「雪風は、すごいな・・」旗艦長門は、半ば呆れたように声を掛ける。
「ありがとうございます!長門さんに褒めてもらえてうれしいです!!」雪風は、元気に返事をしていた。
雪風は、深海棲艦の旗艦に魚雷を命中させ、S勝利をつかみ取ったのであった。
雪風自身は誰よりも果敢に突っ込んだにも関わらず、ほぼ無傷。
しかも、雪風のすごいところは、自分だけでなく、同じ艦隊の艦娘たちにまでその幸運が及んでしまうところであった。
今回は、敵の実力を考えて、提督が特に全員に緊急整備員を配備していたにも関わらず、一番重傷でも中破にとどまっていた。
雪風の身につけたものが弾よけのお守りとして密かに取引されている・・という噂が立つほどの強運ぶりであった。
しかし、雪風自身はそのような話には決して乗らず、誰よりも訓練や演習に熱心に取り組んでいた。そのようなひたむきさと天性の明るさこそが幸運の女神に愛される理由であろう・・と鎮守府では言われていた。
「しれえ、お呼びですか?」雪風は提督に呼ばれ、執務室にいた。
執務室には提督と秘書艦の大淀が待っていた。
「長門から、今回もお前が最後を決めたと聞いている。いつものことながら大したもんだ」提督は、雪風の頭をなでながら褒めた。
雪風は提督にこのように褒められるときが一番幸せであった。
「雪風は、しれえに褒めてもらえて幸せです・・」このときの雪風は見た目どおりの子供のようであった。
「あの海域が解放された今、一息ついていいと思うが・・」提督は大淀の方を見る。
大淀がうなずくのを確認した後「雪風は出撃しっぱなしだったから、1週間ほど休暇を与える。なお、休暇中の訓練などは許さない」と命じた。
「1週間もですか?」雪風は困ったような顔をした。
「そうだ。今回俺は、お前の運を利用した。その罪滅ぼしをさせてほしい」提督は頭を下げる。すると大淀も一緒に頭を下げた。大淀も責任を感じていたのであろう。
「しれえ、私は艦娘です。艦娘は深海棲艦と戦うために生まれてきたんです・・」雪風は泣きそうな声で答えた。
「お前は文句一つ言わず厳しい戦いを続けた。知らず知らずのうちに疲れもたまっていると思う。その疲れがお前の動きを悪くし、いずれお前を沈めてしまうかもしれない。万が一にもそうなったら、計り知れない損失だ、だから、今回きちんと休むことも立派な仕事だ」提督は優しく言い渡した。
「・・分かりました」雪風は納得まではできなかったものの、提督の意思が固いことから、これ以上提督を困らせたくないという気持ちが働いて、休暇を取ることにしたのであった。
雪風は、休暇中の訓練まで禁止されてしまったことから、艦娘としての艤装を外し、一張羅の私服に着替えて旅に出ることにした。これまでの給与や手当などで費用は十分まかなえるはずであったが、提督が自分の命令で休ませるからと言ってポケットマネーを出してくれたため、よほどの豪遊をしない限り、不足することはないはずであった。
海で過ごしてきた雪風は、敢えて海のない内陸に赴いた。街で服や靴などを買い、名物に舌鼓をうち、温泉に入り、山にも登った。艦娘と知らない人たちは、子供一人で旅をしているように思ったらしく、人情にも触れることができた。
宿に泊まるときだけは、不審に思われないよう、艦娘としての身分証を示したが、そうすると「無料にさせて頂きます」とか「・・をお付けさせて頂きます」などと気を遣われることに嫌気がさしたが、そんなときは黙って少し多めの現金を置いておくことにした。
そうして5日ほど休暇を楽しんだ雪風であったが、6日目になると急に寂しくなってしまい、鎮守府に戻ってしまった。
提督と大淀は顔を見合わせ、呆れた顔をしたが、黙って帰還を許した。大淀から泊まった宿から荷物が届いていると告げられ、確認するとお礼状と大量のお土産が送られていたため、多くは駆逐艦娘たちで分けることにした。もちろん駆逐艦娘たちは喜んだ。
休日最終日となった雪風は、提督と大淀に休日の短縮か訓練再開を申し出たが、即座にどちらも却下された。悪例となることを恐れたためであった。
やむを得ず、雪風は再び近くの街へと出かけた。いや、追い出されたと表現した方が正確かもしれない。
時間つぶしにふらっと映画館に入ってみると、自分たち艦娘と深海棲艦との戦いを描いたものが上映されていた。
自分たち艦娘が世間にどのように思われているのか興味を持った雪風は、その映画を見ることにした。
その映画は海軍も協力しており、遠巻きながら自分たちが映っているシーンもあった。その中で、自分が「幸運の女神に愛され、駆逐艦娘ながらあまたの強大な深海棲艦にトドメを刺した艦娘」として紹介されると気恥ずかしさで内容が頭に入らなくなってしまった。
ちなみに、この映画は大ヒットし、鎮守内で上映会が開かれることになるが、自分が出てくることを知っていた雪風は、提督に頼み込んでその上映会から外してもらうことになるのであった。
映画が終わった後、映画館から外に出ようとすると
「あの子、あの映画に出てた子に似ていない?」
「どれどれ・・あっ、本当だ、顔までは分からなかったけど、『雪風』って子にそっくりじゃないか?」
という声が聞こえてきた。
そのうち、事情通と思われる男が「雪風なら、そこの鎮守府所属のはずだから、ここにいてもおかしくないぞ!」と言うと、周辺はにわかに騒ぎとなった。
雪風は、騒ぎが大きくなる前に自慢の快速を生かしてその場から立ち去っていた。
何も悪いことをしたわけでもないのに、逃げるようにして走った雪風は、そのうちおかしさがこみ上げてきたのであった。
こうして休暇を過ごした雪風は、さらに戦果をあげていく。
戦艦や空母ですら脅威に感じるほどの・・
先日「少年たちの連合艦隊 ~幸運艦雪風の戦争」を見ました。一言でいうと、よくぞ生き残ってくれたと思いました。
武蔵や大和などの最期を看取り、その乗組員を必死に救助した雪風の奮闘が、あの悲惨な戦いの中で一縷の救いとなっているように私には思われました。