艦これの余白   作:夢幻遊人

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いかなる政策、人物も批判ないし非難する意図は全くありません。

現在の困難な状況に立ち向かってくださる全ての方に感謝を込めて・・



内閣総理大臣瑞鶴 見えざる敵

「特別参与、改めてこの新感染症について説明してもらえないかな?」瑞鶴は、閣議において専門家から説明を受けていた。

 

「はい、総理。この新感染症は、〇〇地域で発見され、その後、急速に世界中にその猛威を広げております。諸外国の研究も踏まえますと、感染後約1週間で発症します。発症すると40度前後の高熱が1週間ないし10日続きます。この感染症そのものでは、乳幼児や高齢者、それに基礎疾患を抱える者以外で命を落とす例はそれほど多くないのですが、この感染症の真に恐ろしいところは、高熱で体力と免疫力を著しく消耗させることです。これにより、普段なら命を落とすことのないような、空気中にごく普通に存在する雑菌が、いともたやすく命を奪ってしまうのです」

 

「本当に恐ろしい病気だね。確か、今のところ、特効薬はないんだったよね?」

 

「はい、対処療法しかありません。現在、世界中の機関が血眼(ちまなこ)になって病原菌を探しておりますが、まだ発見できておりません。おそらく、顕微鏡では発見できないほど小さいのではないかと思われます」

 

「えっ?」

 

「全ての病気の原因がわからないのは、あまりに小さすぎて、通常の顕微鏡では発見することができないからでないかと言われているのです」

 

「・・今、『通常の』って言ったよね?ということは、もっと小さいものを見ることができる特別な顕微鏡があるの?」

 

「はい、あることにはあるのですが・・」

 

「何か問題があるの?」

 

「その特別な顕微鏡なのですが、まず世界中を見回しても台数が圧倒的に少なく、わが国では大阪帝国大学にわずか1台しかないのです。その上・・」

 

「まだ何かあるの?」

 

「いずれの国も深海棲艦との戦争で、そういった分野への予算が削られておりまして・・現在、まともに動かせるのはアメリカくらいだと聞いています」

 

「予算を大飯ぐらいしている艦娘の私には耳が痛いね・・」瑞鶴は恐縮したような声を出した。

 

「艦娘の出現で、少なくともわが国は、かろうじて生き残れたのです。深海棲艦が人類に対し、慈悲とか容赦といったものが全くない以上・・」

 

「米内さん、ありがとね。でも、国家予算の大半を使っているのは軍の中でも海軍、しかも私たち艦娘であることは疑いようもない事実なんだ。戦争さえなければ、この病気で多くの人が苦しまずに済んだかもしれないんだ・・」

 

その言葉に言葉を掛けられるものはいなかった。

 

「ところで、この際、感染力についても確認しておきたいんだけど・・」

 

「・・これについては、経験則でしかないのですが、飛沫ではそれなりに感染力が強いのですが、意外に間接的な接触、例えば、感染者が触ったものを触った場合の感染力はあまり強くないようなのです」

 

「これは不幸中の幸いって言っていいのかな・・」

 

「ただし、スペイン風邪の例もあるように、病気は突然その性格を変えることがあります。今こうだから今後もそうだろうという思い込みは危険です」

 

「まるで戦争だね・・」

 

「まさに病気と人間との戦争と言えるでしょう・・」

 

 

……………

「これ以上感染が拡大すると、医療体制が崩壊し、死ななくていい者までバタバタと死んでしまうことになりかねません。ここは短期集中で人の動きを完全に止め、一気にこの感染症を封じ込めるべきです」

 

「確かに前の内閣の第一波のときには、人の動きを完全に止めることで一旦は感染者が大幅に減少した。しかし、しばらくするとまた感染者が増え始めたではないか。前回、人の動きを完全に止めてしまった影響がまだ残っている。本来であれば、景気刺激策を取りたいところなのだが、現在のわが国にそこまでの余裕はない。ここでまた人の動きを完全に止めたら、経済は完全に腰折れして、大不況になりかねない」

