その演習で先輩を超えようとする者と後輩に超えさせまいとする者がぶつかり合っていた・・
とある鎮守府の演習場。ここでいつものように演習が行われていたが、そこだけ異様な空気に包まれていた。
一航戦の赤城・加賀がそろって大破判定、その他の赤城たちと組んだ艦娘たちは撃沈判定となっていたからだ。そこまで追い込んだ相手は・・五航戦の翔鶴と瑞鶴たちであった。
翔鶴は大破判定、瑞鶴も中破判定であったが、瑞鶴は改二甲の装甲空母となっていたため、艦載機の発艦が可能であった。また、中破判定ながら摩耶と雪風が健在で、ともに砲雷撃が可能であった。
「・・赤城さん、加賀さん、勝負は決まりました。ここで終わりにしませんか?」勝っているはずの翔鶴は懇願するように言った。戦闘能力を失っている翔鶴が言うのもおかしなように思えたが、旗艦を引き継いでいた瑞鶴が、「私が言うと、加賀さんが絶対に拒むから・・」と気恥ずかしそうに翔鶴に依頼していたからであった。
しかし、それは明確に断られることとなった。
「深海棲艦との戦いで降伏はありえない。生きるか死ぬかしかないのよ」赤城が珍しく厳しい声で答える。
「・・それに、こんなことは二度とないもしれないわよ」加賀も負けずに言う。
翔鶴、瑞鶴、摩耶そして雪風の4人は顔を見合わせる。瑞鶴は、ほんの数秒うつむいたが、すぐキッとした表情で顔を上げた。
その目に一切の迷いはなく、闘神そのもののような表情をしていた。この顔を見た摩耶と雪風は、瑞鶴が自分1人で決着をつけるつもりであることを一瞬で悟り、攻撃を中止した。
そして加賀は、瑞鶴のこの顔が好きであった。
演習で瑞鶴がこの顔をして立ち向かってきたときは、加賀はどんなときでも一切手を抜かなった。手を抜けば瑞鶴に対して失礼になると信じて疑わなかったからだ。
そして、今回は自分たちを超えようとするものであることに疑いの余地がなかった。
瑞鶴は、あらん限りの艦載機を赤城と加賀に向けて発艦させる。手加減するつもりは一切ないようだ。
赤城と加賀は全力で回避行動を取ろうとするが、速力は著しく落ちている上、舵も思うようにきかないようであった。
たちまち瑞鶴の爆撃機が急降下爆撃の体制に入っていく。加賀はその独特なエンジン音を聞きながら「あの、ひよっこだった五航戦が私たちを超えていく・・これでこの鎮守府も当分安泰ね」と思いに浸っていた。
その瞬間、爆撃機が模擬爆弾の雨を降らしていく。2人の周りに無数の水柱が立ち、滝のような水しぶきが落ちた後、2人は赤ペンキにまみれていた。・・判定は疑う余地のない撃沈であった。
「赤城隊全滅。よって勝者翔鶴隊」演習を監督していた提督は冷厳に言い放った。
「遂に赤城さんたちに勝ちましたね」瑞鶴たちは、周りの艦娘たちから祝福を受けたが、うれしさは一向に感じられなかった。それでも演習をともに戦ってくれた艦娘たちにお礼を言うと、すぐに一列になって赤城たちを迎えた。
港から上がってきた赤城たちは全員赤ペンキにまみれていた。そんな赤城たちを見て瑞鶴は、「演習で勝てれば、さぞ、うれしいんだろうと思ったけれど、先輩たちのこんな姿を見たら、全然うれしくない。先輩たちもきっとそうだったんだ」と思った。
「・・随分腕を上げましたね。これならいつでも一航戦の座を明け渡せそうですね」赤城はニコニコしながら翔鶴と瑞鶴に声を掛けた。
「とんでもありません。一航戦は、まだまだお二人がふさわしいと思います」翔鶴は慌てて答える。
「そんなことより、今は先に入浴して下さい」ペンキ姿を見かねた瑞鶴が、赤城たちに声を掛ける。赤城たちも自分たちの姿に改めて気づき、浴場へと向かっていった。
「・・さて、翔鶴と瑞鶴」加賀は2人に声を掛ける。さりげなく言ったが、名前で呼ばれた2人には新鮮な感覚であった。
「・・2人は私たちを上回る戦力になりました。赤城さんとも話し合ったのですが、提督に頼んで、一航戦の座を2人に譲ろうと思います」
「・・いえ、通算では254敗63分、そしてやっと1勝です。これで一航戦を名乗ったら、物笑いの種です」瑞鶴は、すらっと通算成績を答えた。
「・・あら、瑞鶴にしては謙虚ね」加賀は、名前で呼んだ以外はいつものように答えたが、その表情には驚きが隠せないようであった。
「・・正直、これからはあなたたちに勝てないと思います」赤城は続ける。
「・・通算では瑞鶴の言うとおりかもしれませんが、ここ最近は、やっと引き分けに持ち込んでいたというのが本当のところです。もう二度と勝てることはないと思います」
「・・それに、寄る年波も感じてきているし。打たれ強くてしつこい誰かさんみたいな装甲空母を相手にすると疲れるから、少しは休ませてちょうだい」加賀は珍しく冗談のように言う。
「その打たれ強くてしつこい装甲空母を相手にして、ずっと負けなかったお二人にはとてもかないません。どうか先輩、これからもご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いします」瑞鶴は頭を下げる。
「・・せっかく人が一航戦の座を譲ると言ったのに、いっちょ前に拒否なんかして・・そう、それならずっと一航戦の座は明け渡さない。今言ったことを後悔させてあげるわ」加賀は半ば呆れたように言う。
「はい、誰もが『一航戦は翔鶴と瑞鶴こそがふさわしい』と言う日まで立ちはだかってください」瑞鶴はそう言った後、慌てて翔鶴の方を見る。
すると、翔鶴も笑いながらうなずいていた。
その後、提督は、演習のみならず、実戦においても赤城たちをバラバラに組み合わせるようになってしまったため、演習の通算成績に変更が生じることはなかった。
そして、加賀と瑞鶴のコンビは、出撃前までは(以前よりは落ち着いた)口げんかを繰り返すものの、出撃した途端、絶妙のコンビネーションを発揮して他の追随を許さず、赤城と加賀のコンビすら上回る戦果を出すようになっていくのであった・・