私が愚かでした。
私は選択を過った。
人の善性を盲信していました。
あの子のことを勘違いしていた。
私は聖職者として、人ではなく神を信じるべきでした。
私と同じだった、あの子には劣等ではなく愛があった。
神の使いを、あの子を。
自分勝手で、一方的な。
人が滅ぶは、神の意思でしょうか。
ただ勇者に、傍に居て欲しかったのだ。
これを彼に伝える必要はないでしょう。
これを彼女に伝える意味はないだろう。
何も変わりはしないのだから。
私は事ここに至って、漸く気付きました。
「…陛下」
全ての感情が抜け落ちたような表情で、王城を見詰めるあの子を。
「水と月の国の王に…呪いを」
「は、ぁっ…国が、滅ぶまで!」
地を這うような怨嗟の声を。
「…その血に、祝福を」
「ひ、ぅ…血族が、絶えるまで!」
表情に反した、激情を孕む叫びを。
「ぼぐは、お前達を…赦ざない!…げぼっ」
「…ぐ、ぅ…ふふは、ぁ…」
勇者の剣をその身に突き立て、最期に勇者の名を呼ぶあの子を見て。
「…ぅう…ひ、ぐ…」
過ちを犯したのは私達だったのだと、初めて理解したのです。
「ゆ、う…」
受け入れられない現実を前に私は、あの子の治療をするでもなく、ただ立ち尽くすだけでした。
事切れたあの子が地面を赤く染めるのを、ただ見詰めていることしか、出来ませんでした。
その日から、ずっとずっと夢に見るのです。
人の罪を忘れないように。
あの子が泣いていたことを、忘れないように。
「あとひとつ」
初めは泣き喚いていた。
床に蹲って、父母の、勇者の名を呼びながら。
自傷と吐血を繰り返し、白い石造りだった床をドス黒く染め上げた。
「ふくしゅうのおわり」
今では邪教の祭壇の様相のこの場で、ただ
壊れた人形の様に、棄てられた死体の様に、無造作に其処にある。
「わたしもおわり」
ただこの瞬間のみ、聖女は女神のフリをする。
成れ果てが抱く、祈りの、願いの、懺悔の、拠り所となる。
「ゆめをみていた」
我々には、あれを見届ける義務がある。
あれの行き着く先を。
あの子の慈悲により、我々は生かされたのだから。
「きっとかなう」
何より、あの子は聖女を生かしてくれた。
騎士にとっての聖女を、
「なにももんだいない」
私には万能の痛苦が、絶望が、憎悪が理解できる。
だから、ではないが。
聖女が万能の救済を望むのならば、騎士は其れに答えよう。
「でも…やっぱり」
だが、もしも。
あれが復讐を終えた先に、諦観と空虚だけの死体となるならば。
私があの子を
「あいたかったな」
『…もう、いいのか?』
「…ん」