艦これの余白   作:夢幻遊人

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 軍令部・・海軍全体の作戦を立案するばかりでなく、教育・演習、情報収集、暗号及び戦史編纂などを担当する機関。ちなみに陸軍では参謀本部という。
 これまで軍令部には、出向を含め艦娘が所属することはなかった。しかし、初の試みとして艦娘を受け入れることにしたのであった。


短編集1
瑞鶴、軍令部に出向します!


 

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「何、この書類の量は・・鎮守府の書類も十分多かったけど、ここに比べればかわいく思えてきた。・・書類でおぼれ死ぬことってできるのね・・」瑞鶴は、山のように積まれた書類を前にうめいた。

 

瑞鶴の出向先は、軍令部でも花形と言われている第一部第一課で、中尉待遇であった。出向当初は邪魔に思えた参謀飾緒(しょくちょ)も板に付いてきた。

 

 

 実は、瑞鶴は、以前は軍令部にはあまり良い印象を持っていなかった。というのも以前は、提督からかなり無茶な命令を受けることがあったからだ。

 

 提督はどこからの命令だとは決して言わないものの、本意でない命令(大体無茶な命令であることがほとんどであったが)を出すときは、口をへの字に曲げる癖を知っていた瑞鶴は、軍令部あたりがそんな命令を出しているんだろうと予想していたからだ。

 

 しかし、最近はそんな無茶な命令は激減し、困難ではあっても、きちんと成算のある命令になっていたことから、瑞鶴自身がその経緯に多少の興味があったことや、他の主力艦が軒並み出動中か出動予定が入っていたため、瑞鶴に白羽の矢が立ったのであった。

 

 軍令部への出向が決まった瑞鶴は、提督や秘書艦の強い意向で、秘書艦補佐として鎮守府の事務仕事をたたき込まれることになった。

 

事務仕事に若干苦手意識のある瑞鶴ではあったが、指導よろしく、何とか全ての事務で及第点は上回れるようになったのであるが、他の鎮守府のみならず、海外の情報も集まってくる軍令部が処理する書類の量は膨大で、瑞鶴は悪戦苦闘を余儀なくされていたのであった。

 

「瑞鶴さん、量に圧倒されないようにしてくださいね。最近は入力にも慣れて安心して任せられるようになってきていますから、大丈夫ですよ」瑞鶴の世話役である松方大尉が声を掛ける。初めての艦娘である瑞鶴に何かと気に掛けてくれているのだ。

 

 軍令部としてもいきなり作戦立案業務に従事させることなく、まず瑞鶴が興味を持てそうな各地の戦闘詳報の解析、データ化を依頼していたのだ。

 

「そう言えば、各地の戦闘詳報を読んでみてどうですか?」松方大尉は尋ねる。

 

「はい、他の鎮守府のみならず、海外の戦闘詳報も読むことができ、勉強になります。特に海外の艦娘の中には私が見たこともないような装備を持っていることもあり、装備解説も読んで、『こんなのがあればなあ』と思うことがあります」

 

「そうですか。・・正直、わが国の技術レベルが足りないために作ることができない装備がたくさんありますからね。軍令部としても看過しているわけではないのですが・・」松方大尉は悔しそうに答える。

 

「いえ、決してそんなつもりで言ったわけじゃないんですが・・」瑞鶴は慌てて言う。

 

「いえ、命をかけて戦っている瑞鶴さんたちには本当に申し訳ないと思っています」松方大尉が本気で言っていることをひしひしと感じた瑞鶴はひたすら恐縮するしかなかった。

 

「・・そう言えば、ここに来て改めて戦闘詳報の重要さが分かりました」瑞鶴はやや強引に話題を変えた。

 

「はい、瑞鶴さんにそれを理解して頂けたら、実はそれで十分なんです」松方大尉はうれしそうに話す。

「戦いに勝ったときは、実は多少漏れがあってもいいんですが、負けてしまったときこそ詳しく報告して欲しいんです。敗因を探るために。そして一番難しいのですが、一番欲しいのが艦隊が全滅してしまったときなんです。二度と同じことを繰り返さないために。何が良くなかったのか、どうすれば避けられたのかを明らかにすることがどうしても必要なんです。これが私たちが軍令部にいる意味だと思っています」自分の使命を語る松方大尉を見て、瑞鶴は、これが作戦を改善させた理由かと理解することができた。

 

「実は、軍令部が変わったのには理由があるんです」松方大尉は、瑞鶴の心を読んだかのように話す。

 

「それは?」瑞鶴は驚きを隠しながら質問する。

 

「昨年第一部長に就任された榎本大佐の影響です」

 

「榎本大佐?」

 

「はい、榎本大佐は、第一部の参謀を大幅に入れ替えました。海軍ばかりでなく、陸軍、文官、民間経営者など今までの考え方にこだわらない人材を軍令部に入れました。実は瑞鶴さんが軍令部に来られたのもその一環なんです」

 

「確かに提督さんから、私が軍令部で仕事をする初めての艦娘だって聞いてはいたけど・・。それで、こんなのが来たわけだけど、松方さんはどう思ったの?」

 

「写真や瑞鶴さんが書いた戦闘詳報だけでの判断でしたが・・」

 

「うん・・」

 

「・・もっと直感タイプかなって思っていました。すみません」松方大尉は頭を下げる。

 

「『爆撃されたいの』って言いたいところだけど、当たり。あともう松方さんも気づいていると思うけど、書類仕事は苦手」

 

「苦手でここまでできれば大したもんですよ。しかし・・」松方大尉は突然笑い始めた。

 

瑞鶴は不思議そうな顔をする。

 

