った筈の少女が立っており、手に持った杖を握り締めながらゆっくりとその瞼を開く……。

 

 開いた瞼の先には翠色の目が綺麗に輝いた。




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