艦これの余白   作:夢幻遊人

8 / 41
四航戦、出向する! 加賀傷害事件

 ○○地区憲兵隊のとある部屋。ここに日向は憲兵少尉として勤務していた。先日解決した「カレー大量喪失事件」により、捜査官としての適性を認められた日向は、その後、他の憲兵同席のもとではあったが、実際の取り調べも経験していた。

 

 日向の取り調べはなかなか迫力があるらしく、事件解決に大いに貢献していた。

 

 そんな中、今度は△△警備隊で、加賀が負傷したという連絡が入ってきた。艦娘がらみということで、さっそく日向は現地に派遣されることになった。

 

 現場に急行すると、すでに鑑識活動が終わり、艦娘たちへの聞き込みと防犯カメラ映像の回収・分析が行われていた。被害者である加賀も既に入渠が済み、自室で安静にしているという。

 

 憲兵は、普通の隊よりは階級に縛られないものの、憲兵少尉が現場に来たとなると、さすがに憲兵隊員の顔つきが変わる。警察で例えるなら、所轄の副署長クラスが現場に来るようなものだからだ。

 

 日向は、鑑識係から加賀の負傷状況を撮影した写真を示された。

「・・何だ、この漫画のような()()は?」日向は思わず吹き出しそうになる。加賀の後頭部に、それこそ漫画でしかお目にかかれないような、それは見事な()()ができていたからだ。

 

「クスリと笑える場面を入れたかったから・・」

 

「まあ、そうなるな・・って何故作者が出てくる!!後で加賀に逆襲されても知らんぞ」

「・・それはともかく、何か証拠品は見つかったか?」

 

「それが、まだ発見できません。艦娘さんの頭にあれだけの()()ができたんですから、相当固い物であろうことは間違いないと思われますが・・」憲兵隊員が残念そうに報告する。

 

「・・そうか、それで加賀の様子は?」

 

「だいぶ落ち着きを取り戻しました。事情聴取に応じるとのことです。少尉殿も立ち会いますか?」

 

「もちろん、そうさせてもらう」

 

 日向の存在とその意義について、憲兵隊員で知らない者はいないため、驚いた者は1人もいなかった。

 

「日向・・来ていたのね・・」そう言いつつも、加賀は日向を見るなり、わずかに安心したような表情を浮かべた。

 

 この間にも、防犯カメラには、犯行状況や犯人検挙につながりそうな映像はなかったものの、それでも不審者の出入りはなかったことが日向に報告されていた。

「そうなると内部犯行の線が濃厚か・・」そのようなことを考えながら、日向は加賀に被害状況を尋ねた。

 

 しかし、その内容は、加賀が警備隊内のグラウンドと建物の境付近を歩いていると、いきなり後頭部に激痛を感じ、次に気づいたら医務室のベッドの上にいた・・というものであった。

 

 日向は、加賀に被害当時、艤装を付けていたかと尋ねた。すると、加賀は「つけていた」と答えた。

 

 さらに日向は提督から提供を受けた艦娘名簿で加賀の練度を確認すると、その練度は最高クラスに達していた。

 

 最高クラスの練度を誇り、艤装も付けた空母艦娘に気づかれないように近づくのは困難を極める。思い込みは危険だが、例えば砲で撃ったとすれば辻褄は合う。

 

 しかし、砲なら爆発音が聞こえるはずであるが、それを聞いたという報告は1つもない。遠隔から攻撃可能で、あまり音がしないとなれば・・弓しかない。

 すると・・犯人は弓を使う空母か?しかし、それなら何故矢が見つからない・・あるいは事故か?しかし、そもそも事故が起きそうな場所ですらない・・日向は、事件か事故かすら分からなくなっていた。

 

「この警備隊の中に、恨みとまではいかなくても、嫌われているとか、あるいは逆に嫌っている者はいるか?」日向は一応事件として、直接加賀に心当たりを聞いてみることにした。

 

「正直に言うと、嫌われているのも、嫌っているのもいるわ・・」日向の質問の意図を察したのか、加賀は淡々と答えた。

 

「それは?」

 

「分かっているでしょう・・瑞鶴よ」

 

「ここでもそうなのか?」加賀と瑞鶴の仲の悪さはどこでも有名であった。

 

「瑞鶴と私はおそらくどこに行っても同じようなものよ・・」加賀は諦めたように言った。

 

「単刀直入に聞く。この件は瑞鶴がやったと思うか?」答えは明らかと思いながらも日向は尋ねた。

 

しかし・・

「いえ、それは()()()()()」加賀の答えは日向の予想の全く反対であった。

 

「・・それは、どうして?」日向は驚きの顔で加賀に尋ねた。

 

「あの子は生意気ではあるけど、決して卑怯でないし、バカでもない。いつだって正々堂々と演習で挑んでくる。そして最近ではメキメキと力をつけてきたばかりでなく、周到な作戦まで用意してくるようになってきた・・力だけで押してくるならまだしも、頭も使ってくるあの子に敗れてしまう日も、もう決して遠くない。その手応えを感じているではずのあの子がこんな姑息で、すぐ疑われるようなバカなことをするはずがない・・」加賀の口から出たのは、瑞鶴への高い評価であった。

 

「・・他には?」余計なことを言わずに日向は尋ねた。

 

「他にはいないわ。隠れて私を嫌っている人はいるかもしれないけど・・」加賀の話を聞いても全く犯人像は絞れそうになかった。

 

 

 

 その日、日向は瑞鶴からも話を聞くことにした。

 

「日向さんは、私を疑っているんですか?」瑞鶴は憮然とした表情をしながら日向の顔を見つめていた。

 

