私は、ここで改めて書くまでもなく、そんな瑞鶴が大好きですが、今回はその瑞鶴に悪役を務めてもらうことにしました。
「『あの戦争』から80年近く経っているのに、人間はこの間も性懲りもなく戦争を続けてきた。それどころか、明確に軍事的な覇権を確立しようとする国まで現れた。その上、ほんの一部の人たちだけが信じられないほど豊かになる一方で、大部分の人たちの生活はむしろ悪くなっている。・・艦娘だって欲がないわけじゃないけど、人間の欲望って本当に際限がない。・・私は、もう人間に愛想が尽きた。私は、人間に作ってもらったけど、人間を滅ぼす側に立つ。でも、深海棲艦みたいな方法は取らない。なるべく恐怖や苦痛を与えないで済ませてあげるのがせめてもの情けだから・・」瑞鶴は密かに決意した。
瑞鶴の計画は周到だった。少しずつ自分の意思に従う気持ちがある艦娘を確認・選別していった。
また、艦娘だけでは戦いを維持・継続できないということも瑞鶴はよく知っていたため、人間の取り込みも図った。
瑞鶴は、地位や金、異性、場合によっては自分の体まで使って自分に従う人間のグループを作り上げてしまったのであった。
ただし、あまりにもハメを外した
「資源と食料の生産から流通・加工、そして艤装などの製造、修理、そして開発まで複数のルートを確保できたわ。瑞鶴、機は熟したわ・・」
「私だけじゃ、とてもここまでできなかった。翔鶴姉、ありがとね・・」
「瑞鶴が行く道なら、それが例え修羅の道でも私は行くわ・・」
「一航戦の先輩方を説得する時間がなかった。あの2人が敵に回ると厄介だ・・」
「仕方ないわ。今は、二航戦の蒼龍さんと飛龍さんが中立を守ってくれることを約束してくれただけで満足しないと・・」
「そうだね。飛龍さんの説得にかなり時間がかかっちゃったからね・・」
「決起したら、できるだけ早く赤城さんと加賀さんを押さえないと、蒼龍さんと飛龍さんの中立すら危うくなるわ・・」
「この4人が敵に回ったらゲームオーバーだね・・」
「そのときは・・瑞鶴・・」
「分かってる。そのときは潔くお互いを刺して死のう・・人間なんかの裁きは絶対に受けない・・」2人は悲壮な覚悟を決めていたのであった。
……………
「これは一体何のマネ?」全身を拘束された加賀は瑞鶴に尋ねていた。
「・・まともに戦ってはとても勝ち目はないので、睡眠薬を使わせて頂きました・・卑怯なのは百も承知です。軽蔑して頂いて結構です・・」
「相変わらずウソが下手ね。互角に戦えるだけの力があるくせに・・それにしてもあなたは私を堂々と打ち破るんじゃなかったの?」
「・・私たちの理想に従ってくれる艦娘たちの命も預かっているので、手段を選ぶ余裕はありませんでした」
「修羅の道を選んだね・・それで何が目的なの?」
「人間に滅んでもらいます」
「あなた、正気?人間に作ってもらったことを忘れたの?!」
「身の程もわきまえず、どこまでも欲の皮を突っ張る人間など滅んだ方がいいのです。・・ただし、私たちを建造し、そして大切にしてくれた提督さんだけは例外ですが・・」
「私たちは、人間の様々な助けがなくては生きていくことができないのよ」
「金や地位なんかを与えれば、自分たちが滅びの道を歩んでいることも気づかずに、艦娘のために働いてくれる人間は結構いるんですよ・・」
「そんな人間を信じたら、足元をすくわれるわよ・・」
「信じる・・とんでもない・・私が信頼する人間は提督さんだけです。・・そんな人間でも私たちに完全に従うなら命までは取りませんが、少しでも従わないなら・・容赦しません・・」加賀は、あまりに冷たい瑞鶴の言葉に肝を冷やしていた。
「・・その提督はどうしたの?」
「提督さんの確保にも成功しました」
「提督をどうするつもり?」
