私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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旧23話と旧24話を一つに纏めたのでよろしくお願いします。


魔導書(グリモア)

 レフィ姉やリリとの探索の日々を過ごしながら僕、ベル・クラネルは以前から欲しかったものへの願望が更に強くなっていた。お爺ちゃんが教えてくれた英雄譚の様な魔法が欲しいと……。姉に言うと十中八九「ベルもいつか魔法が発現するよ」と笑顔で答えてくれるけど。……勿論、姉の言葉を信じない訳じゃない、でもやっぱり僕も早く姉の様な魔法を使いたい。……全く一緒なのは無理だろうけど、せめて姉の魔法を一つ使えたら良いなとずっと思っている。……例えば魔法の矢とか魔法の矢とか? 

 

 そう思いながら僕は姉の頼みで『豊饒の女主人』に足を運んだ。姉はどうやらミアお母さんにレシピを提供し、お金を稼いでる様だ。こんな美味しい店に姉の料理が出ると誇らしく思うけど、いつの間にそんな事をしたの!? 僕はそんなの一言も聞いてないよ!? と思ったが借金の返済の為に自分が考えた料理のレシピを売った姉に対して非常に罪悪感を覚える。

 

「ベルさん、いらっしゃい!」

 

 僕を迎え入れたのはいつもニコニコしているシルさんでした。

 

「こんにちは、シルさん。今日はこれを届けに来ました」

「これは……レフィーヤさんのレシピですね。確かに受け取りました」

「お願いします」

「レフィーヤさんが考えた料理はすごく美味しいですよね、私、結構好きですよ? あっ、でも辛いのはダメです! あの辛い肉料理だけは無理です!」

「レフィ姉の料理、スパイスを沢山使う料理とかが多いですからね……。調味料が高いから日常的に作るには厳しいって本人も言ってました」

「確かに一般的にスパイスは高額品ですが、うちだと沢山使うので大量に仕入れてきてますよ」

「……羨ましいな、そんなに安かったら毎日頼みやすいのに……」

「もう! 何言ってるんですかベルさん! うちに食べにくればいいじゃないですか!」

「た、確かにそうですが……やっぱり姉の手料理が一番好きなんです……」

「…………相変わらず手強い相手ですね」

「シルさん?」

「いいえ、なんでもありません! 他に何か聞きたい事とかありますか? お客様の話をよく聞いているので意外と詳しいんですよ?」

「……え。えっと……」

「さあ遠慮せずに、私に聞いてください!」

「うーん……。その……ま、魔法を覚えたいけどどうすればいいかなって……」

「魔法……ですか?」

「……はい」

「魔法だとよく聞くのが本を読むと覚えたりするらしいです。エルフだと生まれつきで使えたりするのですけどね」

「……本ですか。恥ずかしい話ですが僕は英雄譚以外あんまり本を読まないんです……」

「なるほど……でしたら丁度いいのがありますよ!」

「丁度いいの?」

 

 しばらくするとシルさんは本を持ちながら戻って来た。

 

「これ、お客様の忘れ物ですが。初心者向けの魔法についての本らしいです。貸してあげますので読んでみては如何ですか?」

「えぇ!? 本人が探してたらどうするですか!?」

「大丈夫です! 私はベルさんを信用してるのでベルさんがこれを無くすなんて思えません。だから安心していいですよ?」

「うっ……あ、ありがとうございます」

 

 やや強引だったが、僕はシルさんから本を受け取り、今泊まっている宿に戻るのだった。

 

 部屋に戻るとレフィ姉も神様も居なかったので取り敢えず一人で本を読む事にした。

 

『ゴブリンにもわかる現代魔法! その一』

 

 この本のタイトルに関しては色々ツッコミたい気持ちだが、ここは黙って読む事にしょう。せっかくシルさんが貸してくれた本を読まずに返すなんて勿体無さ過ぎる。

 

