昭和16年12月。赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、そして瑞鶴-後に南雲機動部隊と呼ばれることになる―この6人は、一路ハワイ真珠湾に向かっていた。
開戦と同時にアメリカ太平洋艦隊の拠点である真珠湾を急襲し、一挙に壊滅させてしまおうという乾坤一擲の大博打に打って出ることになったのだ。
当初、軍令部ではこの作戦に消極的であったが、連合艦隊司令長官である山本五十六がこの作戦の実現にこだわり、就任したばかりの翔鶴と瑞鶴を出撃させることで何とかゴーサインが出たのであった。
特に瑞鶴はこの年の9月中旬に就任したばかりであり、指導役を仰せつかった加賀は、「就任して2か月あまりで、このような重大な作戦に従事させるなど正気の沙汰ではない、生まれたばかりの艦娘に死ねと言うつもりなのか」と猛烈に反対したのであった。
しかし、提督といえども軍令部と連合艦隊司令部が定めた作戦内容を変更できるはずがなく、結局、加賀は、何とか瑞鶴が自分自身だけでも守れるよう、厳しい指導をせざるを得なかったのであった。
そこで加賀は、瑞鶴の強気の性格を利用し、自らが嫌われ役となることで瑞鶴の成長を促した。まともな手段では就任2か月あまりで敵の懐深く侵攻すれば、格好の標的になってしまうからであった。
加賀としては瑞鶴に弱音を吐かせ、何とか理由を作って出撃させないことも考えていたのだが、そんな加賀の苦労を知ってか知らずが、瑞鶴はしごきに耐え抜き、本当にギリギリであったが、加賀から出撃可のお墨付きを得たのであった。
そして12月1日、連合艦隊旗艦長門から「ニイタカヤマノボレ」の暗号電報を受信した瑞鶴は攻撃準備を進めていたのであったが、震えが止まらなかった。艤装をつけた艦娘、特に新鋭艦である瑞鶴は十分に対策が取られていることから、寒さを感じているわけではなかったのだ。
「怖いの?」加賀は瑞鶴に声をかけていた。
「『武者震いです』って言いたいところですが・・正直、怖いです。就任して3か月も経たないのにこんな重要な作戦に参加してるんですから。私1人のせいでこの作戦自体が失敗してしまうのではないかと思うと怖くて怖くて・・」
「そう。・・でも怖いのはあなただけじゃないのよ。私も怖いわ・・」
「えっ?」瑞鶴は驚いた声を上げていた。
「あなた、私に感情がないとでも思っていたの?・・適度な恐怖心は生き残るためにも必要なのよ」
「はあ・・」
「あなたは、この日が来ることを信じて、私を見返すためにしごきに耐え抜いたんでしょう。正直、私はあなたを外すためにしごいたんだけど、あなたは耐え抜いた。自分で自分を守れるくらいには動けるはずよ。これまでのことを思い出して思う存分暴れてらっしゃい。・・あなたたちの足りない分は、私たちで何とかするから・・」
「・・私は、加賀さんに嫌われてたわけじゃなかったんですね・・」瑞鶴は涙を流していた。
「五航戦、今は泣いている暇はないわ。今は生き残ることだけに集中して・・」
「分かりました。・・でも、翔鶴型航空母艦の実力、お見せします」
「それなりに期待してるわ・・」瑞鶴にはまだ分からなかったが、加賀はわずかに笑顔を浮かべていたのであった。
……………
「赤城、第一次攻撃隊帰還。未帰還機〇」
「加賀、未帰還機△」
「蒼龍、□」
「飛龍、×」
「翔鶴、☆」
「・・瑞鶴、未帰還機ありません」
「えっ・・」
「あなた、まさか2ケタの数も分からないわけじゃ・・1、2、3・・本当に全機帰還してる・・」疑いの視線を感じた翔鶴は瑞鶴の矢の数を数え直して驚きの声をあげていた。
「五航戦の攻撃目標は動かない陸上基地だけど、その分反撃を受けやすい。2~3割の損失は覚悟してたのに・・」赤城は驚きの声をあげていた。
「瑞鶴」
「はい、赤城さん」
「あなたに第二次攻撃隊の指揮をお願いします」
「あ、あの・・」瑞鶴はあまりのことに驚きの声をあげていた。
「五航戦、今は1秒でも無駄にできない。黙って赤城さんの指示に従いなさい」加賀も同調した。
「・・分かりました。赤城さんの命により、五航戦瑞鶴、第二次攻撃隊の指揮をとらせて頂きます」
「各攻撃隊、瑞鶴の指示に従って攻撃をしなさい」
第二次攻撃隊を収容したのち、飛龍はさらなる攻撃を進言したが、敵機動部隊を捉えられなかった赤城は、無防備に近い機動部隊の損失を恐れ、反転帰還を命じた。
・・これがミッドウェー敗因の遠因の1つとなるのであったが、全てを知っている現在の私たちがそれを非難するのはあまりに酷と言えよう。