艦これの余白   作:夢幻遊人

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陸海軍統合大演習

「米内さん、『陛下主催の陸軍大演習を上奏してほしい』ってどういうこと?」米内海相の訪問を受けていた瑞鶴は、いぶかしげな顔をしていた。

 

「総理もご存じのとおり、深海棲艦との戦いで陸軍は全くと言っていいほど出番がなく、注目されませんでした。陸軍としては、さぞ面白くなかったでしょうな・・」

 

「・・確かにそうだね。私も正直、陸軍のことは分からないし・・」

 

「『ガス抜き』と言っては言い過ぎでしょうが、深海棲艦に組織だった動きが見られない今こそ、陸軍に国民の目が向くようにするのも総理の仕事かと思います」

 

「さすが総理経験者は目の付け所が違うね・・」瑞鶴は、素直に感心していた。

 

「お褒めのお言葉ありがとうございます。しかし、これは総理のご発案ということでお願いしたく・・」

 

「えっ?人様の発案を自分の発案のようにするなんて・・」

 

「いや、海軍のお情けと思われても厄介ですので・・」

 

「・・なるほど。でも、そんなこと言ったら、私も海軍だよね?」

 

「私は腹黒いのです。私が言うのと総理がおっしゃるのでは、おのずと受け取り方も違うでしょう」

 

「本当に腹黒い人がそんなこと言うわけないのに・・でも、分かったわ。米内さんの進言受け入れさせてもらう。さっそく陸軍大臣を呼んで話してみるわ」

 

「それがよろしいと思います。・・それと総理、必要なら陸軍の引き立て役として海軍を使って頂いて結構です。『毒食らわば皿まで』と申しますから・・」

 

「・・米内さん、あなたを敵に回したくないわ・・私、加賀さんより怖い人、初めて見たよ」必要とあれば、自らの組織すら引き立て役に使っていいと言い切る米内海相に、瑞鶴は空恐ろしさすら感じていたのであった。

 

「私は、総理への忠誠を誓っております。何とぞご心配なく・・」米内海相は、真剣な顔をして頭を下げていた。

 

 

 

 こうして陸海軍統合大演習が行われることになった。

 全体シナリオは陸軍が準備した。内容は、苦戦する艦娘たちを陸軍の活躍によって勝利させるというものであった。

 かなりわざとらしい内容ではあったが、それでも艦娘たちにも「見せ場」が用意されていたこともあり、瑞鶴は何も口出ししなかった。

 

 統合大演習は、陸海軍大元帥である陛下が統帥するが、総理である瑞鶴も政府と国民を代表して参加することになった。そのため、参加者ただ一人の文官であり、女性となった。

 

 そして、陛下への説明役は、参謀総長と瑞鶴が務めることになった。海軍の説明役は、本来軍令部長の役割であったが、海軍の主役は艦娘であるため、瑞鶴の方がふさわしいと米内海相が軍令部に掛け合ってくれたのであった。

 

 

 ……………

 陸軍は、これまでの鬱憤を晴らすかのように、戦車を動かしたり、大砲を撃ったり、歩兵を進軍させたりとシナリオを進めていた。

 参謀総長も高揚した顔で陛下への説明を行っていた。瑞鶴も総理として陸軍のことを知っておきたいと思ったことから、陛下の隣で説明を聞いていた。

 

 申し訳程度ではあったが、最後に艦娘たちの「見せ場」がようやく来る。参謀総長と場所を交代し、瑞鶴が陛下への説明を行う。

 

「陛下、まず空母艦娘から艦載機を発艦させ、遠距離から敵を攻撃いたします」

「ただ今、面前を通過したのは爆撃機と攻撃機、そしてそれらを護衛する戦闘機でございます」

「爆撃機は敵の頭上に至りますと急降下を開始し、爆弾を投下いたします。攻撃機は海面すれすれを飛行し、魚雷にて敵を攻撃いたします」

 

「どちらがより強力なのか?」

 

