7/5)23話の路地裏戦線と24話の妖精の想いを1話に纏めました。
唐突に【ヘスティア・ファミリア】の前に現れた二匹のモンスター、シルバーバックとヘルハウンド。片方は10階層に出現する大猿のモンスターで、もう片方は中層に出現するモンスターだ……。シルバーバックは恐らく女神フレイヤがベルのために解き放ったモンスターだよね、それならこのヘルハウンドはなに!?
浮かぶのは昨日の『猛者』との遭遇……これも女神フレイヤが送ったモンスターだって言うの!? こんなの下手すると大火事だよ!? なに考えてるんだあの女神は!?
「シルバーバックにヘルハウンド!? な、なんでここにこいつらが!?」
「ま、まさかガネーシャの奴、モンスターを逃しちゃったのかい!?」
「ベル! 神様! そんなのは後! とにかく逃げましょ!」
「う、うん!」
「確かにキミの言う通りだね」
「被害が広がらないように、出来るだけ遠くに逃げましょう! ベルは———」
言葉をいい終える前にシルバーバックはヘスティア様に襲いかかった。それに気づいたベルはすぐさま彼女の手を引き、この場から離れたがシルバーバックも二人を追ってここからいなくなった。
一方、ヘルハウンドは未だこっちの様子を伺うようにこの場に残っている。……やっぱりこのヘルハウンドは私の足止めの為に解き放ったモンスターみたいだ。そしてよく見てみればこのヘルハウンドはエイナさんが教えてくれたヘルハウンドと所々が違う……、すなわち強化種。【ガネーシャ・ファミリア】はこんなとんでもないモノをよく捕まえたね!? ……そう考えているうちにヘルハウンドが動き、その口の中から炎が吐き出され、私を襲った。
「……遠距離攻撃をしてくるモンスターは初めてなんですけど!?」
炎を躱しながらその場を離れた私。そして後ろから何度も炎が私を襲う。
洒落にならない!? ここは煉瓦造りだからよかったけど、周りの家が木造の場合は被害がやばいことになってるよ!?
立ち向かうしかないけど適正レベル2のモンスターに勝てるのかな……。
……いいや、やるしかない、そう! やるんだ! 炎に対抗するには水! だから———
『集え、水の矢たちよ! 我が敵を貫け!』
『ウォーター・アロー!!』× 50
私が放ったウォーター・アローがヘルハウンドに直撃した。……けれどヘルハウンドは傷一つなく未だその場に立っている。
「えぇ!? う、嘘……50本を撃っても無傷ってどんな耐久力持ってるのこいつ!?」
ヘルハウンドは次はこっちの番だと言わんばかりに再び炎を吐き出した。その炎は先程とは比べ物にならないほどの大きさと熱量を持って私を包みこんだ。
街の一角に爆発の音が鳴り響いた。
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「むっ? あれはなんだ? ……お前たち、私は様子を見に行くからここは任せるぞ」
「リヴェリア、私も行く」
「わかった、なら早めに向かおう」
「うちも行くでー、面白そうやからな!」
その場含め暴れたモンスターを凍らせた妖精の女王を含めた数人は爆発が起こった方向に向かっていた。
「あら? 少しやり過ぎたみたいね、まあいいわ、あとでウラノスに謝ればいいんだもの。そんな事より、彼が動き出したわ……、あぁ、いい! とってもいいわ! 魂が! 彼の魂が燃えてる! 凄く輝いているわ!」
元凶は気にする事もなく一人の少年に釘付けにされていた。
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し、死ぬかと思った……。咄嗟に自分の周りに土の壁を出したのは正解だった。それでも私が作った土の壁が徐々に崩れ落ち。それを見たヘルハウンドが再び炎を吐き出そうとした。
『大地の力は守るだけの力ではない』
思い出す、あの巨人の言葉。守るだけではない……直撃があんまり効果がないのならば、あいつの足場を先に奪えばいい! あいつが立っている場所を壊せばいいんだ!
