私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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お待たせ致しました、何故か中編です。


リリルカ・アーデ 中編

 —————10階層。

 

 今までの階層とは違い広い空間と濃い霧に包まれたこの階層にベル・クラネルはやって来る魔物を次々と倒して行った。

 

 時には素早く敵の首を切り落とし、時には魔法を離れている敵に撃ち込み。彼の右手にはリリルカから貰った剣が握られており、左手には他の冒険者から貰った短剣が握られていた。

 

 彼が主神から贈られた【女神のナイフ(ヘスティア・ナイフ)】を使っていないのは理由がある。何故ならそのナイフは今、自分のサポーターであるリリルカに盗まれていたからだ……。

 

 内心でベルは焦っていた、だがその焦りは以前ナイフを無くした時とは違う。彼の頭には自分からナイフを盗んだ時のリリルカの表情で一杯だった。

 

『……ベル様はこれから少し人を疑う事を覚えた方がいいですよ? そうしないとこうやってリリみたいな悪い人に騙されちゃいますよ?』

 

『……今日は幸いレフィーヤ様が居ないので簡単に盗めました、知ってますか? あの人ずっとリリを見張ってましたよ? 今も監視しているんじゃないかって思うぐらい。ですからそうやって姉ばっかり頼りにしちゃダメですよ? ……まあ、リリ的には助かるんですけど』

 

『それではベル様、隙を見つけて逃げてくださいね?』

 

 ベルからナイフを盗んだ彼女はとっても寂しそうな表情を浮かべながら去っていった。ベルは直ぐに彼女を追いかけるつもりだったが、どうやらリリルカは魔物を誘き寄せるアイテムを使ってベルの妨害をした様だ。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

 だがどうやら離れて行ったリリルカを追いかけようとしたベルを邪魔したのはリリルカのアイテムだけではない、ダンジョンもまたここぞとばかりに大量の魔物を生み出した。

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)

 

「こんな時に!?」

 

 同時に生まれ落ちた十数体のオークが一斉にベルに攻撃を繰り出した。数体なら遅れを取らずに戦うことが出来るベルだが、今回は運が悪いとしか言いようのないぐらいの数の魔物がベルを囲んでいる。だがベルはすぐに冷静さを取り戻し、ある魔法を思い浮かべる。姉が先日作った風の付加魔法(エンチャント)、そんな魔法を強く想い浮かべながら彼は己の詠唱を口にした。

 

轟け(邪魔だ)!!!』

『ユピテル!!!』

 

 オーク達がベルを目掛けて一斉にその武器を振り下ろした瞬間、ベルを中心としたその場が爆ぜた。十数体もいたオークが全て消え去り、その場に残るのは雷を纏った白い兎だけだった。

 

 雷を纏ったベルは普段と比べ物にならない速さで9階層の階段を目指して行った。だがダンジョンもまた獲物を逃すつもりなどないと言わんばかりに、再び大量の魔物を生み出してきた。

 

 9階層の階段が見えた所に、今度は数十体のオークがベルの前に立ちはだかる。

 

「まだ僕の邪魔をするつもりなのか!! 僕は早くリリのもとに行かないといけないんだ!! だからこれ以上邪魔をするな!!」

 

 リリルカを助けたいと想う彼の心に応える様に魔法が更に出力を上げた、だがもちろんそれ相応の精神力が消費されてしまっている。

 

(ダメだ…………このままだとリリへ辿りつく前に僕が倒れてしまう……戦うにしてもレフィ姉から貰ったポーションだとどれぐらい持つのか僕にはわからない……)

 

 実際、魔法が現れてからまだ日が浅いベルにこの出力の付加魔法(エンチャント)を維持するだけの精神力は持っても五分。それ以上やろうとすると間違いなく彼は倒れてしまう。それを回避する為にベルは未だ動かないオーク達から目を離さないまま腰にあるホルダーに手を伸ばし、自分が持っているマジックポーションを一つ飲み干した。

 

(残りポーションが体力4つ精神力2つか……最小限のダメージや消耗を意識してここから離脱して、そのままリリを追いかける。…………そんなの行けるか? ……いや、違う。行けるかじゃない、やるんだ!!)

 

 覚悟を決めたベルは数十体の魔物の群れに突入して、素早くその場からの離脱を試みた。

 

「ハアアアアアアアッ!!!!」

 

 雄叫びを上げたベル、彼の手は止まる事なく敵の攻撃を受け流し、その足もまた止まる事なく前へ進むのであった。だが彼が持ったとしても彼の装備には限界があった。ミノタウロスの件以降ずっと彼を支えてきた短剣が限界を迎えて、砕け散った。

 

「ッ!? しまった!?」

 

 ベルがこの短剣を大事にしていなかったわけではない、彼はずっとこの短剣を大切に扱っており、そして週に一回ちゃんとした鍛治士に見て貰っている程にこの武器を大事にしている。実際に昨日店に持って行き見て貰ったばっかりでその店の鍛治士からもまだまだ使えると言われたばっかりだ。ではなぜ短剣が砕け散ってしまったかというとそれは魔法で上げられたベルのステイタスに耐え切れなかったからである。

 

 獲物が武器を一つ失ったのを見たオーク達は更に激しい攻撃を繰り出す様になった。先程まで優勢だったベルは残り一本の剣でこの場を凌ぐしか方法がなかった。それでも彼は足を止めなかった、前に進むその意志は揺らぐ事なく彼を動かし続けた。

 

 次の瞬間、激しい風がベルの前方に居た魔物達を吹き飛ばした、同時に彼の道を開いてくれた。

 

「ッ!! 誰かわかりませんが、ありがとうございます!!」

 

 好機を見逃さずベルはすぐさま速度を上げ、リリルカを追う為に9階層に向けて登っていった。

 

 

 残された風の主は残ったオークを全部倒した後、ベルが去った方向をじっと見つめていた。

 

「あの子……もうここまで……凄い……」

 

 冒険者になってまだ1ヶ月も経っていない少年を想いながら彼女はそのままダンジョンに潜ろうとした。だが彼女の前に黒いローブのナニカが現れた。

 

「……【剣姫】、私からお前に依頼がある」

 

 この長い一日はまだ始まったばかり。

 

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 —————27階層

 

 凍り付いたその空間に顔に傷を負ったバケモノが静かにナニカを食べている。居るはずのこの階層の主と呼ばれている双頭竜(アンフィス・バエナ)はなぜかおらず。

 

 —————そして静かに、誰にも邪魔されずにバケモノは大きな魔石を喰らい続ける。




ここまで読んで頂きありがとうございます。
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