私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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マックを食べながら書いた。


君の笑顔

「ただいまぁ……」

 

 アイズさんとリヴェリア様と別れ、宿に戻った私を迎え入れたのは、今にも暴走しそうな主神であるヘスティア様とそれを必死に止めようとしているベル。そんな光景に思わずデジャヴを感じる。

 

「……また何かがあったの?」

「レフィ姉! 神様を止めるの手伝って!」

「離すんだベル君! ボクはヤるべき事があるんだ!」

「神様は一体、何をやるって言うんですか!? 本の事は僕が直接謝りに行きますから! お願いですから落ち着いて!」

「うがああああああああ!!!」

「お願いですから話聞いて!!」

 

 そんな主神と弟の姿を横目に見つつ、取り敢えず私は他の客に謝りに行ったのであった。

 

 それから数十分、全客に謝ってから部屋に戻り。ようやく落ち着いたヘスティア様とベルに視線を送る。

 

「……それで? 言いたい事は?」

「「朝から煩くて誠に申し訳ございません」」

「……うん、よろしい。それでなんで騒いでいたの?」

「レフィ君、聞いておくれ! ベル君が! ベル君が! 人から借りた魔導書(グリモア)を読んでしまったんだ! それも誰かの忘れ物らしい!」

 

 予想はしていたが、やはり原因は何処かの女神がプレゼントした魔導書(グリモア)らしい。

 

「……それを知らないで読んだって事でいいのかな?」

「う、うん……」

「……何処から借りたの?」

「……シルさんが貸してくれました」

 

 これも予想通りね……。取り敢えず後でミアさんに謝りに行かないと。あとは借金が増えると考えていいでしょう……。

 

「……読んでしまったものは仕方ない。後で私も一緒に謝りに行くから。でもこれからは気をつけてね? 魔導書(グリモア)の値段は貴方のナイフと同等と考えた方が早いからね?」

「ヒェッ!?」

「……その割にキミは随分と落ち着いてるね」

「いいえ、これでも内心焦りまくりですよ? 一周回って冷静になっただけです。取り敢えず、借金返済はこっちの方を優先しないといけないみたいですね……。レシピ本のお金、少し足しになるといいな……」

 

 私の言葉を聞いたベルの顔はとっても悔しそうだった。

 

「ごめん……。僕がもっとしっかりしていれば……」

「そんな顔をしないの。ほら、魔法も覚えたし、更に様々な事の勉強になったでしょ? 十分にお釣りが貰えるぐらいの出来事よ?」

「そうかな……」

「そうだよ、ね?」

 

 そう言って私は優しくベルの頬を撫でた。泣き顔なんてベルには似合わないからね。

 

「……そう……だね……ありがとう……」

「どう致しまして」

「ボクが無力な神でごめんよぉ……」

「ヘスティア様もそんな事言わないで、みんな家族でしょ? こういう時こそお互い助け合いをしないと!」

「……う゛ぅ゛、あ゛り゛と゛う゛」

 

 しゅんとしたベルと泣きじゃくるヘスティア様を抱きしめた。それから防具に着替えた私とベルは朝食を取らずにそのまま「豊穣の女主人」へ向かった。

 

 突然の私たちの訪問に少し驚いた豊穣の女主人の方々。ミアさんは深刻そうな顔をしたベルを見て、何かがあったのだなとすぐに理解してくれた。

 

「んで? 朝からどうしたんだい? あたしは仕込みがあるから忙しいんだよ」

「えっと……ですね。実は……」

「レフィ姉、自分で言うよ」

「……大丈夫?」

「うん、これに関してレフィ姉に任せるわけには行かないからね……」

 

 ベルは直ぐさま頭を下げ、自分の不注意で誰かの忘れ物である魔導書(グリモア)を使ってしまった事を隠さずに話した。ミアさんや他の人たちは驚いたものの、直ぐにいつもの様な振る舞いに戻った。

 

「……あい、お前さんの謝罪は確かに受けとった」

「ありがとうございます!!」「ミアさん、ありがとうございます」

 

 ベルと一緒に頭を下げる私。この人が人格者で本当に良かった。

 

「さて、この本についてなんだが……」

 

 ミアさんはベルから本を取り上げ、そしてその本をゴミ箱へ捨てた。

 

「本の事はもう忘れな、今回はお前さんは全く悪くないからね」

「えぇ!? で、でも!」

「でももへちまもないよ! いいかい、ベル。あたしはお前さんが正直に自分で謝りに来ただけで十分だ。それにそんな高級品を忘れた方が悪いんだよ!」

「ミア……お母さん……」

「良かったね、ベル」

「うん!」

「よかったですね、ベルさん!」

 

 ずっと黙って話を聞いてるシルさんは初めて声をあげた。

 

「……シルさん」

「ごめんなさい、私の軽率な行いでベルさんたちを苦しめるなんて……」

「いいえ、僕も悪かったんです。今回で学びました……」

「シル、あんたは後で罰があるから素直に受け取りな」

「……はい、覚悟してあります」

 

 こうやって、魔導書(グリモア)に巡る話が終わった。

 

「そんでレフィ、お前さんたちは朝ごはんを食べたかい?」

「恥ずかしながらまだです……。魔導書(グリモア)の事を早く謝りたくてそのまま来ちゃいました」

「僕も……」

「なら少し待ちな、あたしが軽くなにかを作るから。もちろんお代は頂くけどね」

「「はい、お願いします!!」」

 

 私たちの返事に満足したミアさんはニカっと笑い、そして直ぐに店の奥に入るのだった。

 

 しばらくすると、ミアさんは二皿の料理を持って私たちの所に戻ってきた。けどその料理はベルや私にとって非常に馴染み深い料理でもある。

 

「……ミアさん、これって?」

「ん? そうだよ。お前さんのレシピをもとに作った料理だよ」

「……まさかこれが出てくると思わなかったですけどね」

「おぉー僕、久々にこれを食べたかったんだ」

「ははは、昨日お前さんの姉があたしに渡したレシピに丁寧に弟の大好物ですと書いてあったからね、ちょうどいいと思ったんだよ」

 

 出された料理はいわゆる、お粥。その粥は非常にシンプル、鶏ガラの出汁にスパイスで茹でた鶏肉とカリカリに焼き上げた落花生とセロリをまぶすだけの簡単な料理。

 

 当初はベルが風邪を引いた時に初めて作った料理なんだが、ベルとお爺ちゃんがこの料理を大変気に入って、その後は定期的に朝食として作った一品だった。

 

「……確かにオラリオに来てからは作らなかったね」

「お前さんはまだ収入が安定してないから仕方ないちゃ仕方ないけどね」

「ええ、でもこれからは作る事にします。リフォームが終わったら本格的なキッチンも出来ますからね」

「おいおい、手料理ばっかり作って、あたしの店に来なくなるのだけは勘弁だよ」

「そんな訳ないじゃないですか、週一回は来ますって。ね? ベル」

 

 私が喋りかけたベルだが、彼は料理に夢中で話を聞いてない様だ。

 

「ははは、レフィ。お前さんの話を聞いてないぞ、その子」

「ふふっ、みたいですね。じゃあ、私も冷める前に頂きますね?」

「ちゃんと味わいなよ! あたしが作ったんだからな!」

「勿論です」

 

 うん、私が作った料理より美味しくて、そしてなによりも心が温まる一品だった。本当、プロって凄いね。





ここまで読んで頂きありがとうございます。

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