『大地よ砕け!』
『アース・ブレイク!』
だが私の魔法に気づいたヘルハウンドはすぐさま私に突進し、その牙を立てた。
『風よ、私を守れ!』
『ウィンド・アーマー』× 10
咄嗟に発動した魔法で私を包んだそれは虚しく砕け散る。10枚を一撃で噛みちぎるヘルハウンドなんてもはや何だって言うんだ! こいつが12階層に居るだなんて絶対に嘘だ! 絶対もっと深い場所に居るはずの存在だよ!?
だがヘルハウンドは私に反撃のチャンスを与えるつもりはないようで、近距離で炎を吐き出そうと……ヘルハウンドの口の中がメラメラと燃え上がる。
『集え風よ、我が敵を撃ち抜け!』
『ウィンド・アロー』× 5
『水の鎧よ! 我が身を守れ!』
『ウォーター・アーマー』× 10
地面に向けて風の魔法を撃ちそれで無理矢理距離を作った上で体を水の鎧で包み込む、それでも少しはダメージを受けた私。一方でヘルハウンドはそれでも私を見逃すつもりなどないと言わんばかりに炎で私が逃げた先を薙ぎ払った。私に出来る事はそんな炎を水の矢で迎え撃つことしかできなかった……。
再び爆発が起きた。
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私の魔法とヘルハウンドの炎との衝突で発生した爆発、その爆風で私の体が壁に叩きつけられた。
「……グッ!?」
体が悲鳴を上げた……『神の恩恵(ファルナ)』を貰ったからこの程度で済んだけれど、一般人が食らったら間違いなく死ぬ。こいつは中層のモンスターの強化種、普通のヘルハウンドでさえレベル2相当なのに対してこいつは恐らくレベル3相当の実力を持っている。レベル1に成り立ての私には荷が重すぎる相手……。
先程の衝撃で出来た傷がかなり酷いせいなのか、意識が朧げになり、自分の思うように動けなくなり、立つのがやっとだ。ヘルハウンドはそんな私に向かって徐々に距離を縮め、そして私の前に立ったそいつは今まさに私に噛みつこうとしている。
(……ここで死ぬの? 家族を置いて死んじゃうの? ……そんなの! そんなの絶対に嫌!)
自身に残された力を振り絞り、魔法を発動させる。心でイメージするのよ敵を焼き払う炎の斧を! そしてイメージしろ、目の前に居る敵の守りを突破する業火の刃を!
痛みで喉が焼かれる程の感覚が襲う、相当ダメージを負った自分にとって、耐えがたいものだが———
(ここで死んで家族を置いて行くなんてことに比べれば、こんな痛みなんて生温い!)
『我が敵を断ち切れ、業火の戦斧!』
己に出せる全ての魔力を振り絞り発動させた魔法、そしてそれを追うように振りかざした魔法を敵に叩きつける。
私の行動に驚くヘルハウンドは為す術もなくその攻撃を食らった……が、その顔や片目に傷を負って尚立ち塞がるヘルハウンド。私の力と想いの全てを懸けた魔法でさえも耐え切ったそのヘルハウンドを見て、思わず涙が溢れた。
「……強いなぁ、私に出来る全てを受けてもまだまだ元気だなんて……この戦いはあなたの……勝ちだ……よ……」
悔しい……ここの奥底から感じる程悔しい。私は、もっと……もっと家族を守りたかった……ベルとヘスティア様ともっと一緒に居たかった……。こんな終わりかたなんて……。ごめんね、ベル……お姉ちゃんはここまでみたいだよ。
けれどここで私の思いも寄らない人物が助けに来てくれたのだった——
「レフィ君!」
「僕の姉から離れろ!」
意識が消える前に見たのは愛しい弟と女神の姿だった。
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ベルとヘスティアの登場により、ヘルハウンドは警戒心を高めた。弱そうに見えるベルだが何故か迂闊に手を出せない、本能が全力でこいつに手を出すのはいけないと感じた。
一方、ベルはヘスティアから新しく貰った
ヘスティアは怪我をしたレフィーヤに駆け寄り、彼女を抱きしめている。今にも泣きそうなヘスティアだがヘルハウンドが未だこの場に居るために下手な行動が出来ない。レフィーヤを連れて逃げたいのは山々だが逃げる途中で襲われたら自分たちは為す術も無く全滅するだろう。