「いや、やっと『爆撃されたいの』って言ってもらいました。瑞鶴さんは信頼している人にしか言わないって聞いていたんで・・」

 

「・・誰彼構わず『爆撃されたいの』って言うわけないじゃない。なんかバカにされた感じ・・」瑞鶴はふてくされたように答える。

 

 この様子を見た松方大尉は、「瑞鶴さんのふてくされた顔はかわいいって聞いていましたが、本当にかわいいですね」とさらに笑いながら話す。

 

 すると瑞鶴は顔を真っ赤にしながら「ほんっとうにあったまきた!全機爆装、準備でき次第発艦!目標、目の前の松方さん!やっちゃって!!」と爆撃機を発艦させながら松方大尉を追いかけ回した。

 

 

 この様子が第一課長の目にとまってしまい、2人は課長にこってりと絞られてしまった上、榎本部長にも呼ばれてしまった。

 

「どうしよう、私、解体されちゃうのかな・・」瑞鶴は不安そうに話す。

 

「今回のことは、私が瑞鶴さんをからかったことが原因です。瑞鶴さんには責任はありません」松方大尉は励ます。

 

「せっかく艦娘が軍令部に来られたのに・・。最初で最後になっちゃったらどうしよう。そんなことになったら、みんなに申し訳ない。いっそ解体された方がいいかも・・」瑞鶴は、珍しく弱気な言葉を繰り返していた。

 

 

「松方大尉と瑞鶴中尉は仲がいいようだね」榎本部長は恐縮しきりといった感じで立つ2人に声を掛けた。

 

「・・これは嫌味に聞こえてしまったかな。軍令部はいい意味でも悪い意味でも前線から遠い。そんな軍令部の人間と最前線に立つ艦娘が仲良くなったことはいいことだ」榎本部長の声は思いのほか優しいものであった。

「・・しかし、2人のやったことは軍令部長の耳にも届いてしまっている。全海軍の知るところとなるのも時間の問題だろう。これを不問に処するわけにはいかない」

2人の顔が引きつる。

「・・そこでだ。2人には軍令部の清掃をしてもらう。これは第一部長たる私の命令だ」榎本部長はニッと笑いながら言い渡す。

 

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする2人。

 

「・・もちろん、2人が散らかした分の清掃は終わっている。しかし、他の連中に迷惑を掛けたんだ。軍令部の端から端まで清掃してもらうぞ。ちり一つも残すな。無論、他の邪魔にならない勤務時間外にタダ働きだ。・・これは厳しいぞ」榎本部長はニヤつきながら言う。

 

「あの・・、艦娘が今後軍令部に所属することはあるのでしょうか?」瑞鶴はおそるおそる尋ねた。

 

「それについては中尉」一瞬でキッとした表情に戻った榎本部長は続ける。「実は、中尉が解析している戦闘詳報なんだが、他の部からも注目されているんだ」

 

「私の解析が、ですか?」瑞鶴は信じられないといった表情で答える。

 

「実戦での様子や、何が必要とされるか、どういったことが役に立つのかというのが手に取るように分かるので、それに答えようと他の部の連中もやる気になっていると聞いている」榎本部長はうれしそうに話す。

「そういうことで、他の部長のみならず、軍令部長も、艦娘の視点は有用だという判断で完全に一致している。今後、軍令部に所属する艦娘が増えることはあっても、なくなることはない」榎本部長は言い切る。

 

「は~、良かった~」瑞鶴は胸をなで下ろした。

 

 

「さて、2人には今日から清掃してもらうぞ。各部には既に連絡してあるから、『何をしに来た』とは言われないから安心しろ」榎本部長はまた笑いながら命じた。

 

 松方・瑞鶴清掃隊を結成した2人は、軍令部の建物全てを清掃することになったのであるが、行く先々で思わぬ大歓迎を受け、処分はあっけなく終わってしまったのであった。

 

 

出向期間を終えた瑞鶴は、原隊に戻っていた。

 

帰任の挨拶に向かった提督から「軍令部で派手にやらかしたらしいな。わが鎮守府の恥だから処罰したいところなんだが、軍令部長から『こちらで処分済みだから、これ以上の処分・処罰はするな』ときつく命じられている。助かったな」と冗談とも本気ともつかない表情で言われた。

「・・それと軍令部は本格的に艦娘を受け入れるらしい。各鎮守府、警備隊にも推薦要項が回ってきた。あと、第一部長から直接俺にお前を再出向させる気はないかと聞かれた。お前、軍令部に気に入られたようだぞ」と笑いながら言われた。

 

「あんな書類地獄に行くくらいなら、戦場の方がまだ楽・・」瑞鶴は慌てて答える。

 

「そう言うと思ったよ。またお前がいないと空母の負担が重いからな。この前加賀が

『五航戦の生意気な方も、いざいなくなると結構役に立っていたのが分かるわ』って言っていたからな」提督は笑いながら言う。

 

「あの、鉄仮面め・・。でも、留守中のお礼は言っておきます。一応褒めてもらえたみたいだし」瑞鶴は苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

 松方大尉は各地から提出された戦闘詳報を読んでいた。その中で抜群の内容が含まれていることに気づいた。それは瑞鶴が所属する鎮守府からのものであった。

 

「瑞鶴さんは軍令部での経験を原隊に還元してくれましたね」松方大尉はうれしそうにつぶやく。

 

「さて、今度は私たちが瑞鶴さんに返す番です」松方大尉は瑞鶴との記念写真を見ながら新装備の開発計画書をめくっていた。

 

 それはジェットエンジンを搭載した艦載機であった。




 前作では、瑞鶴ファンの方なら説明不要のセリフを1つしか言わせられなかったため、今回はほかを言わせようというノリだけで書いてみました。
 
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