「えっと、魔法は大まかに二つの種類に分かれている。生まれながらに使用出来る先天系魔法と『神の恩恵(ファルナ)』を授けられてから手に入れる事が出来る後天系魔法。先天魔法とはその人の素質や種族によって左右されるものである。古代から魔法を得意とした種族はその潜在的長所から修行や儀式による早期魔法取得が見込まれ。属性に偏りはあるがどれもが強力で効果の高い魔法が多い。……レフィ姉のは属性の偏りは無いけど強力なのは間違い無いよね……。えっと次は———」

 

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『それじゃあ、始めようか』

 

 先程まで本を読んでいた僕に“僕”が語りかけた。

 

『僕にとって魔法って何?』

 

 僕にとって魔法とは……力。姉がいつも僕に見せる様に攻撃、守り、回復そんな力。

 敵を倒す圧倒的で無慈悲な力と同時に味方を守り癒し助ける優しい力でもある。

 

『僕にとって魔法って何?』

 

 やっぱり力だ。

 優しい姉や神様の守る為に僕に必要な巨大な力。

 けれど同時に弱い自分を奮い立たせる偉大な力だ。

 味方を守り、そして敵を打ち破る僕だけの武器だ。

 

『僕にとって魔法ってどんなもの?』

 

 どんなもの? 

 自由自在に形を変えた炎……、そして同時に雷だ。

 どれもが強く、激しく、無慈悲な力。

 大地を砕き、大気を燃やし、荒波の様に全てを飲み込む炎と雷。

 それは決して、揺らぐの事の無い不滅の炎と雷。

 

『魔法に何を求めるの?』

 

 より強くあの人のもとへ。

 より早くあの人のもとへ。

 空を駆け抜けて、遠くに居るあの人のもとへ。

 誰よりも、誰よりも、このオラリオに居る誰よりも早く。

 あの人の隣へ。

 

『本当にそれだけ?』

 

 もし……叶うなら。叶えられるのなら。

 憧れた英雄達の様な存在になりたい。

 みんなに笑われた道化でも無く、情けない妄想の中の英雄でも無い、本当の英雄に。

 僕を信じた姉の為に、みんなに認められる英雄になりたい! 

 

『欲張りだなぁ……』

 

 ……ごめん、欲張りなのはよくわかってる。

 それでも“これ”が僕だ。僕の、ベル・クラネルの願いなんだ。

 

『……そうだ。それでこそ()だ』

 

 そうやって最後に“僕”は僕に微笑んだ。

 そして僕は意識を手放した。

 

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「……くん! ベル君!」

「ほぇ?」

「何やっているんだい? ソファーで眠るなんて、せっかく借りたベッドが勿体無いじゃ無いか」

「……僕、寝てたんですか?」

「そうだよ、それでなぜソファーで眠っていたんだい?」

「えっと借りた本を読んでたら睡魔に襲われて……」

「なるほど、慣れない読書をして眠くなったってわけかい、まあキミの寝顔も可愛かったから安心しなよ!」

「今の話どこに安心出来る様子がありました!?」

「そんな事より、帰ったなら早めにステイタス更新でもするかい?」

「……また話逸らされた。……はぁ、お願いします」

「うん、任せたまえ! それと何かがある為に今日は胃痛薬をミアハから沢山貰ったのさ!」

「……なんか最近それを飲むタイミングが多いですね」

「主にキミ達のおかげだよ」

「はい、すみません」

「さあ、ベッドに横になるんだ! ステイタス更新だよ!」

 

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 ベル・クラネル

 レベル1

 力 B 789 → A 821

 耐久 B 745 → A 802

 器用 B 744 → B 785

 敏捷 A 816 → A 876

 魔力 I 0

 

 魔法

不滅の雷/不滅の炎(ユピテル/ヴェスタ)

 炎雷の魔法(デュアルマジック)

 詠唱式: 『轟け/燃え上がれ』

 効果は想いによって変わる」

 

 スキル

「──」

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 更新されたステイタスを見て竈の女神は声を上げずに気絶した。





ここまで読んで頂きありがとうございます。

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