【閑話】瑞鶴の恋
「本日は、時間を作っていただき、ありがとうございます・・」瑞鶴は頭を下げていた。
「私に相談なんて、あなたどうしたの?常日頃、私を倒すと公言してはばからないあなたが・・」加賀は若干困惑した顔をしながら尋ねた。
「加賀さんに挑む気持ちに変わりはありません。でも、先輩たちで一番冷静なのは加賀さんですから・・その加賀さんに聞いてもらいたかったんです・・」
「あなたに評価してもらえるなんて、珍しいこともあるのね。・・私の手に負えることかしら?」
「怒られること覚悟で話すんですが・・実は、好きな人ができてしまいまして・・」瑞鶴は恥ずかしそうな顔をして言った。
「・・人の姿をして生きることができるようになったんですもの、そういう感情があっても私はいいと思うわ。それで相手は誰なのかしら?・・提督だとライバルは多いわよ」
「ええ、提督さんは私たちを大切にしてくれるので、私も悪い感情は持っていません」
「・・その言い方だと別の人のようね。一体誰かしら?」
「はい、・・実は、大塚さんなんです・・」
「大塚さん・・ああ、いつも私たちや艤装を整備してくれる整備兵のリーダーね。・・なるほど・・彼はとても仕事熱心で、私たちのことをいつも気にしてくれる人だから、申し分ないわね・・あなたの目の付け所に感心するわ・・」
「加賀さんにそう言ってもらえるなら、間違いないですね・・」
「あなたのことだから、彼女がいないことは確認済みよね?」
「はい、それとなく尋ねたんですけど、『俺は、この仕事と結婚したから、彼女はいらない』って・・」
「いかにも大塚さんらしい答えね。・・それならあなたにもチャンスは十分あると思うわ」
「本当ですか?」
「ええ、大塚さんの性格なら、付き合っている彼女がいれば、少なくとも『この仕事と結婚した』と言わないと思うわ」
「はぁ~良かった・・でも、私、先輩方と違って、女としての魅力に乏しいんじゃないかと心配で・・」
「何を言ってるの!!」加賀は怒った。
「あなたは、顔はもちろんだけど、どこまでもまっすぐで、誰よりも努力を惜しまないという心の美しさがあるわ。その美しさを全く無視するようなら、こっちから願い下げよ。もし、大塚さんがそんな男なら、私が爆撃してあげる・・きっと、空母ばかりでなく、ほかの艦種の艦娘たちも同調してくれるはずよ・・」
「あ、ありがとうございます。・・でも、加賀さんの場合、私と違ってシャレにならないので、お気持ちだけで十分です・・」
「変なところで遠慮しないで。それに、あなただって、もうシャレじゃ済まないレベルでしょう」
「・・もしかして、私、さっきから褒めてもらってます?」
「気のせいよ。・・でも、私も応援させてもらうわ。あと、結果は提督にも報告すべきよ」
「やっぱり、うまくいっても、ダメだったときでも、提督さんが知らないのはマズいですよね・・みんなに迷惑掛けちゃうや・・」
「そこまで気にしたら、何もできなくなってしまわ・・でも、いつの間にか、随分気が回るようになったのね・・」加賀は瑞鶴の成長を密かに喜んだのであった。
……………
「わざわざ呼び出したりしちゃって、ごめんね・・」
「瑞鶴さんから呼び出しを受けるなんて・・何か整備に手抜かりでもありましたか?」大塚は心配そうな表情を浮かべていた。
「いや、大塚さんたちの整備は完璧だよ。・・私たちが安心して出撃できるのは、大塚さんたちのおかげだよ・・」
「私たち人間は、深海棲艦にまるで歯が立たない。私たちの代わりに命を張ってくれる艦娘さんたちのために、当たり前のことをしているだけですよ・・」
「私も人のことを言えた義理はないんだけど、その当たり前のことが、なかなかできないんだよ・・」
「褒めてもらえてうれしいですけど、何も出せませんよ。提督と違って、やっと下士官扱いの私たちの給料は少ないんですから*1・・」
