万感の思いを込めてこの作品を捧げます。
昭和19年10月25日 フィリピン エンガノ岬沖
空母瑞鶴は、太平洋を漂っていた。
既に瑞鶴からは戦闘旗が降ろされ、乗組員は次々と退避を始めていた。
「こんなところで死にたくない・・」瑞鶴だけは、なおも諦めきれていなかった。
期待の大鳳まで失われてしまった今、新しく配備されるという空母の指導ができるのは、真珠湾以来の生き残りである自分だけ・・その思いが生きることに執着させていた。
「赤城さん、加賀さん、蒼龍さん、飛龍さん、そして翔鶴姉・・私はまだそちらに行くわけには行かない・・もう少し、もう少しだけでいいから待ってちょうだい・・」瑞鶴は今は亡き先輩たちに呼びかけていたが、当然返事は返ってこなかった。
そんな中、瑞鶴の視界に空母が入ってきた。
もはや味方にまともな空母は1隻もない。
そうなると・・
「こんなときに敵か・・」瑞鶴は武器を取ろうとしたが、戦闘旗を降ろしたこの状態では一切の武器が使えないことを思い出す。
「へっ、何が幸運艦よ。最期は自分自身が七面鳥か・・」マリアナ海戦のとき、自分たちが繰り出した艦載機が次々と撃ち落とされるさまを米軍が「七面鳥撃ち」と呼んでいたことを思い出した瑞鶴は、自らの死を受け入れざるを得なかった。
瑞鶴はこのとき、機動部隊の最後の生き残りとしての覚悟を決めた。
「ヘイ、ジャップ!」機動部隊の護衛を務める駆逐艦は瑞鶴に声を掛けた。
瑞鶴は、力を振り絞って立ち上がる。
「・・貴様は空母、しかも正規空母!!ズイカクだな?!」敵ながら、いや敵だからこそ瑞鶴の顔は知れ渡っている。
「・・そう。私が翔鶴型二番艦の瑞鶴よ」もはや敵からも死からも逃れられないと悟った瑞鶴は堂々と名乗った。もっとも、いつもよりは弱々しい声ではあったが。
「卑怯者のジャップ!!パールハーバーの仇、思い知れ!!」駆逐艦たちは一斉に瑞鶴に砲身を向ける。
「やめなさい。それは私の獲物よ」旗艦の空母から命令が下る。それを聞き一斉に砲身を下げる駆逐艦たち。
瑞鶴がかすみ始めた目で旗艦の空母を見ると、それは紛れもなくエンタープライズその人であった。
「エ、エンタープライズ・・」瑞鶴は因縁の相手であるエンタープライズが目の前に現れたことに驚いたが、その一方で、最期にこの目でエンタープライズを見ることができたことを純粋に喜んだ。
「初めましてズイカク・・」エンタープライズは躊躇なく瑞鶴を抱きかかえた。
「あなたの勝ちよ、エンタープライズ・・」瑞鶴はエンタープライズをたたえた。
エンタープライズは素早く瑞鶴の全身を見渡す。一瞥しただけでも、もはや助かる傷でないことは明らかであった。
「・・早く私を討たないと、ホーネットさんの仇が永久に取れなくなる・・」瑞鶴はエンタープライズをまっすぐ見据えて言った。
これにエンタープライズたちは驚いた。鬼とまで思っていた敵が、自分の命が尽きる前に、仇を取るよう促しているのだから。
敵ながら何と高潔なのか・・エンタープライズは身震いした。もし、自分が逆の立場なら同じことが言えるだろうか・・そんな思いがエンタープライズに去来する。
「・・あなたのような偉大な敵と戦えたのは私の一生の誇りよ」エンタープライズの言葉に偽りはなかった。
「・・ありがとう。もし生まれ変われるなら・・今度はあなたたちと一緒に戦いたい・・」瑞鶴の声は次第にかすれていった。
エンタープライズは二度と得ることができないであろう偉大な敵を失おうとしていた。そして瑞鶴は自分自身を失おうとしていた。
瑞鶴の呼吸が急速に少なくなり、口が開く。エンタープライズは瑞鶴の口元に耳を近づけ、最期の言葉を聞き漏らすまいとする。
「・・翔鶴姉・・やっと来てくれた・・今、そちら・・に・・」一切の苦痛から解放された瑞鶴は、うれしそうな顔をしたまま息絶えた。
エンタープライズはひたすら瑞鶴のためだけに涙を流した。そして護衛を務める駆逐艦たちも泣いた。
瑞鶴はエンタープライズたちによって正式な海軍葬をもって葬られた。
そして
まるで瑞鶴の死を悼むかのように・・
すみません。もっと書きたいことがあったのですが・・無理でした。