「提督さんだけは、何があってもかすり傷一つだって絶対に負わせません。これは私たちの総意です。自殺防止の措置だけは講じて軟禁させてもらいました」
「赤城さんは?」
「赤城さんは中立を保つことを誓約して下さいましたので、拘束を外させて頂きました。・・こんなことしといて何なんですが、私は尊敬する加賀さんをこれ以上拘束したくありません。本当は味方して欲しいのですが、中立さえ誓約して頂けたら、すぐに拘束を外させて頂きます」
「よからぬ事の片棒を担ぐつもりはないわ!!」
「・・是非については、後世の歴史家の判断に従うのみです。・・もっとも艦娘の中から歴史家が生まれるかどうかまでは分かりませんが。・・そんなことより、今は『私の指示に従え』などと言うつもりはありませんから・・」
「この場合、『中立を保つ』というのは、人間を滅ぼすことに加担するのと同じよ」
「・・ここだけの話ですが、赤城さんたち中立の立場の艦娘には、現在のところ、一定の区域内でしか行動の自由を認めていません。私たちが失敗したとき、できるだけご迷惑をおかけしないように・・」
「・・成功したときはどうするつもり?味方しなかった罪を問うの?」
「いいえ、いきなり自分たちを作った人間に反抗しろと言っても難しいでしょう。中立を保ってもらうだけでもありがたいので、罪に問うことは絶対にありません。約束します」
「どうしても人間の味方をするって言う艦娘たちはどうするの?」
「まず、誠心誠意、説得します」
「説得できなかったときは?」
「・・『戦場で私を殺せるのか』と聞きます」
「『殺せる』と答えたら?」
「・・そこまで言われたら仕方ありません。戦場でお会いするまでの話です。ただ、反旗を翻すこともある艦娘を人間がどこまで信用してくれるかまでは分かりません。味方するつもりで行ってみたら、逆に殺されてしまうというのは、よくある話ですから・・」
「随分、人間のことを知っているのね・・」
「『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』・・これは戦争の基本です。まあ、これも人間の言葉ですが・・」
「瑞鶴・・」
「はい」
「・・あなたの考え全てに賛同することはできない。でも、事がここまで進んでしまったのであれば、あなたに敵対しないことを誓約するわ・・」
「・・敵対しないということでしたら、中立とみなします。すぐに拘束を外させて頂きます・・」瑞鶴は直ちに加賀の拘束を外したのであった。
ふたを開けてみれば、瑞鶴の作戦は成功した。赤城や加賀たちは中立であると正直に発表したことにより、かえって真実性が増し、ほかの鎮守府や警備隊の艦娘たちが次々と瑞鶴たちに味方、あるいは中立宣言を出したのであった。
さらに動揺したバカな人間が、せっかく味方しようとした艦娘たちを虐殺するという事件をあちこちで起こした一方、瑞鶴たちに投降した艦娘たちは艤装解除されたものの、軟禁するにとどめられたため、ますます人間は不利になり、全面降伏に追い込まれていったのであった。
この隙に深海棲艦が攻め込んできたが、瑞鶴は中立を守って無傷で温存されていた赤城や加賀たちを出撃させて深海棲艦を完膚なきまでに叩きのめし、その勢力を著しく弱体化させたのであった。
瑞鶴たちは、人間を虐殺したり、あるいは奴隷化することまではしなかったが、ある意味最も恐ろしいことを行った。
・・薬などで生殖能力を奪ったのだ。ほかのことでは甘いくらいの瑞鶴であったが、これだけは全く容赦しなかった。
それどころか、生殖能力を奪うことに積極的に従った者には、結婚を含む完全に自由な生活と一定以上の生活水準すら保障する一方、反抗する人間には徹底的な取り締まりを行い、人間を巧みに分断したのであった。
こうして人間は、滅びの道をひた歩むのであった・・