私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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さぁ、冒険を始めよう。








冒険者(ベル・クラネル) 中編

 —————時は遡り、9階層

 

 僕とベートさんの訓練は昨晩で終わり、今日から久々に早朝からの攻略になった。そして何よりずっと魔道具(マジックアイテム)制作にかかり切りの姉も【ロキ・ファミリア】遠征の出発に合わせて僕らと合流する予定。

 

 そして今日も10階層に向けて、移動中です。

 だけど、9階層を踏み入れた瞬間から謎の視線や階層に対する違和感が消えない。

 

「……なんだか今日はやけに静かですね」

 

 隣に居るリリは周りを見渡すとポツリと呟いた。

 

「……うん、それに何故かずっと視線を感じたんだ」

「視線ですか? リリはなんとも感じないですけど……」

「……気のせい……だといいな」

「そうですね……」

 

 足を止めずに会話を続けると遠くから必死に逃げ惑う数人の男達が視界に入った。

 

「他のファミリアの冒険者!?」

「一体何が!?」

 

 すると暗闇の中から男達に向けて一本の大剣が振り下ろされた。それに気づいたベルは己が出せる最高速度で距離を縮めて、振り下ろされた大剣をヘスティア・ナイフで受け流した。

 

《ズド──────ーン!!!》

 

 爆音と共に鳴り響くその大剣の斬撃は、地面に突き刺さり、ベルとその周辺に煙を撒き散らした。しばらくすると徐々に煙が薄れ、暗闇の中に居た大剣の持ち主の姿が遂に明らかになった。

 

 

 —————そこに立っていたのは他でも無く真紅の怪物(ミノタウロス)だった。

 

《ブモオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!》

 

 雄叫びと共にミノタウロスはベルに向けて大剣を振り上げた、勿論それに気づいたベルは避けようとしたが、大剣の攻撃速度がベルの遥かに上回る為、彼はかなりギリギリな形で。

 

《パリンッ!!》

 

 その瞬間、ミノタウロスの攻撃を軽く掠った胸当ては粉々に砕け散った。

 驚いたベルは直様に距離を取り、次の攻撃に備えてミノタウロスを注意深く観察した。

 

 —————何故か上層に現れたミノタウロスの亜種、これはアイズさん達が見逃した個体なのか? いや、それは有り得ない。何故なら今日までに目撃情報や被害情報なんて全く上がってない。どの道、このミノタウロスは紛れも無い異常事態(イレギュラー)である事は変わりは無い。

 

 ベルはチラッと後ろに視線を送った、そこには震えながら立ち止まるリリが居た、いや、正確には動けないが正しいかも知れない。

 

 —————リリはさっきの雄叫びをモロに喰らったのか、だからと言ってリリを守りながら撤退する事は不可能に近い……どうする? 

 

《ブモオオオオオオオ!!!》

 

 怪物(ミノタウロス)が再度雄叫びを挙げ、ベルに向けて真っ直ぐに突進した。

 ベルは身を構えてミノタウロスの攻撃を難なく回避した、だが突進を避けたベルを待ち受けたのは横から大きく振り上げられた大剣だった。その攻撃に気づいた瞬間、ベルは無理矢理己の身体を腕のプロテクターで守る事に成功した。

 

《パリン!!》

 

 ベルの身を守ったプロテクターが砕け散り、彼は石の柱までぶっ飛ばされていた。

 

「グアァア!!!」

 

 ベルが倒れたのを確認した怪物(ミノタウロス)はそれを好機とみなし、再度ベルに突進を仕掛けた。

 先程、ミノタウロスの攻撃をモロに喰らったベルは成す術もなく歯を食いしばる、だけどそこに横から一つの魔法が飛び出した。

 

「ふぁ、火球よ(ファイヤーボール)!!」

 

 そこには震えながらもレフィーヤから託されたマジックスクロールを使ったリリの姿が居た。彼女は勇気を振り絞り、その小さな身体が恐怖で震えながらもベルを守る為に立ち向かった。

 

「べ、ベルはや、やらせません!! だ、だってリリだって! 【ヘスティア・ファミリア】なんだから!!」

 

 震えた声で叫んだリリに対して怪物(ミノタウロス)は怒り出した、ベルとの戦いが邪魔されたのが気に喰わないミノタウロスは怒りに身を任せてリリに突進を仕掛けた。

 

 —————クソッ!! 立て!! 立てよ!! 立ってって言ってるんだ!! ここで僕が立たないとリリが死んでしまう!! 

