病人はやりやすい、治療のフリが出来る。
死体は何も語らない。
万能の錬金術師
昔々のお話です。
“万能の錬金術師”と呼ばれた、とある国の王家に仕える錬金術師がいました。
名前を、ユーリと言いました。
ユーリは王様から命令されれば、どんな無理難題であろうとも、必ず作り上げてみせました。
例えば、黄金のリンゴだとか。
或いは、万能薬だとか。
どれもこれも、王様の予想を超える結果を残しました。
錬金術というのは、知っての通り、その様な万能性を持つ技術ではありません。
黄金のリンゴなど、まず金とリンゴではそれぞれ形作るものが違います。
万能薬など、ある病気にとって薬でも、ある病気にとって毒である、そういう矛盾がある限り不可能です。
しかし、それをやって退けたのが、ユーリです。
故に、“万能の錬金術師”と呼ばれることとなりました。
これらの結果に喜んだ王様は、不老不死を望みました。
やはり、人間種の性でしょうか。
ユーリは快く依頼を受けました。
それから1ヶ月が経ちました。
王様は、ユーリに進捗を尋ねます。
ここ1ヶ月の間、国から突如として人が姿を消す噂が流れており、王様はより一層死への恐怖が強まっていました。
ユーリは微笑み、「順調です」と答えます。
王様は、まだ完成していないことに落胆しました。
更に3ヶ月が経ちました。
王様は、進捗を尋ねます。
ここ最近、人が姿を消した噂を聞くことはなく、安心した様子でした。
ユーリは微笑み、「順調です」と答えます。
王様は、「ゆっくりで良い、しかし必ず完成させよ」と伝えます。
そして、次の年になりました。
王様は痺れを切らし、ユーリの工房に直接尋ねに向かいます。
そこで見たものは…
人間だったものの残骸が、其処彼処に転がる凄惨な光景でした。
王様は、あの噂の原因を理解してしまいました。
自身が不老不死などを望んだばかりに、国民が消費されている現実を。
「どうされましたか、陛下?」
背後から、ユーリの声が聞こえます。
王様は、努めて冷静にこれが何かを尋ねます。
ユーリはとても申し訳なさそうな声で言いました。
「すみません部屋が散らかっていて、訪問なさるなら事前にお伝えください、掃除をしておきますから」
王様はユーリの姿に悪魔を幻視しました。
命を弄ぶ光景が容易に想像できました。
王様は必死に叫び、兵士を呼びます。
突然のことに吃驚し、固まったユーリ。
瞬く間に兵士が二人を取り囲むと、王様は「追放せよ」と短く命令しました。
何が何だか分からぬまま、国を追い出されたユーリは、仕方がなく国のすぐ傍にある森で、暮らすことにしました。
それを知った王様は、その森を“悪魔の森”と呼び、立ち入りを禁じました。
しかし、万能の錬金術師の力を求めてか、或いは、悪魔に願いを叶えて貰うためか、森に挑む国民は後を立ちません。
森に入り帰った者は、いないと言います。
だから、森に入ってはいけません。
錬金術の材料にされてしまうから。
今でも、国から人が姿を消すことがあるそうです。
だから、夜に出歩いてはいけません。
以来、親が子に語る最初の物語となりました。
めでたしめでたし。
一説には、王様に恋人を殺された復讐だったとか。