私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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アニメはそろそろ終わりますね。
メインヒロインさんとの感動の再会楽しみです。


尊き溢れる日常(2)

「クソッ!?」

 

 唐突な攻撃には少し動揺したが、当たる直前に俺が後ろに飛んだからダメージ自体はそれ程なかった。

 

「『アぁー避けられタ』」

 

 クソエルフは残念そうに言っていたが、すぐ様に再び笑顔で詠唱を始めた。

 

「『燃えろ! 燃えろ! 紅く燃え上がれ、偉大な聖なる炎の槍よ、其の神秘の果てを外道なる我が敵を撃ち抜け!』」

 

 突然、空中に神々しい魔力を纏った赤い槍が空中に現れた、だが詠唱が進むに連れ、赤い槍はその神々しさを失い、今度は狂気に満ち溢れた赤い槍が完成した。

 

「『紅炎槍(ガ・エル・ジャルグ)!!』」

 

 クソエルフ(レフィーヤ)がその魔法の名前を叫んだが、赤い槍は撃ち出されずにそのまま消えていた。

 

 その代わりに彼女は少しバランスを失い、その場で座り込んだ。

 

「『アれ? だメだった? 器がまダ駄目だっタ?』」

『ふむ、どうやら未だに未熟の器のようだな。まあ良いだろう、後でいくらでも弄れるんだ』

「『ソッか、あッ、でモもう立てる! この器スゴい!』」

 

 おいおい、今の一瞬のやり取りで精神疲弊(マインドダウン)寸前がもう立てるほど回復するって言うのか!? あのクソエルフ出鱈目過ぎるだろ!? 

 

 俺は素早くヘルメスの連中が居る場所まで移動した。先まで他の連中を必死に止めた男に視線を送った。

 

「おい、そこのお前。あのクソエルフに何が起きているのかはわかっているのか!?」

「……たぶん」

「なら手短に説明しろ!」

「たぶん、狂ってる精霊、のせい」

「あ゛!? なんだそりゃ!?」

「理由がわからない、故郷にも、たまに、居る。けど、一度呑まれたら、戻れない」

「!?」

 

 それを聞いた周りに居るヘルメスの連中が騒ぎ出した。

 

「も、戻す方法はないの!?」

「……」

「そんな!?」

「くそ! だったらどうすればいいって言うんだ!」

「殺す」

「えっ!?」

「そんなのダメだよ!?」

「他に方法はないの!?」

「ある……」

「あ、あるならそれに賭けようよ!」

「けど、この方法で、成功した例が、ない。みんな、堕ちる」

 

 その言葉を聞いてヘルメスの連中は今度こそ黙った。

 

 だがこうしている間にもあのクソエルフの魔力が徐々に回復している筈だ、油断もクソも出来ない。

 

「……人を殺すのは簡単だ。だがな、それ以外の方法があるなら一応聞いてやるよ」

 

 不思議と自然にそんな言葉が自分の口から出て来た。

 

「……殺す以外は、本人の意志で、戻るしかない」

「ハッ! なーんだ、要するにアイツの目を覚まさせればいいんだな?」

「そう、けど、みんな、堕ちる。あの力、に溺れ、戻って来ない」

「……んなヤワな野郎じゃねえよ、アイツは」

 

 ヘルメス所属のデカブツとの会話を終えて、俺はアイズの方を見た、あっちはあっちでやり合ってる、リヴェリアはいつの間にか残りの狂った連中や食人花(ヴィオラス)を凍らされた。

 

 俺の目の前には不敵に笑う仮面野郎とクソエルフ(レフィーヤ)しかいねぇ。

 

 奴らの動きを観察して居ると、後ろから声掛けられた、この声は確か【ヘルメス】の団長か。

 

凶狼(ヴァルナガンド)、あの仮面の男は恐らく【27階層の悪夢】の主犯者である【オリヴァス・オクト】かと……」

「……おい、ソイツはもう死んだじゃねぇのかよ」

「報告ではモンスターに喰われて死亡が確認された筈なのですが……」

「ケッ……相手は動く死体とでも言うのか?」

「わかりませんが、彼にも注意を払うべきです」

「……んな事はテメェに言われなくてもわかってる」

 

 突然、クソエルフは仮面野郎に魔法を掛けた。その魔法を受けた奴そのまま動き出し、離れているリヴェリアに攻撃した。

 

『フハハハハ!! なんて素晴らしい魔法だ!! 力が漲ってきたぞ!』

 

 俺も直ぐに動き、再び仮面野郎との戦闘を始めた。だが、奴は先程とは比べ物にならないぐらいパワーが上がっている。

 

「おい、ババア! テメェは自分の弟子の目を覚ましてきやがれ! こっちは俺がやる!」

 

 そう言って俺は己のギアを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベートに言われるがままなのは癪だが、私はレフィーヤと向きあった。私と目が合ったレフィーヤは狂気に溢れた無邪気な笑顔を見せた。

 

「いい加減、その体を本来の持ち主に返せ」

「『エえーやだヨ、ダッてこの器はモウ私のダモの』」

「いや、違う! その体は私の弟子の体だ!」

「『ソンなの知らなイ! 火球よ(ファイヤー)!!』」

「クッ!」

「『火球よ(ファイヤー)! 火球よ(ファイヤー)!』」

「レフィーヤ、敵に回ったら本当に厄介だな、お前は!」

 

 回避しながら反撃の好機を探って居るが、やはりレフィーヤの魔法の連射速度は異常だな。

 

 だが、レフィーヤの意識が私に集まってるこの瞬間はそれこそがヘルメスの連中が介入出来る瞬間でもある。

 