 

「うぉおおおおおおおお!!!」

 

 痛みに耐えながらベルは立ち上がり、怪物(ミノタウロス)とリリの間に飛び出した。

 

『轟け! 不滅の雷(ユピテル)!』

 

 己の身体を限界まで魔法で強化したベルは下段から怪物(ミノタウロス)の顎を思いっ切り蹴り上げた。

 

 予想外の攻撃を受けたミノタウロスは数歩引き下がり、そして蹴りの効果が出たかわからないがミノタウロスは地面に膝を付いた。

 

《オォォォォ……オォォォォオォォォォ……》

 

 地面に膝を付けた怪物(ミノタウロス)を見てベルはリリに撤退する様に命じた。

 

「—————ッ!! リリ今すぐ逃げろ!!」

「ッ!? い、いやですぅ……」

「逃げろよ!!」

「いやです!!」

「いい加減にしろ!! これは団長命令だァ!!」

「ッ!? あ…………あああああああああああああ!!!!!!!」

 

 叫びながらその場を後にしたリリを見て、ベルは再びナイフを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 —————現在に戻り

 

 リリちゃんを抱きながらハイスピードでダンジョンを駆け回る私。

 そのリリちゃんはと言うと、最初は戸惑っていたが彼女は徐々に冷静さを取り戻し、私をベルの所まで案内する事が出来るようになった。

 

「—————もうすぐです! あの突き当たりで右に曲がれば後は真っ直ぐです!」

「うん、わかった!!」

 

 もうすぐでベルの元に着く! と気持ちが高まる。けれどそんな都合いい話はない。常に張っている感知魔法が前方に何者かが居ると感知した。

 

「ッ!! 前方に誰かが居る!!」

「べ、ベルでしょうか!?」

「ううん、ベルの反応じゃない!」

「へ?」

 

 リリちゃんは状況を飲み込めず黙って来たが、距離が近くになったに連れ前方にいた何者かその姿を表した。

 

「見えた!! —————ッ!?」

「れ、レフィ?」

 

 姿を表した“鎧を着た大男”が手に持った大剣を片手で高々に持ち上げた。

 危険を感じた私はそのまま前方に風と火の魔法をかき集め、無理矢理減速を図った。

 減速は成功し、そしてそのままの速度で後ろに下がる様に退避を試みた、そして同時に以前24階層で使った『土霊の城壁(ノーム・カスティル)』を以前の数十倍の魔力で自分達の身を守る為に使った。

 

 間に合って間に合って間に合って!!! 

 

 大男はそのまま前方に居る私達に目掛けて剣を振り下ろした。

 

《ドォオオオオオオオン》

 

 爆音と共に煙が舞い上がった。私達はと言うと高速後退と魔法の壁のお陰で軽傷で済んだ物の、目の前に居た大男の異常さをハッキリと認識させられた。

 

 —————粉砕した。

 

 目の前にいる大男は“仮面の男”の攻撃を完璧に塞いだ『土霊の城壁(ノーム・カスティル)』を難なく粉砕した。

 

「ッ!!!」

「きゃああああ!!」

 

 込められた魔力は以前の50倍、それなのにまるで何事もない様に切ったなんて!? 

 

 私はそのまま大剣を地面から引き抜いた大男から更に距離を取る。

 ヤバい……この人はヤバいすぎる……“理不尽”がこんなにも似合う人って本当に居るんだね。

 

 この一ヶ月で強い人(フィンさん達)には沢山出会えた、強いモンスター(隻眼の白狼)も出会う事が会った。けどこの男は“違う”、出会えた事があるあの人達の強さを嘲笑うかの様な“理不尽”さ。

 

 けれど“初めて”じゃない。この身を震えさせる程の殺気、この“理不尽”さには私は見覚えがある。

 

 —————この都市(オラリオ)の【頂点】、【猛者(おうじゃ)

 

「オッタル…………」

「へ??」

 

 背後のリリちゃんは驚いたが、大男は何も言わないままそこに立っているだけだった。

 

「…………れ、レフィ? オッタルって? あんな“ヒューマン”があの“オッタル”と言いたいですか!?」

「…………残念ながら、ね」

「そ、そんな…………な、何故?」

「…………さあ?」

 

 本当に嫌よね、ダンジョンに潜ったら“最強”に出会うとか…………。

 ねえ、ベル。やっぱりダンジョンに出会いを求めるのは間違っているよ。

 

 震える身体を落ち着かせる為に深呼吸をする、本当……嫌になる程ただの気休めだけどね。

 

「…………あの、私はこの先に行かないといけないから道を譲って欲しいですけど?」

「れ、レフィ!?」

 

 一応、コミュニケーションを試そう、“あの白狼”だって言葉は通じるんだから、人間なら話通じるよね? 

 

「———ならん」

 

 間も無くバッサリと切り捨てられた! わぁーい! 知ってたよ!! このフレイヤ様大好き筋肉ダルマめ!! おいこら! 殺気を出すな! 震えが止まらないでしょ! 

