これを読んでいるお前に忠告する。
世界には知る必要の無いことというのが多々ある。
お前がこれから先、幸福でありたいなら即刻破棄せよ。
お前に与えた絵本は大事にしているか。
全て手ずから拵えた、この世に二つと無い代物だ。
これと共に最後の一冊を添えた。
他には、太陽の石、月の涙、星の花を包んだ。
貴重な素材だ、お前の研究に役立てると良い。
これを届けただろう禍々しい割には人懐こい竜は友であるから、適当にせよ。
一研究者として、引き継ぎたいことがある。
お前の母として、これより先は読んでほしくないと、思う。
だから、お前に任せる。
幸福を棄てる覚悟をせよ。
お前の名前はフーリ。
ユーリとは、お前の幼馴染であり勇者の名だ。
名の響きが似ているからか、お前は違和無くユーリとして過ごしていた。
そうだ、お前の母の名もフーリだ。
お前は、母と魂を分けた
分かたれた直後は確かにそうでも、それぞれの道を往く我々は確かに別人であると、思う。
お前は確かに母にとって、娘だった。
だが、原点が"ボク"である以上、お前にとってもユーリは大事なのだと信じている。
だからではないが、お前にユーリを託す。
これは、お前を追い出した時からの決定事項だ。
何も気にするな、これを読んでいる以上、母は既に死んでいる。
何より、お前がユーリと再会できることを、願っている。
引き継ぐ内容について記そう。
お前に与えた絵本は、母の魂そのものだ。
具体的に言うと、人皮とか血とか髪とかでできた本だ。
つまり、母がやろうとしていることは、魂の転写実験だ。
これまでは、魂の引き継ぎに対して物理的な手法を取ってきたが、今度は文字通り精神的な手法を取ったという訳だ。
人間は、本に、物語に対して感情移入をする。
無生物と、心を通わせた様な気になる。
そういった見えない繋がりを利用して、お前を上書きする予定だった。
これは、同じ魂を持つが故の手法だ。
母と娘ではなく、同一であったならそれで良かった。
お前が、"わたし"として生きるのなら、絵本は全て燃やしなさい。
母のことは忘れなさい。
ユーリは気付くかもしれないが、受け入れるだろう。
もしもお前が絵本を読む気なら、よく考えなさい。
正しくその意味を理解した上で、読みなさい。
とは書いたものの、母にもどうなるのかは分からない。
だから、キミに任せる。
キミが何者として、出会うのか。
これからを、生きるのか。
ところで、魂の写本の作り方だが──
最後にこれを読んでいるキミに言えることは、
キミは愛されていた。
そして、
キミを愛していた。
勿論キミもだ、ユーリ
以上だ。
健闘を祈る。