「一番最初に君に聞いたのは意味があってのことではない。もし、気を悪くしたら、それは申し訳ない」日向は深々と頭を下げた。

 

「・・ごめんなさい、私も言い過ぎました。疑うのも仕事のうちだもんね・・」瑞鶴は笑顔を見せた。どうやら許してもらえたようだ。

 

「そう言ってもらえると、私も助かる」日向は安堵した。

 

「単刀直入に聞かせてもらうと、加賀が事件に遭った今日の1255(ヒトフタゴーゴー)頃、君はどこで、何をしていたのか?」

 

「自室で本を読んでいたわ」

 

「それを証明できる人は?」

 

「・・いないわ。・・われながら、これじゃあ、疑われても仕方ないよね。しかも私には動機がある・・」自嘲するように言う瑞鶴。

 

「加賀は、確かに君に嫌われているし、また自分自身も君を嫌っているとも言っていた。しかし、同時に君が犯人ではないとも断言していた」

 

「へえ、加賀さんが・・私を嫌っているとはっきり言ったのに、どういう風の吹き回しかしら・・」

 

「『君は生意気ではあっても、卑怯でもバカでもない。正々堂々と演習で勝負を挑み、遠くない未来にその演習で自分をやぶるであろう君がこんな姑息で、すぐに疑われるようなことをするはずがない』とのことだ」

 

 それを聞いた瑞鶴は、驚いた表情を隠さずに尋ねた。

「それは、本当に加賀さんの言葉?」と。

 

「ここで私が嘘をつく必要は全くない」

 

「・・そう、加賀さんががそんなことを・・」

「日向さん、加賀さんに言わないで欲しいんだけど・・」瑞鶴はこれまでと異なり、懇願する口調になっていた。

 

「内容にもよる・・」日向は言質を与えない。

 

「・・加賀さんは遠くない未来に私が勝てると思ってくれているかもしれないけど、実際は私には何かが足りない。どうしてもあと一歩及ばない。それが経験なのか、何なのかまだ私には分からなくて・・これが分からなければ、加賀さんとの距離は永遠に縮まない。・・だから、私には加賀さんを襲う理由がある・・」

 

「何だ、瑞鶴も加賀のことを敬っているんじゃないか・・」日向はそう思いつつ、瑞鶴に声を掛けようとしたその瞬間、すぐ外からガシャーンと物が落ちた音がした。日向が急いで部屋の外に出ると、そこには呆然と立つ加賀その人の姿があった。

 

「・・今の話、どの辺りから聞いていた?」日向はいつもより低い声で尋ねた。

 

「日向が、瑞鶴に私のことを言っているのがかすかに聞こえてきて・・瑞鶴が何と言うのか気になり、思わず・・」加賀の声はうわずっていた。

 

「・・聞かれちゃったなら仕方ない。加賀さん、どうか私の足りないところを教えてください」瑞鶴は加賀に向かって頭を下げた。

 

「あなたに足りないところなんて何もない。あなたならもうすぐ私を超えられる・・自分を信じて。これからは、あなたが私の背中を守ってちょうだい・・」加賀はなんとか平静を装おうとしていたが、その声はどこかギクシャクしており、動揺は隠しようがなかった。

 

「・・何よ、こんなときだけ・・でも私、この日が来るのをずっと夢見ていた・・」瑞鶴もまだ完全に自分を取り戻していないようであった。であるからこそ、普段なら言えないような本音で話せたのであろう。

 

「頼むわよ・・」

 

「任せて。深海棲艦なんか、鎧袖一触よ」

 

「油断なんかしたら、爆撃するわよ・・」

 

 お互いのセリフをさりげなく入れ替えて話す二人は、まるで恋人のようですらあった。

 

 のろけを見せつけられたような気分になった日向は、勝手に盛り上がる二人を残して部屋から出たのであった。

 

 

 事実は意外なところで明らかになった。建造されたばかりの葛城が弓の練習をしていたところ、矢を放った直後に弓が壊れて矢があらぬ方向に飛び、それが石にぶつかり、はじき飛ばされた石が運悪く加賀の後頭部に直撃した・・というのが事の真相であった。人間の力では到底無理であり、また空母艦娘であっても無駄な力は使わないからこのようなことにはならない。建造されたばかりで、「あの戦争」でも実戦経験がほとんどなく、監督者もないまま力任せに矢を放ったことが原因であった。

 

 葛城は泣きながら土下座して加賀に謝り、加賀もそれを受け入れた。・・ただし、今後当分の間、監督者を付けるよう本人に指示するとともに、提督にも依頼したが・・

 

 事件性がないことが確認できたため、日向たちは憲兵隊に戻ることになった。

しばらくすると、△△警備隊の提督から日向宛にメールが送られてきた。それには仲よさげに写真に収まる加賀と瑞鶴の姿と、その2人から指導を受ける葛城の姿、そして空母艦娘たちの活躍で解放海域が拡大したことが記されていた。




瑞鶴:「加賀さんの仇は私が取ります!」
作者:「いや、待って・・瑞鶴さん何故あなたが・・」
瑞鶴:「問答無用!!全機爆装、準備でき次第発艦!目標作者!殺っちゃって!!」バスッ、ブスッ!
作者:「瑞鶴様にやられるなら思い残すことなし・・」ガクッ
加賀:「持つべきものは優秀な後輩ね」
瑞鶴:「ありがとうございます!」
加賀:「つまらないことをさせちゃったから、お詫びに間宮でご馳走してあげる」
瑞鶴:「いいんですか?やった~!!」
加賀:「素直でよろしい・・」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。