「どちらも強力ではございますが、船も艦娘も水面下の攻撃に弱い傾向がありますので、魚雷になるかと思います。爆弾はどちらかというと、敵の攻撃能力を奪うことが目的でございます」

 

「・・卿は、これをやっていたのだな?」その声は質問というより確認であった。

 

「はい」瑞鶴も簡潔に答えた。

 

「次に戦艦艦娘が主砲で攻撃を加えます」

 

「空母艦娘からの攻撃だけでは足りぬか?」

 

「はい、艦載機の攻撃は、空母艦娘が目視することにより、精度が向上いたします。戦艦艦娘の主砲が届かない距離での艦載機の攻撃は、いわばバクチでございまして・・」

 

「うまくいかぬこともある、ということか・・」

 

「誠に申し訳ないことですが・・」瑞鶴は頭を下げた。

 

「卿が謝ることでない・・」陛下は片手を挙げ、これ以上謝罪するなと態度で示した。

 

「・・次に水雷部隊が突撃し、砲雷撃攻撃を行います」

 

「すると、あれが駆逐艦娘か。本当に子供のようだな・・」陛下はどこか遠くを見つめていた。

 

「陛下、彼女らこそ真の勇者でございます。1発食えば撃沈することすらあることを知り、それでもなお、ああやって敵に突撃していくのでございます」陛下が心もとないと感じられたのではないかと懸念した瑞鶴は、駆逐艦娘への応援の意味も込めて説明したのであった。

 

「うん、そうだな。彼女らこそ真の勇者だ。しかし・・」

「・・卿も十分若いが、さらに年端もいかぬ姿をした艦娘を死地に送らねばならぬとは・・人間とは何とも罪深いな・・」申し訳なさそうな陛下の声を聞いた軍首脳部はいたたまれない顔をした。

 

「もったいなきお言葉・・」瑞鶴は、陛下の艦娘を思いやる言葉に、これまでのことが全て報われた気がしていた。

 

「・・最後に潜水艦娘が魚雷で敵を攻撃いたします」

 

「潜水艦は、やはり恐ろしいか?」

 

「はい、水中からの攻撃に全く気づかないまま、やられてしまうことすらございます」

 

「これに対する備えはどうなっているか?」

 

「小回りの効く軽巡洋艦娘か駆逐艦娘、あるいはこの場にはおりませんが、より小型の海防艦娘がこれに対応いたします」

 

「米内・・」陛下が米内海相に声を掛けた。

 

「はっ!」陛下の前に進み出て直立する米内海相。

 

「卿が総理に説明役をさせた理由がよく分かった。簡潔にして明瞭。理解を進めることができた・・」

 

「やはり艦娘のことは、艦娘が一番よく知っておりますから・・」米内海相の声はどこか誇らしげであった。

 

 そして、この様子をずっと見ていた陸軍の下士官がいた。彼は、参謀総長付であった。

「こういったときは、得てして説明過剰になってしまい、かえって分かりにくくなってしまうもの。残念ながら、われらが参謀総長がそうだ。しかし、総理は逆に説明をギリギリまで削ったことにより、海軍のことは全くの素人である俺が聞いていても理解することができた。その上、自然と最も目立たない艦娘に陛下の注意を引いて、お褒めの言葉まで引き出した・・この総理はすごいぞ。何も知らない艦娘と馬鹿にしたら大変なことになるぞ・・」彼の心に瑞鶴への敬意が刻まれることになった。

 彼こそ、後に発生したクーデター未遂事件の際、実行部隊とされた部隊の中にあって大規模なサボタージュを起こし、クーデターを失敗に終わらせる陰の功労者になるのであった・・

 

 統合大演習を終えた陛下が退場する際、陛下が陸軍の一兵士に声を掛けられた。予定されていなかったことに驚いた瑞鶴であったが、逆に陛下らしいと思えた。

 無難な受け答えが終わり、陛下は、今度は艦娘の方に足を進めていた・・

 

 