 

「企画院総裁はそうおっしゃるが、経済を優先して人の動きを制限しなければ、国民がバタバタと死ぬようなことになり、結局、経済も死んでしまうのはないか」

 

「厚生大臣のおっしゃることも十分わかるが、経済が回らなければ、今日の食事にも事欠いてしまう者だって大勢いるのだ」

 

「私も経済がどうでもいいとは思っていない。だが、ここで感染を食い止めないと、結局、経済再生もおぼつかなくなってしまうことを憂慮している」

 

 どちらが正しくて、どちらが間違っているという性質のものでない以上、議論は容易に進まなかった。

 

 瑞鶴は、メモを取りながら閣僚たちの意見をひたすら聞いていた。

 

 議論を続けること3時間あまり。閣僚たちに疲労の色が濃くなってきたことから、瑞鶴は、一旦休憩を宣言した。

 すると、隣に座っていた鈴木男爵が瑞鶴に声をかけてきた。

 

「総理、これは正解がありません。最終的には総理のご判断で決するお覚悟を・・」

 

「経済や国民生活の本当の意味を知らない私が決めるなんて、悪い冗談でしかないよ・・」瑞鶴は首を横に振ったのであった。

 

 閣議再開後、瑞鶴は静かに口を開いた。

「皆さんの議論を聞かせていただきましたが、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているといった性質のものでない以上、何とか集約できないかと思います。・・一旦、これまでの経緯は棚に上げていただいて、もう一度、意見を合致させる方向で考えてもらえないでしょうか」

 

「・・先ほど特別参与が報告されたように、現在のところという前提つきではありますが、飛沫さえ気をつければ、さほど感染のリスクは高くないように思われます。よって、人と人の往来全てを規制する必要はないと思います」

 

「なるほど・・」

 

「飛沫というと会話・・そういえば文部大臣、児童・生徒の患者はあまりないようだけど?」

 

「はい。学校内でのマスク着用の徹底、教師と生徒の間にフロントガラスを立てかけるなどして飛沫を浴びないよう対策を講じております。ただ、給食中や休み時間などの会話も制限しておりまして・・子供たちに不自由させております」

 

「食事や友達の会話は楽しみなのに・・本当に申し訳ないね。1日でも早く元の生活に戻さなくちゃ・・」

 

「・・そうなると、気を付けるべきは酒席での会話ということになると思います」

 

「うん、お酒が入ると、どうしても気持ちや声が大きくなちゃうからね・・」

 

「この感染症が落ち着くまでは、仕事が終わったら、酒など飲まずにまっすぐ家に帰ればいいのです。・・幸い、戦局は安定しており、酒そのものは比較的容易に手に入りますので・・」

 

「一時は、酒もどきですら貴重品だったことを思い出せば、夢のような話だ。・・それにしても人間とは勝手なものだ。あのときのことを考えれば、ずいぶん贅沢なことを言っている・・」

 

「・・深海棲艦との戦争で職を失った多くの者が、飲食業やそういった店への卸などで生計を立てています。営業を禁止するのであれば、手当が必要です」

 

「わが国は、日銀に国債を引き受けさせるという禁じ手を使って戦費を調達した。そういったこともあって、財政も経済もいつ破綻してもおかしくないんだ。このきわどいバランスが崩れて、財政なり経済が破綻したら、社会は大混乱に陥るだろう。そこを深海棲艦に突かれたら・・」

 

「一巻の終わりだな・・」

 

「あと一歩で意見が一致できそうなところまで行きついたのに・・何とか、何とかならないかな・・大蔵大臣、申し訳ないけど、何か売れる物ってないのかな?」

 

「・・大変申し上げにくいのですが、めぼしい財産は既に売却してしまいました。残っているものもあるにはありますが、いわば売れ残りでして・・しかも、国内総生産は数年前の6割程度にまで落ち込んでおりまして・・正直、どれだけの金額で売却できるか・・」

 

「それも深海棲艦との戦争が原因なの?」

 

