私が妖精になるのは絶対間違ってる   作:ZeroRain

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これを書いている時の体温が38.7°cです。マジで辛い


あざといウェイトレス

『おい、見ろよ、噂の【理外姫(アンリアル)】だ』

『あの1ヶ月半でレベル2なった【理外姫(アンリアル)】か!?』

『間違いない、その【理外姫(アンリアル)】だ!』

『じゃあ、隣に歩いている白髪は【未完の少年(リトル・ルーキー)】なのか?』

『ああ、違いない』

『一体、どんなズルしてるんだ?』

『バーカ、ズルなんて出来るわけねえだろ』

『いやいや、それでも1ヶ月半は可笑しいって!』

『それもそうだけど——————』

 

 どうも皆さん、おはようございます。

 何処にも居る普通のエルフのレフィーヤ・ウィリディスです、今日はへファイストス様との約束の為バベルに向かってる最中です。ちなみに、二つ名を貰った翌日です。

 まだ翌日なのに、もうこんなに広まるの!? 嘘でしょ!? 嘘だと言って!! 

 

「レフィ姉、大丈夫?」

「…………うん、身体は元気だけど心は死んでるよ」

「……またわからない事を言ってるし」

「いつかベルもこの気持ちを理解できると思う」

「そんなにあの二つ名が気に入らないの?」

「いや、そういう訳ではないだけど…………」

 

 あだ名なら兎も角、二つ名で呼ばれて心の奥底から溢れ出る恥ずかしさを誰か理解して欲しい。

 この都市(オラリオ)でそんな物を求めるのは間違ってるだろうけど。

 

「ところで、それは?」

 

 ベルは私が持つ鞄に目を向けた。

 

「あぁ、これね。マジックスクロールとその材料が入ってるのよ」

「現物だけじゃダメなの?」

「それだけで信じられるのだったらいいけど、そういう保証がないからね」

「職人って難儀な性格してるね」

「これから会う人もそんな感じだからね」

「…………そうか」

 

 武器職人は頑固な所があるからね、特にコレ(マジックスクロール)は彼らの得意とする“魔剣”に関係する物だから尚更だよね。

 一応持っていくのはインクとペンそして一般販売された羊皮紙。

 後はベルが貰った白紙の本とかも入ってた。何故かと言うと、この本は元々正真正銘の魔導書(グリモア)だった為もしかして使えるかもしれないと思ったから。だから”ドロップ素材“に詳しいへファイストス様に聞いて、使えるかどうかを確認したかった。

 

 突然、何処からとなく強烈な視線を感じた。

 

「あれ? ベルさんにレフィーヤさん!」

「あっ! シルさん」

「え? あっ、おはようございます」

「はい、おはようございます」

 

 視線に気を取られすぎると制服姿のシルさんとばったり出会いました、その手には可愛い布で包まれた箱があった。

 

「ベルさんはこれからダンジョンですか?」

「あっ、いえ。今日はレフィ姉と一緒に防具を買いに行く予定です」

「…………へぇ、レフィーヤさんとですか。…………もしかしてデートですか?」

「私とベルが? あははは、ないない」

「僕地味に傷付くけど?」

「はいはい」

「…………やっぱり仲がいいですね」

「そりゃ、家族だもの」

「家族だからね」

「そ、そうですか…………」

 

 そう言うと何故かシルさんが少し落ち込んでる様に見えた、ほんと、恋する乙女って難儀だよねぇ。

 

「ねえ、ベル。先に行ってくれない? 私ちょっとシルさんに用事出来たからさ」

「「えっ?」」

「お願いできる?」

「う、うん、わかった!」

「わ、私とですか?」

「そう、ちょっとだけだから」

「わ、わかりました」

「それじゃ、僕は先に行くね」

 

 ベルは私とシルさんを置いてそのままバベルの方に向かった。

 

「さてっと…………」

「…………はい」

「とりあえず立ち話は嫌ですし、そこのベンチの座りません?」

「あっはい…………」

 

 ベンチに座ったシルさんは持っていた箱を膝に乗せながらじっと下を向いた。

 

「こうやって二人で話すのは初めてだね」

「えっ? あっ……そ、そうですね」

「ねぇ、シルさん」

「はい、なんでしょうか?」

「ベルの事好き?」

「…………はいぃ?」

「だからね、シルさんってベルの事、好き?」

「ななななななななにをいってるのでしゅか!?」

 

 シルさんは顔を真っ赤にしながらあたふたしていた、よく見るとちょっぴり涙目。

 

「……焦ったシルさんが可愛い」

「と、突然に何を言ってるですか!?」

「えっ? 私目線でシルさんがベルの事好きとビビッときたから?」

「わ、訳がわかりません!」

「じゃあ、嫌いなの?」

「き、嫌いなんて一言も言ってないじゃないですか!」

「そうだよね! 毎朝お弁当まで作ってくれたもんね!」

「うっ!?」

「いやぁ、シルさんってマメな性格だなぁって」

「なななななっ!!」

 

 又もや真っ赤な顔で私を睨め付けるシルさん。

 