「『あァっ……』」

 

 その隙を見逃さない【ヘルメス・ファミリア】の団長であるアスフィはレフィーヤに斬り掛かった。

 

 それに気づいたレフィーヤはすぐに後ろに下がる、アスフィの一撃は彼女の頬を軽くかすったに過ぎなかった。

 

「『こんナんじゃタだノ擦り傷だヨ、アナた達やる気アるの?』」

「勿論です、ですがただの擦り傷で十分ですから」

「『アあーもしカして毒? ソンなものは私にハ効かないヨ?』」

「なっ!?」

「『火球よ(ファイヤー)』」

「グッ!?」

 

 魔法が放たれた瞬間にヘルメスの団長は直ぐに距離を取った。

 

「……毒が効かないとはどういう事です!?」

「『エッとね、こノ器は毒トカ麻痺とか魅了トカ、そう言うの一切効かないヨ。状態異常無効のスキルがアルの! スゴイよね!』」

「なん……ですって!?」

 

 それを聞いた私やヘルメスのメンバー挙げ句の果てに仮面の男と戦ってるベートでさえも絶句していた。

 

 だがレフィーヤがそんなスキルを持っているのなら、何故彼女はこうなったんだ? そう思った私は彼女に問い出した。

 

「ならば、何故お前はレフィーヤに乗っ取る事が出来た? それは魅了や洗脳ではないと言うのか!?」

「『ううン、違ウの。洗脳なんテしてない、器はソのまま私を受け入れたノ。器は抵抗なんてシてないし、だからそのマま私が定着する事が出来たンダよ?』」

「嘘をつくな! 彼女はそんな子ではない!」

「『えエー嘘なんて言ってないのニー、デモまあ、いいカ!』」

 

 彼女は再び詠唱を始めた。

 

「『火を司るモノよ、彼方より来れ』」

 

 空気が震え出す。

 

「『我は願う、尊い日々を』」

 

 彼女周囲は神々しいと同時に禍々しい魔力が集まる。

 

「『我は願う、平和なる時代を』」

 

 この感じ、間違いなく【広範囲殲滅魔法】並の魔力だ……。それに気づいた私はすぐに己の結界魔法の詠唱を始めた。

 

『舞い踊れ大気の精よ、光の主よ』

 

「『我が悲願、我が志』」

 

『森の守り手と契を結び、大智の歌をもって我等を包め』

 

「『此の一撃をもって、未来への道が照らされる事を切に願う』」

 

『我等を囲え大いなる森光(しんこう)の障壁となって我等を守れ』

 

『————我が名はアールヴ!』

 

凶狼(ヴァルナガンド)!! 早くこっちへ来い!!」

 

 アスフィの叫び声を聞いたベートはすぐに私と合流した。

 

『ヴィア・シルヘイム!!!』

 

 結界が先に完成した。

 

「『アグニ』」

 

 その放たれた一言で、まるで地獄の蓋を開けたかの様に、仮面の男を除く彼女の周囲に居た存在は綺麗さっぱり消え失せた。

 

 私の結界の外で無事なのはかなり離れているアイズや赤髪の調教師(テイマー)だけだった。

 

 仮面の男は目に見えるほど瀕死だった。持っても数分かと思われる。

 

「あの仮面野郎、再生しないのか」

「再生?」

「ああ、俺と戦ってる時に与えたダメージは即座に再生された。手をぶっ飛ばしたがすぐに再生する程の回復力のな」

「……なんて事だ」

 

 あの魔法の威力はそんな能力を上回ったのか? 

 

「今の魔法、また撃てると思うか?」

「……いや、次撃ったら間違いなくレフィーヤが死ぬ。先の魔法は彼女の体にまだ合わないレベルの魔法だから」

「だとすると撃てたのはアイツのせいか?」

「ああ……」

 

 レフィーヤを早く正気に戻さないと……。これは彼女をこの場所まで連れて来た私の責任だ……。

 

「『…………アあ、コノ魔法もダメみたい』」

 

 私たちの視線は口から血を流しながら倒れたレフィーヤに釘付けされた。

 

「『威力が半分以下ッテ、腕が落ちたナァ』」

 

 そんな事言っていた彼女の元に這い寄った仮面の男が居た。

 

『な、何故私を巻き込んだ。祝福を与えたこの私を……』

「『別ニ、理由なんテないヨ? あなたが死ぬのはあなたが弱イからダヨ?』」

『なっ!? ふざ、ふざける、なっ! わた、しは、かの、じょにえら、ばれた、んだ』

「『アハハ、それは残念ダネ』」

『ふざ、け……』

 

 そんな言葉を最後に仮面の男の体は灰となった、奴が居た場所には禍々しい魔石だけが残された。

 

《ズド──────ーン!!》

 

 そんな音と共にボロボロになった赤髪の調教師(テイマー)がレフィーヤの前に立っていた。

 

 彼女は落ちている魔石を拾い上げ、そしてその場で魔石を喰べた。

 

『アリアよ、この戦いの続きはまた何れだ』

 

 そう言って彼女はレフィーヤを連れ、その場から離れようとした。

 

「レフィーヤを返せ!」

「そのエルフを返せ!!」

 

 私とベートは彼女の元に飛び込んだ、離れているアイズも風を纏いながらこちらに向かってる。

 

『……無駄だ』

 

 凄まじい速度で彼女は我々から距離を取り、そしてそのまま離脱を試みた。

 

 けれどそれは叶わなかった。

 

 何故なら隻眼の白い狼が彼女の道に立ちはだかった。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

隻眼の狼とは……一体何者ナンダ(棒読み)

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