加賀と瑞鶴は、ある海域で深海棲艦と戦っていた。それぞれの努力で深海棲艦を制圧しつつあったが、旗艦加賀に向かって魚雷が音もなく近づいていた。
これまで敵の魚雷は比較的発見しやすかったことや、味方の艦載機の発着、敵の航空機などに気を取られていたため、加賀たちはこれまでと異なる魚雷に全く気づいていなかった。
いや、それに気づいた者が1人だけいた。・・加賀から副将を任されていた瑞鶴である。もはや言葉を掛けても間に合わないと判断した瑞鶴は、加賀を突き飛ばした。
「何をす・・」言いかけた加賀は、次の瞬間、瑞鶴が自分の代わりに敵の魚雷攻撃を受けたことに気づく。猛烈な水柱が立ち、滝のような水しぶきが収まった後、瑞鶴は痛々しい姿で海面に膝を着いていた。
「あなた、何てことを!」加賀は瑞鶴に駆け寄る。瑞鶴の顔がみるみる青ざめる。
「やっと、いつぞやの借りを返せた・・」瑞鶴は息も絶え絶えに答える。「それに私は装甲空母。何とか耐えきれると思っただけ・・」瑞鶴はそう言い終えると体中から力が失われた。青ざめる艦娘。加賀は顔面蒼白となりながら腕を取り脈を確認すると同時に顔を瑞鶴に近づける。すると脈があり、息もしていた。・・気を失っただけだ。安堵の色が浮かんだが、撃沈の危機が迫っていることに疑いようがない。
艦娘たちは加賀の指示を受けようとする。すると今まで感じたことのないような怒気と殺気が入り交じったすさまじい気迫を感じた。味方であり、幾多の死線をくぐり抜けてきた艦娘たちですら寒気を感じるほどの。
「・・もう怒りました」加賀はやっと聞こえるような声でつぶやいた。しかし、こういうときこそ加賀が怒っていることを艦娘たちはよく知っていた。
「よくも・・よくもやってくれましたね!」珍しく加賀が怒鳴り声をあげた。
「・・こいつらだけは絶対に許さない!例え地球の裏側まで掘り尽くそうと最後の1隻まで探し出し、差し違えてでも絶対に倒す!!」加賀のあまりの気迫に艦娘たちは震え上がり、深海棲艦はわれ先に逃げ出していた。
「・・瑞鶴をこのような目に遭わせた奴らには、必ず命をもって償わせます。ですが、それには私だけの力だけでは足りません。どうか皆さんの力を私に貸してください」加賀は深々と頭を下げた。常に一航戦の誇り高く、ややもすれば見下したような言動をする加賀が頭を下げたので、艦娘たちは一様に驚くとともに、加賀の覚悟が伝わった。
加賀とそのすさまじいまでの気迫に触発された艦娘たちの猛烈な追撃を受け、その海域の深海棲艦はあえなく掃討された。
後に少尉以上に任官する者全てが学ぶ教科書に「・・加賀たちの戦果は、誠に凄まじい一言に尽きるものである。しかし、これは様々な偶然が味方したからであり、万が一、否、億が一にも存在しうるものではない。であるからこそ、戦史に燦然と輝くのであり、いやしくもこのような事案を前提として作戦を立案してはならない。作戦の要諦は、最も愚鈍な指揮者に率いられた最弱の隊を想定し、そういった隊であっても、なお勝利しうるよう立案されなければならない・・」と記載されることとなる。
加賀たちに運ばれた瑞鶴はドックに入渠した。その入渠時間が沈没寸前であったことを物語っていた。
入渠を終えた瑞鶴は、自室で安静を命じられていた。体の修復は終えてもそのダメージが抜け切れていないからであった。そんな瑞鶴を加賀が見舞いに来ていた。
「あんな無茶なマネはいけない。でも今回は私の見落としが原因。・・恩に着るわ」加賀は感謝の言葉を伝える。
「ストレートに褒めてもらうと、何か変な感じ・・」瑞鶴は恥ずかしそうに答える。
「・・あと、一緒に行っていた吹雪ちゃんから聞きました。私が気を失った後の加賀さんがすごかったって」
「・・あの子、何て言ってた?」
「『味方の私たちすら寒気を感じる殺気を放ちながら、地球の裏側まで掘り尽くそうとも敵を探し出して、必ず命をもって償わせるから、力を貸してほしいと頭を下げて頼んでいた』と聞いています」
「・・さあ、そんなこともあったかしら・・私は、やかましいのがいなくなって清々しているんだけれど」そう言いつつも加賀は「・・でも、それにすぐに飽きるの。そして、やかましいあなたを頼りにしている自分に嫌でも気づいてしまう。だから、あなたは私より先に沈んではいけない・・」最後は言い聞かせるように言う。
「・・分かりました」瑞鶴はそう答えるしかなかった・・