御伽噺の様にはいかないけれど   作:Feles

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No.6

1

 

今回は、スラム街から調達してきた。

いなくなっても誰も困らない子供たち。

わざわざ研究材料を用意してくれる人間共には感謝しかない。

 

手始めに、前から目を付けていた生存力の高い子供の集団を捕まえた。

ちょうど新しいメンバーが増えていたようで、痕跡を消すのが比較的下手だったのも助かった。

住処までの案内人としては最高だ。

そこまでは順調だったが、捕まえた八人の内一人が病持ちだった。

他七人は気づいた様子がない。

病人を抱えるほど余裕がないのは明白だが、案外限界が近く実働班ではない者の体調変化までは気が回らなかったのか。

実働班の七人は盗人稼業を、特に兄が率先して妹に隠していたらしい。

お互いに隠し事がある状況は、良い目眩ましになっていたということだろう。

さてはて、いつ気づくのか、いつまで隠せるものか。

 

というか、我が家には一つしかベッドは無いのだが?

また貸し出さねばならんではないか。

七人にはバカデカい毛布でもあげればいいだろう。

せいぜい醜く取り合ってくれたまえ。

 


 

2

 

子供たちのリーダーの希望に添い、実験体一号は腹黒に決まった。

恐ろしいことに彼の名前も1だそう。

全員、数字だ。

同じ孤児院教会の出身だったと記憶しているが、人間とは斯くも。

名が無いというのは不便なものだ。

人生最後のプレゼントとして、彼らに名前を贈ることにした。

安直であろうと、無機質よりは良いだろう。

伝える為とはいえ、私が人の名を呼ぶなどいつ以来だろうか。

もう二度と呼ぶことはない故、好きにすると良い。

しかし、名前は精神と自我の安定に最適であるから、出来れば大切にして欲しい。

これから君たちは自分を作り、そしてそれを奪われる立場にあるのだから。

存在を保ち、守り、生きる意思を見せて欲しいところだ。

お互いを定義し(呼び)合い自意識を高め、せいぜい抗っておくれ。

君たちは誰かの代替品ではなく、唯一の個であると主張しておくれ。

それが私の目的に適うのだから。

 


 

3

 

だからと言って、そこまで図々しくなるのは違うと思わないか。

あれだぞ、勘違いするな、私がお前たちの世話をしてるのは実験をする上で肉体の栄養状態と精神の安定度が非常に大きく影響するからだぞ。

面倒になったら、直ぐ様育児放棄するからな。

 

無口、今後気配を消して背後から近づくのはやめろ、意思表示は明確にしろ。

悲鳴は聞かなかったことにしろ。

妹、君の病のことは私は黙っているから、我慢するのはやめるといい。

泣き虫、私が倒れる度に泣くのはやめろ、食事はいらない。

作ったからには食べるが。

君たち兄妹は似た者同士だ。

怠け者、実験器具を壊すのは許すから、症状が出るまで悪戯を黙っているのはやめろ。

治療は死ぬほど大変なんだぞ。

みんなの目の前で倒れても私は知らないぞ。

欲張り、勝手に物を奪うのはやめろ、欲しいものは欲しいと言え。

お前らはもう盗人ではない。

どんなに小さな約束だろうと、願いは願いだ。

病み、お前は普段はいい子なのに、変なところで思い切りが良いのをやめろ。

結託するな、黙認するな、止めろ。

対価は貰う。

兄、お前は真面目すぎる、もう少し奴らを見習わないと苦労人確定だぞ。

何だその表情は、私も頭痛の種だとでも言うのか。

後悔することは許さない。

腹黒、お前リーダーだろ、皆の為に行動しないのか。

こっちを見て笑ってないで、どうにかしろ。

 

お前たち、成人が近い筈だろう、どうして幼児みたいなことをするんだ!

何処で教育を間違えた!?

誰がお母さんだ!

せめて先生と呼べ!

 

私を助けてくれ、獣人夫婦(ベビーシッター)

 


 

4

 

私も怒られるのはどう考えても可笑しい。

いやまぁ、攫ってきた子供という時点で色々と駄目なのは分かるが。

そういう意味ではない。

私は至極真面目だぞ、ふざけていない。

というか、なんで呼ぶ前に来てるんだ。

子供が生まれたから顔を見せにじゃない。

私はお前らの祖母ではない。

確かに獣人の母だが、そうではない。

実験体の子がどんな風に生まれるのかは興味深いが、目的とはズレるからいらない。

 

人と獣の肉体比率およそ50:50の生物を獣人と名付けたが、子は見事に純度100%の獣だ。

今後比率の変動があるのか成長過程の観察記録を付けたいところだが、獣人夫婦はそれを許さないだろう。

まぁ、興味があるだけで必要はないからいいが。

推論になるが、赤子の時点ではまだ獣と同レベルの自我しかないからではないかと思う。

…定期的に通ったりしないだろうか。

いや、お祖母ちゃんって呼ばれたら立ち直れないからやっぱりいい。

 

