お願いします女神様…
どうか勇者を御守りください…
海の底に眠る怪物のお話。
かつて怪物は“魔王”と呼ばれていました。
今尚、地上で確認される異形の生物、魔物。
そして地上へ侵攻してきていた、人と魔物を混ぜた様な姿をした魔族。
それらを統べる者、魔王。
遥か昔、女神に遣わされし勇者によって討伐された者。
魔王は海の底に国を築いていました。
海の底は、暗い冥い常闇の世界。
故に太陽の世界、光溢れる地上を羨んだ魔族、そして魔王は地上を手に入れんが為に。
地上へと侵略を開始しました。
辺境の町も村も全て占拠され、魔族の国が地上にも出来ていたそうです。
長い爪、薄い膜が張った手に触手の生えた魔物が家畜として飼育され。
それらによく似たものを生やした半人半魔の魔族が闊歩し。
得体の知れない生物の骨や死骸が投棄されてできた山が点在する。
それはそれは、冒涜的で悍ましい国だったとか。
人間と魔族の戦争は数百年に及び。
辺境と中央、その境界の砦で長らく膠着状態が続いていました。
そんなある時、突如として王城が光に包まれ、その中から女神に遣わされし戦士、後の勇者が現れました。
勇者は瞬く間に魔族達を辺境へと押し戻し。
数多の魔族を海へと還し。
ついに海の底から魔王が現れました。
鋭い牙の並んだ口に、無数の触手を生やした巨体が見えたのも一瞬。
辺境は嵐に包まれました。
意思を持つかの様に、辺境周辺のみに出現した嵐は、魔族の国ごと勇者を包み込みました。
嵐は1ヶ月に亘り拡大を続け、勇者の生存は絶望的かに思われました。
嵐に飲み込まれ続ける大陸を見て、絶望し世界の終わりを待つだけのある日、ぱったりと嵐が止みました。
嵐が晴れた後に残ったものは、魔族の国が跡形もなく消えた海辺と、そこに佇む勇者だけでした。
勇者は言いました。
魔王は戦いに破れ、海の底に沈んでいったのだと。
沈み行く魔王の後を追うように、魔族達も次々に海へと還っていったと。
嵐が全てを、国を、魔族を飲み込んでいったと。
こうして勇者によって、地上には平和が訪れました。
しかし、忘れてはいけません。
魔王は、未だに生きています。
海の底で、勇者に受けた傷を癒しながら、今も光を見つめているでしょう。
だから、不用意に海に近づいてはいけません。
魔族達に、海に引きずり込まれてしまうから。
引きずり込まれた人間は、魔王の糧となり。
傷が癒えれば、再び地上を侵略せんと姿を現すでしょう。
でも、安心してください。
その時は、きっと女神様が再び勇者を遣わしてくれることでしょう。
めでたしめでたし。
一説には、勇者はわざと魔王を逃がしたのだとか。