「図らずも、本当に図らずも総理の大任を引き受けることになった瑞鶴と申します。本当に分からないことだらけなので、初歩の初歩から教えてください・・」瑞鶴は、総理官邸の官僚たちに頭を下げていた。
陛下は、総理就任を引き受けた瑞鶴に、総理としての仕事の進め方をレクチャーするよう指示を出してくれたのであった。
それを受け、官僚たちが、総理としての行為を全て洗い出し、一から教えてくれることになったのであった。
陛下からの任命書の受け取り方から、閣議での座席の位置や閣議の進め方、署名を書くタイミングや位置、その他もろもろの慣例・・この中には、これまでの経験から何となく見当がついたものもあったが、そのほとんどは瑞鶴がこれまで知らないことばかりであったため、メモを取りながら指導を受けた。
特に閣議では筆と硯を使うこと、そして「
瑞鶴は、知らないことを包み隠さず、素直に教えを請うたため、官僚たちは多少呆れたものの、好感の方が上回っていた。
そして、その瑞鶴に恥をかかせては一大事とばかりにいろいろと手はずを整えてくれた。
これまで戦時中という理由で、内閣発足時であっても略礼装で済ましていたが、敗北しかけていた深海棲艦との戦いを挽回させた艦娘を総理として迎えるのであるから、今回ばかりは正礼装に戻そう、そして、代わり映えしない軍服ではなく、一般女性としての服装にしようとの提案がなされると、一気にその方向に決まった。
礼装としては、着物でももちろん良かったのであるが、多少動きづらいこと、他の閣僚が全て洋装のため浮いてしまうことから、なるべく洋装にしようということになった。
だが、艦娘の瑞鶴が正礼装、しかも一般女性用のものを持っているとは到底思えなかった。
そもそも、女性の礼装、しかもパンプスまで含めた正礼装を持っていそうなのは皇族、華族、そして一部の資産家の子女に限られていた。これはさすがに万事休すかと思われたか、思わぬ援軍が現れた。-皇后陛下であった。
皇后陛下は、女性の姿をした艦娘に大命降下がなされたことを喜び、宮内省を通じてあらゆる支援を約束する旨連絡してくれたのであった。
そこで、さっそく皇后陛下を通じて各華族に正礼装の借用を依頼したところ、組閣時の総理が着用する服を貸したという名誉を得ようと、それこそよりどりみどりの正礼装とパンプスが集められた。
さらに、組閣時に付けるようにと、皇后陛下から大玉の真珠が1つあしらわれたネックレスが下賜された。
山のように集められた正礼装とパンプス、そして下賜されたネックレスを見て、瑞鶴は、見た目通りの若い女性らしく飛び上がらんばかりに喜び・・そしてしきりに恐縮した。
また、正礼装となれば、勲章を
いきなり総理になったとはいえ、瑞鶴に多大の武勲があることは誰もが認める事実であったことから、勲章が授与されていないのは、どう考えても均衡を失していた。
そこで、急遽、総理に就任することも勘案し、女性に与えられる最高位の勲章である勲一等宝冠章*1が授与されることになった。
・・勲一等宝冠章が、いわゆる臣下の女性に与えられたのは、これが初めてであった。
しかし、同じ臣下であっても、男性であれば、陛下と同じ大勲位菊花大綬章
……………
正礼装を着て、勲一等宝冠章を佩用した瑞鶴は、他の閣僚たちとともに宮中における親任式を経て、正式に瑞鶴内閣を発足させた。
そして、その足で総理官邸に向かい、初閣議に臨んだのであるが、既に閣僚たちの顔合わせは済んでいたので、この日は書類に花押と名前を書くだけであったのだが、いざ「内閣総理大臣」と記載してある本物の公文書に自分の花押なり、名前を書くことに躊躇を覚えたのであった。
「総理・・総理?・・瑞鶴総理!」
「あっ、『総理』って私のことだった・・」名前を言われてようやく自分のことだと理解する瑞鶴。
「呆然とされているように見えましたが、どうされました?」鈴木男爵が心配そうに瑞鶴を見つめていた。
「いや、こんな綺麗な服が着られて、そしてこんな大きな勲章まで頂いちゃって何なんだけど・・本当に私が総理なのかなって・・覚悟していたつもりなんだけど、今さら夢じゃないのかなって・・そして『夢なら覚めないで』という気持ちと、『早く覚めて』という矛盾した気持ちが入り交じっちゃって・・こんなのが一国の総理だなんて笑っちゃうよね・・」ぽつりぽつりと話す瑞鶴の言葉に聞き入る閣僚たち。