……………

【艦娘side】

 今回の演習は、司令から「深海棲艦との戦いで出番がなかった陸軍を立てるために行われる」と聞いていた。それは全体シナリオを見れば、駆逐艦娘の私にも理解することができた。

 海軍は完全に陸軍の引き立て役だからだ。

 

 そうは言っても、この演習は陛下が統帥されるし、何と言っても瑞鶴さんが総理として出席される。そして、わずかではあっても艦娘に「見せ場」が用意されているのだ。

 司令がおっしゃるには、艦娘の瑞鶴さんが総理だから、さすがに陸軍も遠慮したのだろうとのことであった。

 そこで()()()な姿を見せては、瑞鶴さんが笑われてしまう。

 そう思った私たちは、司令の指揮のもと何度も予行演習を繰り返していた。

 そして、いわば本番を迎えた私たちは、これまでで最高の「見せ場」を作ることができた。これなら瑞鶴さんが笑われることはない・・私は安心していた。

 

 そこに勲章をたくさん付けたメガネをかけた男性が近づいてくる。そして、その数歩後ろに見間違えるはずのない瑞鶴さんが続いていた。

 

 久しぶりに姿を見た瑞鶴さんは、礼服を着て、左胸の下にたくさん真珠が埋め込まれた光り輝く大きな勲章を付け、そして両手には真っ白な手袋をはめていた。

「同じ艦娘でもこんなに違うんだ・・いや、瑞鶴さんは最初から押しも押されぬ空母艦娘だったじゃない・・だから艦娘でありながら総理にまでなって・・駆逐艦娘の私とは生きる世界が違うんだ・・」そう思っていると、先ほどの男性が私の目の前で止まった。

 

「このお方は大元帥陛下だよね・・」そう思った瞬間、その男性から声が掛けられた。

 

「卿の名は・・確か吹雪であったと記憶しておるが・・もし間違っておったら遠慮なく言ってもらいたい」その声は思ったより優しかった。

 

 艦娘、しかも駆逐艦娘の私が直接陛下にお答えしていいのかと思い、私は思わず瑞鶴さんの方を見てしまった。

 すると、瑞鶴さんは鎮守府にいたときと全く変わらないあの笑顔でうなずいてくれた。

 

「ああ、瑞鶴さんは何も変わっていない・・」総理としての外見に物怖じして、私が勝手に瑞鶴さんに対して壁を作っていただけなんだ・・

「はい、陛下。特型駆逐艦、吹雪で間違いありません。・・私のような者まで名前を覚えて頂き、ありがとうございます」若干声が上ずってしまったが、それでもちきんとお答えすることができた。

 

「少し自信がなかったが、よかった。もし卿の名を間違っていたら、総理にしかられるところであった・・」陛下は笑いながら瑞鶴さんの方に顔を向けていた。

 

「陛下をおしかりするなど・・お(たわむ)れが過ぎます・・」瑞鶴さんは苦笑いを浮かべていた。

 

「さて、冗談はここまでにして・・」陛下が再度私の方に顔を向けられた。

そのお顔は先ほどまでとまるで異なり、真剣そのものの表情になっていた。私は全身に力を入れ直した。

 

「吹雪、先ほどの卿の突撃、見事であった・・朕のみならず、わが国とわが国民は、卿らの血と汗と涙、そして、その勇気の上にのみ存在が許されておる・・」これって間違いなく、私だけじゃなく、艦娘全体が褒められた・・

 

「ありがとうございます!」

 

「・・しかし、勇気と蛮勇は似て全く異なる。命は1つしかない。命は惜しめ。その勇気も命あってこそだからな・・」私には陛下のおっしゃった意味を全て理解することはできなかった。それでも、くどいくらいに命を大切にしろと言われたことは理解できた。

 

 ふと周りに目をやると、このやり取りを聞いていた瑞鶴さんや、軽巡洋艦以上のお姉さんたちは、みんな目に涙を浮かべていた・・

 




新年早々ネタが切れてしましました・・
今後どうなることやら・・
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