「・・そのとおりです」大蔵大臣は苦しそうな表情をしながら答えた。

 

「くそっ!!全部戦争か・・どれだけ・・どれだけ苦しめれば気が済むんだ!!」机を叩きつけて感情をあらわにした瑞鶴に、ほかの閣僚たちはいたたまれない表情を浮かべていた。

 

「・・私は、戦争で苦しい思いをした人たちに、これ以上我慢しろって言うことはできない。でも、手当をしたくても、お金を作ることもできない・・これは、全て総理である私の責任です・・」

 

「総理・・まさか・・お待ちください・・」瑞鶴の意図を察した鈴木男爵が言葉を発した。

 

「いいえ、私ではこの問題を解決できません。ここは・・」

 

「総理、お話の腰を折って申し訳ありませんが、よろしいでしょうか?」

 

「・・米内さん、どうされましたか?」

 

「総理の言いようではありませんが、ここは一番の大飯ぐらいの海軍が予算を返上いたします」

 

「えっ?」

 

「深海棲艦の正確な意図は分かりません。しかし、現に戦闘行為は行われておりません。警戒態勢は怠れませんが、戦闘そのものより金がかからないことは火を見るよりも明らかです。よって、余剰分を返上いたしますので、これを手当にお回し願います」

 

「それはマズいんじゃない。確かに戦闘は行われていないけど、深海棲艦の気が変わったらどうするの?」

 

「そうおっしゃるなら、軍で使うはずの火薬をなぜ花火にお回しになりました?」

 

「・・これは一本取られた。確かにそうだね。・・分かった。米内さんの提案、ありがたく受け取らせてもらうよ」

 

「ただし、2点ほど留意点があります」

 

「それは?」瑞鶴は緊張した声を出した。

 

「まず1点目。一旦帝国議会で議決された予算科目を変更するのですから、帝国議会の同意が必要です。まあ、これは使い道からすると、おそらく同意は得られるでしょう。問題は2点目です。海軍内、特に一部の艦娘から不満の声が出るかもしれません。総理から直接ご説明願いたく・・」米内海相は、最後は少し口角を上げながら述べたのであった。

 

「私より米内さんが言った方がにらみがききそうなんだけど・・まあ、私でよければ、いくらでも説明するよ」

 

「総理・・」

 

「どうしたの?」

 

「今回は、海相のご英断で何とかなるかもしれません。しかし、予防薬や特効薬がない以上、これからも感染拡大の波が何度か来ると思わなければなりません。その際に今回と同様なことができる保証は何もありません」

 

「・・確かにそうだね。・・うん、それも併せて発表しよう・・」

 

「・・海軍の特別な貢献によって、この感染症の拡大を防ぐとともに、それによって困難な状況に陥ってしまう人たちを救うことができるのです。このことに対し、総理大臣として深く感謝するとともに、海軍に籍を置く者として誇りに思います。しかしながら、予算上の制約もあり、これらの措置は、おそらくこれが最初で最後となるでしょう。私たち自身も、敵であるこの感染症のことを正しく理解し、それに応じた対応を取らなければなりません・・」瑞鶴の海軍向けの会見は、艦娘たちにも視聴が義務付けられたのであった。

 瑞鶴の堂々とした会見に、艦娘たちは誰もが自分のことのように誇らしく思ったのであった。

 

 

「さあ、これからが勝負だよ。でも、感染症と人類の戦いはこれが最初じゃない。歴史を見れば、天然痘やペスト・・過去幾たびも感染症が猛威を振るったけれど、遂に人類は滅びなかった。今回だって、人類が勝つんだから・・」瑞鶴は固くそう信じているのであった・・




 現在進行形の課題を書くことの難しさを痛感しています。
 自分で始めたことといえ、このシリーズでは、常に総理らしさと瑞鶴らしさの両立に苦心しています。あまりに総理らしさを強調しすぎると瑞鶴でなくてもいいのではないかとなってしまいますし、逆に瑞鶴らしさを強調しすぎると一国の総理としてあまりに軽すぎるのではないかと思ってしまうからです。
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