—————【ロキ・ファミリア】遠征当日、ダンジョンの入り口前の広場にて。
私は現在、フィンさんの演説を聞き流しながら、ヘスティア様と一緒に完成したスクロールの確認をしている。
「———47、48、49、50っと、こっちも問題ないですね」
「レフィ君、こっちも大丈夫だぜ」
「では、全部確認出来たっと。…………それにしてもみんな見てますね」
「そうね、二大派閥の遠征だからね、みんなきっと気になるよ」
いつも気さくに話してるけど改めて実感させられた、彼らは私達と次元が違うと…………。
そんな想いを胸に仕舞って、私は杖を手に持った。
「それじゃあヘスティア様、私はもう行きますね」
「うん、久々のダンジョンだからあんまり無理しないでおくれよ?」
「はい、気をつけます」
「それじゃ、また夕方にね」
「あ、あの、本当にいいんですか? 荷物確認の事は?」
「おいおい、またかい? ボクは一人じゃないぜ? 大丈夫だって!」
実を言うと私達のホームは昨日無事に完成したみたいで、そして今日から住める様になるそうです。引っ越しの手伝いは【ゴブニュ・ファミリア】が手を貸すそうで問題はないが、それでも運ばれた荷物の確認はこっちでやる必要がある。
そしてヘスティア様が確認作業を一人でやると言い出したのは昨日の話。その時私がダンジョンに行かずに作業の手伝いをすると提案したが、ヘスティア様は「ボク一人で大丈夫」と断った。
主神の負担を減らそうと思って私は知り合いに声をかける事にした、そこで手伝ってくれるのが、たまたま休みのエイナさんでした。
—————エイナさんなら百人力ですね!
とあの時、呑気に笑った弟の姿を思い出す。後でエイナさんにはお礼をしなきゃなぁ……。
「———だから、ボクは大丈夫だって! ほら、行った行った!」
「う、うん、行ってきます」
かなり強引に背中押されて私はダンジョンに向かった。ダンジョンを降りるとそこにはフィンさん達が既に居た。
「レフィーヤ、今日は途中まで一緒だね」
「あっ、アイズさん、途中までですがよろしくお願いします」
降りた私を見つけるとアイズさんが声を掛けてくれた。
ベル達が現在主に活動している階層は10階層であり、勿論これからそこで合流するつもりで居た。
それを聞いたフィンさんは途中まで自分達と一緒に降りてはどうだと言ってきた。
まさかの誘いに私は戸惑ったが、ベルは可能ならば是非そうさせて下さいと勝手に話を纏めた。
曰く、合流するまであんまり無理をさせたくないとの事。
そんな気遣いを無闇に断る事が出来ず、そのまま甘えさせて貰った。本当は他の冒険者とダンジョンでの接触は極力避ける様にってエイナさんから口酸っぱく説明された筈なのにね。
え? ダンジョンに入る前だからセーフ? そんなわけないでしょ!
「ふっ、その服は似合っているぞ?」
出たわね、女王陛下ァ!
この数日の間は何故かこの人に事ある度に私を弄る事に徹した。いや、まあ、悪いのは私なんだけどね!?
この人を始め、色んな人に迷惑を掛けまくったからなんとも言えないけど、仕返しが
値段を聞いた時は「高すぎて受け取れないですよ!?」って言ったら凄くいい笑顔で「日々の感謝を込めて買った一着だから受け取ってくれ」って言っていたのは決して忘れない。日々の感謝とは!?
「ムゥ…………」
「ふふっ、そんな顔をするな。せっかく可愛い服が台無しになるぞ?」
「…………」プイ
「ふふふ」
そんな私と
「はははは、リヴェリア。あんまり虐めないでやってくれよ? 次から
「ふふふ、善処する」
「はははは」
「ふふふ」
笑い合った二人の横目でティオネさん達が声を掛けた。
「おぉ〜フィンもリヴェリアも凄くいい笑顔だね!」
「あぁ〜、団長が楽しそうで私は幸せです!」
「あっ、ティオナさんにティオネさん」
「レフィーヤ、途中までよろしくね!」
「病み上がりなんだから無理しないでよ?」
「はい!」
トラブルも無く順調に進んで、我々は現在8階層に居る。
モンスターは基本、
そこで見知った反応が私の魔法に引っかかった。
「ッ!?」
「———んでね、レフィーヤ? どうしたの?」
私は思わず前方に駆け出した。前へ前へ……。
「おい!」
「レフィーヤ!?」
「何があった!?」
「わかんない! 急に走り出しちゃって!」
後ろからは【ロキ・ファミリア】の声が聞こえるけれど…………。
(今はそんなのどうでもいい!)
目標に近づくと私はスピードを緩め、暗闇から現れる人物を優しく抱き締めた。
「リリちゃん!!!」
「ッ!? あ……あぁ……」
抱き締められたリリちゃんは私の顔を確認すると、ポロポロと目から涙が溢れ出し。
「何があったの!?」
「べ、べるぅがぁ……りりを……うわぁああああん!!」
「大丈夫だから落ち着いて……」
「はぁ…………はぁ…………」
リリちゃんを落ち着かせると【ロキ・ファミリア】の皆さんが私に追いついて来た。
「勝手に行くな! ……ッ!?」
「レフィーヤ、危ないよ……ッ!!」
「……リリちゃん!?」
「ちょっと!? なんでリリルカがこんな所にいるのよ!?」
「待って、ベルが居ない」
「ああ、ベル君に何があったと言うのか……」
背後にはそれぞれの反応があり、それでも私はリリちゃんから目を離せなかった。
「ベルは……9階層に……ミノタウロスと……戦っています」
リリちゃんから聞いたその言葉に誰もが言葉を失う。
「…………ミノタウロス?」
「は?」
「え?」
「嘘……」
「どう言う事だ?」
「団長、まさか対処し忘れたとか?」
「いいや、それだったら報告はあがってるはずだ」
そうするとリリちゃんは私に強くしがみついた。
「レフィ……ベルを……ベルを助けて下さい! リリでは無理なんです! 弱虫のリリでは……なにも……なにもまもれないんですぅ……」
泣きながらも必死に頼んできたリリちゃんを優しく抱き締めた。
「……離れないでね」
「……ぅ?」
リリちゃんを抱きしめる腕に力が入り、胸の中には焦る気持ちが溢れ出すぐらい満ちていた。
—————落ち着いて、焦ったら救えるものが少ないよ?
心の奥底からそんな声が響いた。
(うん……わかってる……ありがとうございます……)
そんな声を聞いて、焦る気持ちが少し和らげる事が出来た。
「……私が出せる最速で行く」
『舞い踊れ、風達』
リリちゃんを抱き締めながら魔法を纏い、私はベルが居る方向へ“飛んだ”。
「って、おい!?」と驚いた
「えぇ!? アイズみたいに飛んだよ!?」はしゃぐ
「うん、お揃い」状況が状況なのに何故か嬉しそうな
「……なんでもありね」半分呆れた
「そんな事言ってる場合じゃない!」と彼女の後に追う
「ああ、彼女を追う。アイズ、ベート! 君達が先に行け!」と指示を飛ばす
彼らもまた飛び出したレフィーヤとリリルカの後を追った。
ここまで読んで頂きありがとうござ「ガネーシャ、感激!」……帰れ!!!