短いですが、毎日更新を途絶えない様に頑張ります!
【へファイストス・ファミリア】のテナントを後にし、私は一人で【豊穣の女主人】に向かった。
店自体はまだ開いてないけれど、ミアさん達は居るので少しだけお邪魔する事にした。
って言うより寧ろ人が少ないこの時間帯だからこそ話せる内容と言うべきかも知れない。
「それはもうあんた達のモンだからあたしに返す必要はないよ」
「で、でも! 高級品ですよ!? 見積もっても2500万ヴァリスはある本ですよ!?」
「だからなんだい? あたしは価値があるからってあげたモノを取り上げる程器が小さい女に見えるのかい?」
「ミアさんが豪快な人なのは分かりますよ……でも、こんな高価な本をただで受け取る事なんて……私にはできませんって!」
「まったく…………だったらそうだな、あんたはあの不良娘に料理を教えるって言ってたね?」
「えっ!? 何故知ってるのですか!?」
「本人が言ったよ」
そう言ってミアさんは調理場の入口を親指を指した、そこには悪戯っ子の様にと笑うシルを始めたウェイトレス達がちょこんと頭を出しているのが見える。
「…………な、なるほど」
「本はその報酬としてあんたにあげる」
「私はただ友人として!」
「だったらあたしはあたしであの不良娘の“保護者”として正当な報酬をあんたに支払うだけだよ。それにあんたらには借金があるだろ?」
「で、でも」
それじゃ対等な友達って言えるか…………。
悩んでいるとミアさんの背後からウェイトレスのみんなが一斉に飛び出した。
「フィーちゃんは難しく考えすぎです!」
「シルぅ…………」
「そうミャ! 難しい事なんて考えずに受け取れば良いミャ!」
「そもそもこんな真っ白な本はモノ好き以外誰も欲しがらないニャ!」
「って言っても納得しないだろうね」
「だとしたら我々、豊穣の女主人からウィリディスさんに贈る物としてはどうでしょ?」
「「「「それだ! (ミャー! /ニャ!)」」」」
「え? え?」
急に何言ってるの!?
「そうさな、自分が作ったレシピは料理人にとって秘宝みたいなもんだ。安く売った“御礼”として受け取りな!」
「え!? で、でも!」
「もう“でも”も“待って”もないよ。ほら、受け取りな!」
かなり強引に渡された本を受け取り、私はじいっと本を見つめた。
ある程度予想はしてあるけれど、まさかこんなに強引で渡されると思わなかった…………。
「そんな事より、フィーちゃんはこの後暇ですか?」
「え? ええ、まあ……今日の用事が終わりましたし……」
「でしたら早速、私に料理を教えてください!」
「今からですか!?」
「はい! …………あの、大丈夫ですよね?」
うるっとした目でこちらを見つめるあざとい人…………。
「…………仕方ないですね」
「やった! じゃあリュー達に試食を頼みましょう!」
シルがそう言った瞬間、リューさん達はまるで死刑宣告された様な絶望感に溢れた顔を浮かべた。
「…………試食はシルと私がします」
それを聞いた瞬間、リューさん達から先程の絶望に満ち溢れた顔が消えた。
「え? 私もですか?」
「…………むしろ今までしなかったのね」
「はい! そこら辺は全部はリュー達に任せてますから!」
「な、なるほど、でもそもそも自分で味見するのが基本です」
自分で味見しないで他人に食べさせるからみんなはそんな顔をするのね。
「へぇーそうなんですねー」
こらそこのあざとい人、「意外ですねー」みたいな顔しないで…………。
「では善は急げなので!」
「待ちな! あたしはまだ“いい”とはいってないよ!」
《ゴツン!》
「あぅ…………」
「店の仕込みがまだ終わってないよ!」
「あぅあぅ…………」
「ミア母さん、シルの仕事は私とアーニャがやりますので、やらせてあげて下さい」
「ミャー!? ミャーはやるとは言ってないミャー!!」
「いいや、ダメだ」
「どうかお願いします! これは私達の切実な願いです!」
「ミャーを無視するなミャー!!」
リューさん、そんなにシルにまともな料理を覚えさせたいのね。
その後リューさん、クロエさん、ルノアさんの三人がミアさんに頭を下げ、ようやくシルが自由になった。
アーニャさん? あの人は強制的にシルの仕事やらされるので隅っこで不貞寝している。
こうやって、私とシルの料理教室が始まるのであった。
どうしてこうなった…………。
「…………どうしてこうなった」
「え、エヘヘへ」
「エヘヘへじゃないです! 何ですかこれ!?」
「は、ハンバーグです!」
「そうです! ハンバーグなんです! なのに…………なのに…………どうして酸っぱいなんですか!?」
「に、肉が悪かったのかも知れませんね!」
「さっき精肉店から買ったばっかりの肉なのに!?」
「きっとあの店悪い肉を売ってるんですよ!」
「それだったらあの店もうとっくに潰れてますよ!? いい加減自分の非を認めて!?」
普通にハンバーグを作っている筈なのに途中で目を一瞬離すだけでこうなるって一体どんな魔法を使ったの!?
「可笑しいですね……このソースを入れると隠し味になるって書いてあるのに……」
「隠し味なのに隠れてないよ!? っていうかそれ、カレーのレシピなんですよね!?」
「はい! そうです!」
「はい! …………じゃないよ! 私達はこのハンバーグのレシピで作ってるの! なのにどうしてカレーのレシピを見て作ってるのですか!?」
「出来る女は料理をアレンジするって聞きましたから」
「ならせめて普通のが出来てからにして!!」
結局、普通のハンバーグが出来るまで二十回ぐらい作り直す羽目になった。
出来たハンバーグを食べたリューさん達が感動で震える程だったのはまた別の話。
ここまで読んで頂きありがとうございます。