幸せなの。
スラム街の子供達が、まるで中央街の子供達みたいに遊んで。
楽しげに笑って。
お腹いっぱい、ご飯を食べて。
遊び疲れて、寝ちゃって。
そんな皆を、優しげに見る先生の顔が好きで。
お兄ちゃんと皆と笑いあって暮らせるこの場所が、大好きなの。
幸せでした。
ごめんなさい、お兄ちゃん。
ごめんなさい、先生。
わたしに願いはありません。
もう十分です。
沢山、沢山、頂きました。
わたし達が先生に返せるものは無いというのに、これ以上望むことはありません。
今まで、ありがとうございました。
わたしは苗になりました。
見えません、聞こえません。
でも、兄が傍にいる、感じがします。
理解しました。
わたしが願い望まずとも、わたしは願われ望まれたのだと。
ごめんなさい、ありがとうございます。
少しは、先生のお役に立てましたか。
なんだか調子が悪いです。
慌てた様な音がするのを感じます。
毎日、お水をくれているのに、ごめんなさい。
木になっても、わたしの病気は治らなかったみたいです。
一人、増えました。
みんなのリーダーのネオさん。
どうして兄ではないのかと思わず聞いてしまって、ごめんなさい。
「スヴェンは君のお世話をしなければいけないからだよ」
わたし達は、少しだけ安定しました。
ネオさんはわたしの体調が良くないと、すぐに気づきました。
木から体を切り離して、すぐに兄に伝えに行きます。
でも、きっとわたしは病気だから、もう無駄なことはやめにしましょう。
そう伝えても、ネオさんは難しい顔をします。
「スヴェンは君に生きて欲しいと、そう言っている」
「もちろん、僕もそう思っている」
わたしはネオさんと目を合わせられませんでした。
また、一人増えました。
今度は、少し怖い顔をしたウォートさん。
思わず怒られるんじゃないかと、ドキドキしてしまいます。
こちらに手を伸ばすのを見て、目を瞑ってしまいました。
「…」
…無言で、頭を撫でられています。
これは一体、どういう感情なのでしょうか。
ネオさん、笑ってないで助けてください…
でも、また少し、安定しました。
どうしてウォートさんは、わたし達に同化したのでしょうか。
わたしには、分かりません。
そんな無意味なことをする理由が。
「…無意味ではない」
「いつか分かる」
わたしには、分からないんです…
次に来たのは、心配そうな顔をしたリースさん。
丁度、体調を崩して眠っている間に来たみたいです。
「良かった…起きてくれて」
…おはよう、ございます。
「うん、おはよう、体調はどう?」
…ごめんなさい。
「謝らなくて良いのよ、貴女は何も悪くないのだから」
「…本当に、良かった」
そう言って、静かに涙を溢すリースさんを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
きっと、それほどまでにわたしの状態が悪かったのでしょう。
きっとだから、同化して延命しているのでしょう。
こんなわたしの為に。
リースさんは、俯くわたしを抱き締めて頭を撫でてくれました。
「貴女はきっと、自分を責めるでしょう」
「与えられるだけの自分を嫌だと思うのでしょう」
「でも、それって違うのよ」
「人間は一人では生きていけない」
「だからこそ、私達は今も一緒にいるのよ」
じゃあ、わたしがみんなに与えるものって何なのでしょうか。
溢れそうになった涙と一緒に、その言葉を飲み込みました。
ネオさんが憤怒の表情で、ウォートさんとフォールさんを叱っています。
「…すまん」
「だってさ!ここ何もないじゃん!?楽しくないじゃん?!」
「この子に何かあったらスヴェンに申し訳が立たないだろう!」
発端は、フォールさんが何もないこの空間で過ごすわたしのことを思って、ウォートさんを巻き込んで遊びを考え始めたことでした。
ウォートさんが馬になったり。
「…どうだ?」
「あれ?怒ってる?顔真っ赤だよ?お気に召さなかった感じ?」
ウォートさんが肩車をしてくれたり。
「見えん」
「ちょ、そこウォートのお目々だよ?掴むならお耳にしな?あだっ」
「心配するな、支える」
ウォートさんが、た、高い高いを…
わたしを一体幾つだと思ってるんですか!