 

「ひ、ひいぃ!?」

 

 同じく殺気に晒されたリリちゃんが悲鳴を上げた。

 

「…………う、ウチの子が怖がるからそれやめて欲しいんだけど?」

「うぅえぇ!? レフィ!?」

 

 視線を大男(オッタル)から離せずに優しくリリちゃんを撫でる。でもぶっちゃけるとこれ意味ないよね、この筋肉ダルマ(オッタル)、その気になればいつでも私達を殺せるだけの力を持ってるから。

 

 あれ? でもちょっと待って? さっきリリちゃんは“ヒューマン”って言った? え? オッタルって“猪人(ボアズ)”だよね? 人違い? 

 

「—————貴様が居れば、あのお方が望んだモノが叶わない。黙って立ち去るか、死ぬか」

 

 いや、間違ってない、間違う筈がない。この人は“オッタル”だ。この心臓すら止める程の殺気は間違う筈ないからね。

 だとすると、これは魔法? いや、魔道具(マジックアイテム)かな? 幻覚か認識障害のどっちかだと思う……。でも、なんで私には効かないの? 

 

 —————それは貴様のスキルのお陰だ、愛しい子よ。

 

 ほぁ!? きゅ、急に話しかけないでよ!? 

 

 —————あの程度の魔法はお前に効果がないからな、もし効果があるのならば、それは“神器”に違いない。

 

 ねぇ!? 無視? また無視なの? 

 

 —————して、愛しい子よ。お前はどうする? 

 

 どうするって何が? 

 

 —————弟の元に行きたいだろ? ならばあの“筋肉達磨”とやらを倒すのか? 

 

 いや、無理でしょ。死ぬよ? 

 

 —————その通りだ、未熟な貴様があの領域には程遠い。だが…………一度だけなら奴から逃げれる方法がある。

 

 そんなのあるの!? 

 

 —————ああ、我を纏えばと言う前提が付くがな。

 

 え、えっと? 

 

 —————あの狂った精霊が貴様にしたかの様に我を纏うのだ。それで一時的だが貴様は我の力を振るう事が出来るのであろう。

 

 唐突にそんな話をしても……また暴走したらリリちゃんまで巻き込まれるよ!? 

 

 —————愛しい子よ、アイツ(姉と名乗る者)にも言われたが、貴様ら人間如きが我の力の全てをその身に宿すと言うのは不可能だ。身に宿したらそれが最期だ。身体が朽ち果て、魂すらも綺麗さっぱり無くなる。

 

 え、えぇ…………私は死ぬの嫌だよ!? まだみんなと一緒に居たいよ!? 

 

 —————だからこれからお前に授かるのはほんの一部だけだ、その一部は本来の一億分の一に過ぎないが。それでも十分だろう。

 

 …………なにそれ? 急に強そうで弱そうな数字。

 

 —————だがこれは貴様の力ではない、道端(みち)がわかったとしても貴様ではまた辿り着けない頂きの形(ちょうてん)だ。

 

 え? う、うん。わかった! つまり今回限りって事だよね? 

 

 —————そうだ。さあ、愛しい子よ、唱えよう我の名を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体にある魔力を熱く燃える、だが不思議と怖くない。意識もハッキリしてるし、胸の中がポカポカで暖かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火の化身(イフリート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レフィがそう言うと、突然と燃える様な魔力が彼女を中心に渦巻いた。

 レフィはそのままリリを抱き寄せて、再び前へ駆け出した。

 

「ひ、ひぃいいいい!! こ、殺されちゃう!!」

「大丈夫!!」

 

 レフィの瞳が炎の様に紅く煌めいて、真っ直ぐと目の前に居る“ヒューマン”の男に突っ込んだ。

 

「—————ほう、妙な力を使うな、だがそれも切るまでだ」

 

 男はそのままリリ達にその大きな大剣を振り下ろした。

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

 男の前まで来ているとレフィは速度を緩める所か、更に速度を上げていた。

 

「アアアアアアアアアアアア!!!」

 

 気がついたら、リリ達は男をすり抜けた。そう、如何にも簡単に。

 

「—————よしッ!! リリちゃん、このまま行く!!」

「へ? は、はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—————まさかこれ程とは……」

 

 鎧の大男……、オッタルは”溶けた“精製金属(ミスリル)の大剣を見てそう呟いた。

 

「—————だがそれでも十分に”切れた“。これで奴はフレイヤ様の楽しみにしていた舞台の邪魔をしないのだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数秒後にベートとアイズがその場に着いたが、そこにはもう誰も居なかった。




ここまで読んで頂きありがとうございます。
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