まるで夢でも見ているみたい。
ずっと、ぼんやりとしていた。
ある日突然、何の変哲もない村に王子様がやって来て、私に求婚した。
私の幼馴染は、笑顔で…私を送り出した。
何処かで止めてくれないかなって。
違うの、私が夢見たのは、白馬の王子様じゃなくって。
さようなら、私の初恋。
目を覚ました時にはすべてが終わってた。
今までの記憶がない。
王子に求婚されて、妾になって。
それからを知らない、分からない。
ただずっと、静かで、暗かった。
錬金術師様が言うには、私は王子に限りなく死に近い状態を維持する毒、仮死薬を飲まされたらしい。
死体だけを愛する様になった王子は、表向きの婚約者を用意して、本当の意味で愛する
まぁ結局、捨てられてしまった様だけど。
それはいい、別にいい、どうでも。
そんなことより大事なのは、村に仮死状態で帰ってきた私の為に、
私の目が覚めてしまったこと。
これから、彼は対価を払うことになる。
錬金術師様にしか叶えられない願い、その代償がどれ程重いものになるか、分からない。
発端が錬金術師様、本人の薬でも、きっと関係がない。
使ったのは王子で、願ったのは幼馴染だから。
そして、願われた私の命は代わりには出来ない。
何より彼が命を懸けて手にした
あぁ、だからどうか、私の願いを聞いてください、錬金術師様。
私は、これからもずっと、
だからどうか、どうか、彼の命だけは助けてください。
「いいよ、“命”だけなら造作もない」
「ただ、“共に生きていきたい”なら君の努力次第だよ」
ありがとう、ございます。
「じゃあ、対価を貰うけど」
そう言って、錬金術師様は眠る彼に手を伸ばした。
その日から、今度は私が待つ側になった。
あれから、大変だった。
ずっと長い間、使っていなかった足は歩くことすら儘ならなくて。
手も吃驚するぐらいに重かった。
赤ちゃんみたいに先生にお世話をされていた間は、どうしようもなく恥ずかしくて。
その手つきが凄く優しくて。
本当は、あの絵本みたいに怖いなんてこと、ないんじゃないかなって。
私をお世話しながら、貴方を使って実験を続ける背中を眺めてた。
歩けるようになってから、毎日、貴方を撫でるのが日課なの。
日々、姿を変えていく貴方を見るのが怖かった。
でも、昔から貴方の寝顔は変わらないね。
少し、安心した。
まだ私たちが小さかった頃、悪夢に魘される貴方の手を握って一緒に寝てたの、覚えてる?
貴方が突然、暴れだして先生を突き飛ばした時、同じ様にしたら静かになったの。
思わず、笑っちゃった。
凄い怖い顔をしてた先生も呆気に取られて、釣られて笑ってた。
初めて見る先生の笑顔は綺麗だった。
その日から、私は貴方の抑え込み担当よ。
なかなか、目を覚まさない貴方だけど、そうやって色んな事を思い出させてくれた。
でも、最近はずっと静かで。
本当に目を覚ますのかなって、不安で。
ねぇ。
私ね、村に帰ったの。
みんな、変わらないね。
あの二人は結婚してた、みたいだけど。
幸せそうに、してた。
…私、私がいなくなって、あの子と、貴方が、結ばれるんだろうなって。
思ってた、から。
…
二人に私がいなくなってからの貴方の話、聞いたんだけど、何も話してくれないのよね。
二人だけじゃなくて、誰も。
こっちも先生との約束で貴方のことは、話せないのだけどね。
…もし、もしも。
勘違いでなければ、なんだけど。
…やっぱり、なんでもない。
貴方の顔は見れるのに、貴方の瞳って何色だったっけ。
どんな声、してたっけ。
寂しいな。
ねぇ、お願い。
目を、覚まして。
目を、開けてよ。
…ねぇ。
!
ふふ、綺麗な金色ね。
おはよう、私の初恋。