「…」
「んふふあは、小人を持ち上げる巨人って感じ、おもしろ」
ウォートさんが…
振り返ってみるとフォールさん何もしてないですね…
「こう、両手を繋いでグルグルっと」
「むっ!」
案の定、手が抜けてわたしは束の間、空を飛びました。
最終的にわたしが地面に叩きつけられる前に、フォールさんが危なげなくキャッチしてくれました。
「怪我ない?」
空を飛んだこととか、確認の時の何時に無く真面目な顔とか色んな意味でドキドキしました。
「…大丈夫?」
楽しませようと遊びを考えてくれている2人には、申し訳無いのですが、楽しくないです…
「うーん…」
フォールさんは、どうして同化したのですか。
「え?それ聞いちゃう?」
正直、フォールさんはしないと思っていました。
享楽主義でありながら、自分の自由を捨てるような真似を。
「勘違いしてるね」
え?
「俺は自由だ、何者にも縛られない、当然君にもね」
でも…
「俺は俺の為に、俺の意思で、君の意思を無視してここにいる」
…
「君がいなくなったら、俺は楽しくない」
「君もさ、早くあの頃みたいに笑いなよ」
「俺も目一杯笑いたいからさ。」
わたしが、与えるもの。
「アンタ、生意気ね」
聞こえた声に、体が強張るのが分かります。
どうしてイヴさんが、ここにいるのでしょうか。
「…アンタって本当にわっかりやすいわね」
そう言いながら、イヴさんはわたしの頭をペチペチと叩き睨み付けてきます。
必死に目を逸らします。
さっきから冷や汗が止まりません。
ごめんなさい!ごめんなさい!
「ガキの癖に生意気よ」
…何が、でしょうか。
「一丁前に、対価のことなんて考えてんじゃないわよ」
イヴさんの指がわたしの額を捉えました。
悶え苦しみながら、イヴさんの言葉を聞くことしか出来ません。
あうあう…
「アタシのモノの癖に、勝手にサヨナラなんて許すと思ってんの?」
イヴさんの、モノ…?
「そうよ、アンタはアタシのモノ」
「アンタだけじゃないわ、ネオも、ウォートも、リースも、フォールも、キスも、アンタの兄貴もね」
みんな、イヴさんの…?
「今のアンタに対価が払えないから、なに?」
「いつだってガキの面倒見るのはオトナの仕事なのよ」
チラっとイヴさんの方を見ました。
「生きれば良いじゃない、払えるようになるまで」
あの顔の時のイヴさんの言葉は。
「アタシが働いた分、返すまで逃がすわけないでしょ」
痛くて、辛くて、苦しくて。
「バーカ」
いつだって正しい。
今度は、我慢できませんでした。
「ボク達が伝えたいこと、そろそろ分かったかな?」
来てすぐにキスさんが、そう言いました。
わたしは…
「じゃあ、最後にボクから言葉を送ろう」
「ボク達は、家族だ」
「だから、無償の愛とかバカなこと言ってないでさ」
「ボク達のこと、これからも愛して?」
みんな…ごめんなさい…!
「うーん…やり直し!」
え?
「ボクはやり直しを要求しまーす!」
「えーコホン…」
キスさんは渾身のキメ顔で言い放ちました。
「ボク達が伝えたいこと、そろそろ分かったかな?」
そこからですか?!
「アッハッハッハッハ!」
キスさんが大きく口を開けて笑うのを見ていると、不思議とわたしもつられるように。
本当に、久しぶりに、心から笑えました。
「そうそれ!それが見たかったんだよ、みんな!」
「あーあ、スヴェンにも見せたかったね!」
「後でスヴェン拗ねんじゃねーのー?」
「アンタどんだけ笑ってなかったか自覚ある?」
「これから笑えればそれで良いんですよ!」
「うむ」
みんな、ありがとうございます。
ただいま、お兄ちゃん。
おかえり、ロゼ。