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リヴェリア、アイズそしてロキが爆発現場に着いたのはベルたちが着く数分後だった。その彼女たちが着いた時に見たのは未だ動かないベルとヘルハウンド。そして大怪我をしたレフィーヤにそんな彼女を支えているヘスティア。
「アイズたん!」
「……わかってる!」
「リヴェリアはドチビたちの治療頼むで」
「言わなくてもわかる!」
ロキの命令一つで、凄まじい速度で敵に斬りかかるアイズ。それに気づいたヘルハウンドはすぐさま距離を取る。アイズはその速さに驚きながらも敵を逃さないつもりで再び速度を上げた。尚、ヘルハウンドはそれに気づき、すぐ様アイズたちの視界を奪うように炎を撒き散らした。
アイズは炎ごとヘルハウンドを切るつもりで彼女は剣を振るうが、ここで彼女の剣が彼女の力に耐え切れずに砕け散ってしまった。ヘルハウンドはそのチャンスを見逃さずにその場から離れていった。
リヴェリアの方はレフィーヤの治療を始めた。彼女の傷や火傷だらけのその体を見て、彼女は一人で先程の敵と戦っていたのだろうと当たりをつける。そんなレフィーヤの隣で心配そうな顔をしている少年もまた傷だらけだが火傷はなかった、つまり彼らは別々のモンスターに襲われて、少年の方は別の敵と戦って勝利した後にこっちに来たのだろう。
「ごめん、レフィ君……ボクがこれをキミに渡せばキミはこんな傷だらけにならなかったのに……」
彼らの主神も少年と同様に彼女から離れずにずっと隣で彼女の手を握りながら、謝罪していた。
「ドチビ、そういうのは結果論やから、気にせんでええんちゃう?」
「……ロキ」
「数日ぶりやな、うちとしてはこんな形で会いたくなかったわ」
「……助けてくれてありがとう」
「自分がうちに素直に感謝するのはむず痒いんやけど、まあ、ええわ……。それでなんでこうなった? うちにちゃんと説明しろや」
「ボクたちもよくわからないんだ、祭を楽しんでいる途中でモンスターが二匹現れて、ボクたちを襲い始めた。……そこからボクはそこに居るベル君と一緒にシルバーバックに追われて、レフィ君と離れ離れになってしまった。シルバーバックを倒した後にベル君と一緒にこっちに来たらもうこんな状態だったよ」
「……ツッコミたいのは山々やけど、今はええわ。リヴェリア、こいつらを連れてうちに帰るで。ドチビはそれで文句ないな?」
「ああ、わかった」
「……ないわけじゃないけど、今回は黙ってついていくよ。レフィ君の怪我もあるし」
リヴェリアがレフィーヤを運ぼうとした時、ベルは彼女に声をかけた。
「あの、僕が姉を背負いたいんですが、いいでしょうか?」
「……それは何故?」
「僕は姉を助ける事は出来なかった……。だからせめて、僕に出来る事をしてあげたい……」
「そうか、わかった。なら着いてきなさい」
「はい、ありがとうございます」
ベルはレフィーヤを背負って、リヴェリアの後を追うように歩き始めた。今、彼の頭には憧れの人を気にしてる余裕はなかった。そんな彼の後ろにはヘスティアとロキそしてアイズが続く。
「ほんまにドチビの眷属に勿体無いぐらいええ子たちやな……」
「言い方には引っかかるけど、確かにボクには勿体無いぐらいいい子たちだよ。だからなんとかしてあげたかったんだ」
「それでその自分が持ってるのがレフィーヤたんにあげたかったものってわけやな?」
「……”たん“って、うん、まあ、そうだよ。けどあげる前に離れてしまってね」
「さっきも言うたけど、そういうのは結果論や。だからそこまで気にせんでええとうちは思うで」
「……キミの言う通りなのがムカつくんだけどね」
「なんやと!?」
軽い口喧嘩をしながらヘスティアとロキは【黄昏の館】に向かうのであった。
一方、【剣姫】は……。
(剣の代金どうしよう……)
折った剣の事で頭がいっぱいだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。