「私からすれば、シルさんに是非とも頑張って欲しいよね」

「え?」

「え?」

「…………レフィーヤさんってベルさんの事好きじゃないのですか?」

「うん? それはもう大好きですよ?」

「だ、だったら何故急にそんな事を! 私に塩を贈るつもりなのですか!?」

「…………あははは、やっぱり嫉妬してるんですね」

「そりゃ嫉妬だってしますよ! ベルさんはどれだけ貴女の事を大切に思っているのですか!?」

「あははは、でも私はベルに恋愛感情を抱いてないよ」

「…………何を今更!!」

「私って恋愛っていうより親愛だよね、家族愛の方。だからシルさんが思うのとは違う」

「…………それは貴女だけかも知れませんよ?」

「うーん、あの子は恋愛対象は他にいると思うけど、だから私じゃないよ?」

 

 恐らくベルが惚れたのはアイズさんの事だしね。

 

「……誰ですか?」

「顔怖いよ?」

「…………誰なんですか?」

「めっちゃ近いよ?」

 

 近すぎてこのままだとキスされそうなぐらい。

 

「だ れ で す か ?」

「あっうん、言うからちょっと離れてね?」

「…………わかりました」

 

 シルさんはそのまま下がった、けれど彼女の顔は今までにないぐらい真剣な(マジ)顔でした。

 

「えっと、私が思うには【剣姫】のアイズさん何じゃないかって」

「…………へぇ、【剣姫】ですか」

「うん、所謂一目惚れって奴だね」

「…………確かに彼女は女神に匹敵する美貌を持っていますね」

「そう、その彼女って私が思う」

「……ならば…………今度、毒や闇討ちを」

 

 急に物騒な事を考え始めたシルさん。

 

「ちょっとちょっと! シルさん落ち着いて!」

「…………レフィーヤさん、私はヤります、ベルさんの一番になる為に絶対にヤりますから」

「待って! 待ってよ! 今の絶対ニュアンスが違うから!」

「私を止めないでください! ベルさんの為なら私は何だってヤります!」

「シルさんごめん!」

 

 暴走気味のシルさんに即席の“鎮静化”魔法掛けた。

 

「…………今のは?」

「シルさんの感情を少し落ち着かせる為の魔法です、勝手に使っちゃってごめんなさい」

「え? あっ、いえ大丈夫です…………私に……魔法? え?」

「あ、あのね、シルさん」

「え? は、はい」

「そんな強引なやり方じゃなくて自力で振り向かせる事こそがいい女の証じゃないですか?」

「そ、それは確かに」

「むしろ、アイズさんを傷付けたらベルに嫌われるかも知れませんよ?」

「それは……」

「嫌でしょ?」

「…………はい」

「今まで通りに少しずつ距離を縮めた方がいいと思う、状況に寄ってガンガン行くのもありけどね。そこは臨時応変って事で」

「な、なるほど…………」

 

 シルさんは戸惑いながらも頷いた。どうやら納得してくれたみたいですね。

 

「ただ……ここで一つの問題が発生します」

「え!? そ、それはなんですか!?」

「それは——————」

「はい…………」

 

 ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルさんの料理はまずいのが問題ですね」

「…………え?」

「シルさんの料理がクソまずいのが問題です」

「更に酷くなってませんか!?」

「事実ですから」

「レフィーヤさんは私の料理を食べた事ないでしょ!?」

「あるお方から聞きました」

「誰ですか!!」

「ミアさんから」

「よりによって!?」

 

 あの時は悩みを聞きますよって聞いてみたら、まさかの「あの不良娘の料理下手が酷すぎて他の娘達が可哀想」とぶっちゃけました。

 

 どうやら料理する時にこうすれば更に美味しくなる筈と思い、レシピからかけ離れたのが主の原因らしい。

 

「あのですね、シルさん」

「ぐすっ、はい…………」

 

 涙目のシルさんは弱々しい声で返事していた。

 

「今度から私の手が空く時に料理を教えますから、頑張りましょうね?」

「…………料理を教えてくれるんですか?」

「うん! ただ一つだけ約束して?」

「……なんでしょ?」

「レシピは絶対守る事!」

「え? だって色々足せばもっと美味しくなるは——「い い で す ね ?」わ、わかりました」

 

 かなり食い気味で注意するとシルさんは渋々と納得してくれた。

 これぐらい注意すれば多少は良くなると信じたい…………だって、あんなに美味しいミアさんの料理が不味い料理に転生するなんてありえないからね? 

 

「どうしてそこまで私を?」

「ベルの事を好きになってくれたからかなぁ」

「そんな適当な理由で…………」

「それと私個人の話なんだけど」

「はい」

「出来ればシルさんとはお友達になりたいなぁって」

「へ? おとも……だちですか?」

「うん! シルさんとリューさんみたいにね?」

「…………レフィーヤさんは絶対にリューとは違いますよ」

「なにを!?」

「リューはクールな感じですがたまにポンコツです」

「……ポンコツなんだ」

「それに比べて、レフィーヤさんは可愛いポンコツですからね」

「待って!?」

「ふふふ、ではお料理教室はお楽しみにしていますね、レフィーヤさん…………いえ、ここは一つ特別なあだ名にしましょう」

「急にどうしたんですか?」

「決めました! これから私はレフィーヤさんの事、フィーちゃんと呼びますね!」

「唐突ですね!?」

「……ダメですか?」

「うっ…………わ、わかりましたよ!」

「フフッ、ではこれからフィーちゃんと呼びます! その代わりに私のことはシルとでもお呼び下さい!」

「…………あーうん、わかった」

「では、またね、フィーちゃん」

 

 あざとい笑顔を浮かびながら走って行ったシルを見送り、かなり疲れ気味の足取りで私はバベルへ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談ですが、シルと話す時に背後からちょくちょく殺気をあてられていた。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

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