「私たち艦娘は、入隊したての二等兵の人たちより下の扱いなんだけど・・」
「給与面ではそうかもしれませんが、海軍でまともな神経を持っている奴は、そんなこと誰も思ってませんよ・・実際、艦娘さんたちに性的関係を強要したどこかのバカ提督が、つい最近刑務所送りになったばかりじゃないですか・・」
「そう言ってもらえると、うれしいな・・」
「どうしたんですか?わざわざこんなことを言うために私を呼び出したんじゃないですよね?」
「うん・・」瑞鶴の心臓は今にも爆発しそうであった。
「・・実は、私・・あなたのことが・・好きです」
「えっ?・・冗談はやめてくださいよ・・」
「いや、本気だよ。私たちのために一生懸命働いてくれるあなたの姿を見てたら、好きになってしまいました。・・もし、よければ付き合ってもらえないでしょうか?」瑞鶴は、ありったけの勇気を振り絞って告白したのであった。
「一番最後に建造されながら、もうほかの正規空母と遜色ない瑞鶴さんに想いを寄せてもらえるなんて・・でも、身分が違いすぎます・・」
「ごまかさないで。ノーならそれでも仕方ない。それでも例えばタイプじゃないとか、実は付き合っている彼女がいるとか理由を教えて欲しい。そうじゃなければ、私、あきらめきれない・・」
「付き合ってうまくいくとは限らないですよ。いや、仮にうまくいったとしても、整備兵では士官の道はないに等しいですし・・瑞鶴さんほどの方ならほかに引く手あまたでしょうに・・」
「そんなことはどうでもいい。私は、大塚さんの気持ちが知りたいの・・」
「瑞鶴さんのような方と付き合えるなら・・夢のようです・・」
「じゃあ、付き合ってもらえる?」
「・・瑞鶴さんばかり
「大塚さんらしいや・・うん、それでいいよ。ふつつか者だけど、よろしくね・・」瑞鶴は右手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします・・」大塚も右手を差し出し握手した。
すると・・「瑞鶴、やったね!おめでとう!!」どこで見ていたのか、鎮守府中の艦娘や提督までも現れたのであった。
「何これ?翔鶴姉たちばかりか、提督さんまでいるんですけど・・」瑞鶴は呆れたような声を出した。
「おい、大塚!!」提督が声を出す。
「はい!!」すかさず返事をする大塚。
「瑞鶴は、わが鎮守府の切り札の一人だ。その整備を基本、後回しにするとは何事だ!そんなことで
「提督・・瑞鶴は切り札ではありません・・」
「加賀か・・確かに瑞鶴は、君たち一航戦に及ばないところはあるが・・」
「いえ、そうではありません。エースです」
「えっ、加賀さんが瑞鶴を認めた・・」
「ただでさえ手強い瑞鶴が、愛の力まで得ました。・・もう、私でも歯が立たないかもしれません・・」
「うわっ、これ、逆に怖いんですけど・・大塚さん、加賀さんの艦載機ちょっと弱くしてもらえないかな・・」
「いや、うちの整備兵の間では、加賀さんがダントツの人気ですから・・いくら私がリーダーでも、そんなことできません・・」
「加賀さん、今の聞いた?整備兵さんたちにモテモテなんだって!!」
「あら、いいこと聞いたわ・・でも肝心のリーダーを瑞鶴に押さえられちゃったから、そこが泣き所ね・・」その顔は、誰が見ても笑顔に見えたのであった。
……………
その後、瑞鶴と大塚は結ばれた。それまでに改二甲にまで改修されていた瑞鶴は、その鎮守府のみならず、全ての艦娘たちを代表するエースとなった。
しかしながら、瑞鶴は、他の艦娘たちや、いろいろな人たちの直接・間接の支えがあることを決して忘れず、謙虚であり続けた。
そして、大塚は整備兵として異例の出世をし、全国の鎮守府・警備隊等の整備を一手に統括するようになりつつも、自ら工廠に赴き、瑞鶴たち艦娘やその艤装の整備に心を砕き続けたという・・