「——————どんな装備を作って欲しい?」
ヴェルフさんは真っ直ぐな目でベルを見ていた。
ベルは一瞬驚いたが、間を開けずに私の方に視線を送った。それに気づいた私は軽く頷き、ベルは再びヴェルフさんと向き合う。
「僕は欲しいのは鎧、そして耐久性の高い武器です、と言っても鎧は先程買ってしまったのですが」
ベルは木箱をヴェルフさんに見せながら困った表情を浮かべた。
「なるほどな……っておい!これ
そんな名前だったんだ二代目兎鎧……。
「う、うん、凄く身体に合うから気に入ってるんだ」
「マジか!?こいつは軽さと丈夫さが両立している一作なんだが不思議と何故か売れないんだ、そうか!お前が買ってくれたのか!」
ヴェルフさんは嬉しそうにベルの背中をバシバシと叩いた、ベルは恥ずかしそうに笑った。
「他の連中に聞かせてやりたいな!【
更に背中を叩く回数が加速している。
このままだと埒があかないので私も会話に参加する事にした。
「そう言うわけなのよ、ベルはあなたの作品を気に入ったから是非とも装備を作って欲しいの」
私の言葉を聞いたヴェルフさんはピタッと叩く手を止めた。
「—————鎧はわかったが、何故武器も必要なんだ?コイツには“ソレ”があるだろ?」
“ソレ”とは勿論漆黒のナイフ、ヘスティア・ナイフの事である。
「僕が手数欲しいからなんだ、ナイフ一本だけじゃどうしても足りなくて……」
「なるほどな、だがそれにしても耐久性に拘る理由がまだ見えない、ただ手数が欲しいだけならウチで売っている安い武器を買えば済む話だからな」
「それは………」
ベルは言葉を続けなかった、彼は困ってそうに私をみた。
「まあ、そうだね………見せてあげても良いよ」
散々使った魔法を渋るのも良くない、魔法やスキルは冒険者の生命線といっても良いけれど、ヴェルフさんの信用を得るには一度見せて貰った方がいいと判断した。
「ありがとう、レフィ姉」
「でもヘスティア・ナイフでやっちゃダメよ、この剣でやりなさい」
鞄から取り出した一本の片手剣をベルに投げ出した。
「……この剣で?」
「おい、それって俺が作った
「え!?わ、ワン何?」
「
そう、地味に重いよねその剣……。
「確かに少し重い……けど振れない事はない」
「……そりゃお前がレベル2だからだろ?普通のレベル1では両手で持つのが精一杯だよ」
「それって欠陥品じゃ?」
「断じて違う!相応しい持ち主に出逢っていないだけだ!」
レベル2でようやくまともに振れる剣を振れるレベル1って何処にいるのよ?
あっでも、リリちゃん軽そうに持ってたよね?
わんこけんの相応しい持ち主はリリちゃんだった?
「……職人って本当に難儀な性格してますね」
「そうね、否定出来ないわ」
へファイストス様は困ってそうに笑った。
「ってそんな事より、その剣で何をしようとしてるんだ?」
「す、少し待ってください。レフィ姉、どれぐらいやれば良いと思う?」
顔を私の方に向けてベルは聞いた。
「剣の限界ギリギリまでやって良いよ」
「む……難しい注文だね……」
そう言ってベルは深呼吸をすると共にその目を閉じた。
『
ベルの手からじわじわと魔力が剣に集まり出し、徐々に別の剣の形になった、そして最後にそこには黄金の剣が顕現したのであった。
「おいおいおいまじかよ!?」
「これは……」
目の前に起きた出来事に二人は言葉を失った。
「これが武器を欲しがるもう一つの理由です」
「いや、待てよ!?お前、今魔法で武器の形を作り替えたと言うのか?!そんなの聞いた事ないぞ!?」
「レフィーヤ、彼の魔法は【剣姫】と同じ
ヴェルフさんはベルに詰め寄り、一方、私の方にはへファイストス様が詰め寄った。目が怖いよ!?
「え、えっと、ベルがこれを出来る様になったのは本当に最近でして、私も先日知ったばっかり何ですよ!?」
「そう………なのね……」
へファイストス様は渋々と了承してくれた様です。
「いや、おかしいだろ!?なんでそんな説明でへファイストス様が納得してんだよ!?」
もう一人は納得してくれないのですがね……。
「いい、ヴェルフ?この子………いや、この子達相手に常識なんてないような物よ?」
「だからそれがおかしいだろ!?」
へファイストス様にカッ!と目を開きながら迫るヴェルフさん。
「れ、レフィ姉………」
「あ、うん、わかった『落ち着いて』っと」
興奮気味のヴェルフさんに“沈静化“の魔法を掛けた、おかげでヴェルフさんが徐々に落ち着きを取り戻した。
「………あー、なんか急に冷静になった、今のが魔法か?」
「はい、姉の魔法ですね」
私の代わりにベルが答えてくれた。
「そうか、すまんな。見苦し所見せちまってよ……」
「あっ、いいえ、元と言えば僕のせいですし」
「それにしてもお前の姉、便利だけどエルフにしては地味な魔法だな」
「え?」
「だってよ、味方を落ち着かせる魔法なんて使う所が限定的すぎるだろ?そもそもエルフって長文詠唱の高威力魔法とかが主なイメージだよな……」
「え?」
「いや、なんだその何言ってるんだ?みたいな顔は」
言葉通りベルは少し顔を傾けながら困惑したそうな表情でヴェルフさんを見つめた。
「いや、まあ、気に触れるならすまん、だが決して弱い魔法じゃないとハッキリ言える、戦闘中の混乱が治せるのはデカいからな」
「えっと?」
「だからさっきからなんなんだよ!?フォローが足りねえのか!?」
「そう言う訳じゃないですけど……」
「いや、まあ、今はそんな事はどうでもいい!お前の魔法だよ!なんで
ヴェルフさんはベルの手に握られた剣を指した。
「これは文字通り僕の魔法をそのまま剣に纏わせた結果なんです」
「俺はその剣に触れれないのか?」
「出来ます………多分ですけど」
「そこは自信を持って欲しかったんだがな」
「他人に渡す事自体試した事が無くて………」
「なるほどな、その剣自体はどれぐらい持つんだ?」
「僕の魔力が続く限り顕現し続ける事ができますが—————」
ベルが言葉を終わらす前に。
《パリンッ!!》
ベルの手にあった剣は砕け散った。
「—————場合によって、こうやって元になった武器が魔力に耐えきれずに砕け散ります」
「………それでも足りないと言うのか?」
「いえ、これは持つほうなんです、前に使ったショートソードは纏わせた瞬間にヒビが入りましたから」
「頑丈さが売りの
「………はい」
「その黒いナイフの場合は?」
「このナイフの場合はそういった制限はないですが、やっぱり手数が欲しくて」
「あの黄金の剣を二振り持って戦うつもりなのかよ」
「はい、それも状況によるですが—————」
そこは
「………てっきり剣を壊したのを怒ると思いましたが」
「確かに自分が作った武器がそうやって壊れるのを見るといい気分じゃないわ」
「それなのに、怒るどころか協力的なのは?」
「あの武器が壊れたのは魔法のせいではあるが、彼自身の未熟さのせいでもあるわ、それが許せないじゃないかしら」
「なら彼は己の未熟さ故に魔剣を打たないのですか?」
「それはただの意地よ、彼は“
「………難儀な性格ですね」
「仕方ないじゃない、だって職人だもの」
私とへファイストス様はそんな二人を見守ることにした。
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