気がつけばもう日が暮れそうな時間帯になった。
「もうこんな時間ですか」
「気がつけばあっという間でしたね」
「ええ、続きはどうしますか?」
「後は家でやっても平気な作業だけなので今日はここまででお願いします」
「かしこまりました、ところで夕飯はどうしますか? 良ければこちらで用意させますが?」
「いえ、遠慮させていただきます。それに今日は当番の日なので帰ってみんなの夕飯作らないと」
「それなら仕方がないですね」
先まで作業をしていたモノを片付けて、帰宅の準備を終わらせる。
ロビーに着くと吊るされたヘルメス様とそれを見張っているルルネさんがいました。
「それでは失礼します」
「ええ、お気をつけて帰って下さい」
「ねぇ、レフィーヤ。本当に他のみんなが帰るの待ってなくていいの?」
私が帰ろうとするとルルネさんが不満そうな顔でそう言った。
「えっと、ごめんなさい。夕飯作らないといけないので……」
「そんなの外食にすればいいのにー。冒険者何だからさ、律儀に料理しなくてもいいじゃん!」
「そんな事言ってもウチは零細ファミリアなので節約しないといけないですよ」
まあ、主に借金のせいだけどね……。
「ちぇー」
「それに私自身は料理大好きですよ?」
「ねえ、アスフィ! この子、いきなり女子力でぶん殴って来たんだけど!?」
「してません!!」
「レフィーヤさん、ルルネはそういうのヘタクソですから今のはただの嫉妬です」
「なるほど……」
「ちょ、アスフィ!? 一体どっちの味方なの!?」
「私は中立です」
そんな軽いやり取りした後、私は宿を後にした。
ホームに帰る途中に今日起きた出来事を思い返す、正直色々ありすぎて本当に疲れたよ。
まあ、完全に自業自得なんだけどね……。
特に金属特性が変わったあの件はイフリートに聞けば何かわかるかな?
でも聞きたくても最近声が聞こえないからどうしょうもないけどね。
「よし、これで夕飯の買い出しは大丈夫っと……」
買い出しを終えて、帰路に着くと思わぬ神物と出会った。
「レフィたんや!」
「ロ、ロキ様!?」
ロキ様はそのまま私に抱き付いた。
「何してんの?」
「買い物です」
手に持って野菜と肉を見せながらそう言う。
「おぉー! すき焼きやな!? すき焼きなんやな!? ええなぁーウチも食べたいなぁー」
「よ、良ければうちに来ますか?」
「ほんまにか!?」
「はい、別に一人や二人増えても材料は足りるので、良ければ護衛さんも一緒に連れてきて下さい」
「いや、自分は……」
「この護衛は気にせんでええよ」
「いや……そう言うわけにもいかないでしょ……」
「レフィたんがそう言うならええけど、ヴァインもええな?」
「はい、ありがたく頂きます」
「ほんまおおきにな」
「いえいえ、いつもお世話になっていますから」
護衛に担当している団員をちらっと見るとその人は軽く頭を下げた。
「レフィたんが作るすき焼きは楽しみやな!」
ごめんなさい、今夜はすき焼きじゃなくてしゃぶしゃぶの予定なんです……。
「あの……ロキ様」
「ん? なんや?」
「後でヘスティア様と一緒に相談したい事があります」
「…………またかいな」
「何度もすみません……」
「まあ、ええわ。詳しいのは飯の後にするわ」
「はい……」
しばらく無言で歩き続けるとロキ様はニカッと笑った。
「そんで、今夜はすき焼きなんやろ? その為に清酒は欠かせへんな!」
「そ、そうですね」
ごめんなさい! 本当はしゃぶしゃぶなんです!
「よし! ちょっと寄り道をして酒を買うんや! 土産にもちょうどいいやろ。レフィたんは先に帰ってええよ! ほなヴァイン、いつもの店にいくで!」
「了解です」
「えっ!? ちょっと待って…………ってもう行っちゃった…………」
私が止める前に素早く走り去ったロキ様とその護衛。
「…………とりあえず、肉を流用してすき焼きに変更だね」
速報、今夜はやっぱりすき焼き。
「幸い材料は揃ってるから問題ないよね? …………あっ、豆腐足りないかも!!」
急いで追加の買わなきゃ!
そのまま急足で曲がり角を曲がると。
「あいたっ!?」
私は何者かとぶつかった。
「おっと!? これはすまないね」
「こ、こちらこそよそ見していてすみません!」
「おや、これはこれは噂の【
「へ?」
顔を上げるとそこには優しく微笑んだ人物……いや、神物が立っていた。
「え、えっと…………」
「ああ、すまない。ビックリをさせてしまったね、私はディオニュソスって言うんだ。神をやっている」
「は、はじめまして…………私は———」
「ふふふ、お前の事は良く知っているよ、レフィーヤ・ウィリディスちゃん」
ディオニュソス様は私の手をそっと取り、そのまま手甲に口づけをした。
「ほぁ!?」
すると彼の神の背後からゾワっとしたオーラが現れた。
「「!?」」
ゆっくりとディオニュソス様が笑顔で振り向くとそこには一人の女性が立っていた。
「やぁ……思ったより早かったね……フィルヴィス」
「はい、ディオニュソス様の為にお伝えしたい情報があるので早速と駆けつけましたがまさかお取り込み中とは思いませんでした」
「いやいや、そんな事ないさ」
「どうでしょうね…………」
「ははは、また嫉妬してるのか? この可愛いやつめ」
ディオニュソス様はそのまま愛しそうにフィルヴィスと呼ばれた女性の頬を優しく撫でた。
「だって……こんな私を受け入れるのは貴方しかいません」
「ははは、本当に可愛いなお前は」
えっと、私は一体何を見せられているの?
「す、すみません、お邪魔みたいで失礼します!」
そういうとフィルヴィスさんは顔を真っ赤に染めた。
「おっと、そうか? では、気をつけなさい」
「は、はい」
ディオニュソス様は手を振りながら私を見送った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
オリキャラ護衛のヴァイン君(推定レベル4)はここでしか出番ないです。
今回の遠征に留守を任された数少ないロキの護衛の一人です。