短めです。
『へファイストス様、俺を呼んだと聞いてますが?』
扉の向こうから声が聞こえた。
「入っていいわよ」
《ガチャッ》
扉が開き、赤髪の青年が部屋に入った。
「思ったより早かったわね」
「ちょうど店に置いてあった作品を取りに来ていたので」
「あら、そうなの? 悪いわね」
「いえ、とんでもないです。それより何故俺を呼んだのか聞きたいのですが」
「ああ、それはね——————」
へファイストス様は私達の方に顔を向けた。
「彼らが貴方に会いたいってお願いしたからよ」
「彼らって…………なっ?!」
ベルと私の顔を見た彼は思わず目を開いた。
「【
そう呼ばないで欲しいなぁ、【
「ええ、そうよ」
「待ってください! 俺は”アレ“を作るつもりなんて———」
「落ち着きなさい、私は彼らが”アレ“を作って欲しいなんて一言も言ってないでしょ?」
「“アレ”以外に俺と会う目的なんて居ませんよ!」
どうやら少し誤解があった様だね。
「私は”魔剣“の依頼制作なんて頼みませんよ」
「…………だったらなんだ? 俺を罵倒するつもりか?」
「いえいえ、此方に居る弟の装備を作って欲しいんです」
「…………この俺が? 【
「はい、その通りです」
「……お前正気か? 俺は”クロッゾ“だぞ?」
「それが何か?」
私の返事を聞いた青年は信じられない顔でへファイストス様を見た。
「……そう言う子よ、諦めなさい」
「いや、だからって……」
「そんな事より自己紹介ぐらいしなさい」
「…………そんな事で片付けちゃっていいものなのか? いや、まあ兎も角……自己紹介だったな。俺はヴェルフ、ヴェルフ・クロッゾだ」
「私はレフィーヤ、レフィーヤ・ウィリディス、此方は」
「弟のベル・クラネルです」
「いやまあ、俺はお前らの事知ってるけどな。
「ええ!? クロッゾさん僕らの事知っているのですか!?」
「ああ、あと俺の事はヴェルフでいいよ、苗字は好きじゃねえんだ」
「あ、すみません……」
「いいって事よ、あんたもそれで構わねえよな? 【
「ヒェ!? あ、う、うん」
「…………? お前の姉どうしたんだ?」
「あ、あははは、気にしないであげて」
いい加減に慣れないとね……でもやっぱり恥ずかしいし……呼ばれるだけで背筋がゾワっとするし……。
「んで、正気なのか?」
「え? なにが?」
青年もとい、ヴェルフ・クロッゾに話し掛けられ、私の意識が現実に引き戻された。
「だから、エルフのお前が
「私は正気だよ? それにエルフだからってあなたに仕事を頼むなんてそんなに意外なの?」
「は? いや、だってお前……“クロッゾ”だぞ!? 恨んでないのか!?」
「いや、私はエルフの里ではなく一般的な開拓村で育って来たし、エルフの基準とかそういうのには鈍いからね」
「…………マジか」
その答えを聞いた彼は再び言葉を失った。
「へファイストス様、“クロッゾ”ってなんですか?」
「あら、知らないの? ”クロッゾ“って言うのはかつて”最強“の魔剣鍛治師よ」
「最強ですか!?」
「そう、”クロッゾの魔剣“が彼の
「それなのに”かつて“ですか?」
「ええ、”
「なるほど…………」
「だから一般的なエルフは“クロッゾ”に強い恨みを持っているわ、それなのに貴方の姉からは恨み一つも感じない」
「…………まあ、レフィ姉だし」
「…………調教されてるわね」
「あれ? でも今の話の流れだと、ヴェルフさんは魔剣打てるって言う事ですよね?」
「ええ、どう言う訳か彼は魔剣が打てる、それも正真正銘の”クロッゾの魔剣“を……ね」
「理由もわからないのですか?」
「そうね、わからないわ。先祖返り、精霊の気まぐれ、それともまた別の理由、そう考えるとキリがないわね」
「…………なるほど、確かにそうですね」
へファイストス様はベルにそう説明した、それを聞いたヴェルフさんは額に手を当てながらため息を吐いた。
「へファイストス様、勝手に俺の情報をバラさないでくれます?」
「あら、これぐらい減るモノじゃないでしょ? それでベル」
「はい、なんでしょう?」
「貴方は欲しいかしら? —————最強の魔剣を」
「え? う────ん…………いや、要らないです」
「あら、意外ね」
「確かに最強の魔剣には興味ありますが、今の僕らのパーティでは遠距離攻撃は十分間に合ってますっていうか完全に威力過多なんですよね」
そう言ってベルはちらっと私の方を見た、私自身は威力過剰の自覚はあるので何も言えないけれど、君自身もそうなんだからね?
「それに—————嫌がる人に無理矢理打たせるのも気が引けるし、お爺ちゃんも言ってました、過ぎた力は我が身を滅ぼすって」
真っ直ぐな瞳でベルは質問に答えた。
「なるほどね。それでヴェルフ、彼の答えは十分かしら?」
「…………ああ、くそ! わかったよ!」
ヴェルフさんは頭を掻き、そしてそのまま床に座り込んだ。
「俺の負けだ、で? どんな装備を作って欲しい?」
彼もまた真っ直ぐな目でベルを見つめた。
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