獣人夫婦は既に安定していそうだ。

死体を使った場合、やはり肉体比率が影響してくるようだ。

実験前から予想はできていた、ただ魂の有無だけはどうにも予測できない。

魂のみの抽出の成功例は偶然の一回限りなのが悔やまれる。

幾度となく繰り返しても抜き取れるのは記憶ばかり。

人工的に抽出するのは無理があるのだろうか。

だが、いずれは必要になる。

 


 

5

 

生物の生と死の間には、魂の定着率の変動があるのではないだろうか。

魂の内容物で重要度を付けるならば、記憶が最も低いのは明白だ。

完全に定着している生の状態で無理に引き剝がそうとすると、蜥蜴の尻尾切りの様に記憶だけ切り離されるのではないだろうか。

記憶喪失とは、外的要因による要素の散乱であり、拾い損ねればもう戻らないのだろう。

では、複製すればどうか。

完全な自分が二人存在するなど、自己矛盾が起きかねない状況はあまり考えたくはない。

そもそも肉体の組成は分かるが、魂の組成など分からない。

 

私は、どこまでを自分だと思っているのだろうか。

死後に抜け落ちる魂まで?

それとも、溶け朽ちる肉体も?

そうだとするなら、私は既に目的に到達できないということになるのだろうか。

 


 

6

 

遂に双子の妹の方が倒れた。

だが私は何もしなかった。

願われても、知ったことではない。

万能などと笑わせる。

私にもできないことはある。

万能薬など存在しないのだ。

後世の人間共の下卑た願望でしかないのだ。

 

だから、病の苗床となった肉体を捨ててもらう。

たった一度成功した魂の自然排出を待ち、回収した。

ここからが私の実験だ。

文句は言わせない。

約束は果たす、私の実験にも付き合ってもらう。

魂だけで、どこまで自分を保てるかな。

 

夢魔の研究は終わっている。

君たちは、同化したと伝えるだけでいい。

 


 

7

 

実験に使った枯れかけの苗が、世界樹だったとか聞いてない。

世界樹は世界と共に生き、共に死ぬ。

それが枯れるなど尋常ではない。

勇者は約束を違えた。

永遠に果たされることの無い約束を待つ世界樹の末路がこれだった。

肉体に使うものは聖域の木の予定だったのもそう、存在強度が釣り合わなすぎるのもそう、何より約束の内容が不味い。

勇者が借り受けた()を世界樹に返還しなかった…いや、出来なかったのが最低最悪である。

死にかけ、ではなく死にゆくものに混ぜるなど殺すと同義だ。

もし延命に成功したとして、世界樹は人間を恨むだろう、妹の存在など簡単に処理されてしまう。

実際、延命する為の勇者の剣(手段)は持っているのだ、その後が続かないだけで。

 

ほんとうににんげんってくずだな!

すくいようがない!

あーもー!

なんなんだよもー!

 


 

8

 

前回のあれは何て書いてあるんだ私。

最低限読めるように書け。

 

結局、剣を返還した。

やはりというべきか、妹が世界樹側に徐々に取り込まれている。

ただ、異物を切り離すでもなく、消化するようにゆっくりとした変化しかないのは不思議だ。

 


 

9

 

うるせーばーか!

 


 

10

 

記録を忘れないのは結構だが、今後は冷静な時のみこれを開くようにしなさい。

 

世界樹は、妹に肉体…樹体?を受け渡した。

すぐに身体を渡さなかったのは、妹が再び生きる意思を見せるのを待っていたらしい。

魂が死ねば、どれだけ良い肉体も意味を成さないということだ。

 

世界樹、いや、植物というのは人間の感性で図れない考えの元行動するようだ。

特に世界樹は、神の全生物への平等愛、その具現のようだった。

基本的に生物の行いの全てを受け入れるが、戦争を悪とするだけの意識はある。

でありながら、人間倫理的に悪であろうこの実験も、広義的に誰かを救う善と捉えるらしい。

返還の約束も果たされているから、人間への評価も問題はないと。

そういうことらしい。

 

…やっぱり人間は嫌いだ。

 


 

11

 

世界樹は一度も妹と話すことなく消失した。

人間の罪悪感を考慮して、私のみ裁定されたということらしい。

神の如き目で見て、私は悪ではないそう。

視野が広すぎて、私程度を悪にしていてはバランスが取れないのだろうか。

 

それにしても、休暇感覚で召天を選ぶのはやはり理解の外だ。

実際、死は魂の休息なのかもしれない。

もしかしたら世界樹にとっては、帰郷かもしれない。

 

…なんだか世界樹の仕事を、小さな女の子に丸投げして逃げたみたいだな。

まさか、私の実験を口実にしたわけではあるまいな。

…次は妹の肉体を作るか。

 

追記

 

神様にめちゃくちゃ怒られたことを嬉しそうに話してる暇があるなら、妹にちゃんと仕事の引き継ぎをしろ。

私も手伝うから。

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