艦これの余白   作:夢幻遊人

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第3話 花火

 深海棲艦からの連絡後、太平洋海域に限られたものの、深海棲艦からの組織だった動きは全く見られなくなった。

 

 もちろん警戒態勢は解除できなかったものの、「はぐれ」と見られる深海棲艦との散発的な戦闘を除いて平和が取り戻されていた。

 

 これが一時のあだ花に終わるか、永続的なものになるかは誰にも分からなかったが、それでも多くの国民は7年に及ぶ深海棲艦との戦争に心底辟易(へきえき)していたため、素直にこの平和を喜んでいた。

 

 実は、深海棲艦との戦争が行われている間でも、戦況が極めて逼迫していた一時期を除いて、いろいろなお祭りは行われていたのであったが、花火大会だけは

 ・人出が集まり、深海棲艦の攻撃の対象となりかねないこと

 ・花火の音と深海棲艦の攻撃との区別がつかないこと

 ・そして何より火薬が不足していたこと

から行われずにいたのであった。

 

 それを政府は、軍による火薬の発注を減らすことにより、規模を縮小してではあったが、再開を認めたのであった。

 

 瑞鶴が閣議において花火大会再会案を出したとき、さすがに陸相と海相の2人は困った顔をしていたが、実際に深海棲艦に何らの動きも見られず、さらに「7年も我慢させたのだから」と正面切って言われてしまっては反対のしようがなかった。

 

 それでも、「久しぶりに行われるので、事故を起こさないようにする」という名目をつけて規模を縮小させることで何とか2人の面目を保たせる配慮を瑞鶴は怠らなかった。

 

 そして、実に8年ぶりに行われた隅田川花火大会を、瑞鶴は、少し離れた小型船の上から見ていた。

実は花火ではなく、市民の様子を見たかった瑞鶴であったが、万が一のときに警備担当者に責任が及ぶと言われてしまっては、どうしようもなかった。

 

 動員された警察官や軍人たちは、花火に背を向けるかたちで警備を続けていた。瑞鶴は、5分でも10分でもいいから交代で花火を見せてあげてほしいと事前に指示していた。それは、彼らにも久しぶりの花火を楽しむ権利があると信じたからであった。それを伝え聞いた者で感涙を流さなかった者はいなかったという。

 

 打ち上がる花火に歓声を上げる市民の様子を見て、瑞鶴は平和の尊さを再確認していた。

 

 そして、この平和が維持できるか否かは、まさに瑞鶴の双肩にかかっていたのであった。

 

 

……………

 内閣発足後、初の予算編成に取りかかることになった瑞鶴は、鈴木男爵や蔵相、各大臣らを交え、知恵熱による頭痛に悩まされながら作業に取りかかっていた。

 

 総理になってから知ったことであったが、日本経済は深海棲艦との7年にも及ぶ戦争で実はガタガタになっており、このまま放置すれば、あと数年で破綻し、戦争継続が極めて困難になることが予想されていたのであった。

 

 そこで、瑞鶴は、まず経済を立て直すべく、国民生活がより豊かになるよう予算を配分することにした。それは結局、強い経済力の上にしか強い軍隊は存在しえないことを学んでいたからであった。

 

 そうこうしているうちに、深海棲艦から、総理との直接交渉なら応じるとの二度目の連絡が入った。

 

 瑞鶴の回答は素早かった。当然「受け入れ」であった。

 

 すると、今度は場所と日時が通知されてきた。

 瑞鶴自身には一切の艤装を認めないが、6名以下なら艤装した艦娘の護衛を認めること、日時は3週間後、そして場所は・・ミッドウェー島であった。

 

 横須賀からミッドウェー島までは片道約4100キロ、低速艦なら余裕をみて1週間必要であるが、中部太平洋海域が深海棲艦の支配下にあることから、さらに余裕をみる必要があるため準備にそれほど時間はかけられなかった。

 

 瑞鶴は、すぐさま主要閣僚を呼び出して、交渉条件の取りまとめを指示した。このとき、米内海相から「護衛はどうするのか」と尋ねられた。

 

「いらない」と応える瑞鶴に、米内海相は怒った。

「6名以下とはいえ、艤装した艦娘による護衛を認めているということは、深海棲艦側も必ずしも一枚岩でない可能性がある。万が一にも交渉相手に行き着く前にやられてしまっては元も子もない」と。

 

 本気で心配し、怒ってくれた米内海相に、瑞鶴は素直に感謝した。

 しかし、交渉が決裂すれば、交渉相手の深海棲艦に丸ごとやられてしまう可能性すらあった。

 

 その心配を口にした瑞鶴に、米内海相は、「護衛を付けないという選択肢はあり得ない、誰にも知られないように志願を募る」と約束したため、米内海相に対応を一任することにした。

 

 

……………

 深海棲艦が指定した交渉日を10日後に控えたその日、瑞鶴は指定場所のミッドウェー島に向けて出発しようといていた。

 

 瑞鶴は一切の艤装が許されていないことから、船に乗ってミッドウェー島に向かうことになった。

 

 その船を、志願した艦娘たちが護衛するという。

 米内海相から、いかなる事態にも対応できるよう、空母、軽空母、戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦からそれぞれ1名の艦娘が護衛に当たること、そして、艦娘からの志願が殺到したため、厳正な抽選が行われたとの報告が上がっていた。また、秘密保持のため、当の本人以外は、誰が選ばれたか瑞鶴にすら知らせないという念のいれようであった。

 

 船に乗ろうとする瑞鶴の前に、護衛を務める艦娘たちが並んでいた。そこに見間違うはずのない顔があった。

 

 空母加賀、その人であった。

 すると加賀は、それは見事な敬礼を瑞鶴に捧げた。

 加賀の姿は普段とは異なり、純白のハチマキをしめ、陣羽織を羽織っていた。これは瑞鶴がよく知る衣装であった。「瑞鶴決戦モード」と呼ばれるものだからだ。

 

 わざわざ自分の決戦モードの服を着る加賀の考えは、瑞鶴には火を見るよりも明らかであった。つまり、-生きるも死ぬも瑞鶴と共に-ということであろう。

 

「加賀さん・・」瑞鶴は、護衛から外れるよう説得を試みようとしたが、諦めざるを得なかった。

 ほかの志願者の手前、加賀だけを外すわけにはいかなかったこと、そして何より誇り高い加賀がそれを受け入れるとは到底思えなかったからであった。

 

 首を振って瑞鶴は答礼した。

 瑞鶴が加賀に言ったのは「よろしくお願いします」の一言のみであった。

 

 瑞鶴の護衛を担ったのは、空母加賀の他に軽空母瑞鳳、戦艦金剛、重巡洋艦愛宕、軽巡洋艦由良、そして駆逐艦時雨であった。

 皆、護衛の対象が他ならぬ艦娘総理である喜びに顔を紅潮させていた。

 

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