「・・総理、実は私も夢見心地でして・・」鈴木男爵はそう答えた。
「えっ?鈴木男爵は連合艦隊司令長官や侍従長の経験があるのに、それでも?」
「・・お恥ずかしながら、私は、この年で初入閣でして。口から心臓が飛び出てきそうで・・」鈴木男爵の言動に瑞鶴は思わず笑ってしまった。
「・・やはり、総理には笑顔がお似合いです。総理の笑顔を守れるよう、微力を尽くしますから・・」鈴木男爵の言葉に閣僚たちは一斉に首を縦に振った。
「・・ありがとう。いつまでもグダグダしてたら、加賀さんにぶっ飛ばされちゃうね・・」瑞鶴は気持ちを切り替えて書類に花押と名前を書いていった。
瑞鶴の署名と花押は、まだ不慣れさが残っていた・・
……………
一方こちらは瑞鶴の原隊
瑞鶴内閣の記念撮影の様子は生放送されることになっていたため、瑞鶴の原隊では、講堂にプロジェクターと大型スクリーンが設置され、艦娘たちが瑞鶴が現れるのを今や遅しと待っていた。
「今、初閣議を終え、記念撮影に向かう閣僚たちの姿が確認できました・・」待ち焦がれたアナウンサーの声で、講堂内は水を打ったように静まりかえる。
次々とフラッシュがたかれ、カメラを一斉に閣僚たちに向けるマスコミ各社。
純白の正礼装に勲一等宝冠章の
しかし、その慎重な進み方が、かえって
瑞鶴は、ゆっくりと閣僚たちを従えるように先頭を切って階段を降り、最前列中央に移動して両手をちょうど
すると、瑞鶴の右手に副総理の鈴木男爵、左手に米内海相が挟むようにして直立した。
・・瑞鶴内閣が、海軍主導であることは、誰の目にも明らかであった。
「瑞鶴の奴、慣れない服なもんだから、ゆっくり歩いているな・・いや、仮にも勲一等宝冠章を賜った総理を呼び捨てにするのは良くないか・・」提督は未だ信じられないという顔をしながら言った。
「瑞鶴、綺麗よ。それに立派な姿になって・・」翔鶴はうれし涙を流していた。
「いざとなったら、総理の座なんか放り投げて帰ってきなさい。誰が何と言おうとも、私があなたを守ってあげるから・・」加賀は独り言のようにつぶやいていた。
スクリーンに映る瑞鶴の姿に、艦娘たちは、それぞれ自らの想いを心に刻んでいた。
……………
「・・はぁ、やっと終わった。これから先が思いやられるよ・・」ようやく普段着に戻った瑞鶴は、慣れぬことの連続で疲労困憊していたが、それでも衣装やパンプスを貸してくれた人に礼状を書いた。
後日、衣装はクリーニングした上、記念写真とともに返却したところ、その家では一式ガラスケースに入れ、家宝として展示したという。
・・こうして瑞鶴の総理1日目は終了した。
ちなみに、総理経験者には勲一等旭日大綬章よりさらに上位の勲一等旭日桐花大綬章が与えられるのが通例だが、「旭日章」のため、女性には与えられないことになっていた。なお、現在では、「勲○等」は廃止され、女性にも「旭日章」が与えられることになった。また、「瑞宝章」との上下はなくなり、「瑞宝章」は元公務員、「旭日章」はそれ以外の例えば政財界人などに与えられることになった。
蛇足ながら、「宝冠章」も一応残ってはいるが、事実上、皇族女性と外国王室の王女のみに与えられる儀礼用のものになっている。
作者:「時を戻そう・・」
瑞鶴:「突然、ぺ○ぱの松○寺さんのマネしてどうしたの?」
作者:「いや、本編を進めないで、過去に戻ってしまったので・・」
瑞鶴:「全くどういうつもり?」
作者:「コロナ禍で、外出できずに暇を持て余したあまり、絵を描いたところ、作者的にはかなりうまく描けたので、その絵に合わせて話を作っちゃいました!」
瑞鶴:「・・無計画極まるわ。それに、自分の学生時代の図画工作の成績覚えているの?」
作者:「覚えていますとも。でも、学生の時分、元SM○Pの中○画伯並の絵しか描けなかった人間でも、ここまで描けるようになれる、あきらめるなって・・もちろん、もっとうまい人はたくさんいますけど・・」
瑞鶴:「下手の横好きと言われないようにね・・」
作者:「総理ともなると手厳しいなぁ・・」