「うげ、なにこれ・・書記官長、書記官長はいる?」決裁書類を読んでいた瑞鶴は、内閣書記官長を呼び出したのであった。
「総理、いかがなされましたか?」組閣当初は瑞鶴の言動にヒヤヒヤさせられることが多かった書記官長も、急速に安定感を増す瑞鶴に感心し、すっかり信服していたのであった。
「誰がこんな起案をしたの?」書記官長が瑞鶴から渡された書類を見ると、瑞鶴を従二位に叙することが記載されていたのであった。
「・・総理になった者を従二位に叙し、在任期間が1年を超えたところでさらに正二位以上に叙するのは、これまでの慣例どおりでございますが・・」
「私、組閣のとき随分大きな勲章を賜ったよね」
「総理の武勲は誰もが認めるところです。それに、あのとき大命が降下していたのですから、若干早かったかもしれませんが、決して特別扱いではありません」
「武勲のことを言われたら、私よりよっぽど功績のある長門さん、赤城さん、それに加賀さんたちに申し訳ないよ・・」
「加賀殿・・確か総理の師匠に当たる方と承っておりますが・・漏れ聞くところによると、『ケンカするほど仲がいい』の典型例とか・・」
「『誰があんなの』って前なら言ったけど、思い出すのは翔鶴姉より加賀さんの顔や言葉、そして何気ない仕草ばかり・・・いけない、感傷にひたっちゃった。個人的な師弟関係はともかく、加賀さんたちは、どんなに厳しく見積もっても、私なんか足下にも及ばない武勲を挙げているのに、私ばかり官位なり、勲位を賜ったらバチが当たるよ・・」
「武勲を挙げた者に与えられる金鵄勲章は・・そうか、あれは階級が前提にあるんだった・・艦娘は階級の枠外で、しかも年金を出す必要があるから、棚上げされたままだった・・総理、それなら、艦娘を対象にした表彰制度を創設されてはいかがでしょう。誠に申し訳ありませんが、年金を伴わないかたちにすれば、少なくとも大蔵省の反対は避けられます」
「私への叙位は変えられないものかしら?」
「何かやらかして逮捕でもされない限り・・」
「・・それはできない。私自身は、どんなこと言われようとも我慢できる。でも、他の何の関係もない艦娘まで非難されるようなことは絶対にできない・・」
「そう思われているのであれば、今後の艦娘のためと思って栄典をお受けください。総理が受けられることにより、他の艦娘、例えば加賀殿へ授与する道が開かれるかもしれません・・」
「・・なんかうまく丸め込まれたような気がするけど・・」
「いえ、決してそんなことはございません」
「あ~あ、叙位は受けるしかないか・・でも、従二位って、確かそれだけで伯爵と同じ待遇を受けるんだったよね。加賀さんに『あなたみたいなガサツ者が伯爵待遇とは聞いて呆れるわ』って言われちゃうよ・・」
「従二位が伯爵待遇なのは、総理のおっしゃるとおりです。・・しかし、総理と加賀殿は文字面だけ見ると冷淡なように見えますが、決してそうではないことがすぐに分かります」
「私が一方的にそう思っているだけかもしれないけどね・・」
「いや、きっと加賀殿も総理を頼りにされていると思います。・・どうです、加賀殿に連絡してみては。我々に遠慮することなどありませんから・・」
「いや、いざ話をするとなったら、素直に話せないよ。私も加賀さんも意地っ張りだからね・・こんなところばかり加賀さんに似ちゃったよ・・」
「・・・」書記官長は、瑞鶴が自分の世界に入ってしまったため、何も言うことができなくなってしまった。
「・・念のため言っておくけど、艦娘へ表彰制度を作ったとして、その第一号に私を入れても絶対にハンコは押さないからね。もし、ほかの書類に混ぜ込んでごまかそうとしたってそうはいかないよ・・」
「そのような姑息な手段が総理に通用するなどと思っておる者は、誰一人おりません・・」書記官長は深々と頭を下げたのであった。
こうして瑞鶴は従二位に叙せられた。この告示が官報に掲載されたことに一番最初に気付いたのは、原隊の提督ではなく、そのとき秘書艦を務めていた加賀であったという。
そして加賀は、瑞鶴に高い官位、勲位が与えられることは艦娘全体の名誉になるとしつつも、瑞鶴が無事に帰ってくることだけを願ったのであった・・